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88話 獣神決闘 ジェルドVSバグズ

すいません!投稿遅れました!


重ね重ねすいませんが……あと一話だけ、結花視点続きます。

 最初に動いたのはジェルドさんだった。

 開始の合図と同時に虎人族の獣人将であるバグズの懐へと一気に踏み込んだ。



「セェィヤァァアアアッ!」



 両手で持ったバスターソードを気合一閃といった感じで、横になぎ払うようにして放つ。



 「ヌゥ……!」



 だが、ジェルドさんの一撃もバグズは斧槍の柄で受け止め、後方一メートルくらいまで押されながらも無傷で凌ぎ切った。


 最初の獣人族の襲撃以来、ジェルドさんが戦っているところを見た事はなかったが、前よりも明らかに強くなっているのはわかる。


 今の一撃……普通だったら決まっていてもおかしくない一撃だ。

しかも開始早々不意をついた一撃にも関わらず受け止めるなんて……あれが獣人連合でも最強を誇る獣人将の力なの……?



「ちっ!」

「なかなかに良い一撃……まさかラズブリッタにこれほどの武人がいる事に驚きを禁じ得ないでやす」



 そう言う割にはさほど驚いているようには見えないバグズに対して、ジェルドさんが苦虫を噛み潰したような顔をする。



「今の一撃を受けた感じでやすが……身体強化魔法に武器強化、その他にも色々と重ねがけをしているようでやすな。しかしそれもいつまで持つか」



 バグズの指摘に一瞬だが、驚きの表情を浮かべるジェルドさん。

 ジェルドさんの反応を見て確信を得たというように不適に笑みを浮かべると斧槍の切っ先を向ける。



「では、今度はこちらの番でやすね。行かせて頂きやす!」



 今度は自分の番だと宣言し、バグズの体が一瞬ぶれた様に見えると、次の瞬間にはジェルドさんの目前に姿を現し、斧槍を突き出す。


 斧槍は三度繰り出されたが、ギンッ!ギギンッという金属音のぶつかる音と共にジェルドさんは防ぎきったようだ。


 攻撃を防がれたバグズは一旦距離を取るとジェルドさんを意外そうな顔で見つめる。



「攻撃だけじゃなく、防御もこれほどとは……正直かなり舐めてやした」

「舐めていて、その攻撃速度とは……本当に恐れ入るぞ……バグズとやら……」



 バグズはそう言って感嘆の声を上げるが、ジェルドさんの表情は優れない。


 ジェルドさん……結構いっぱいいっぱいに見える……それほどバグズって人の実力が高いのだろう……

 正直私にはバグズのさっきの攻撃はどうにか見えたけど、防げと言われたら絶対に無理だろう。たぶん体が反応する頃にはあの斧槍は私の体に刺さっている。

 もし私が彼の相手で、これが殺し合いの場だったなら私は一分と経たずに殺されていると思う。

 そう考えるとぞっとした……でも私が行う第三試合もバグズと同じくらいの実力の相手なんだ……


 怖い……


 戦いを見るまでは、恐怖心などまったく感じてなかったのだが、実際に自分よりも実力のある人間の戦いを見ると、もし自分が代わりに戦ったとしても勝つビジョンがまったく見えない。


 私がそんな感想を抱いている最中もジェルドさんとバグズの戦いは進んでいく。


 一見すると一進一退の攻防にも見えるのだが、ジェルドさんの焦りの表情は増していくばかりだ。


 前にリーディさんが言っていた。


 ジェルドさんは集団戦闘において力を発揮する人で、個人の戦いはあまり得意ではないそうが、それでも騎士団の中での実力は上位に位置づけられるのだと……

 

 そんな話を聞いてはいたが、ジェルドさんの戦いぶりを見ていると、心がざわつく…… 


 私はいても経ってもいられずに応援の声をあげようとする。



「ジェルドさん! が――――」



 その時、二人の戦いの場に一つの声が響き渡る。



「バグズ~! もう十分でしょ~、さっさと終わらせるにゃ」



 私は虎人の女の子に声を遮られ、その声を発した女の子は退屈そうにバグズに早く終わらせるように催促する。


 確かにジェルドさんが劣勢ではあるけど、そう簡単に終わるほど、天と地ほどの実力差があるわけではない……そう思っていたのに、バグズに視線を向けると、虎人の女の子の方を見て、一つ頷く。

 その表情は少し残念そうにも見える。



「戦っている最中に余所見をするとは何事だ!」



 バグズの意識が他に向いた事に侮辱されたと感じ取ったジェルドさんが剣をバグズに叩き込もうと振り上げるが、寸でのところでその剣はバグズを斬る事なく空を切った。



「試合中に余所見をしてしまい申し訳ないのぉ。しかしあっし等にとっては人族との試合なんかよりも優先させる事があるんでさぁ」

「なんだと……!」

 


