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91話 獣神決闘 第三試合の行方

 こうして無事(?)に獣神決闘にたどり着いた経緯を何故かペタンと座り込んでいる委員長の元まで行き、事情を知りたがった委員長に話して聞かせた。



「それでどうして鏑木君は地面に突っ伏していたわけ?」

「あぁ、それな……思った以上にベルカ君――――あの鳥の速度が速くて振り落とされないようにと必死で掴まってたわけなんだけど、ベルカ君の着地の際に急に速度が落ちたもんだから誤って手を放しちまって地面に激突しちゃったんだよ」

「それ大丈夫なの!? 飛んできたの見てたけど、結構高度あったように感じたんだけど!」

「大丈夫。獣神決闘には影響ない」

「そういう心配してるんじゃないんだけど……」



 あははっと誤魔化すように笑う俺に呆れたような目を向けられるが、俺はその目からサッと視線を逸らす。


 実際に結構な高さから落下したが、痛みなどはまったく感じない。これもステータス様様だね。



「それよりも委員長はこんなところでへたり込んでどうしたんだ?」



 その言葉を聞いた途端に委員長の顔がカァァっと真っ赤に染まる。


 一体どうしたんだ? 別に座っている事自体は恥ずかしい事じゃないだろうに。



「…………てないのよ」

「は? 今なんて言った? 悪いんだけど、もう一度お願い」



 なんかぼそぼそと話していてよく聞き取れない。何でいつもみたいにはきはき話さないんだ?


 俺は顔を真っ赤にしている委員長の顔に自分の顔を近づけ、委員長の言葉を聞き逃さないように耳に意識を集中する。

 そんな俺の行動に委員長が力を込めて目を瞑り、大きく息を吸い込むと。



「だから、足に力が入らなくて立てないのよっ! 二度も言わせないで!」

「うぉっ!?」



 思いもよらない委員長の大きな声に顔を近づけて耳に意識を集中していた俺の耳がキーンとなり、驚いて数歩下がった。



「いきなり大声出すなよ! びっくりするだろ!」

「鏑木君が二度も言わせるからでしょ! こっちは無茶苦茶はずかしいんだからね!」



 委員長からどうして腰を抜かしてたのか事情を聞くと、獣神決闘の第一第二試合を見て、あまりの実力差に圧倒された事と、俺達の代わりに第三試合に参加を表明したが、いざ自分の番になった途端、心ではなく体の方が根を上げてしまったそうだ。



「笑いたいなら笑っても良いのよ、自分でも情けないって思ってるんだから」

「? 笑う要素がどこにあるんだ?」

「え?」

「よっと!」

「きゃっ」



 俺の言葉に呆ける委員長をお姫様抱っこで抱きかかえる。



「俺達が来るまでの時間稼ぎをする為に、こうして俺達に代わって勇気を出して獣神決闘に出ようとしてしてくれたんだろ? そんな委員長を笑うわけないだろ」

「鏑木君……」

「とりあえずもう安心しろ。あとは俺達がどうにかするから」

「……うん。お願い」



とりあえず委員長は、人族の集まってるところにレーシャがいるだろうからそこまで連れて行けば大丈夫だろう。


 丁度アルがシャティナさんに言われてベルカ君に吐き出されているところを一瞥して、俺はそのまま歩き出すと、背後から声がかかった。



「ちょっと待ちなさい」

「ん? 待ちなさいって俺? 何か用ですか?」

「そうです! 何なんですか君達は!」



 何でこの獣人族はこんなに怒ってるんだ。それになんなんですかと言われてもな……お前こそなんなんだよ。



「獣神決闘の参加者ですが」

「いきなり現れた上に参加者と……フッ……まぁ良いでしょう。ただ獣神決闘第三試合は獣人側の不戦勝ですよ」

「は?」



 そう言って不適に笑う獣人族の顔があまりにもむかついたので、一発殴ってやろうかと思ったが、相手がどんな立場の人間かわからなかったので止めておき、腕の中にいる委員長へと視線を向けた。



「委員長、どういう事だ?」

「ごめんなさい……鏑木君達が来る寸前に私がこんな状態だったから、あの審判の獣人族の人に棄権を言い渡されたの……でも! 確か棄権宣告は最後まで言い終わらなかったはずよ!」

