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77話 最後の一人

 王様の執務室で獣神決闘の事を知り、メンバーについて話し合ったのだが……王様の思惑が外れ最後のメンバーが決まらずに保留という形で話を終えて俺達は執務室を後にしてシャティナさんとも別れ俺達は牢屋へと戻ってきた。


 中に入るとリアネ達は業務をこなしているのか、誰一人おらず牢屋に入っているレイラだけが横になってそこにいた。


「とりあえず最後のメンバーは保留して、俺達がやる事って特訓か?」

「まぁそうなるが……昨日戦ってみて思ったんだが、イチヤも基礎的な戦い方が出来るようになってきたし、俺との特訓よりはレベル上げを優先して行うか」

「レベル上げ?」

「そうだ。相手の最高戦力って事は獣人将で固めてくると思うからな。レベルはいくらあっても足りない。戦闘経験で補えって言ってもイチヤはこの世界に来るまで戦う事なんてなかったんだろ?」

「喧嘩すらしたことないな」

「だったら基礎も体に叩き込んだし、後はレベルで身体能力を上げて戦闘経験の差を補うしかねぇな」

「わかった」


 アルの言葉に納得した俺は、そこで創生魔法で剣を創り出し、切りかかった。


「うぉ!?」


 いきなり切りかかったのだが、驚きの表情で俺の攻撃を紙一重でかわしたアルが俺を睨みつけるが、どうして睨みつけられているのか理解できない。


「いきなり何すんだ!」

「レベル上げるんだろ?」

「確かにそう言ったがそれで何で俺に切りかかるんだよ!」

「だってレベル上げるって言ったじゃないか」

「は?」

「え?」


 二人で首を傾げて、お互いの顔を見ると、その騒動で目を覚ましたのかレイラが抗議の視線を送ってくる。


「君達、少しうるさいんだが……一体何をやってるんだ?」


 レイラが俺達二人を見てそんな声を上げるが、正直俺達も話がかみ合っていないのかお互いの意図がわからずにいて返答する事ができずにいる。


「どうも二人とも相手の意図を測りかねているようだね。では質問を変えるよ何をしていた」

「アルがレベル上げをするって言うから切りかかった」

「意味わかんねぇよ!」

「なるほど」

「え!?そこで納得!??!」


 アルが盛大に驚いているが、レイラの方は俺の意図がわかったようで納得の表情を浮かべている。


「イチヤ。別に相手は人じゃなくてもレベルを上げられる。たぶんアルは何処かで魔物と戦わせようとしていたんだと思うよ」


 諭すように話すレイラに、あ、というような表情を浮かべて、レイラの言葉でどういう事か納得するとアルへと軽く頭を下げる。


「すまん、てっきりアルをぶった切って傷つけたところでヒール丸薬を飲ませて回復させてを繰り返すものだと……少しは日ごろのストレス解消に貢献してもらえるものとばかり思ったんだが違うのか」

「おいおいなんだよ!そのサイコ的な考えは!あと最後の方本音だろ!聞こえてるからな!」



 ちっ!相変わらず耳良いなこいつ……



「とりあえずイチヤの意図はわかったが、レイラの言った通りちょっと遠出してモンスターを倒してレベル上げをしてもらう。獣神決闘までの期日は短いが出来る限り上げるぞ」

「了解」


 他のモンスターを倒すよりもアルを倒した方が経験値が稼げそうな気もするが、さすがにそれは嫌だろうから素直に返事をしておく。


「獣神決闘?」


 レイラが不思議そうな顔でその単語を呟いたので、先程王様の執務室で話した内容をレイラに教えてあげた。


 もちろん最後のメンバーが見つかってないという事も含めて包み隠さずに。


「5:5での決闘って事か……それでメンバーが一人みつからないという事か……」

「あぁ、四人中三人が勝てれば良いんだけど、そんな保証はどこにもないから、出来れば最後の一人も実力のある奴を選びたいんだが、アルや王様もその人材が思いつかないらしいんだ」


 とりあえず俺から言える事はこのくらいかと思い、説明を終えるとレイラは次にアルへと視線を向ける。


 何か説明不足な部分でもあったかと思ったのだが、どうやら違ったようだ。


「アル、今のメンバーで勝てそうなのかい?」

「正直に言えば難しいと言わざるをえないな。イチヤははっきりいや規格外だし、自分の能力をしっかりと戦えば勝機はあるんだが……騎士団長であるジェルドはどちらかというと個人で戦う事よりも指揮などに優れている。実力はあるんだが、獣人将を相手に……となると厳しいかもしれん」

「この前あったリーディはどうなんだい?」

「一応あれに特訓した事はあるが、勝率に関していうなら未知数だ。実力はあるんだが……その」



 リーディの事になった途端、アルが顔をしかめて言いにくそうにしているが、何か問題があるのか? アルとの訓練の時に軽く実力を見た事があるが、特に気になる点なんかはなかったような。


