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81話 見送り

 レイラに衝撃の事実を告げられた翌日、俺達はレベル上げに行く為に牢屋の扉を開け、王城の城壁の前に集まっていた。


 昨日の話の後に、アルが王様に事実確認と、レイラが獣神決闘に参加を希望する旨を伝えると、王様はあっさりと了承、その場にはレーシャもいたのだそうだが、どうやらレイラについては王様以外に元勇者だと言う事を知らないそうで、彼女は大変驚いていたそうだ。


 何故王様以外誰も知らないのか――それについては王様も先代の王様に口止めされていたそうで、レーシャにも伝えていなかったらしい。


 本来ならばレーシャはもちろん、牢番のアルにも伝えておくのが普通だと思うのだが、帝国にレイラの情報が伝わってはと懸念して、今まで黙っていたそうなのだが、帝国との同盟は破棄され、こうしてレイラが牢屋から出る意思を示した事、レイラが俺達に一部とはいえ自分の事を語った事で王様からレイラを匿っていた事をアルを通して伝えられた。


 そして今この場には獣神決闘に向けてレベル上げと戦闘訓練の為に遠出をする為に、俺とアルとレイラ、見送りにはリアネ達メイドやエヴィとクルエの兄妹、それとレーシャと委員長が来てくれた。


 見送りがなぜここなのかというと、さすがに獣人族であるリアネ達を王都の入り口まで来させる事を危惧したからだ。


「それじゃあみんな行って来るよ、絶対に強くなって帰って来るから、みんな元気に待っていてくれ」


 メイドの中でも年少組のピアとフィニが不安そうにしていたので、安心させるような笑みを作るよう心がけて頭を撫でてやる。


 一昨日あんな事があって、自分達を守ってくれる相手が本能的にわかってるのだろう、涙を滲ませながら目で訴えてくる姿に行くのを躊躇ってしまいそうになるが、もしここで行かなかったら自分の大切な場所を守る事が出来ないかもしれない。


 そうなれば、今こうして俺と離れる事を拒んでくれているピアとフィニも近い未来に必ず不幸な目に合わせてしまう。


 前の俺であれば、自分の力を過信して、こうやって引き止められればレベル上げの止めて牢屋に戻っていただろうが、今の俺は違う。


 苦い記憶ではあるが、帝国騎士との戦いで敗北し、アルとの特訓でもこてんぱんにされて、レベルやステータスだけでは測れない”本当の戦い”というものを知った。


 おそらく今回の獣人族との獣神決闘でも、向こうが最高戦力で来る事は確かであろう。


 そんな相手に生半可な覚悟でどうにか出来るなんて思っていたら絶対に負けてしまう。


 油断なんて、今の俺がして良い事ではないのだ。


「ピア、フィニ、二人を守れるくらい強くなってくるから、それまで良い子でいるんだぞ」

「ごしゅじんさまぁ、ぜったいにかえってくる?」

「フィニたちをみすてたりしない?」

「ああ、絶対に帰ってくる! みんなを見捨てたりするなんてありえない。約束するよ」


 ピアとフィニに両手の小指を差し出すと、俺が前に教えたようにして二人は俺の小指に自分の指を絡めてきた。いわゆる指きりげんまんというやつだ。


「「「ゆびきりげんまん、うそついたらはりせんぼんの~ます! ゆびきった」」」


 三人で歌を歌い、指を話すと、ピアとフィニは満足したのか、さっきとは打って変わってにこやかに俺へと笑みを向ける。


 やっぱり二人は不安そうにしてる顔なんかよりも笑顔の方が似合ってるな。


「イチヤ様……」


 ピアとフィニの二人と約束し終えると今度はリアネが俺に声をかけてきた。


「やはり私も連れて行ってはもらえないでしょうか?」


 昨日からもう何度目のやりとりになるかわからないくらい、リアネは俺について来たいと、願い出てきていたのだが……


「いくらリアネの頼みでも、こればかりは聞く事は出来ないんだ……ごめんな」


 正直ついてきたいというなら連れて行ってあげたいのだが、アルが言うには今回のレベル上げは短期間しか行えない為、かなり危険な場所で行うらしい。


 その為、いくらついていきたいと言われても、そんな危険な場所にリアネを連れて行く事は出来ないのだ。


「ピアやフィニにも言ったけど、みんなを守れるくらい強くなって帰ってくるから、リアネは俺の事を信じて待っていてくれ」

「絶対帰って来てくださいね! 絶対ですからね」

「あぁ、約束するよ。なんだったらピア達と同じようにリアネも指きりするか?」


 さっきピアやフィニにしたように小指を差し出すと、リアネはそれを無視して俺の懐に飛び込んでくる。


「リ……リアネ……?」

「信じて待ってます……ですから……絶対に帰って来てくださいね……」

「もちろんだ」


 俺の胸に顔を埋めながらそんな事を言うリアネに、思わずきゅんとしてしまった。

 何だろう……この可愛い生き物は……?


 背中に腕を回され、抱きしめられているこの状況で、俺のやる事は一つだけだ。

 

 ここで空気を読めない行動を取るつもりは一切ない。


 良いよな? 良いんだよな?


