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87話 獣神決闘 開戦

 馬車を出て真っ先に見えたものに対して私は凄く驚いた。


 すぐに周りの騎士さん達にも視線を向けると私と同様に驚いていたり、中には顔を真っ青にしている人もいる。


 それも当然だろう……だって目の前のラズブリッタと獣人連合の国境沿いには見渡す限りの獣人族、獣人族、獣人族だ。


 こちらの連れている騎士や参加者を含めても二十人弱……獣人族はぱっと見ただけでもその千倍くらいはいるだろう。


 敵がこちらの千倍はいる状況下で平然としていろという方が無理がある。



「やっと来おったか……」



 私達が呆然としている中、そんな声が私達の耳に届く。

 その声に視線を向けると、獣人族の大群の中から六人の獣人族が進み出てきた。


 おそらくあれが獣人族の代表と獣神決闘に参加する五人だろう。



「恐れをなして来ないとも考えたが、力量も考えずに来たようじゃな。これが卑劣で愚劣な人間族でなければ素直に褒めるところじゃがな」



 獣人族の老人――――赤い顔をした、しわくちゃの……おそらく猿の獣人だろう。がしわくちゃの顔を更にしわくちゃにして皮肉たっぷりにそんな言葉を呟く。


 人間族が獣人族にした事を考えれば、この皮肉も仕方ない事とは言え、聞かされる方は気分が悪いわね。


 現に怒りをあらわにしたジェルドさんが猿の獣人の老人を睨み付けている。

 今にも詰め寄りそうな感があるが、そこはジェルドさんの様子を見ていたのか、レーシャが手で制し、猿の獣人の前へと一歩歩み寄る。



「あなたが獣人連合の代表の方ですか?」

「そうじゃが。なんじゃ貴様は?」

「初めまして、私はラズブリッタ第一王女のレイシア・ラズブリッタと申します。この度は私達の提案を受けて頂き真にありがとうございます」



 先程あんな風に言われたにも関わらず、レーシャが嫌な顔一つせず、丁寧に一礼して名乗りをあげる。


 さすがお姫様ね。私だったら絶対に態度に出るもの。



「フンッ! ワシは獣人連合の十一族長が一人、猿人族のエトルーじゃ。人族にしてはまともな挨拶をするではないか」

「ありがとうございます」



 礼儀を重んじているのか、レーシャが名乗った事によって猿人族の族長のエトルーは、不承不承ながらも名乗り返していた。

 だが、やはり人族と獣人族の確執……人族が獣人族を奴隷にしていた過去がある為それ以上態度が軟化することはなかった。



「それにしてもレイシアとやら、一国の姫にしては、ずいぶんと護衛が少ないようではないか」

「国を守る為にも兵は必要ですし、それに大人数でこちらにやってきて、相手を警戒させるのは良くないと思いましたので」

「それは暗にわしらを批判していると……そう捉えてよいのか?」

「いえ、そういうつもりで言ったわけではありません。お気に触ったのならすみませんでした」

「フンッ! ヌシらは三年前の事を忘れたのか? ラズブリッタの姫は多種族に対しての警戒心が薄い。それともヌシらの奴隷になるような種族では警戒するには当たらんか?」

「神に誓って、そのようには思っておりません!」



 エトルーの嫌味たらしい物言いに、さすがのレーシャも反論する。

 実際にレーシャは嘘偽りなく本心でエトルーに対して話しているのだろうが、獣人族からしたら多種族――――それも自分達の同胞を奴隷にした種族の言葉など信じる価値もないといった感じだ。


 それにしても本当にひねくれたお爺さんね……確かに人族のやってきた事を許せない気持ちは仕方ないのかもしれないけど。


 その後は獣神決闘についての詳しいルールなどの話し合いをレーシャとエトルーさんがしている中、レーシャに何があっても良いようにとジェルドさんとリーディさん達が警戒している。


 私はしばらく続きそうなレーシャとエトルーさんのやりとりから視線を外し、今度は獣神決闘の参加者っぽい人達の方に目を向けると、少しだが、話し声が聞こえてきた。



「ねぇねぇ~エッテ~、本当にラズブリッタにいるの~? あーしが見た限り、あの中にそれらしいのはいないんだけどにゃ~……」

「……」

「やっぱりいないのか~……」

「……」

「ミディは……そう。興味ないか~、いつもの事ながら素っ気無いにゃ~」



 何だろう? 一見二人の女の子が話しているように見えるんだけど、虎っぽい獣人の女の子の視線は虚空に向いているように見えるし、いきなり振り向いて空に話しかけてる。


 獣神決闘の参加者っぽい五人は一箇所に固まっているのだが、そのメンバーは屈強そうな虎の獣人、ひょろっとしている鳥の獣人、頑丈そうな蜥蜴っぽい獣人。


 この三人はいかにも歴戦の連枝といった出で立ちなのでわかるのだが……残りの二人、虎っぽい獣人の女の子と兎っぽい女の子の二人は全然強そうに見えない。


 あの三人の中にいるとかなり異質に見えるのだが、強いのだろうか?


 私がその二人の女の子達を見ていたら、こちらの視線に気付いたのか虎っぽい女の子と目が合った。

 目が合った瞬間、嘲笑を向けられた気がしたが、女の子はすぐに視線を外すと再び兎っぽい女の子と話し出す。



「いないならしょうがないね~。……向こうが本気でこないっていうなら、潰すしかないよにゃ。シィちゃんもそれで良いかにゃ?」

「ん、ララに同意。少しは楽しめると思ったから残念」



 今度はララと呼ばれた少女はシィと呼んだ少女と普通に話していたのだが――――一瞬見せた彼女の雰囲気に背筋に悪寒が走った。


 なに……今の……?