 ジェルドさんの攻撃を避け距離をとったバグズは一応の謝罪を口にするが、その言葉はどう見ても謝っているようには聞こえない。

 そう感じたのは私だけじゃないようでジェルドさんもバグズに向け、剣を正眼に構えて睨みつけていた。

 だが睨みつけられている本人であるバグズはジェルドさんの様子など、どこ吹く風と言ったように、自然体で向き合っている。



「すいやせん。あっしとしてはもう少し戦っていたかったんですが、御子様の言葉には逆らえねぇ。ここで幕引きさせて頂きやす」

「どこまでも舐めおって……! そう簡単に勝てると思うなよ!」



 バグズが斧槍を地面に指して両手を握りこんだ瞬間、両手両足が徐々に盛り上がり、爪も鋭くなっていく。

 そして彼の牙もサーベルタイガーくらいの長さまで伸びていった。



「何……あれ……?」



 思わず私の口からそんな言葉が漏れる。

 変身? バグズの容貌はそれくらい凶悪に……そして異質に変化していた。


 何あれ? なんなの? もう訳がわからない……ただでさえ遥かに上位の戦いを見て自分の試合に不安を感じているのに……この上まだ変身なんていう隠し玉を持っているなんて勘弁してよ……



「グルァアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!」



 変身し終えたバグズが、この場の音全てを飲み込むかのような咆哮をあげる。

 その咆哮はこの場にいる全員の鼓膜を突き破ろうかと言うほど盛大に響き、私は思わず耳を塞ぐ。

 短く響き渡った咆哮が止むまで私は耳を塞いでいたが、それも少しの間だけで、私は耳から手を話したがすぐに自分の体の異変に気付く。


 私の足が小刻みに震えている。

 その事に気付き今度は自分の手も見てみると、同じようにぷるぷると震えているのだ。


 たった一回吼えられただけで手足が震えるなんて情けない……せめて私の試合が終わるまでは我慢して。


 そう念じながら震える手で足に活を入れるかのように叩き、その後に同じように手を叩いた後、ほぐすように揉み込むと少しずつ震えが治まっていき、再び視線をジェルドさん達に向ける。



「え……?」



 私が自分の震えを治めようと体をほぐしている間に、状況がガラッと変わっていた……



「がっ……かはっ……!」


 

 ジェルドさんの胴体には鎧の上から三つの爪痕が刻みつけられており、プシャーっと音がしそうなほど地が吹き出す。

 口からも血泡が浮かぶほどに吐血し、その体ががくっと膝から崩れ落ちる。



「勝負あり! これをもって獣人連合所属、バグズの勝利とみなす」

「救護班! 早くジェルドの処置を!」



 獣人族の審判役がそう宣言すると同時に レーシャがあらかじめ用意していた救護班を呼び、ジェルドさんに応急処置として回復魔法を施して運んでいった。


 私が目を話したのは一分にも満たない……その間に一体何があったというの……?



「話には聞いていましたが、本当に獣人将というのは規格外ですね……宣言通りジェルドさん相手に一瞬で勝負をつけてしまうとは……」

「リーディさん……すみません……訳のわからない震えを治めている間に試合が終わってしまい見逃してしまいました……一体何があったんですか?」

「私もあまりの速さに目で追いきれなかった部分もあるので確かな事は言えませんが……」



 リーディさんが申し訳なさそう前置きし、何が起こったのかを説明してくれる。


 話を聞くとバグズが変身し終わった後に片手で斧槍を持ち直し、正眼の構えを取るジェルドに一瞬で近づくと、斧槍でジェルドさんの持っているバスターソードを弾き飛ばした後に空いている腕でジェルドさんの胴体をあの凶悪な爪で引き裂いたそうだ。



「私が見えたのはそれだけです。もしかしたら私が見誤った部分もあるかもしれないのできちんと説明出来ないのは心苦しいですが……」

「いえ……私だったらリーディさんの半分も理解出来ずに試合が終わってしまっていたと思います。説明してもらってありがとうございました」


リーディさんからの説明を聞き終え、勝者であるバグズの方を見ると、虎人の女の子――――確か御子と呼ばれていたっけ?――――に長くなった牙をぺしぺしと叩かれていた。


 こちらに重傷者が出たにも関わらず、あちらは暢気そうにしている事に腹が立ったがその気持ちを飲み込む。


 ジェルドさんには申し訳ないけど、今は自分の事を考えなくちゃいけない。出ないとジェルドさんの敗北も無駄になってしまう。


 私は自分の試合の為に少しでも心を落ち着けて、自分の持てる力を出しきらくてはいけない。

 それでも今の試合を見て自分に何が出来るのか……どうすれば少しでも時間を稼ぐ事が出来るのか思い浮かばない。

 重く沈みそうになる私……そんな私の肩に手を置き、リーディさんが優しく笑む。だが、その表情を見た私はどこか切羽詰っているように感じた。



「ユカさん、あなたが少しでも気が楽になるようにしますので、そんな顔をしないで下さい。大丈夫……私を信じて見守っていてください。……それと……何があっても動じないでください」

「え……? はい」



 私の返事を聞き満足そうに頷くと、リーディさんは第二試合を行う為に歩き出す。


 リーディさんの手……震えてた……私よりも遥かに実力があってもやっぱり怖いものは怖いんだ……それなのに私にまで気を使ってくれて……ありがとうございます……


 だが、この時の私はリーディさんの言葉の意味を深く考えてはいなかった。

 その言葉の意味を知るのは彼女の試合が終わった後の事だった……


 こうして第一試合が終わり……第二試合が始まろうとしていた――――。

いつも読んでいただきありがとうございます。

次の更新は八日を予定しております。予定……しております!

読者様方、頑張りますので、結城を見捨てずお付き合い下さい。


ブクマ、評価、出来たらよろしくお願いします。

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