75話 獣神決闘
アルがシャティナさんについてどう話していたのかを嘘偽りなく正直に話した事により、アルの命運は尽き、ボロボロだった体は更にボロ雑巾のようになり今は地べたに横になっているアルに俺は心の中で合掌した。
一応少しの罪悪感を感じた俺はそっと創生魔法でヒール丸薬を創り、それをアルのピクピクと痙攣している手に乗せるとその手はゆっくりと動き出し、ヒール丸薬を口に運ぶ。
どうやら意識はあるようで安心した。
普通なら致命傷というか、確実に死んでるんじゃないかというシャティナさんの往復ビンタだったのだが、アルはその猛攻になんとか耐え切ってみせた。
ヒール丸薬を嚥下した事で、徐々にアルの頬の腫れがひいていきいつものアルに戻っていく、その事に目を丸くする。
シャティナさんはヒール丸薬の効果を見て驚いているようで、まだ会って二回目だが、初めて驚きの表情をみる事が出来た。
「そろそろ話をしてもよいかのう?」
しばらく一連のやりとりを傍観していた王様だったが、急に声をかけてきた。
「すいません陛下、お見苦しいところを見せてしまって」
「よい、あとアルドル殿、話し方もいつも通りにしてくれ。ここには私達しかいない」
「?」
王様が畏まったというか、一介の兵士のアルに対して言葉を崩すように言っている事を不思議に思う。
「……そうか、じゃあいつもどおりにさせてもらうわ」
「うむ」
「なぁ……前々から思ってたんだけど、アルって普通の兵士じゃないよな?」
薄々、一般兵、ましてや騎士とかではないとは思ってはいた。
騎士団の連中よりも遥かに強く、その騎士団に稽古をつけたり、普通勤務中に酒を飲んだ事がばれてもクビにならないし、今だって王様に対して普段の話し方で良いと許可されているのだ。
これで普通の兵士などと誰が思うだろうか?
そんな俺の疑問にアルは平然と。
「まぁ食客としてこの国に留まってるからな。それじゃあ悪いんで兵士として雇ってもらってるって形をとってはいるが」
食客って確かあれだよな……才能のある人物を自分の下においておくっていう……それだけアルが強いって事か。
「その件については今度機会があったら話してやるよ、さすがにこれ以上話が脱線したらゼーブルさんに悪いからな」
「ゼーブルさん!?」
アルが王様、ではなく普段はゼーブルさんと名前で呼んでいる事に驚く。
そのくらいアルと王様は親しいという事なのか?
そんな風に呼んだら不敬だと怒りそうなジェルドも反応してないという事は、アルが王様をそう呼ぶ事を許しているようだ。
「とりあえず話が進まんのでイチヤは少し黙ってような」
アルの物言いに自分が少し騒がしくしすぎた事を反省し、口を閉じる。
俺が聞く姿勢になるとアルは王様に向き直り、場の雰囲気が堅いものへと変化する。
「それでゼーブルさん。前に頼んで置いた件、向こうの返事はどうだった?」
前に頼んでいた件?向こうの返事?何を言っているかわからない。
とりあえずわからないので二人の話を黙って聞くことにする。
「その件なのだが……驚いた事に獣人族が了承してきおった」
「……そうか、拒否されていたら面倒だったんだが……向こうも被害は最小限に留めておきたいという事か」
「たぶんの。言いたくはないが、最弱国だというのも影響したのかもしれん……」
「今はその事に感謝だな」
うん……聞いてもまったく話がわからん。俺以外の人間はわかっているようで、二人の話に頷きながら耳を傾けている。
「なぁ……一体何の話をしているんだ?」
「え?話を聞いてわからなかったのか?獣人族との戦争についてだろ」
いや、そんな何当たり前の事聞いてるんだという顔されても……
「アルドル殿、イチヤ殿に何の説明もなしに連れて来たのか?」
「あぁ~……そういやいけばわかるとしか言ってなかったな」
「さすがにそれでは何の話をされておるかわからんではないか……」
