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80話 獣人連合 2

申し訳ありません。頭痛がひどくて寝ていたら更新遅れました……

 なんとも軽い調子で言われたその言葉に、全員が目を見開き、戸惑いの様子を見せたが、猿人の族長だけが誰よりも早く我に返ると、御子である二人に真剣な表情を向けた。


「無礼を承知で申し上げます。いくら御子様の言葉でもそれだけは承服しかねます!」

「なんでよ~?今まで連合の方針は族長達の意見に聞いてあげてたんだから今回くらい聞いてくれてもいいじゃないの~」


 猿人の族長の言葉に頬を膨らませ、抗議の声を挙げるが、それにはとりあわずに族長が言葉を重ねる。


「御子様達が強いというのは、誰もが知っている事ではあります! 獣人将の半数以上は御子様から武術を教えられた者ですので……しかし御子様達は我々の象徴とも呼べる存在! そのような方々を危険な場所に向かわせるなど、あってはならない事です!」


 先程まで御子達の機嫌を伺うように話していた猿人の族長だったのだが、ララの発言に、先程の態度を一変させ、頑なに彼女の意見を拒む。


 もちろん御子であるララに意見するというのがどういう事なのかも猿人の族長は理解している。


 だが、自分の身が危険に晒される事よりも御子である二人に害が及ぶ事の方が、連合にとっては問題だと考えたのだ。


「でも今回は連合にとっても重要な決闘でしょ?私達が出なかった事で万が一負けたらどうするのさ?」

「相手は最弱国のラズブリッタ。前の襲撃では業火の魔女の存在を知らずに多数の死者を出してしまいましたが、あのような失態は二度と繰り返させはしませぬ! なので、御子様方の参戦は不要です! 御子様方には連合で我らの吉報をお待ち頂きたい!」


 ラズブリッタに負けることなど万に一つもないというように語る猿人の族長に、ララは二の句が告げなくなった。


 確かにラズブリッタはどの国よりも弱いが、窮鼠猫を噛むという言葉があるようにどのような手を打ってくるかわからない。


 今回はラズブリッタが提案してきた決闘で、その油断が命運を左右するかもしれないという事を、猿人の族長や他の族長達は理解するべきだと御子の二人は思ったが、この場でそれを指摘したところで、族長達は何も変わらないだろう。


「シィちゃん、どうしよう?このままじゃあーし達、獣神決闘に出られないんだけど」

「ララの言い方が悪い。いや、脳筋に任せた私が悪い」

「あ~! また脳筋って言った~!」

「事実」

「も~! そんなに言うならシィちゃんが彼等を説得してよ~! 出来るんならね~!」

「簡単」

「あっさり!?」


 脳筋と言われ、いじけた様子になったララだったが、反撃とばかりに自分達の獣神決闘の参加許可を族長達から得るように言うと、シィはあっさりと了承し、その様子にララが驚きの声を挙げる。


 シィがララから視線を外し、族長達の顔をじっと見る。


「族長、参加許可」

「先程も申し上げましたが、御子様方を他種族がいるような危険な場所に行かせる事はできません」

「参加許可を」

「ですから――」

「参加許可を」

「なりません!」


あまり話す事が得意ではないシィが何度も同じ単語を繰り返し、族長に参加許可を求めるが、ララと同じようにシィの言葉でも猿人の族長の意見は変わらなかった。


 他の族長達も御子達の意見を黙って聞いていたが、内心では猿人の族長と同意見のようで、無言で猿人の族長の言葉に頷いている。


 なぜここまで猿人の族長が反対するのかには、二つの理由がある。


 一つは三年前の種族間会議の際に、連合を代表して行った族長の二人が毒殺された件があり、今回もし、連合にとって重要な御子様の存在がラズブリッタに知れたら、どんな卑劣な手段で御子様に危害を加えるかわからないという事を危惧している為、この件に関しては族長達にも譲れないモノがあるのだ。