 自分自身に何度もそう問いかけた後、リアネに聞こえないくらいに呼吸を繰り返した後に彼女の背中に片腕を回し、壊れそうなくらい細い体を優しく抱きしめた。


 リアネの頭に顎を乗せ、もう片方の腕で安心させるような感じで頭を撫でる。


「ピアやフィニみたいに指きりではないけど、これがリアネと俺の約束の証だ」

「イチヤ様……」


 その言葉を聞いたリアネが俺の胸から顔を上げ、熱のこもった瞳で俺を見つめると、その瞳がゆっくりと閉じられた。


リアネの行動に、彼女が何を求めているかを理解し、彼女に習い俺も目を閉じ、自分の唇を彼女の唇に近づけていく。


 少しずつ近づいていく唇、あと数ミリで俺は人生初のキスを迎える事になる。


 ドキドキと胸が高鳴り、逸る気持ちを押さえつけて平静を装いながらキスをしようとした。


 ――――ところで、一つの咳払いが俺とリアネの行為を止めた。


「オホンッ!」


 誰だよ! 人がファーストキスをしようとしているのにその雰囲気をぶち壊した奴は! こっちは勇気を振り絞ったっていうのにせっかくのチャンスを台無しにしやがって!


 恨みがましい目で咳払いの主に顔を向けると、その主は半目でこっちを睨んでいて、 周りの人間もどこか呆れた感じだ。


「レーシャ……」

「良い雰囲気のところ邪魔してすみませんが、出立の時間もありますし、私達も出立の挨拶をしたいのですが、よろしいでしょうか?」


 半目で睨んでいたレーシャだったが、突如笑顔になりながらも威圧感を発する。


 何故か怒っているような様子のレーシャを見て、俺は我に返ると、リアネと抱き合っていた事を思い出し、顔を赤くしながらも慌ててリアネから距離を取る。


 俺の行為にリアネが何処か不機嫌そうになったが、リアネしか見えない雰囲気が完全に壊された今となっては、ずっと抱き合っているなど、今の俺には恥ずかしくて出来そうにない。


「……なんか悪かったな」


 バツが悪くなって思わずそう呟くと、苦笑している者が大半で、仕方ないなぁという感じの雰囲気だった。


 それでもレーシャはさっきから笑顔を貼り付けたまま何処か怖い雰囲気を漂わせているわけだが……


「レーシャ?」

「何でしょうか?」

「……なんか怒ってないか?」

「そんな事ありませんよ、いつも通りではありませんか」

「そっか」


 あきらかに怒ってるように見えるのは、気のせいじゃないはずだ。


 助け舟を求め委員長を見ると溜息を吐かれたが、どうすれば良いのかわからないんだが……何に怒ってるかはわからないが、話を進めよう。


「レーシャも俺がいない間、皆の事よろしく頼む」

「それはもちろんです。イチヤさんのメイドには指一本触れさせません」

「そう言ってくれると俺も安心してレベル上げに専念できるよ、ありがとう」

「イチヤさん、どうかお気をつけて。絶対に帰って来てくださいね」

「あぁ、必ず帰ってくるよ」

「……では」

「はい?」


 レーシャと挨拶を交わし終えると、何故か彼女は両手を広げて、何かを待つような体勢になっているんだが、何してんだ? まさかと思うが、抱きしめろって事じゃないよね?


「イチヤさん、どうかされましたか?」

「いや……レーシャが何をしているのか理解できないんだが……」

「何って、別れの挨拶と言ったらハグが普通ではありませんか」


 当然のように言ってくるが、リアネとの一件もあり、俺には恥ずかしくて出来そうにない。


 さっきはそういう雰囲気に呑まれて気だったのだが、我に返った今となっては衆人環視の中、女の子と抱き合うなんて俺にはハードルが高すぎる。


「イチヤさん、流石に少し手が疲れてきましたので、早くしていただけると……」


 これどうすれば良いんだよ!? 誰か教えてくれません!?


 レーシャから視線を外し周りに誰か助けてくれる人間を探すと、アルと視線が合い、事もあろうにアルは早くやれというような感じで顎をしゃくって催促してくる。


 駄目だ……これ完全にやらないと終われないやつじゃん! 強制イベントかよ!? 

 うわぁ……なんかリアネの不機嫌度も上がってるし……


「はぁ……」


 思わず溜息を零して覚悟を決める。


 もうやらなければいけない雰囲気になってるし、どうせやるなら早めにだ!


 さっきリアネにしたように優しく抱きしめた後に、さっとすぐに離れる。


 顔が熱い……耳まで真っ赤になっているのが自分でもわかる。


「これで良いか?」

「少し短いように感じたのが、残念ですが……戻って来た時にまたしてもらえれば良いですね」

「勘弁してください!」


 思わず敬語になるくらい動揺すると、それを見たレーシャが今度は屈託のない笑みを浮かべる。


 どうやら俺の事をからかっている面もあったようだ……この世界に来るまで女の子に免疫がなかったんで……ホント勘弁してください……


 その後も委員長やエヴィ、クルエや他のメイドの子達とも挨拶を交わした。


 もちろんリアネやレーシャのように抱擁などするはずもなく、みんなとは握手を交わしながらだ。


 みんなと挨拶を交わし終え、俺はみんなに背を向ける。


 このままみんなと話していては、いつまでも足を踏み出せないままだからな。


 これから短い時間とはいえ王城を離れる事に若干の寂しさを感じるが、少しでも強くなって絶対に戻って来る!


 そう決意し、俺は王城を後にした――。

読んでいただきありがとうございます。

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