8話 勇者VS獣人族
遅くなりまして申し訳ないです。あとグロ(?)注意
玉座にある広間には王や王女、王族の近衛騎士、近衛騎士団長ジェルド、クラスメイトである勇者も好戦的な者、非戦的な者とわず集まっていた。
「いきなり獣人が攻めて来るってどうなってるんだ!」
声を荒げたのは、召還初日に非戦を決めた男子だった。彼は自分が震えているのを自覚し、自分の体を抱きしめていた。
「大丈夫だよ、宮内君、ここには王国きっての騎士の方や一ヶ月しっかりと訓練を積んでLvを上げた私や生徒がいるんだ。君達は必ず守り通すから安心して欲しい」
そういって優しい笑みを浮かべ宮内という生徒を宥める米田。
彼は異世界に来た初日、自分の能力を見て驚き感動していた。
こんな素晴らしい能力とこの世界の住人よりも強い力、それだけで自分はこの世界では特別な人間になれるのだと思い人知れず喜んだ。
それを自信にし、生徒達を先導する。生徒にとってもそうやって引っ張ってくれる先生を頼りにし、信頼されていた。
「君達、宮内君のように不安に思ってる生徒もいるだろう。だけど、私達には力がある。勇者としての力でこの理不尽に立ち向かっていくんだ!」
「「「「おー!」」」」
米田の言葉に戦争に参加すると決めた生徒達の士気が上がった。非戦を決めた者達もそれを見て安心したのである。
だがそんな勇者達を見ても不安を拭えない者もいた、この世界に住んでいる王や王女、近衛騎士達だ。彼らは知っているのだ。”今の”彼等では到底獣人族を倒す事が出来ないというのを……
王達はこの一ヶ月彼等が頑張っている姿を見て、毎日ステータスカードを確認している。確かに彼等の成長は早い。なんせ一ヶ月でLv20になる者などこの世界にはいないだろう。近衛騎士達にも彼等一人一人と模擬試合をしてもらい実力を確かめる。彼等の実力はLv20にも関わらずLv30代の新人兵士をなんとか倒す事が出来る。それは素直に凄いことだ。しかしそれ以上の者、つまりベテランの近衛騎士など20以上差のある人間には勝つ事が出来ない。
当然相手の国は恐らく精鋭を送り込んでくるだろう。つまり今の実力ではまったく歯が立たないのだ。
「せめて彼が力を貸してくれれば良かったのだが……」
勇者達には聞こえないように、一人呟く王。それが聞こえたのか王女も頷く。
無礼な事を言われたとはいえ、実力はここにいる者を遥かに凌駕している。
彼の力があればこの戦局も打破できたかもしれない。
ただ、今の彼は牢屋の中に閉じ込められていてここに来ることは出来ないだろう。
今はいない者の事を考えても仕方ないわね
それに彼は戦争に参加する意思がないとはっきり告げていたじゃない
私が今考えるべき事はここにいる皆でどうやってこの窮地を乗り越えるかという事
王女レイシアは王と同じように彼がいない事を心の中で嘆くが、気持ちを切り替えどうやってこの戦局を打破するかに意識を注ぐ、だがそんな案がすぐに出てくるようなら苦労はしないだろう。
王女が難しい顔をしていると、このクラスの委員長である相模原結花が近づいてくる。
「レーシャ。難しい顔しているけど、大丈夫?」
レーシャとは彼女、レイシアの愛称である。この一ヶ月、姫とクラスの女子達は親交を深め、愛称で呼び合う仲になっていた。特に結花は委員長もしている事からクラスの中でも特にレイシアと話す機会が多かった。そんな彼女にレイシアは笑顔を向けると
「心配させてしまったようでごめんなさい。少し考え事をしていただけだから大丈夫よ」
「不安になる気持ちは私達も一緒だから一人で抱え込まないでね」
そういって他の勇者達のところに戻っていく結花。レイシアはそれを見届けると騎士団長であるジェルドを近くに呼び寄せ小声でそっと囁く。
「もし獣人族の脅威を防ぎきれないと判断した時は私よりも勇者様方を優先してください」
「しかし!」
一瞬驚き、反論しようとしたジェルドであったが、レイシアの強い目を見て口を噤む。
「勇者様方は人族の希望です。今はまだ芽が出ていませんが、いずれこの中の誰かが戦争を終わらせてくださるでしょう。」
「わしもレイシアと同じ気持ちじゃ。わしはどうなっても良いがレイシアと勇者達だけは何が何でも守って欲しい。出来る限りで構わん。他の騎士達にもそのように伝えてくれ」