「だとしてもあなたは今も戦える状態にはないでしょう。だったら再度宣告するのみです」



なるほどね。委員長が戦えないから棄権を言い渡す寸前に俺達が到着したわけか。



「だったらこっちは委員長の代わりのメンバーを出せばいいんだろ?」

「いや、本当ならもう棄権宣告は行われていたんだ。今更遅い」

「は? 委員長が言うには棄権宣告は行われる寸前だったが、その言い方だと実際にはまだ行われてないって事だろ。だったら代わりを出せば良いだけじゃないか」

「君達が私の宣告を邪魔したんだろう。それがなければとっくに終了していたんだ」



 この野郎……どうやらこいつはどうやっても第三試合を獣人族の不戦勝にしたいようだな。って事はこの試合向こうが不戦勝だった場合、こちらが0勝3敗で獣人族側の勝利となるのか? それはまずいぞ……



「なぁ委員長、今が第三試合って事は第一第二試合の戦績ってどうなってるんだ?」

「第一試合は負け……第二試合はリーディさんが自分を犠牲にしても引き分けに終わったわ……」



 その時の事を思い出したのか、普段気丈にしている委員長の目に涙が溜まっていき、頬に一筋の涙が伝う。


 自分を犠牲にって……リーディは今どんな状態なのだろうか? 委員長の様子から相当ひどい状態なのは想像出来る。獣神決闘の戦績も確認したから心配だからリーディの様子を見に行こう。



「おい。第三試合、こちらを棄権にしたいならすりゃあいいじゃねぇか」

「なに……」

「鏑木君っ!?」



 俺のその言葉に審判の獣人族と委員長が目を見開く。



「だって今現在リーディのおかげで、0勝1敗1引き分けなんだろ? ここで負けても0勝2敗1引き分け。確か獣神決闘は2勝2敗1引き分けだった場合、タッグ戦の勝利が優先される。どうせここで俺達がごねてもお前は棄権にさせるつもりみたいだしな」

「……」

「それにここでごねて、タッグ戦まで難癖つけられて負けにされたらたまらねぇし。第三試合は好きにしろよ。……ただし、タッグ戦でもし不正な審判でもしようもんなら容赦しねぇからな」

「フンッ! では好きにさせてもらおうじゃないか!」



 俺を憎々しげににらみつけながらそんな捨て台詞を吐く獣人族の事など放って置いて、委員長を送り届ける為に歩き出すと、背後から審判に話しかける者の声が聞こえてきた。



「待てや」

「! どうされましたかガムロデ様?」

「なに我輩の意見も聞かずに勝手に不戦勝にしてんねや。これじゃあ獣神決闘に出る為に我輩がわざわざ出張ってきた意味ないやないけ」



 その声に少しだけ振り返り一瞥すると、蜥蜴っぽい獣人族の巨漢が審判に詰め寄って威圧しているように見える。


 なんであの二人、仲間同士で揉めてるんだろう? 意味わからん。まぁ揉めてんなら次の試合が少し遅くなってくれるかもだし、俺には関係ないからこのままレーシャのところに向かうか。


 俺は獣人族二人が揉めてるのを無視してそのまま歩き出した。


 委員長を抱きかかえたまま騎士達が集まっている場所まで歩いて来ると、お目宛の人物であるレーシャはすぐに見つかった。

 治療を終えたであろうジェルドとリーディの傍で、レーシャがいたましそうに彼等を見ていた。



「レーシャ」

「! イチヤさん」



 声をかけると、レーシャがびくっと肩を震わせたかと思うと、すぐさま俺の方へと振り返る。

 そして俺を視界に捉えたレーシャの瞳に少しずつ涙が溜まっていき、それをとどめておく事が出来ずにぽろぽろとこぼれていく。

 俺は委員長を優しく地面に下ろしてレーシャに近づき、彼女の頭をやさしく撫でる。



「遅れてごめんな。だけど俺達がきたからにはもう大丈夫だ。絶対に獣人連合には勝って見せるから」

「でも……王族である私達が不甲斐ないばかりにジェルドとリーディをこんな目に合わせてしまい……ひぐっ……うぇ……」



 王族である自分達がもっとしっかりと国を治めていれば、ジェルドもリーディもこんな風に大怪我を負わせずに済んだのだと、自分を責めるレーシャに安心してもらう為に笑顔を向けた。