王様が呆れたように溜息を一つつき、俺へと視線を向けてくる。
「すまんのイチヤ殿、まったく話がわからなくて混乱したじゃろうて……今わしとアルドル殿が話しているのは獣人族に使者を送った結果を話しておったんじゃ」
「使者を送った?……停戦かなんかでも呼びかけたのか?」
さすがに降伏でもしたのかとは言えない。
冗談でもそんな事を言ったらここにいる全員を敵にする事は明白だ。
「いや、アルドル殿が被害を最小限に留める案を一週間前に提案してくれたのじゃ」
「一週間前?そんな話一度もアルから聞いてないんだけど……」
「結果が出るまでは、まだ話すべきじゃないと思ったからな。ぬか喜びにさせたくなかったんだよ」
「それでその案というのは?」
「獣神決闘という、古くから獣人族が行ってきた決闘じゃ」
「獣神決闘?」
聞きなれない言葉に思わず鸚鵡返しで尋ねると、王様は一つ頷き説明してくれる。
「わしもアルドル殿に聞くまで獣人族にそんな決闘があるなど知らんかったのだが、それをアルドル殿に教えてもらい、使者を送り、その結果が昨日の夜に届いたのでこうして集まってもらったのじゃ」
たぶん獣神決闘については前に一緒に酒盛りをしたという元族長にでも聞いたのだろう。
その事実を知っているだけに少し複雑な気分だが……獣人族に対してはアルの酒好きが何度か役に立っているのは確かだ。
「ほとんど賭けみたいなものだったんだがな……かなり昔、人族と友好的だった時代には獣人族だけでなく他種族とも行われていたようだから一応ゼーブルさんに使者を送ってもらったんだが、結果は上々だ」
「というと?」
「向こうがこちらの提案を受け入れた」
満足そうに語るアルだが、獣神決闘がどのようなものかわからない為素直に喜ぶことが出来ない。
なぜみんなは獣神決闘が受け入れられた事に安堵しているんだろうか?
「その獣神決闘ってなんなんだ?」
「獣神決闘っていうのは、獣人族の決め事を獣人族の神に誓って決するというもので、その決闘によって決められた事はいかなる場合においても守られるというようなものだ」
「でもなぜ獣人族はそれを受け入れたんだ?言っちゃなんだが、普通に戦争したらこちらが不利なのは明白だろ。それだったら向こうに受けるメリットがないじゃないか」
「たぶん、今後他の他種族との戦いもあるからなるべく戦力を温存したいんじゃないかと俺とゼーブルさんは思ってるが、正直なところはわからん……わからんけど普通に戦争するよりもこちらの方が断然勝率は上がる」
「戦力の温存?勝率が上がる?」
「説明不足だったな。獣神決闘ってのは言ってみれば5:5で行われる試合みたいだと考えてくれ、ただ全て1:1ではなく三試合は個々の力を神に示す為とかで1:1で行い、四試合目は絆を示す為に2:2のタッグ戦、計四試合行われ、勝敗を決める」
「でもそれだと同点で終わる事もあるんじゃないのか?」
四試合という事なら自分と相手が二試合ずつ制したら同点で引き分けとなり、勝負がつかないのではないのかと思う。
「だから四試合目が重要になって来るんだ。獣人族ってのは絆を特に重要視する種族らしく、二勝二敗になった場合、最後の四試合目を制した方が勝利となる。まぁ個人戦は一ポイント、タッグ戦が二ポイントと考えてくれりゃあ大丈夫だ……たぶん」
「なんとも自信なさそうにいうなぁ……」
「俺だって聞きかじっただけの知識だ。しかも酔っ払ってる時、聞いた事なんで詳しく聞いたわけじゃねぇよ」
少し不貞腐れた感じで、酒の席の話だと言っているが、よくそんなので王様に獣神決闘なんてもん提案したなぁって思うが、ラズブリッタとしては出来るだけ死者を出したくなかったのだろう。
「まぁ大体は獣神決闘の内容はわかった。不安は残るけど今は獣神決闘に縋るしかないって事だな」
「そういう事だ」
「それで?その試合に出る五人っていうのは誰なんだ?」
