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82話 出立

 みんなに見送られ王城を出た後、アルの後に続き王都を出る。――という事にはならず、向かった先は馬車を貸し出しているという店の前だった。


「ちと遠いんでな、馬車を借りて目的地の近くの町まで行く」


 どうやら目的の場所は、少し遠いらしく荷物も多い為馬車は必須らしい。


 アルは昨日のうちに手続きなどは済ませているらしく、あとは契約した馬車を取りに良くだけだったのだが……


「何でお前がここにいるんだっ!?」


 突如聞こえたアルの驚きの声を聞いて馬車がおいてあるであろう厩舎の方に向かい、俺とレイラは駆け出す。


 一体何があったんだ?


 厩舎に到着すると、アルの姿と……もう一人見知った顔を発見する。


「あれ? シャティナさん、こんなところでどうしたんですか?」


 何故かシャティナさんが……たぶん俺達が使う馬車なのかな?

 荷車の部分に優雅な感じで横座りしているんだが、何故そんなところに座ってるんだろう?


 そもそもシャティナさんがいる理由がわからない。

 アルの見送りだろうか?


 疑問に思いアルに視線を向けると何故かアルが手で顔を覆い、やっちまった……というようなポーズを取っている。


「あらあら、うふふ」


 いつも通りの優しそうな微笑を浮かべるシャティナさんだったが、この前のアルとシャティナさんのやりとりを見て、彼女の印象が少し変わった。


 俺や他のみんなには実害はないのだが、アルに対しては何故か辛辣というかなんというか……とりあえず物凄かったとしか言い様がない。


 あの光景は本当に衝撃的だった……アレを見て俺はシャティナさんは絶対に逆らってはいけない人だと言う事を認識させられた……


「ところでシャティナさんは何でここに? もしかしてアルの見送りですか?」


 なんとなく自分が疑問に思った事を聞いてみると、シャティナさんは首を横に振る。


「うふふ。違いますよ、私もみなさんについていこうと思いまして」

「へ?」


 ついていくって、シャティナさんも俺達のレベル上げについて行く気なのか?


「たぶんイチヤの考えている通りだ……コイツ「我が愛しの妻」……我が愛しの妻も俺達についてくるつもりらしい」


 うわぁ……なんか強制的に言わされてる感がハンパねぇ……それにしてもシャティナさんもついてきたいって事で合っているみたいだ。


「別に良いんじゃないか。俺は構わないよ」

「私も異論はない。彼女の強さは聞いているからね」


 俺とレイラがあっさりと承諾すると、断れよ! みたいな感じでアルが目で訴えてくるが、断る理由が思いつかない。


「シャティナさんってかなり強いんだろう? それにシャティナさんには逆らえ――じゃなくて、強い人が加われば、それだけ旅やレベル上げも楽になるんだし、断る理由がないじゃないか」

「ぐぬっ!」


 アルがこの裏切り者ぉ! みたいな目で見てくるが、無視する。

 俺も自分の命は大切だからな!


「でもよぉ――」

「うふふ……でも、何でしょう? 私の愛しの旦那様は私について来られると迷惑だと……まさかそんな事を言ったりはしませんよね?」

「ひっ!」


 どうにかしてシャティナさんの同行を阻止しようと言葉を続けようとしたところで……シャティナさんの怒りを滲ませた声によって阻まれ、アルが短く悲鳴をあげる。


 目は笑っているように見えるのに、怒気を孕んでいるのが更に恐ろしい……


 何年夫婦をやっているのかはわからないが、逆らったらどうなるかなんて、シャティナさんとは、まだ三回しか会った事のない俺でもわかるのに……アルも学習しない奴だなぁ……それとも好きでやっているのだろうか?





「うふふ。では、私も皆さんに同行しても良いって事ですね。ありがとうございます」

「ああ……やっぱり自分の大切な妻を……何日も一人にしておくのは心配……だからな……ぜひ……一緒に……来て……くださぃ……」


 言わされてる……! アルさん、めっちゃ言わされちゃってますよ!