 そしてもう一つは彼女達が御子と呼ばれる所以に理由がある。


 それは――――


「仕方ない……」


 シィが短くその一言を呟くと、体が薄い発光に包まれ、目の色が赤色から金色へと変化し、族長達全員が、その場に跪き、頭を伏せる。


「獣人の子らよ……」

「おぉ……女神エティア様……」


 獣人の族長の一人が女神の名を口にして、涙を流しながら崇めると、他の族長達も皆同じようにしてシィの体に宿ったであろう女神を崇めた。


「我が御子は願っておる。その願いを聞き届けよ。万が一にも我が御子を不遇な死などにはあわせん」


 それだけを告げると、シィから発せされていた光が消え、彼女の目も元通りの赤色へと変わり、神を宿す前の状態へと戻った。


 族長達が彼女達を御子と呼び、他種族の目が届かないところで大事にし、獣神決闘への参加を頑なに拒んだ理由のもう一つが、御子が女神を自分の体に顕現させ、こうして神託を告げる事が出来るからなのだ。


 しかし、それも今の神託によって御子達の参加を拒む事が出来なくなった。


 獣人族は二柱の女神を信仰している。


 そのうちの一柱つが今シィによって現れた女神エティアであり、その神がララとシィの参加を神託によって告げた事により、拒む事は許されない。


 獣人族にとって神託とは、絶対遵守されるべき最優先事項であり、それに逆らう者などは確実に神罰が下るとされている。下手をしたら逆らった種族が絶滅する可能性すらあるのだ。


「族長、参加許可」

「うぅむ……本当は連合に留まって欲しいのですが、神託には逆らえません……ラズブリッタとの獣神決闘の参加を許可致します」


 猿人の族長に先程と同じ台詞で、獣神決闘への参加許可を求めるが、今度は何か苦い物でも食べたような顔をしながらも、猿人の族長からなんとか承諾を得る。


 神託によっての許可が出た以上、族長達はそう言うしかないのだ。


 だが、族長達は心の中で安堵していた。


 女神が神託で不遇な死などにはあわせんという言葉は、神からの生への確約がされているので、今回のラズブリッタとの獣神決闘において、御子達が命を落とす事は万が一にもありえないという事。


 それに彼女達が参加するという事は、今回行われる獣神決闘は磐石であり、勝利以外はありえないという事だ。


 もちろん御子達が参加しなくとも獣人将を出せば勝つ事が容易だという事は、族長達は確信しているが、これで万に一つの負けもなくなった。


 族長達が口々に喜びの言葉を上げる中、シィが何処か得意気な表情を作り、ララに向き直ると、その顔を見たララが頬をぷく~っと膨らませ半目でシィを見る。


「ずるい……」

「ずるくない」

「ずるいずるいずるい! いくら何でもエッテを呼ぶなんて反則だよ~! これってどっちの話術で族長達を説得出来るかの勝負でしょ!?」

「勝負なんて、してない。獣神決闘の参加許可が最優先」

「勝負だよ~! あ~、わかった~! シィちゃんも自力で説得出来なくて悔しかったんでしょ~! それでムキになってエッテに助けてもらったんだ~」


 ララの言葉にピクッと肩を震わせるシィを見て、図星をついたのが嬉しかったのか、ニヤニヤとしたいやらしい笑みを浮かべる。


 その表情を見て、シィが睨みつけるようにララを見返し、一言呟く。


「ララ。晩御飯抜き」

「ちょっと~! 図星つかれたからってそれは反則だよ~!」

「ご飯抜き。絶対」

「私が悪かったよ~! お願いだから許して~!」


 膨れっ面でプイっとララから顔を逸らすシィに、ララが彼女の腰にしがみつきながら会議室に木霊するような大声で、顔を擦りつけながら謝罪の言葉を口にするが、聞く耳をもたないといった感じだ。


 その光景は何処かほのぼのとしているようにも感じられるが、この二人には御子としての威厳がまったく感じられない。


 そんな二人の御子だが、こうして今回のラズブリッタとの獣神決闘への参加が決定した。


 ラズブリッタは御子が参加する事はおろか、御子の存在すら知らない。


 この事実はラズブリッタにとっては最悪の状況であり国が滅びる可能性が上がったという事だが、彼女達がこの獣神戦争に参加した理由は別にある。


 その目的を果たす為に、二人はラズブリッタとの獣神決闘に向けて動き出すのだった。

読んでいただきありがとうございます。


次回の更新は今日を予定しています。時間指定は出来ませんがよろしくお願いします。


5月23日 誤字報告があり修正しました。ご報告ありがとうございました。

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