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90話 獣神決闘 遅れた理由

「おぇっ! ぺっぺっ!」



 俺は嘔吐するかのように、口の中に入った砂利を吐き出す。

 獣神決闘が行われている場所で俺が最初にやった事は……地面との熱烈なキスだった……


 なぜ俺がこのような目に合わなければならないかというと、それを説明するには時を少し遡って話さなけらばならない。





 時は獣神決闘が行われる一時間ほど前、俺達はレベル上げを終えて王城へと帰還した。

 本当はもっと早くに帰ってくる予定だったのだが、アルがレベル上げの途中から上層のモンスターではなく俺達の実力なら中層のモンスターでのレベル上げの方が効率的だと言い出し、そこでレベル上げをしていたら獣神決闘ギリギリの時間になってしまったというわけだ。


 つまり何が言いたいかというと全てアルが悪い。


 そんな俺達が王城へと帰還すると、すぐさま慌てた様子で王様がやってきた。



「お主達! いくらなんでも遅いではないか! もう皆、獣神決闘の場へと向かってしまったぞ!」

「王様、別に獣神決闘の場所ってラズブリッタ王国の近くにあるミデル平原じゃないのか? 今から行っても十分間に合うじゃないか」

「何を言っておる! 獣神決闘の場所はミデル平原ではなくミゲル平原じゃ! ここから急いでも三時間はかかるラズブリッタと獣人連合の国境の境じゃ!」



 俺の呆れたようなその言葉に王様が焦ったような口調で目的の場所について訂正する。 


 は? ミデル平原じゃなくミゲル平原!? 王都から獣神決闘の行われている場所まで三時間もかかるってどういう事だ?!


 思わず額から冷や汗が流れ落ちるが、そんな事は無視して、ガバッとアルの方へ振り返ると、やってしまったとばかりに顔を手で覆うアルの姿が目に映った。



「アル……どういう事だ?」

「――――」



 場所についてはアルから聞いていたので、そのアルを問い詰めると、あろう事かアルはゆっくりと顔を覆っていた手を外し、その手を頭の方に持っていくと……



「悪ぃ。間違えちゃったみたいだ」



 満面の笑顔でそんな事をのたまう。

 これで舌を出しててへぺろっ!みたいな事をしたらぶっ殺してやるところだ。


 もちろん今でもそのごまかしには若干の殺意を抱いているがな!