 やっぱりこの決闘に出てくるような猛者は只者じゃない……見た目で油断なんかしたら確実にやられるわね……









 私が気を引き締め、獣神決闘の始まりを待っているとようやく話が終わったのか、レーシャがこちらに戻ってくる。



「お待たせしました」

「結構時間かかったけど、大丈夫だったみたいね」

「はい。詳しいルールなどの説明や注意事項などを詳しく聞いてきたので、少し時間がかかっちゃいましたけどね……はぁ……」



 三十分くらいずっとあのお爺さんと話していたらそりゃあ疲れるわよね。



「大丈夫?」

「えぇ、大丈夫ですよ。ただ……いかに獣人族が人族を憎んでいるか接してみると良くわかりますね……こちらが加害者、獣人の方々が被害者と考えれば当然なのですが……直接その感情を向けられるというのは辛いものがあります……」



 誰だって人から負の感情を向けられるのは辛いものがあるわよね。



「例え辛くても……頑張るんでしょ?」

「もちろんですよ。イチヤさんともそう約束しましたからね」



 確執なんてものはそう簡単にどうにかなるものではない。

 それは日本で歴史を学んできたから良くわかる。

 同じ人族同士だってそう簡単にわかりあえるものじゃない。

 ましてやこの世界は同じ人というカテゴリーでも種族がまったく違う種もいるのだ。

 私達の世界でも大変なのだからこの世界ではもっと大変であろう。


 それでもレーシャは多種族とも友好的に接する事の出来る世界を目指してる。

 鏑木君にもああ言った事だし、私もレーシャをしなくちゃね!

 レーシャの理想の世界を目指す為にも、まずは獣神決闘に勝たないと……



「そろそろ始めようと思うが、そちらの準備は良いか?」



 こちらが話していると向こうの準備が整ったのか、エトルーさんがやってきてこちらの確認をしてくる。



「すぐ準備をしますので、申し訳ありませんがもう少しお待ちいただけますか?」

「こちらは、人族などにそう時間を取られたくないのだ。早く準備を進めてほしいものだな」



 一つ鼻を鳴らし悪態をつくとエトルーさんはこの場から去っていく。



「少し話過ぎましたね。それでは参加者のみなさんはこちらに集まってください」



 レーシャの言葉に、今回獣神決闘に参加する私、ジェルドさん、リーディさんに騎士の二人が集まり、簡単に獣神決闘のルールや注意点などの説明がされる。


 獣神決闘のルールはこうだ。

1.最初の三試合は一対一の個人戦で四試合目に二対二のタッグ戦をし、四試合を行った際に勝利数が多い方が勝利となる。

2.基本武器は自由で武器に関しては持ち込みも許可されている。もし武器を持ち込んでいなくても、必要であれば武器は貸し出される。

3.交代に関しては試合前であれば交代可能。ただし、一度試合に出たものがもう一度試合に臨むのは禁止。

4.魔法やその種族の特性を生かすのは自由。

5.勝利者の要望については決闘が終了し次第敗者に告げ、絶対に叶えられないような願いでなければ絶対に聞く事とする。



「ルールを簡単に説明するとこんな感じだそうです。注意点は神の名の下に行われる決闘という事で、殺傷行為は一切禁止とするだそうです。あとは試合中の第三者の横槍があった場合も失格とし、その決闘は負けになるので注意して下さい」



 殺さなければ何をしても良いとはなんとも大雑把な……横槍に関しては当然ね。

 この分だと、要望に関しても死刑以外だったら絶対に聞けと言われそうね……



「大雑把な部分が目立つ決闘だけど、大体の内容は理解したわ」



 私の言葉に全員が頷くと、レーシャも頷きを返しエトルーさんのところへと向かっていく。



「お待たせして申し訳ありません。こちらも準備が整いました」

「では始めるぞ」



 エトルーさんの短い一言を合図に虎の獣人が一歩前に出る。



「では、あっしが一番手を務めさせていただきやしょう」



 肩ならしなのか、巨大な斧槍を私のふとももの三倍ありそうな腕で持ち、ガンッと床に突き立てる。

 渋い声に、これが獣人族でなければ渋いおじさまって感じなのだが、その目は獰猛なまでに相手を求めているように感じ。まさに肉食動物という感じだ。


 虎の獣人の目に一瞬射すくめられそうになるが、なんとか気力を振り絞る。



「こちらの一番手は私だ」



 そう言って私とは対照的に堂々とした出で立ちで第一試合に臨むのは、ラズブリッタの第一騎士団隊長のジェルドさんだった。


 二メートルはあろうかというバスターソードを背中に提げて虎人のところまで歩いていき、背中の剣を抜き放つ。



「ラズブリッタ王国が第一騎士団長ジェルド・マークスだ」

「……人族も戦いの前は名乗りをあげるものなのか……よかろう……名乗られたら名乗り返すのが礼儀というもの。獣人連合の獣人将が一人バグズ・ディガと申すやす。少しは楽しませてくれる事を期待しやしょうかね」



 そう言って名乗りあった二人はお互いににらみ合う。


 そんな二人の様子を見て審判役の獣人が開始の合図を告げる。



「それでは神の名の下に正々堂々の試合を期待する……はじめ!」



 こうして獣神決闘最初の試合が始まった。

いつも読んでいただきありがとうございます。


諸事情により二月の更新頻度を二日か三日に一度とさせていただきます。

楽しんで読んで頂いてる方には本当に申し訳ないと思いますが、今月は少し忙しくなりそうなので……

来月からは更新頻度も元に戻ると思いますので、なにとぞご了承下さい。


5月23日 誤字報告があり修正しました。ご報告ありがとうございました。

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