「お父様?!」
「わしに何かあった場合はお主が民と勇者達を導け、お前にはそれができる。」
「……」
「王も姫様もお待ちください。お二人の決意は尊いもので、騎士団長として誇りに思いますが、同時に騎士団長として、いえ、一人の国民としてその命令には従いかねます」
レイシアとジェルドの話を聞いていたゼーブル6世もレイシアと同じ決意をするが、そんな事をすれば王家が絶えてしまう事になる。
騎士団長としてジェルドもさすがにその命令には従えないという意思を伝える。
レイシアは苦笑しながらもジェルドに暖かい眼を向け、少し場からおどけたような表情になると
「では騎士団長様、私が出した命令を聞かなくてもいいように、私”達”を必ず守ってください」
「必ずやお守り致しましょう……」
ジェルドは改めて闘志を燃やし決意する。必ず我等騎士でこの方達を守るのだと。この最悪の状況の中、気丈な振る舞いを見せ周りが不安にならないように精一杯の笑顔を向けていた姫様を。王としては正しくないのかもしれないが、人の事を優先できるこの優しき王を。
彼が決意した数分後、今までうるさいくらい響き渡っていた外での喧騒が止み。不気味な静寂だけが辺りを包み込む。ジェルドはこの異様な状況に警戒心を高め。騎士達に指示を飛ばす。
「全員!警戒を怠らず陣形を整えろ!」
すぐさま陣形を整える騎士達。勇者達も戦えない者は隅で固まり、戦う意思のある者は緊張の面持ちで、各々武器を構えている。
いつまで続くのかと思われた静寂が突如終わりを告げた。
扉が勢いよく開け放たれ、30人もの牛人族が足音が響かせこの広間に入ってくる。
勇者や騎士団が入って来た者に警戒しながら少しずつ後ろに下がり警戒を強めるが、牛人族は武器を構え、こちらを見て佇んでいるだけで攻撃を仕掛けてこようとはしない。
「どうして攻撃してこない……?」
ジェルドが警戒心を強め睨みつけながら相手に問う。ジェルドの問いに牛人族の中から若い男が一歩前に出る。どうやら彼等のリーダーのようだ。
「ワシ等はヌシ達のように卑怯な真似は好まん、誇り高き牛人族の武人なり、故にヌシ等の準備が整うまで待ってやっているのだ」
「卑怯な真似は好まんか、こんな早朝に奇襲をかけて来る者の言葉には思えんな」
「奇襲に関して言うのなら我等牛人族も本意ではない。だが我等とて、一族のみで戦争している訳ではない。そういう事を好む連中もいるのでな仕方なかろう」
「こちらとしては仕方ないでここまで被害を出されてはたまったものではないのだよ」
言葉はなるべく荒げないように気を張りながらも憎悪を隠しきれない様子で告げるジェルド。牛人族の男は彼の敵意を感じ口端を歪める。
「ヌシから敵意を感じる。実に心地よい。我が名はゴルド・ダルゼン!我等が憎ければかかってこい!人族!!」
「近衛騎士団団長ジェルド・マークス、行かせて貰うぞ!牛人族!」
その言葉と同時に彼等の戦いの火蓋がきって落とされた。ジェルドがゴルドと名乗った男に向かい一気に距離をつめ剣を振るう。それをゴルドが斧で迎え撃つと剣と斧がぶつかり合い、激しい火花を散らした。
二人の戦闘を合図に他の者達も動き始める。
勇者達も訓練で培った経験を生かして先程瓦解しかけた陣形を組み直しそれぞれが動き出す。後衛が魔法詠唱を開始し、前衛は魔法が発動するまでの時間稼ぎ。このパターンで勝利を確信していた。本来ならそれでこの戦闘に片が付いていた事だろう。
「嘘っ?!撃った魔法が消えていく!」
後衛を担当していたクラスメイトの一人が信じられないと言った面持ちで何度も魔法を放つが、いくらやっても相手に当たる前に消えていく。
彼等は先程の騎士団と獣人軍が戦った結果を知らないのだ。なぜならここにいる者のところまで報告に来れた者が誰一人としていなかったからだ。最前線にいたものは殺されたか捕まってしまったかのどちらかになる。
たった今魔法が効かない事実を知った彼等は顔を青くし、戦意を喪失していく。こいつらには勝てないだろうという意識が浮かぶ。
だが、そんな中声を張り上げる者がいた。
米田だ。