 いや、今はそんな事よりも。



「おい! どうすんだよ!? 三時間もかかるって余裕で間に合わねぇじゃねぇか!」



 焦った俺は、アルの胸倉を掴みガクガクと揺する。


 グェグェとアルが鳥を絞め殺したような声を上げているが知った事ではない。



「まぁまぁ、イチヤさん、少し落ち着いてくださいな」

「いや……落ち着けって言われてもこれじゃ何の為にあんなところに籠もってレベル上げを行ってたのかわからないじゃないですか!」



 シャティナさんがアルを助ける為か俺を止めようと声をかけるが、さすがに今までの苦労をなしにされようとしているのに俺が止まるはずもない。



「まてまて! 間に合う方法ならちゃんとあるから! だから揺さぶるのを止めてくれー!」



 俺に揺さぶられ続け、気持ち悪そうにしているアルを更に揺さぶっていると、アルからそんな声が発せられ、思わず手を止める。



「ホントか?」

「あぁ……大丈夫だから安心……オエェ……」



 揺さぶられ続けた結果、アルが一瞬顔を青紫色に変えると、口の中の異物を一気に吐き出した。


いや……大丈夫だから安心しろと言いたかったんだろうが、お前の体調の方が大丈夫じゃないだろ……やったの俺だけど。


 ここに戻る前に腹が減っては戦は出来ぬと言う言葉があるように、空腹で獣神決闘に望むのは良くないという事で、いつもよりも若干多めに食べてきたのが仇となってしまった。

 アルがゲロっている様子を王様や他の家臣達も顰め面をしながらも無言で見つめている。

 そんな中、俺はゲロっているアルの肩に手を置くと、にこやかに笑みを浮かべる。



「アル。ゲロってる暇があるならその方法をさっさと吐け。二つの意味で」

「鬼かっ!」



 その後しばらく吐いていたアルがようやく吐くものがなくなったのか、咳払いのように喉の調子を整える。


 王国の王城でゲロった男なんて後にも先にもこの男だけだろうなぁ。



「もう大丈夫か?」

「あぁ……まだ口の中が酸っぱいが、もう平気だ。お前のせいだけどな……」

「いつまでもそんな些細な事を気にするなよ、それよりそのミゲル平原にはどうやって行くんだ?」

「お前ってやつは……はぁ……もういいや」


 アルの恨みがましい視線を目的地への話で華麗に逸らして行く方法に尋ねると、一層きつく睨みつけられたが、俺の平然とした姿を見て諦めたようにため息をつく。



「ミゲルへ平原へ行く方法だがな。シャティナが飼ってる魔法生物、お前も見た事があるだろ? あれを使えばひとっとびだ」



 シャティナさんの魔法生物っていうとあの真紅の赤い鳥達の事だろう。

 でもあれって手のひらサイズの小鳥達だよな?



「あの小鳥達で俺達四人を運べるのか?」

「えぇ、大丈夫ですよ。今まで出てこなかったけど、大きい子もいますから」



 そう言ってあるの変わりにシャティナさんが答えてくれる。

 無数の鳥達は見た事はあるが、大きい鳥と言うのはまだ見せてもらった事はない。

 このレベル上げの最中にも見てなかった事を考えるとあまり出さないのだろう。



「なんかアルのバカのせいでご迷惑かけて申し訳ないです」

「いえ、不甲斐ない旦那様を支えるのも妻の役目ですから」

「……お前らなぁ」



 俺とシャティナさんがお互いに苦笑を浮かべそんな事を言っていると、アルが忌々しそうに見てくるが、これに限ってはアルの自業自得だ。

 確かにミデルとミゲルで間違い安そうな地名だが、それでも聞き間違えたアルが悪い。

 もちろん俺が行き先を前もって確認しなかったのもアルが悪い。

 責任転嫁ということなかれ、全てアルのせいにしておけば世の中丸く治まるのだ。



「では呼びますね。申し訳ないんですが少し下がってお待ち下さい」



 王城の少し開けた場所に移動した王様と俺達はシャティナさんの言葉に従い少し離れる。

 そして俺達が下がったのを見届けたシャティナさんは何かを呼び出す為なのか、体から赤い魔力光を発した。



「あっ……んっ……」



 なぜかそんな艶かしい声と共に魔力光が明滅し、頬を紅潮させながら何かに耐えるように体をくの字に曲げながら荒い呼吸を繰り返し、シャティナさんの背中から赤い翼が徐々に生き物のように浮かんでくる。


 なんか……というか、かなりエロく感じるんだが俺だけだろうか。

 王様達なんか「おぉ……」とか言いながら見入っているが、これは俺と同じ思考なのか、それともシャティナさんの背中のあの翼に対しての簡単の声なのだろか? ……鼻の下が伸びてはいないので、たぶん後者だろう。そうあってもらいたいものだ。


 しばらくすると彼女の背中から十メールはあろうかという巨大な赤いワシが現れ悠然と立っている。



「皆さん、準備が出来ました。ほらベルカ君、挨拶」



 シャティナさんの言葉がわかるのか、赤いオオワシが「クエッ!」と一声鳴き、ぺこっとお辞儀をしてきた。


 魔法生物だからなのか……ずいぶんと賢いな。



「ではイチヤさん、レイラさん、ベルカ君の背に乗って下さい」



 そう言ったシャティナさんの言葉に従うようにして、ベルカ君が俺達が乗り易いようにと姿勢を低くしてくれたので、俺とレイラはベルカ君の背にゆっくりと乗り、俺達が乗った事を確認してからシャティナさんも同じようにして乗り込む。