「大丈夫だから」

「え……?」



 俺はそれだけを告げると、目を丸くして俺の顔を見るレーシャの頭を最後にぽんっとたたき、ヒール丸薬を精製して苦しそうに呼吸をしている二人に意識があるのかを確認する。



「ジェルド、リーディ、二人とも大丈夫か? って聞くのは変か……意識はあるか?」

「……ぐっ……はぁ……はぁ……」

「はぁ……はぁ」



 二人に呼びかけると荒い呼吸を繰り返し、痛みに耐えながらも俺の方へと視線が向けられた。


 よし、意識はあるな。これなら薬を飲ませられそうだ。


 誰にも聞かれないくらい小さな安堵の息を吐き出して、次にコップを精製し、魔法でコップに水を注ぐ。


 さすがにエヴィやクルエの時のように血を吐いてもいなければ意識もあるようなので大丈夫だろう。まずはよりひどい怪我をしているリーディからだ。


 リーディの様子を見ると、四肢があらぬ方向に折れ曲がっていて、ところどころに何かで切ったような切り傷があり、傷が深いであろう場所は包帯が巻かれていた。

 

 その包帯からうっすらと血がにじんできている。


 この様子だと俺が来る前に治療を終えたようだが、こんな場所では応急処置程度しか施せなかったんだろうな。かなり辛そうにしているし、さっさとヒール丸薬を飲ませよう。


 俺はなるべくリーディに痛みが襲わないようにゆっくりと慎重に彼女の上半身を持ち上げる。

 だが、どんなに気を使って体を持ち上げても痛みがはしるのか、「ぐっ……」といううめき声を上げて苦しませてしまう。



「もう少しの辛抱だから我慢してくれ……」



 深呼吸を繰り返しながら手に意識を集中させ、慎重に体をおこすと、ようやく上半身がおき上がった。


 そして上半身をおこしたリーディのもとにヒール丸薬を運び、ゆっくりと口の中に入れると、次にコップを口に持っていき、少しずつコップを傾けていった。


 そうやって少しずつ水を流し込んでやると、リーディからこくっ……こくっ……と嚥下する音が聞こえ俺は安堵した。


 良かった……なんとかヒール丸薬を飲んでくれたようだ。

 一番困るのは吐き出されて飲み込んでくれない事だからな。

 これならもう大丈夫だろう。


 俺がそんな風に考えているとリーディの体から淡い緑色の光が包み込み、四肢が本来あるべき状態に戻る。

 また、何かで切り刻まれた傷も徐々に塞がっていき、最後にはどこに傷があったのかもわからないほどに綺麗に完治していた。



「……あれ? さっきまであれだけ痛くてつらかったのに」

「もう大丈夫なようだな」



 リーディを支えていた手をそっと放すと、彼女は自分の状態を確認するように腕や胸をぺたぺたと触っている。


 ちなみにリーディ――――いくら自分の胸を確かめたところで”決して”大きくはなってないからな……ヒール丸薬にそんな効果はありません。


 もう大丈夫だと確信出来た俺は、同じようにしてジェルドにもヒール丸薬を飲ませる。


 正直男なんて抱きかかえたくないのだが……緊急事態なのでしょうがない……しょうがないのだ……正直誰得だよって叫びたいところだ。



「急に痛みが消えた……」

「これであんたも大丈夫だろ」



ジェルドも大丈夫そうだったので、すぐさま彼の体から手を放す。

 というか投げ捨てた。


 医療行為が終わったのにいつまでもおっさんを抱きかかえていられるか! 気持ち悪い。


 軽く息を吐き出した後で、背後にいるレーシャと委員長にジェルドとリーディはもう大丈夫だという事を伝える為に振り返ると、二人は目を丸くしながら呆然としていた。


 一体どうしたんだ?



「イチヤさん、その薬はなんですか?」

「鏑木君、一体なんなのその薬……?」

「普通に俺が創生したヒール丸薬だけど、それがどうかしたか?」



 何をそんなに驚いてるんだ? ヒール丸薬なんて何度か創生していたと思うんだが……


 不思議に思っていると、レーシャが「ヒール丸薬!?」といいながら目を見開いた。



「これが皇帝の言っていたヒール丸薬! なんでイチヤさんがその薬を作れるんですか!?」

「何で作れるのかって……そういう能力を異世界召喚された際に与えられたとしか……」

「そんな話、私初耳ですよ!」



 初耳って……え?