ここに連れて来られたって事は俺はメンバーなんだろうが、他のメンバーは誰なんだろう?たぶん強さからいってアルは確実だと思うが他のメンバーが思いつかない。
「それなんだがなぁ……言うまでもないとは思うんだが、俺とお前は決定だ」
「なんとなく予想はついてた」
「後のメンバーなんだが……ゼーブルさん、あんたシャティナをそのメンバーに加える為にここに呼んだな?」
アルが王様に顔を向け半眼で睨むようにして視線を送ると、王様が申し訳なさそうにしてアルに軽く頭を下げる。
なるほど、シャティナさんがここにいる理由は獣神決闘に参加させる為か、さっきのビンタの威力からしてなんとなく強いんだろうなとは思ったが、今のアルの発言で確信した。
「すまん、アルドル殿には申し訳ないが、うちのジェルドやリーディ以外のメンバーとなると彼女しか思いつかなかったんじゃ……この国の為に尽力してもらえんかのぉ?」
いつになく腰の低い王様を見て、アルが困った顔をしてシャティナさんに目を向け、二人が頷きあう。
「ゼーブルさんには悪いが無理だ」
「申し訳ありませんが、私は参加出来ません」
二人からの拒絶の言葉に王様や今まで話さなかったレーシャとジェルドまでが愕然とする。
「な……なぜじゃ……?」
唇を震わせながらもどうにか言葉を紡ぎ、アルとシャティナさんに拒否の理由を尋ねる。
「別にいじわるとかそんなんでシャティナを出さないわけじゃない。こっちとしても勝率は少しでも上げたいんだが……」
「だったら――」
「シャティナを出して、コイツの本気を引き出せるような奴だった場合……ラズブリッタは良くて半壊……悪けりゃ国が滅びますよ」
「「「は?」」」
アルの言葉にみんなと一緒に俺まで思わず反応してしまう。
え?今アルはシャティナさんが本気を出したら半壊、もしくは滅びるって言ったのか?いやいやいや、ありえないだろ!いくら強くとも王都を滅ぼせる力なんてあるわけが……
「前回の獣人族の襲撃の際、シャティナが襲われた時広場を半壊させたのはご存知でしょう?」
「もちろん知っておる。アルドル殿が褒賞はいらないからあの場所については不問にしてくれと頼まれたからの」
あの広場ってシャティナさんがやったのか?!そういや獣人族との交渉中に爆発があって、業火の魔女がどうたらって言ってたけど、シャティナさんがあれやったの!?実際見たけど辺り一面ボロボロだったぞ……
思わずシャティナさんを見て戦慄が走るがシャティナさんと目が合うと彼女は俺に微笑みを浮かべていて事実なのか違うのか判別はつかないがあの場所を実際に見た俺とシャティナ以外が真剣な表情をしている事を考えると本当の事なんだろう。
凄いなこの人……まるで他人事のように笑顔を浮かべてるぞ……
そんな驚いてる俺を他所にアルの話は続く。
「あれでも力の一端しか出してない。あの時は本当に肝が冷えたぜ。もしシャティナが本気出したらと思ったら気が気じゃなかった……」
しみじみとそう語るアルに王様達は顔を青くして呆然とする。
そういえばアルは獣人族との交渉の時、何処か焦ったようにして話を進めようとしていたのは、シャティナさんが本気を出す前に事態を収拾しようとしていたのか
あの時なぜそこまでアルが焦っていたのかの謎が解けて少しスッキリしたが新たな興味が沸いてくる。
実際にシャティナさんが戦っているところを見た事はないんだが一体どれほどの力を有しているのだろう?
怖いモノ見たさと言ったら良いんだろうか……そういうモノが湧いてくる。
実際見たら後悔しそうではあるが、シャティナさんがどう戦うのはちょっと知りたかった。
読んでいただきありがとうございます。少しでも面白いと思った方はブクマ、評価をぽちぽちっとして頂けると、次話を書く時の励みになりますのでよろしくお願いします。
次の更新は明日の0時を予定しております。
5月23日 誤字報告があり修正しました。ご報告ありがとうございました。