「あの……俺は?」



 何故か呼ばれなかったアルが、困惑した様子で俺達の事を見上げていたので、シャティナさんにどうするのかというように視線を送ると、彼女は微笑みながらアルを見下ろし、残酷な言葉を告げる。



「うふふ、旦那様には今回迷惑をかけた責任を取って、全力で走ってきてもらいましょうかね」

「いやいや! いくら俺でも走って間に合う距離じゃねぇからな! さすがにそれはまずいだろ!」



 シャティナさんの無慈悲な言葉に反論するアル。


 確かに今回の獣神決闘にアルがいないのはまずい。


 目的地を聞き間違えたアルにさっきまで怒りを覚えていたが、時間も経ちアルの醜態を見て見たのでいくらか溜飲も下がっていたので、アルに助け舟を出すために口を開く。



「すいませんがシャティナさん、さすがにアルがいないのはまずいので、出来れば一緒に連れて行ってもらえませんか……」

「うふふ。もちろん冗談ですよ。ちゃんと”連れていきます”のでご安心下さい」



 なんだ……やっぱりシャティナさんも乗せて行くつもりだったのか。そうだよなぁ……さすがにこの状況でアルを置いていくなんて選択肢がない事くらいシャティナさんもわかってるか。


 その言葉に思わず安堵の息を吐き出すと、シャティナさんがベルカ君に途方にくれているアルを乗せるように命令する。

 ――――かに思われたのだが……



「ベルカ君、咥えて」

「クェッ!」



 シャティナさんの命令に元気よく返事をしたベルカ君が、アルをその鋭いくちばしで咥える。

 その光景を見た俺達全員は唖然としている中、シャティナさんだけが微笑んでいた。


 二週間近く一緒にレベル上げをしていたが、まったくシャティナさんの行動は読めないな……

 まだベルカ君の背には余裕でもう二、三人くらい乗せるスペースがあるのにわざわざアルを咥えて連れて行こうだなんて。

 これも聞き間違えたアルに対する罰なのか……なんというか、ご愁傷様です。



「ベルカ君、私の大切な旦那様なんですから食べちゃダメですからね」



 だったらもう少し大事に扱ってやってもいいんじゃ……

 そんな風にも思ったが、ここで突っ込みを入れてアルの二の舞にはなりたくない。


 そしてその命令にベルカ君が、元気いっぱいに返事をする。



「グェッ」

「ぎゃぁぁああああ! イタイイタイイタイ! 食い込んでる! このバカ鳥! くちばしが食い込んでるぞ!」


 シャティナさんが生み出した魔法生物だからか彼女の命令には忠実なのだが、それ故にアルの扱いがぞんざいだ。

そんな騒ぎ出すアルに、あまりに騒がしかいと感じたのか、ベルカ君がアルを真上に放り投げて口を大きく開けぱくっと口の中に放り込む。


 ちょっ!? 食べちゃったんだけど大丈夫なのかアレ!



「うふふ。ベルカ君、大切な旦那様なんですから食べちゃダメですからね。良いですね?」



 ベルカ君の所業にそれだけを念押しして伝えるシャティナさんにベルカ君が口をもごもごさせながら頷く。


 もう何も言うまい……



「では陛下、私達は獣神決闘が行われている場に向かいますので、吉報をお待ち下さい」

「あ、あぁ……」



 困惑する様子の王様に笑顔でそう告げると、ベルカ君が翼をはためかせ宙に舞う。



「ベルカ君。お願いします」


 シャティナさんが目的地の方を指差しそう命じると、指示を理解したベルカ君が物凄いスピードを出す。

 俺が最後に見た王様の表情はどこか不安げだったのだが、これは獣神決闘への不安ではなくアルが食されないかの不安に思えた。


 そんな一幕もあったが、こうして俺達は獣神決闘が行われている場へと向かったのだった。

読んでいただきありがとうございます。

次の更新は14日の予定となっております。


少しでも面白いと思っていただけましたらブクマよろしくお願いします。

出来たらで良いので、小説の下部にある評価をしていただけたら執筆の励みになりますので、そちらの方もよろしくお願いします。

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