 

「何か問題が?」


 俺が疑問に思っている事をレイラも同じように思ったようでアルに尋ねている。


「アイツ……ここぞという時にドジる時があるんだよ、実力だけなら騎士団トップクラスなんだがな」


 実力トップクラスって事はジェルドよりも強いという事だろう。


 ならなぜ第一騎士団隊長ではないんだろう?とは思ったのだが、彼女の見た目と性格を思い出すと予想がつく。


 たぶんあのちんまい見た目で威厳が皆無なところ、あと訓練の時も部下っぽい人間がフォローを入れていた事を考えると、ジェルドのように他の騎士団の状況までは手が回らないだろう。


 なるほど、実力が全てではないという事か……っと、思考がそれてしまったが、今は騎士団の事よりもリーディのドジッ娘体質についてだ。


「なぁ、もし獣神決闘で、リーディのドジが発揮されたら……」

「確実に負けるな」


 やっぱりそうだよなぁ……予想はしていたが、アルからはっきりとそう言われると獣神決闘について不安を覚える。


 その答えは是が非でもまともな人材を確保しなければいけないという強迫観念にかられる答えだったが、だからといってそんな人間がホイホイと見つかるわけでもないのも理解しているつもりだ。


 アルも同じように感じているのか俺と同じような表情で途方にくれたようにして項垂れている。


「とりあえず今日の特訓は中止だと言ってたが、まだ時間はあるんじゃないのか?」


 今は最後の人材よりも俺の勝率を上げる事が重要だ。


 その為にはレベル上げが必須だというなら時間も惜しいので、出来れば今日からレベル上げを行いたいと思っているのだが、俺の考えに反しアルは首を横に振った。


「確かに予定よりも早く終わったが、レベル上げは明日から行う」

「どうしてだよ、早い方がいいじゃねぇか!」

「イチヤのレベル上げの為に色々準備が必要なんだよ。絶対に獣神決闘までには間に合わせるから焦んな」

「わかった……」


 一応返事はしたけど、焦獣神決闘まであまり期日がない今の現状、しかも最後のメンバーが見つかっていない状況で勝率を少しでも上げたいと思ってしまうのは仕方ないと思う。

 焦るなって方が無理な話だ。


 せめて最後のメンバーが決まって、その人間が強かったら少しは安心できるんだがな……


「じゃあ俺は色々と用意する物があるから今日はこれで失礼するぞ」

「は?牢番の仕事は良いのか?」

「お前馬鹿か……こんな状況なんだ。牢番よりも獣神決闘の事を優先するのは当たり前じゃねぇか。一応王様にも許可は取ってあるから安心しろ」


 アルに馬鹿呼ばわりされたが、その言い分が正しいので反論出来なかった。

 

 だけど良いのか?レイラが何かするとは思えないが、それでも形式的に牢番がいないというのは問題ではなかろうか?


 思わずレイラの方に視線を送ると、彼女は真面目な顔をして何かを考えているようで、途中から一言も話さなくなった事が気になった。


「それじゃあちょっと急ぐからまた明日な」

「おう」


 挨拶を交わしたアルが牢屋から出ようと扉に手をかけるのを見送ると。


「アル、すまないが少し待ってくれないか」


 顎に手を当てて何かを考えていたレイラが、突如我に返ったようにしてアルに声をかける。


 一体何を考えてたのだろうと思ってレイラの方に視線を送ると、彼女は真剣な眼差しでアルを見つめる。


「最後のメンバーが決まっていないのだろう?だったら私が参加しようか?」


 その彼女の台詞に俺とアルは驚き目を丸くする。


 はい?レイラが参加って俺の耳はおかしくなったのだろうか?

 確かにレイラの口から自分が参加すると発せられたが彼女は何を言ってるんだ?


「いやいやいや、待ってくれ。いくらメンバーが見つからないからってさすがにそれは通らんだろう」


 俺と同じような考えに至ったのか、動揺を隠し切れてない様子で否定の言葉を口にする。


 いくらメンバーが見つからないと言ってもさすがに囚人であるレイラをメンバーに加える事はないだろう。


「私が囚人だからか? それならば問題ないよ」

「どういう事だ?」


 問題ないというのはどういう事だろうと思い、レイラの続きの言葉を待つと彼女は意外な言葉を口にする。


「私は囚人だからここにいるわけじゃないからね」

「「は?」」


 囚人じゃない?じゃあなぜここにいるのだろうか?


 その言葉に目が点になる俺とアルだったが、レイラは意を決したように続ける。


「私はね。二十年前に先代の帝国皇帝、コウイチと共にこの世界にやって来た勇者の一人なんだよ」


 レイラが真顔で語るその事実は俺とアルを驚かせるには十分な言葉だった。

読んで頂きありがとうございます。

次の更新は明日のAM10:00を予定しています。

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