「君達!魔法が効かないからといってそう簡単にあきらめるな!こちらの方が人数では勝っているんだ!それに。私達にはこの世界の者には持ちえない凄い力があるだろう!自分達の力を信じろ!」
米田の言葉にクラスメイト達の目に光が灯る。
「そうよね。先生が言うんだもの。間違いないわ!」
「あぁ、俺達にはこいつ等に負けない力があるんだ!」
「牛風情が調子にのってんじゃねぇぞ!!」
クラスメイト達が元気を取り戻していくのを確認すると米田が全員に指示を送る。
「魔法を得意としている子は下がって。魔法を使っていた子で前衛も出来る子はこちら!前衛の子はしっかり連携して各個撃破するんだ」
指示に従い各々が動いていく、魔法特化の者は戦えない者達に合流し、魔法を使っていた者で前衛を担える者は前衛で頑張っている者の下に向かい戦いに参戦する。
確かに魔法が効かない事で動揺してしまった彼等だが、それでもこちらの人数の優位性が損なわれたわけじゃない。向こうが30名に対してこちらの人数は戦えない者を除いても40名弱いるのだ。その覆るはずがない事実がある事で、米田やクラスメイト達は闘志を漲らせる。
「結局最後に頼れるのは魔法なんかじゃなく自分の力っしょ」
そう呟いたのは谷口秀樹だ。
葉山洋、谷口秀樹、新道武の三人が一人の牛人族を相手に一歩も怯まず戦う。葉山が剣を振るい、谷口が槍で突き、新道が盾で牛人族の攻撃を受け流すといった連携を取って善戦している。
そんな彼等の姿を見て他のクラスメイト達の士気が上がる。それぞれ近くの者と連携し牛人族へと挑みかかる。
勇者である彼らの士気が上がった事により、勇者達を相手にしていた牛人族が少しずつ後退していく。近衛騎士達も1対1で戦っているにも関わらず誰一人として倒れていない。その事実に米田は喜悦し声を上げる。
「相手の方が押されています!このままいけば私達は勝てる!こいつ目に物みせてやりましょう!」
米田の言葉がみんなに届いたのか、更にみんなの攻撃に力がこもる。
俺達は勝てる!
戦っているクラスメイトの心が一つになった。
牛人族も徐々に押されているのがわかる。
徐々に……
徐々に……徐々に……
徐々に……徐々に……徐々に……
勇者達の猛攻が止まった。
牛人族は下がるところまで下がると多対一にも関わらず、全ての攻撃を防いでいる。勇者達は急な変化についていけず、先程までの自信に疑念を生じさせる。
「ゴルド隊長」
勇者達の攻撃を捌きながら一人の牛人族の男が声を発する。
「どうした!」
男に呼ばれたゴルドの方はジェルドと幾度も剣と斧を激しくぶつけ合いながらも男の声に答える。
「そろそろ終わりにして良いでしょうか?」
「実力の程はどんな感じだ?」
「さすがに新兵の実力と聞かれてもワシには答えようがありません」
「では好きにしろ!こちらはそこそこ楽しめている!邪魔をするな!!」
その言葉を聞いた勇者達は愕然とする。
自分達と必死で戦っていたと思っていた連中は実力を測っていただけで、全然本気をだしていなかった。悪い言い方をするならただ遊ばれていただけなのだ。この事実が彼らの心を挫くには十分だった。
それでも諦めない者はいる。葉山達は先程の会話を聞き憤った。自分達が侮られていた事実が許せないとばかりに怒り狂ったのだ。
「俺達は新兵のような雑魚じゃない!俺達は勇者だ!」
葉山はそう声を張り上げると戦っている牛人族に再度攻撃をしかける。谷口と新道もそれに続く。
だが、葉山の一言を聞いた牛人族の雰囲気が目に見えて変わる。
「そうか……新兵だと思っていたヌシ等が悪魔だったのか……!」
男が斧を猛然振るい谷口と新道を吹き飛ばす。二人はすぐに立ち上がろうとするが、動こうとすると体に激痛が走り、その場から動くことが出来ずにいる。 男はそんな彼等を横目で見ると、葉山に視線を戻し、呆然としている葉山の頭を片手持ち上げる。
「がっ……!牛風情が、勇者であるこの俺にこんな事をしてただで済むと――――」
「勇者……?これが勇者だと……」
葉山は自分の頭を持ち上げている男を睨みつけようと相手の目を見ると、自分が何を相手にしていたかを知る。まるで葉山の睨みつけるという行動自体が児戯であるというかのように彼の体は怒りに震え、逆に葉山を睨み殺そうというくらいの顔付きだったのだ。その姿を見た葉山は体がすくみ、身動きがとれなくなる。
