76話 ギルド
獣神決闘のメンバーについての話し合いで王様の目論見が外れがっくりと肩を落とす。
さすがに王様も王都を滅ぼしてしまっては本末転倒なのでアル達の断りを素直に受け入れた訳だが、そうなってくると問題になってくるのが最後のメンバーだ。
俺、アル、ジェルド、リーディのメンバーが王様やアルが思いつくメンバーな訳だが、どうしても最後のメンバーが思いつかないらしい。
もちろんこの国に来て一年も経っていない俺なんかが強い人間など思いつくはずもなく、ただみんなの様子を見守るだけだ。
「ジェルドさん、騎士団の中でめぼしい人間はいないのか?」
「すまんが、今の騎士団で一番に思いつく第二騎士団隊長のリーディ以外は思いつかん……」
皆が沈黙する中、アルがジェルドに向かって問うが、どうも今の騎士団で思い当たる人間がいないのか力なく首を横に振る。
「そうなると……少し厳しいか、国の命運を左右する戦いだから人数合わせに適当な人間を入れるわけにもいかねぇしなぁ……」
「頼みの綱のシャティナ殿が駄目となると他には思いつかん……」
「メンバー入れてもいいが……王都の保証はできないぞ……?」
「いや、いい!さすがに王都がなくなっては元も子もない!」
アルの提案に王様が首をぶんぶんと振りながら拒否の姿勢を取ると、その行動にアルが苦笑する。
「さすがに残り日数が少ない状況でメンバーが決まってないのは痛いな……騎士団から出せそうな人間がいないという事は後一人はギルドから探すしかないな……」
「一応ギルドの方には依頼として出しておるが、おそらく厳しいかもしれん……」
「国の危機なのに何でギルドの冒険者はそんなに否協力的なんですか?」
難しい顔をする王様に対してどうしてなのかと疑問を抱く、国の危機ならば協力的になるのが普通なんじゃないのか?
「うむ……それはじゃな……」
「冒険者にとってはダンジョン探索が主な収入源なんだが、冒険者の大半は愛国心というものを持ち合わせちゃいねぇんだ。依頼として高額だとしても割りに合わなければ受けることはねぇ」
王様の変わりにアルが説明してくれるがそれでも腑に落ちない点はある。
「だとしても国が滅んだらギルドや冒険者だって困るんじゃないのか?」
「あ~……それなんだが……ギルドのある町っていうのは国ではなくギルドが仕切っていて、どの種族も強ければ平等に扱う事を旨としていてな……例えラズブリッタが滅ぼうがその町は存続していけるから国同士のいざこざには関心がないんだ」
「言ってる事はわかるが、国が良くそんなギルドの方針なんか許してるな……というか、そういう方針ならいっそギルドが世界を統治すればいいんじゃないのか」
そうすれば他種族戦争なんかしなくて良いだろうに……ラズブリッタの王様の前でいうのもなんだが本心からそう思う。
「まぁ強ければ種族の差別はないが、それだと今度は種族ではなく弱い物、老人や女性、子供なんかが今度は迫害される世界が出来上がるぞ、割と無法者の集団で出来てるようなものだからな。確かに良識のある奴もいるが、それでも少数だ。例えるなら帝国が種族の差別なく弱い奴は強い奴に従えみたいな感じだ」
「あ~……それは……」
アルの例えに簡単に想像できてしまう。
そんな世界じゃ弱い者――つまり戦う力のない人間は殺されるか慰み者として道具のように扱われる者も出てくるだろう。
「ギルドもその事をわかっているから国と揉めようなんて考えないし、国もギルドの強者を相手にしようとは思わないってわけで、暗黙の了解で不可侵みたいな感じになっている。不可侵とはいっても国がギルドに依頼は出来るし、冒険者も受けれるって訳だ」
その説明でこの世界のギルドがどういう仕組みなのかがわかった。
「でも依頼の金額が相当な額であれば高レベルの冒険者も依頼を受けるんじゃないか?」
「一応高レベル冒険者に向けて依頼は発行しているが、問題は来てくれるかどうかだのぉ……」
王様がそんな事を言って一つ溜息を吐くと、アルもなにやら思案顔で顎に手を当てて何かを考えているようだ。
「ギルドには高レベルの冒険者に依頼を発行して金額も良いんですよね?だったら普通来るもんなんじゃないんですか?」
「確かにそうなのだが、先程アルドル殿が言ったようにギルドでは種族間での差別は一切しておらん、特に高レベル冒険者ともなれば他種族とパーティを組み、足りない部分を補いあっておる。そういう他種族に偏見のない高レベル冒険者は種族間の戦争をあまり好いてはおらんのだ……元々ギルドに所属している冒険者というのは戦争を好まない人間が多いというのもあり、こういう依頼を受けるのは稀なんじゃよ」