 シャティナさんの同行を渋っていたアルが彼女にこの前見た往復ビンタを三往復お見舞いされ、俺がヒール丸薬を飲ませるという一幕があり、がくっと肩を落としながらもアルがシャティナさんの同行を許可していた。


「うふふ。それでは皆さんよろしくお願いしますね。あら、あなたとは初対面でしたね。初めまして、シャティナ・フォスタンスと申します。アルドル・フォスタンスの”妻”です。以後お見知りおきを」

「? こちらこそ初めましてだね。レイラと言います。こちらこそよろしく」


 なんで妻の部分だけ、あんなに強調したのだろうか?


 そう思ったのは、俺だけではないようで、どうやらレイラも疑問に思ったようで、一瞬首を傾げたが、すぐに気を取り直してシャティナさんに自己紹介を行っていた。


「ありゃあ牽制だ……」


 俺が不思議に思ったのが伝わったのだろう……アルが小声で俺が疑問に思った事を答えてくれる。


「牽制?」


 アルに習い、俺も小声で問い返すと、いつになく真剣な表情をするアルが頬に薄っすらと汗を掻きながらシャティナさんをじっと見ている。


「昔からああやって、俺と仲の良い女性に自分と俺がどういう仲なのかをはっきりと告げて、必要以上に俺に近づく女性を牽制してるんだ……」

「でも確かこの世界は一夫多妻制だったはずだろ? あまり意味はないんじゃないか?」

「普通はそう思うだろ? でもよく考えてみろ……第一婦人であるアイツが、俺をボロ雑巾のような姿にするのを見て、近づこうとする女がいると思うか?」

「あぁ……なるほど」

「しかもあいつは独占欲が強いというか……嫉妬心が強いというか……俺が少しでも女に近づこうものなら遠慮なく自分の力を行使してくるから手に負えねぇ……」


 その光景が容易に浮かぶのは、やっぱりアルとシャティナさんのやりとりを目に焼き付けたせいだろう……さっきもシャティナさんの恐ろしいビンタを見たばかりだしな……


 夫婦の関係をとやかくいうつもりはないが、どうしてアルはシャティナさんと結婚したのだろうか?


 確かに顔は良いし、スタイルだって、見た感じ悪くはないが、一緒に冒険していたら彼女の性格だってわかっていただろうに……やっぱりアルはアレなのか? ドMなのだろうか?

 

「言っとくが、俺に変な性癖はねぇぞ」

「おいおい……人の心を読むなよ」

「口に出てたからな」

「え?! どの辺から口に出してたんだ!?」

「”やっぱりアルはアレなのか? ドMなのだろうか?”辺りだな。言っとくが俺はドMじゃねぇ」


 ムキになって否定しているのが怪しいが、どうやらアルさんはドMではないらしい。


 まぁ俺にとってはどうでも良い事だから放って置こう……夫婦の営みに関して口をだして痛いしっぺがえしなんてくらいたくないしな。


 というよりもフォスタンス夫婦のやりとりには正直関わり合いになりたくない! マジで恐い! アルもシャティナさんも良い人なんだけど、どうしてこの二人を一緒にするとこんなに恐いのだろう……? 二人には混ぜるな危険という張り紙を張っておきたい!


「では、挨拶も済みましたし、そろそろ行きましょうか」


 レイラとシャティナさんが軽い自己紹介をして、談笑していたのだが、それも終わったようで、こちらへと声をかけて来る。


 それにしてもさっきアルがぼこぼこにされてたのに、レイラはシャティナさんに対してまったく恐れている様子がないな……普通あれ見たら少しは及び腰になるもんじゃないのか?


