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78話 真実の一端

 レイラが元勇者、その事実に俺とアルが目を見開き驚きの表情を浮かべて、彼女の事を見つめる。


 二十年前に召喚された勇者?レイラが嘘をつくような人間でないのはここで一緒に牢屋生活をしている俺も、牢番のアルもわかっているのだが、レイラの言った事はそれを差し引いても俺とアルを驚かせるに十分な言葉だった。


「ちょっと待ってくれ! それが本当ならどうしてこんなところにいるんだ? それに皇帝以外の五人の勇者は死んだというのは誰もが知ってる事だ」


 尤もなアルの意見に俺も一つ頷きを返す。

 それに彼女の見た目からしてもありえない……彼女の見た目も二十代前半にしか見えないからだ。


 前にアルがこの世界の歴史を語ってくれたが、帝国の先代皇帝を含む六人がこの世界を脅かしていた魔獣を倒し、その際に召喚された五人は死んだと聞かされた。


 それなら何故死んだはずの人間が――レイラが生きているのだろう?しかも帝国ではなくこのラズブリッタの牢屋で。


「驚くのも無理はないけど、私は誓って嘘はいっていないよ。その事は国王様も先代国王から教えられているはずだから確認してみると良い。あと、あの時に皇帝以外の”五人”が死んだというのも間違ってはいない」


 レイラの言っている意味がわからなくて首を傾げる。


 召喚されたのは六人で、皇帝以外の五人は死んだ。だけどレイラは自分は二十年前に召喚された勇者だと言っている。


「考えてみてもレイラの言っている事がまったくわからないんだが……」

「ごめんね。ただ、私も真実を告げるには些か勇気というモノが必要なんだよ」


 過去に何かがあったのだろう……レイラは軽く深呼吸を繰り返し、俺とアルは彼女が決心するまで待つことにした。


 しばらくすると彼女が決心したように俺とアルを交互に見てから再び口を開く。


「二十年前の勇者召喚――この世界に召喚された人数は六人ではなく七人だよ」

「「なっ!?」」


 召喚された人数が実は一人多かったのか。もしそうなら七人目の勇者であるレイラが生き残っていてもおかしくはない……おかしくはないのだが。


「何で世間では勇者は六人て言われてるんだ? レイラ含めれば七人なんだろ?」


 気になったから質問したんだが、レイラはいつもの無表情な感じではなく、どこか悲しげで、何かを悔いているようだった。


「それはね……私が魔獣討伐した際に逃げ出したからだよ。だから”勇者は”六人で合っている」

「……」


 逃げ出したの辺りで本当に苦しそうにしているレイラに俺は何も言えなくなる。


「どうして逃げ出したんだ? って聞くのは野暮か……魔獣の恐ろしさは俺も身を持って知ってるからな。でもどうして歴史から七人目が抹消されているのかわかんねぇし、そもそもレイラがここにいる理由もわからねぇ」


 俺が口を閉じたタイミングでアルが俺の代わりにレイラへと質問する。


 その内容は俺も聞きたかった事だが、さすがにレイラの過去に何かがあるのはその顔から明白で聞くのを躊躇ってしまった。


 だからアルが聞いてくれるのは助かったと同時に、聞いても良かったのかという気持ちも湧いてくる。


「七人目である私の存在が抹消されたのは、帝国にとって勇者召喚された勇者が逃げ出しただなんて、体裁が悪かったせいだろうね。おそらくだけど、帝国が緘口令かんこうれいを敷いたんだろう」


 帝国側にとっては確かに希望である勇者が逃げ出したなんて事が知れたら魔獣を倒せたとしても勇者の信用などに傷がつく。


 コウイチという勇者が祭り上げられ仕方なく皇帝になった訳じゃなく自分でなったとしたらその事実は都合が悪かったという事だろう。


「牢屋にいる理由については……逃げ込んだ先がここだったというだけさ。すまないが、今はこれ以上は言えない」


 そう言って頭を下げるレイラにこれ以上の詮索をしようとは思わない。


 元々俺はこの異世界の住人ではないので、突っ込んでまで過去を暴きたいなどとは思わないが、アルはこの世界の住人――真実を知りたいだろう。


 だけど、仲間であるレイラを苦しめてまで聞きだそうとはしないみたいだ。


 アルが仲間思いだという事に心の中で安堵する。


「わかった。とりあえず俺も過去についてはこれ以上詮索しない。レイラが話しても良いと思った時には話して欲しい。アルもそれで良いだろ?」

「おう。知りたいってのが本音だけど、そんな苦しそうにしているレイラから聞きだそうとは思わねぇよ」

「だそうだ」

「二人とも……ありがとう」


 そうやってしみじみ言われるとなんか照れるな。ただでさえ端正な顔立ちのレイラが微笑むと本当に綺麗だと思う。


 これで俺の二倍以上生きているだと!?確かにどこか達観してるというか大人びた雰囲気を醸し出してはいたがまさかそんなに年を取っていたとは……


 見た目は二十代前半にしか見えないのに、これがロリBBA……いやロリではないな。こういう場合なんて言えば良いのだろうか?