「我等はこのような者共に長きに渡り辛酸を舐めさせられたというのか!このような!このような矮小な者共を恐れ悪魔と恐怖していたというのか!!!!」
「ぎぃあぁぁぁあああ!」
男は激昂したかと思うと、斧で葉山の左腕を切り落とす。葉山の叫び声が木霊し切られた箇所から血が噴出し辺りに飛び散る。周りの人間もその光景に動きを止め顔を青ざめさせるが、この悪夢のような光景はまだ終わらない。男が掴んでいる腕に力を込める。
「あがっ……たす……け……」
片腕を切り落とされ、それでも葉山は男を見つめ泣き叫び続けて嗄れた声で助けを求めるが彼の表情を見て、無駄だという事を悟る。
葉山が最後に見た男の表情は怒りの表情でもなく悲痛な表情でもなく、ただただ勇者に失望したという表情だった……
ぐしゃっ……
そんな音が勇者達の耳に届いたような気がした。
全員が最初から最後まで葉山が殺される光景から目を逸らせずにずっと眺めていた。片腕から血を噴出し、男に頭部を握り潰され脳髄が嫌な音を立て飛び散り、男が無造作に葉山だったものを床に落とすところで勇者達は我に返った。
我に返った彼らに絶望が辺りを包み込む。
「あっ……あっ……」
「いやぁ……」
「誰か助けて!もう嫌っ!」
口々にそんな言葉が飛び交う。勇者達が絶望し泣き叫ぶ光景を牛人族が侮蔑の表情で見つめる。そしてこんな茶番は終わりにしようと一人の男が前に出る。その男は目の前の少女をターゲットにしたように、彼女の前に歩み寄る。その少女、相模原結花は顔を蒼白にして逃げようとするが腰が抜けて逃げる事が出来ない。必死に腕だけで逃げようとするがすぐそこまで牛人族の男が迫ろうとしていた。
そんな時彼女と牛人族の間に入り男の足元にしがみつくものが現れる。
「先……生……」
現れたのは米田だった。彼は男の足に必死にしがみついている。結花は先生が助けに来てくれたんだと思い涙する。
だが次の瞬間には結花の期待が裏切られる。
「助けて下さい!」
「え……?」
結花には先生が何を言っているのかわからなかった。先程まで生徒を鼓舞し諦めるなと言っていた先生が一番最初に敵に懇願しているのだ。
その光景に周りの生徒達は更なる絶望へと突き落とされる。
一方の米田は周りの事など構わないと必死の形相で男へと擦り寄り懇願する。
「どうかお願いします!助けるのは私だけで良いんです!他に何も求めませんから私の命だけは!!」
この醜い生き物はなんなんだろうか。生徒にはもうこの男が先生には見えなかった。それは男も思ったようで、まるでゴミを見るかのような目で米田を見ると拳を横薙ぎに振るい縋っていた米田を自分の体から引き剥がす。
米田はそれだけで盛大に吹き飛ばされ、気絶した。米田を蔑んだ目で見た男が再び結花に視線を送ると結花はそれだけで自分が死ぬんだという事を悟る。
「すまんな。本来なら女子供は奴隷としてして連れて行くのだがヌシ等は勇者だ。恨むなら自分の境遇と力のなさを恨むが良い」
お願い誰か助けて!!!!
結花が殺されそうになっている光景を王女レイシアは見ている事しかできない。周りの騎士達も次々に倒され、他の勇者達は一人また一人と力なく武器を放り出し膝をつく。絶望に塗り尽くされたこの空間で姫である彼女はそう願う事以外に出来ることがなかった。
自分は無力だ。それでも神がいるというなら私はどうなっても良い。せめて彼等だけでも守って欲しいとそう願う。
神よ!いえ、神でなくても良い!この状況を覆せる者がいるならどうか……誰か助けて!
姫が願った神の奇跡なのか、はたまた偶然なのかわからないが、その願いが届く事になる。
扉が盛大に音を立てると片方の扉が勢いよく開きもう片方の扉が盛大に吹き飛ぶ。
その状況に何事だと扉の方を見る牛人族の目に一人の少年の姿が映った。
姫の目に驚きの人物の姿が映る。
立っていたのは姫が牢屋に入れた少年。
この場には絶対に現れないと思っていた人物。カブラギ・イチヤの姿がそこにあった。
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