 だが、俺の予想に反し、二人は談笑が終わってからはどこか親しげな感じに見える。


 まさかレイラも嗜虐趣味でもあるんだろうか? レイラまでシャティナさんのようになったら嫌だなぁ……


「うふふ。どうかしましたか?」

「いえ! 何でもありません!」

「?」


 どうやら無意識のうちにシャティナさんを見ていたようで、話しかけられて焦ってしまい、不思議そうな顔をされてしまった。


「うふふ。何もなければ出発しましょうか……っとその前に……アル君、旅に必要ない物は全部ここに置いていきましょうか」

「な……なんの事かわかんねぇんだが……」


 じりじりと後ずさるアルと離れた分だけにじりよるシャティナさん。


 必要ない物って、一体何を持ってこうと……ってもしかして……


「お酒……持ってきてますよね。家にあったのがいくつかと、さっき酒屋のお爺さんに会った時、昨日アル君が結構買ってたというのを聞いているんですよ」

「くそっ、あの爺! もうボケやがったのか! 黙ってるって約束したはずなのに!」


 やっぱり酒か……なるほどな。シャティナさんから離れられるから羽目を外そうとしてたのか……まったく、目的はレベル上げで、様々な知識を持ってるアルが頼りなんだから、もう少ししっかりして欲しいものなんだけどな。


「絶対にこいつらは渡さねぇ!」


 必死の形相のアルは、いつもの特訓のような素早さで、荷車においてあったリュックを掻っ攫うとシャティナさんから脱皮の如く逃げ出した。


「おいっ!レベル上げはどうするんだよっ!」


 俺の静止の声も虚しく、アルは逃げ出した。


「うふふ。大丈夫ですよ」


 慌てて追いかけようとした俺をシャティナさん手で制し、いつもの微笑を浮かべ手を天にかざした瞬間――――アルが逃げた方向から爆発音が響き、赤い鳥の群れが何か黒いモノを咥えながらこちらへと向かってきていた。


 その黒い物体……アルだったものは黒焦げの状態でピクピクと痙攣していた。


「これ大丈夫なんですか……?」

「うふふ。いつもの事なので、気にしないでやってくださいね」


 いつもの事!? いつもこんな状態になってんの!? よく生きてるな……これもステータスのおかげなのか……?


 シャティナさんは黒焦げになっているアルには目もくれずに彼が気絶しながらも大事そうに抱えているマジックリュックの中身をごそごそと漁る様を見て、改めてシャティナさんに対して戦慄が襲った。


 マジックリュックの中身を漁ると、中からは数十本のお酒が出てきた。


 一体どれだけ飲むつもりだったんだよ……こいつは……


「とりあえず、お酒は一通り回収しましたので、そろそろ行きましょうか」

「え? あ、はい。でもアルがこうなってしまっていて目的地はわからないんじゃ?」

「うふふ。昨日、目的地を聞いているので大丈夫ですよ、時間も惜しいのでそろそろ出発しませんと」

「わかりました。シャティナさん、案内よろしくお願いします」

「任せて下さい。それで申し訳ないんですけど、アル君……主人の治療お願いできますか? ちょっとやりすぎてしまったので」


 そう言って苦笑するシャティナさんだが……これ少しってレベルじゃないよな!? 一般人なら死んでるレベルなんですが!


 心の中でシャティナさんに突っ込み、ヒール丸薬を一粒取り出しアルに飲ませた。


 これで大丈夫だろう……まったく人騒がせな奴だ。


 薬を飲ませた事をシャティナさんに伝え、少ししたら元に戻る事を告げると、シャティナさんは心持安心したような感じで微笑む。


 なんだかんだ色々とアルにやってるけど、アルをいかに大事にしているのかは伝わった……


 こうしてシャティナさんを新たに加え、俺達はようやく王都を後にする事が出来た。

読んでいただきありがとうございます。

次の更新は明日を予定しております。

少しでも面白いと感じでいただけたらブクマ、下部にある評価をクリックしていただけたら、執筆の励みになりますのでよろしくお願いします


2月20日 誤字報告があり修正しました。報告ありがとうございます!

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