 そんな風にどうでも良い事を考えていたらレイラについて気になった事が出てきた。


「なぁレイラ、どうしてそんなに若いんだ? どう見ても二十代にしか見えないんだが」

「あっ! 馬鹿! 普通そんな質問するか!?」


 アルが慌てて俺の口を塞ぐが、もう話してしまったので取り消せない。


 デリカシーがない質問だというのは重々承知しているが、気になるモノは気になるのだ。


 俺の口を塞いでいるアルの手を引き剥がそうとしていると、レイラが口に手を当てくくくっと笑う。


「アル、気にしていないからイチヤの口から手を放してやってくれ。私はこの世界に来て一度も年齢なんて気にした事はないからね」

「そうなのか?」

「この世界にやってきた時にもらった能力のおかげでね」

「能力?」

「長寿という能力でね。戦闘ではまったく役には立たないが、普通の人間の一年の成長速度が私にとっては三ヶ月くらいの成長速度にしかならないと能力だよ」


 三ヶ月、つまり一年で一つの季節くらいの成長しかしないという事か。


 それで二十年だから……単純計算で五年、レイラが何歳でこの世界にやってきたのかはわからないけど、身体年齢は二十代前半くらいって事か。


 そう考えると今の見た目も納得できる。


「なんともまぁ……誰もが羨む能力をもらったなぁ」

「この能力については感謝しているよ。これがあったおかげで牢屋生活も時間の苦ではなかったからね」

「他には何か能力はないのか?」

「後は……武器適正、魔法消去スペルキャンセル、武術適正、詠唱短縮くらいだね」


 一瞬何かを言おうとして躊躇ったように感じたが気のせいだろうか?いや……それよりも。


「何その長寿とかいう能力以外の戦闘に特化した能力! チート性能過ぎないか!?」


 長寿も戦闘では役に立たないというだけで十分チート能力なのに、戦闘に役に立つ能力が名前を聞いただけでわかるくらいチートだ。


 まさかレイラがこんなにもチート能力の塊だとは思わなかった。


「別にこれくらい勇者召喚でこの世界に来た人間なら普通だろうに……少なくともイチヤにだけは言われたくないんだがね」

「え?」


 そこで何で俺に呆れた眼差しを向け、溜息を吐くんだろうか?……そう思ってレイラの眼差しと溜息の意味をよく考えてみたら確かに俺の方がチート性能だなと思う。


「なんか……ごめん」

「わかってくれれば良いんだ。ただイチヤは自分がいかに規格外かは忘れてはいけないよ、人によってはその強さに嫉妬する人間もいるだろうからね」


 確かにもらいものの力で、ステータスも能力も規格外じゃ嫉妬する人間だっているだろうな。

 

 注意してくれてるレイラは気にしていないようだが、そういう輩がいないとも限らないので、何か危害を加えられないように注意だけはしておこう。


 特に委員長以外のクラスメイトは要注意だ。


 この間俺に対して敵意むき出しだった奴もいたしな。


「とりあえず能力に関してはお前さんらが異常だってのはわかったし、レイラが戦力になるというのも理解した。だけどどうしてレイラは獣神決闘に参加しようと思ったんだ? 逃げ込んだって事は誰かから逃げてたって事だろ? つまり誰かから隠れる為にここにいた。過去の詮索はしないと言ったが、隠れていたのに公の場に姿を現して大丈夫なのか?」


 アルがレイラを気遣っているのがわかる。もし彼女が誰かから逃げて来て王族の人間が彼女を匿う為にこの牢屋に入れたのだとしたら出てきて良いのだろうか?


「詳しい事は言えないが、私は帝国の人間からアルの言うとおり逃げ隠れしていたんだ。だがそれも帝国との同盟が破棄されただろ?」

「なるほど、それで獣神決闘に出てくれる気になったという事か」

「そうだ。ただ念には念を入れて仮面あたりを用意してくれるとありがたい」

「構わないが、王様の許可をもらってからだな」

「明日の準備をする前に国王に私が牢屋から出る旨を伝えておいてくれるかい? 私が出たいと言ってくれればたぶん伝わるはずだ。ついでに獣神決闘の参加の旨も頼む」

「了解。後、頼みたい事はあるか?」

「そうだね……出る許可が出たら私もレベル上げに参加させてもらえるかな。さすがにブランクがある状態でいきなり決闘に参加では勝てるものも勝てないだろうからお願いする」

「わかった。んじゃ俺はいろいろ準備する為にもう行くわ。結構用意するものあるから急がねぇと!」


 そう言って少し急ぎ足で牢屋を出て行くアルにレイラと俺はまた明日と軽く挨拶をして、アルを見送る。


 王様の許可が出ればレイラが最後のメンバーとして参戦する。


 彼女の実力は明日のレベル上げで確認しようと思うが、今から楽しみで仕方ない。


 今日はレイラが自分から過去の話を語ってくれて、彼女の過去の一端とはいえ触れる事が出来、その内容に驚きっぱなしだった。


 俺としては自分にも嫌な過去というものがあり、誰しもそういうモノを持っているのは知っている為、強制して聞く事はないが、もしもレイラが話す気になった時は真剣に聞こうと思った。


 その時が来るまでは、彼女の過去について触れるような真似はしないでおこう。

読んで頂きありがとうございます。

次の更新は明日のAM10;00を予定してますが、仕事の関係上もしかしたら更新できない可能性もありますので、ご了承ください。


3月2日、レイラの能力の無詠唱を詠唱短縮に変えました。

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