「今まで何度か創ってたんだけど、レーシャに創ってるとこ見せた事なかったっけ?」

「ないですよ!」

「委員長も驚いてるって事は委員長にも?」

「えぇ、私もないわね。だからその薬の効果を見せられて凄く驚いてるわ」



 二人の反応を見るに嘘を言っているとか、記憶違いとかの可能性は低い。

 おかしいなと思い、自分の思いつく限りでヒール丸薬を創った時の事を思い出す。


 確か初めて作ったのは牢屋でこの時は当然いなかった……獣人族の襲撃の時……確かゴルドにヒール丸薬を飲ませた時二人はいたよな……

 あれ? でもその時ヒール丸薬だとは明言していなかったか?

 獣人族の襲撃の後に二人とはよく話すようになったけど、二人の前で創った記憶はない。

 そう考えると……



「うん。二人には教えてなかったかもしれない」



 俺がそういうとレーシャと委員長から「イチヤさん!」「鏑木君!」という少し怒ったような感じの声がかけられ詰め寄られた。



「どうしてそういう大事な事をきちんと教えてくださらないんですか!」

「鏑木君! ほうれんそうって知ってるわよね!」

「わ、悪かったって……二人には教えてるもんだとばかり思ってたんだよ」



 二人の剣幕に思わずたじろぎながらも後ずさる。


 あれ? なんで俺、リーディとついでにジェルドを助けたはずなのに怒られてるんだ?

 何この状況……意味がわからん。


 そんなやりとりをしている俺達の下に、アル、レイラ、シャティナさんがやってきた。



「おぉ! ちょうど良いところに来た! 助けてくれ!」



 そう言って俺はレーシャと委員長から逃げるようにしてアル達のところに駆け寄る。



「そんなに慌てて一体何があったんだ?」

「いや、実は……」



 俺はさっきまでのやりとりをアル達に話して聞かせると、アルとレイラが呆れた顔をして俺を見ていた。

 

 そこまで呆れられるような事をしたつもりはないんだがな……


 そう思っているとアルが何故かニヤニヤと下卑た笑みを浮かべる。



「イチヤぁ~、それはお前さんが悪いだろ~」

「なんでだよ?」

「だって、イチヤは姫様とそこのお嬢ちゃんを仲間だと思ってる。それは二人も同じはずなのに、その二人にヒール丸薬の事を教えてないっていうのも可哀そうじゃねぇか」

「ぐっ……」

「まぁ誰にでも”勘違い”はあるもんだから仕方ないのかもしれない。お前さんも言ったと”勘違い”してたのは仕方ないと俺は思うぞ。でもなぁ~」



 やたらと勘違いの部分を強調するアルが何をしたいのかを理解した。


 この野郎……さっきの仕返しって事か……なんつ~陰湿な……


 おそらくさっきの王城でのやりとりの仕返しなのだろうが、アルの表情と言い方に腹が立って仕方がない。

 だが、王城でアルを攻めた以上ここで何かを言ったとしても泥沼の汚い罵り合いになる事は間違いないと思った俺は口を噤む。

 そうやってひとしきり嫌味を言うアル。

 少しして仕返しが出来たと満足したような顔をした瞬間、見計らったかのように、シャティナさんがアルの頭を炎を纏った右手で叩く。



「あぢゃぁああ!」



 ジュッという音が、アルの後頭部からしたかと思うと、少しこげたような臭いが漂ってくる。



「旦那様、あなたの方がイチヤさんより年上なんですから、もう少し優しくしてあげなさいな」

「だったらお前ももう少し俺に優しくしてくれてもよくねぇ!?」

「うふふ……何か言いたい事がおありでも?」

「……なんでもありません」



 何かを言おうとしたアルだったが、シャティナさんに何を言っても無駄だと言う事と無言の圧力に口を引き結ぶ。

 そんなアルとシャティナさんのやりとりを見て、やっとアルのねちねちとした嫌味から解放された俺は息を一つ吐き出した。


 本当に助かった……シャティナさん、グッジョブです!



「それよりも旦那様、姫様方に報告があるのではないですか?」

「おっと……そうだった」



 うなだれるアルの様子など気にした風もなくそう言ったシャティナさんの言葉に、アルも何かを思い出したように顔を上げると俺とレーシャと委員長の顔を順繰りに見て、次の瞬間に思いもよらなかった報告をしてきた――――。



「準備が出来たら獣神決闘第三試合を執り行うそうだ」



 ……はい?

読んでいただきありがとうございます。

次の更新は17日の予定となっております。


少しでも面白いと思っていただけましたらブクマ、評価の方よろしくお願いします。


5月23日 誤字報告があり修正しました。ご報告ありがとうございました。

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