83話 ダンジョン
王都を出発して六時間、早朝に出発して昼を少し過ぎた辺りで、目的地の近くの町、ケーメアに到着した。
少し遅めの昼食を取り、さっそくレベル上げの為に目的地へと向かう。
「ところで、レベル上げって何処で行うんだ?」
「そういや言ってなかったか。この近くにギルドじゃなく王国が管理しているダンジョンがあんだよ、王様に許可を取ってあるから今からそこで行う」
「目的地はわかったけど、ギルドじゃなく王国が管理しているダンジョンっていうのは?」
「普通、ダンジョンがある町にはギルドを置いて、ダンジョン管理もしてくれてるんだが……今回俺達が行くダンジョンはあまりにも難易度が高いってんで、ギルドじゃ管理出来ないらしく、王国の魔術師が幾重にも魔方陣を張り巡らせてダンジョンから魔物が溢れ出てこないように王国で管理してんだよ」
え!? 今回行く場所ってそんなにやばいとこなのか? 短期間で成長をする為に多少は危険な場所に行くのは覚悟してたけど、そこまで危険な場所だなんて思わなかったんだが……
ダンジョンへの道すがらアルが目的地であるダンジョンがどんな場所かを説明してくれたのだが、聞けば聞くほど、行くのを躊躇ってしまう。
「なぁ……足りない物とかないのか? さっきの町で買い足しといた方が良いんじゃないか?」
「昨日色々と準備しておくって言ったろ。水も食料もダンジョンに潜ってる間は大丈夫だ。水はアイツが魔法でどうにか出来るし、食料に関しては足りなくなったら現地調達すれば良いしな」
「潜る? 現地調達?」
「イチヤはダンジョンに潜るのは初めてだったか……普通ダンジョンってのは何日も潜って探索するもんだ。まぁ今回は踏破ではなくレベル上げだからそこまで深い階層には潜らねぇから安心しろ」
「それなら……大丈夫……か?」
元の世界――――日本にいた時のネトゲの知識を信じるなら、深く潜らないんだったらそこまで強いモンスターに遭遇しなかったし、アルの言い方でも大丈夫だというニュアンスが伝わってくる。
「あと食料なんだが、足りたくなったら倒したモンスターの肉を食えば良いから」
「え! モンスターの肉!? 食えんの?」
これも日本にいた時、Web小説やらラノベで食っている描写があったけど……
普通に食ってる話と、食ったら死ぬ話の両方を読んだ気がするが、大丈夫か?
ダンジョンの中で腹を壊すとか勘弁して欲しいぞ!
「食えんのって……食えるに決まってんじゃねぇか」
「そんな常識だろみたいな顔されても俺の世界にはモンスターの肉なんてないんだから、食えるかどうかなんてわかる訳ないだろ!」
俺の世界ではモンスターなんていないし、ちゃんと品質表示もされてるからな!
モンスターの肉なんてあやふやな物売ってたらあきらかにクレームもんだっ!
「わかる訳ないって……お前なぁ……何回か牢屋の食事で出されて、美味そうに食ってたじゃねぇか」
「はい?」
「確か前に食ったのは四日前くらいか、クイントードの肉を食ったな」
四日前……そういや鳥のから揚げっぽい料理が出たな。あれは美味かった……って!
「あれカエルの肉だったのか!?」
「気付いてなかったのか」
「思いっきり鶏肉だと思って食ってたぞ!」
「まぁそういう訳で、食えるってのはわかっただろ? 確かに毒を持ってる奴もいるがそういう奴に気をつければ普通に食えんだ。シャティナは性格はアレだが、料理は美味いからモンスターの肉でも美味く調理してくれるはずだ。期待してろ」
「うふふ……誰が性格がアレなんでしょうね? アル君……」
「あぢゃぢゃぢゃぢゃっ!」
いつの間にか背後にいたシャティナさんに俺とアルが驚いた瞬間、アルの頭が持ち上げられ、シャティナさんの手には赤い光が灯っていた。
たぶんあれって手に熱を宿してるんだろうなぁ……熱そうにじたばたともがいてるし……アル……ご愁傷様……
心の中で合掌し、ヒール丸薬を創ってから夫婦の営みが終わるのを無言で見守った。
「ところで、水や食料については理解した。あと、もう一つ気になる事があるんだけど良いか?」
「水や食料があれば大抵どうにかなると思うんだが……なんだ?」
シャティナさんの折檻が終わったところで、やけどとシャティナさんに掴まれた――というよりも握られた後が残っていたので、ヒール丸薬を飲ませて回復させた俺は、もう一つ気になる事をアルに聞く事にした。
「こんな装備で大丈夫か?」
そう……今の俺達の装備は普通の格好でこれからダンジョンに潜ろうかという服装ではないのだ。
耐久度なにそれ?
冒険者に「これからダンジョンに潜るんですよ~」なんて言ったら、ダンジョンの前に病院に連れて行かれそうな格好に不安を覚える。
だってダンジョン探索ですよ? 武器はともかく、最低でも身を守る為の防具って必須なんじゃないのか?