俺が冒険者だったとしても戦争で人を殺すよりは冒険者としてダンジョンに潜り、モンスターを相手にしていた方が心も痛まないな……でもそれじゃあギルドに依頼しても……
「依頼を発行しても来ない可能性の方が高いという事か……」
「うむ。一応依頼は出したが期待は出来んという事じゃ……そもそもモンスターを相手にするより人を相手にしたいと考えるような者であれば、冒険者ではなく兵士を志願しておる……」
王様の言い分に確かにその通りだと思い、どうしたものかと思案する。
「さすがに最後の一人は保留するしかないな。一応今決まっているメンバーが負けなければ問題ないが、相手だって最高戦力で来るだろうからな。出来ればこちらも最後の一人はそれなりの人間を用意したいというのが本音だ」
今はどうする事も出来ないという事で話が決まり、ギルドからの連絡待ちともし良い人材が思いつけば、一先ず話を終える事になった。
メンバーが決まるまではジェルドとリーディは騎士団での訓練を強化する事、俺はアルとの特訓を継続する事に決まり俺とアル、シャティナさんは王様の執務室を後にした。
「私の愛しい旦那様、これからどうするつもりなのですか?」
執務室から出たところでシャティナさんがアルにそう語りかけると、アルは難しそうにうーん……と顎に手をやり悩んでいる。
さすがに先程の話で候補が思いつかなかったのに、この瞬間に思いつくという事はないと思うんだが……
「正直この場にリックとアレアが入れば……ってあの二人も種族間の戦争を嫌っていたな」
「えぇ、もし居たとしても拒否していたでしょうね」
「リックとアレア?」
俺は二つの名前が出たことに首を傾げる。
一体誰なのだろうか?そう思っているとアルがその人物について教えてくれる。
「リックとアレアは俺の元冒険者仲間だ。適当に放浪生活してるから今どこにいるのかわかんねぇけどな」
「うふふ。前に手紙を送ってきたときはエルフの森に滞在しているって書いてましたけど、今何処にいるのでしょうねぇ」
「エルフの森って事はその二人ってエルフなのか?」
「いや、二人は獣人族と魔族だぞ」
「それでどうやってエルフの森に入ったんだ?!他種族がエルフの住む森に入って大丈夫なのか?」
いくらなんでも戦争をしている現状で他種族が自分達の住む場所に入ってきたら無事じゃすまないんじゃないだろうか?知らない人間だが、アルの仲間だと聞かされるとさすがに心配になる。
そんな俺をよそにアルはあっけらかんとした様子で俺の心配に杞憂だと笑い飛ばす。
「その辺の心配は大丈夫だ。あいつらは強いし、そうじゃなくとも俺達はエルフの森に入る許可はもらってるからな」
「他種族のアルが許可をもらえる?どうやってもらったんだ?」
「まぁ……昔色々あって、エルフの森の連中に貸しがあるんだ」
本当にアルは昔どんな事をしていたのか気になる。
もう少し状況が落ち着いて、機会があれば聞いてみようと思っていると階上と階下への階段の前へとやってくる。
「それでは私はこの辺で失礼しますね。そろそろ夕飯の買出しなどをしなければいけないので」
「あ、はい。機会があればまた」
「えぇ、またお話しましょう。今度はゆっくり出来る環境で話したいものですね」
「んじゃ、また後で」
「今日はちゃんと真っ直ぐに帰ってきてくださいね。もしお酒でも飲んで来たら……」
「わかった!わかったから真っ直ぐ帰るからそんな怖い顔すんな!」
笑顔のシャティナさんが後ろに般若さんを従えてアルに釘を刺すと、青い顔をしたアルが慌ててシャティナさんに真っ直ぐ帰ると約束する。
その様子を見て満足いったのかシャティナさんの背後から般若さんを消して笑みを浮かべながら階下へと向かっていった。
「なんかシャティナさんって……アルに対してだけ妙に厳しいよな」
「あれが愛情表現だと思ってるからな……素で」
「まぁ俺は特にひどい目に合ってないから良いが、よく体が持つな。というかよく結婚に踏み切ったな」
「色々あんだよ色々……」
どこか疲れたように肩を落とすアルと一緒に階上にある牢屋へと向かい二人で歩き出した。
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