そう思っていたのだが、アルは平然と――。
「大丈夫だ。問題ない」
その台詞! 俺の世界では死亡フラグだからなっ! 全然大丈夫に思えねぇよっ!
「おいおい、そんな不安そうな顔するなよ。大丈夫だって、いざとなったら現地調達すりゃあ良いんだからよ」
「現地調達!?」
食料はともかく武器や防具まで現地調達ってどういう事だよっ!
「これから行くダンジョンは王国が管理してるからそう簡単に入る事はできねぇんだ。だからまだ発見されてない宝に武器や防具がわんさかあるはずだ」
「はずだじゃねぇよ! 何この見切り発車感!」
もしなかったらどうすんの!? 俺やだよっ! 即死系の毒やら呪いやらもらって死ぬの! いくらヒール丸薬持ってたところで即死だったら意味ないんだからな!
「というのは冗談で、イチヤ……お前……自分の能力忘れたのか?」
「あ……」
そうだった……俺、創生魔法で武器や防具を創れるんだった。
前もって創ってあった武器は腰に提げてたし、ヒール丸薬は当たり前のように創ってたからすっかり忘れてた……でも。
「確かに武器や防具は作れるけど、俺の創生魔法じゃ毒や呪い耐性なんて付与出来ないぞ」
「何? そうなのか?」
創生魔法についてはまだよくわかってない部分が多い。
前に一度、武器や防具に魔力を帯びさせて魔法の装備を創ろうとした事があったんだが、失敗した。
たぶん武器や防具の内部構造を把握していないので、失敗したのだろうとは思うのだが、実際はよくわかっていないのが現状だ。
だから今まで作った武器や防具、ヒール丸薬なんかは内部がわかっていなくても創れる。
それでもヒール丸薬なんて、ネトゲで見たのをなんとなく創れちゃったって、それが成功したんだけどな
。
原理なんてまったくわからん……
「創れないんじゃ仕方ねぇか。じゃあ一応シャティナとレイラの分の武器と防具、あと自分の分の防具だけでも作って装備しとけ」
「わかった」
アルは王国からの装備なので、創る必要はないようなので、俺は自分の分の防具とレイラとシャティナさんの武器と防具を創る事にした。
二人の武器に関しては、レイラにレイピア、シャティナさんには杖を準備した。
なんとなく二人のイメージがこんな感じだったのだが、渡してみたら納得していたので、大丈夫みたいだ。
「後は……念の為に持ってきといたアクセサリーで耐性を補助すれば大丈夫だろう」
「なんだよ! 持って来てたんだったら最初から出せよ!」
「イチヤが創れたんだったらそれに越した事はないだろ。使わなかったら売れるし」
飄々とした感じで言っているけど、それ準備する為の金ってたぶん王国からの必要経費と渡されたモノだよな? 売った金で何を買うつもりだったんだ……ってたぶん酒か。なんというか……ゲスいな
「っと……話してたら着いたみたいだな」
アルと話していたらダンジョンについたみたいだった。
ダンジョンは柵に囲まれ入り口にはここの守衛をしているのだろう二人の兵士が立っている。
その二人に話しかけ、アルがステータスプレートを差し出し、事情を説明するとあっさりと中に入る事が出来た。
「んじゃ、レベル上げをする前にパーティ登録しとくか」
「パーティ登録?」
そういうのってギルドでするもんなんじゃないのか? やり方がまったく想像出来ない。
「イチヤはこれも初めてか、登録するのは簡単だ。パーティを登録したい面子でステータスカードを突き合わせるだけだからな」
そう言われ、ステータスカードを取り出す俺とシャティナさんだったが……
「あれ? 確かレイラってステータスカード持ってないんじゃないのか?」
確か前に持ってないって話を聞いてた気がする。
「あぁ、それなら王様に預けてたのを返還してもらったから大丈夫だ」
アルがレイラの物であろうステータスカードを彼女に渡し、俺を含めた四名でカードを触れ合わせる。
「これでカードに仲間の位置情報や状態なんかがわかる」
おぉ! なんかゲームみたいで少しワクワクした! パーティ登録すげぇ!
「若干一名テンション上がってる奴がいるが、こっからはダンジョンだ。油断せずに行くぞ」
気を引き締めるように注意の言葉を口にして、アルが特訓の時などに見せる真剣な表情で先頭を歩く、その後ろに俺、次にレイラ、最後尾にシャティナさんという布陣だ。
いよいよ始まるダンジョン探索! 目的はレベル上げで、そんなに深く潜らないというが、それでも男として心が躍る。
最初の階に到着するまでは、ワクワクドキドキしていた俺だったが、まさかこのダンジョンでこんなにも驚かされる事になるとは、この時の俺は考えもしなかった……
読んでいただきありがとうございます。
次の更新は明日のAM10:00を予定しております。
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5月23日 誤字報告があり修正しました。ご報告ありがとうございました。




