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74話 意外な再会

 朝食の時はどこか暗い雰囲気を漂わせている者もいたが、時間が経ち昼食の時間になると子供達も少しずつではあるが明るく振舞ってくれるものもいた。


 いきなり子供達に元気を出せなんて事は言えない。


 こういうのは少しずつ……本当に時間をかけて心のケアをしていく必要があるという事はわかっているので、俺に出来る事は出来る限り子供達が楽しく過ごせるようにしてやる事だ。


「なぁ、イチヤ」

「ん?」


 昼食を食べ終え、まったりした時間を過ごしているとアルが話しかけてくる。


「今日の特訓は中止だ」

「は?いやいや、確かに昨日あんな事あったけど……あったからこそいつもの日常を守りたいって改めて思ったんだ。その為には力がいる。それなのに決心した初日から――」


 ベットから立ち上がり自分の決意を語りながらアルに近づくと、俺の行動をアルが手で制するかのようにして止めてくる。


「お前の決意はわかってる。昨日あんな事させた俺としてもお前が戦う意思を強めた事は喜ばしい、だけど戦う意思が出来れば相手を殺したいとは思ってないんだろ?」

「それは……守る為なら仕方ないと思うが……出来れば殺したくはないな」


 好きで人を殺したいと思う人間などいないだろう……もしかしたらいるかもしれないが別に俺は快楽殺人者になりたい訳ではないので、アルの質問に言いよどむ。


「それで良い。殺しが楽しいなんて思うような下種になって欲しい訳じゃないからな。その件にも関わる事で王様にちょっと用事だ。昨日の件の報告もあるからイチヤも付き合え」

「昨日の件の報告はわかるんだけど、王様に用事っていうのはこれとはまた別の件だろ?何の用事なんだ?」

「まぁ……いけばわかる。お前にとっても悪い話じゃねぇよ、今日の特訓を中止するだけの価値はある」

「?」


 要領を得ないアルの物言いに首を傾げて、そろそろ時間だというアルと連れ立って俺は牢屋を後にした。





「あれ?玉座の間で王様に会うんじゃないのか?」


 やってきたのは玉座の間……ではなく普通の扉の前だった。


 普通といってもそこは王城だけあってそこそこ豪華には出来ているんだが、玉座の間に比べると厳かな感じの印象派受けない。


「あそこは式典とか大事な事がある時なんかに使う部屋で普段から王様はあそこにいるわけじゃねぇぞ。いつもはこっちで仕事してるんだよ」


 アルはそう言って扉をトントンとノックすると中から王様の声がして入室の許可を出される。


「陛下、失礼します」


 アルが恭しく挨拶を行い、俺も軽く会釈をしてからアルに続き入室する。


 部屋の中は結構広くたくさんの本棚にぎっしりといろいろな書物がつまっていて、その中央に大きな椅子と机が置かれ、机の上には山積みにされたおそらく重要な資料やらが積み重なっている。その中央の椅子には王様がモノクルをかけて座っており、隣にはレーシャと騎士団長であるジェルド、更にその反対には見覚えのある人物がいた。


「あれ?どうしてあなたがここに?」

「どうしてお前がここにいるんだ!?」


 俺が疑問の声を上げると同時にアルは驚きの声を上げ、その人物に向かって指を突きつけている。


 アルもその人物――シャティナさんがこの場にいるのが意外だったようだ。



 というか二人は知り合いなのか?



「なぁアル――」

「まぁまぁ、いきなりご挨拶ですね。今朝見送ったばかりの愛しい旦那様にそのような振る舞いをされるとは……悲しくなってしまいます」

「シャティナさんがアルの奥さん!?」


 言葉とは裏腹にまったく悲しんでいないシャティナさん。


 アルに、シャティナさんとの関係を質問する前にシャティナさんによってアルとの関係を答えられてしまい、その事に驚く。


 そういえば苗字を聞いてなかった。


 この世界では苗字を持たない人間もいるので失念していたが、苗字を聞いていればここまで驚く事もなかっただろう。


「イチヤさんもお久しぶりですね。まさか私の旦那様と知り合いだったとは、世間は狭いですね」

「あ……はい、そうですね。本当に驚きましたよ、まさかシャティナさんがアルの奥さんだったとは」

「うふふ」


 温和な笑みを浮かべて話しかけて来たシャティナさんに俺もにこやかに返す。


 この人と話しているとなぜだろう?なんとなく周囲の空気が和らぐように感じる。


「なぁ……イチヤ、お前一体アイツとどこで知り合ったんだ?そんな話聞いてねぇぞ……」


 シャティナさんと話していると急にそっと袖をつかまれ振り返るとアルに小声で話しかけられる。


 その顔は真剣で、頬から首にかけて一筋の汗が滴り落ち、どこか焦っているようにも見受けられる。



 一体どうしたんだ?



「こないだ城下町に行っただろ?その時に少し話をする機会があってな。それがまさかアルの奥さんだったなんて思わなかったよ、アルの話しぶりからどんな鬼ババアを奥さんにしたんだと思ってたから、シャティナさんからアルが旦那さんだと言われるまでまったく気付かなかったぞ」

「ちょっ!?おまっ!!!!!!」


 俺が笑いながら周りに聞こえるくらいの声量で話すとアルが慌てて俺の口を塞ぐ、だがその行為は俺が話す前にしなくちゃいけない行為で話し終えた今ではその行為は意味を為さない。


 何をそんなに慌ててるんだと思った次の瞬間、俺はその意味を知る。


 バシンッ!


「え……?」


 急に俺の口からアルの手が離れたかと思うと、いつ現れたのか、シャティナさんがアルの目の前に立っており、アルに平手をお見舞いしていた。


「待て!シャティナ!誤解だ誤解!」


 バシンッ!バシンッ!バシンッ!バシンッ!


「うふふふふ」

「えええぇぇぇ!?」


 アルが弁解の言葉を口にしようとする度に往復ビンタをかますシャティナさんに驚く。


 しかもシャティナさんの手は赤いオーラ……たぶん魔力だと思うんだが、手が発光しており、彼女の平手も目で追うのがやっとの速度でアルに打ち付けられていた。


 その光景を見てアルの奥さん、シャティナさんがいかに恐ろしい人なのかをようやく理解する。



 なるほど、だからあの時アルが顔をパンパンに腫らしていた訳か……そりゃあこんなビンタ食らわせられたら顔を腫らすのも無理はない……というより普通の人間だったら首がもげるんじゃないのか……


 心の中で戦慄しながらもその光景を他人事のよう見守る。


 正直関わりたくないというのが本音だ。


 しばらくそのビンタの音が続きアルの頬がいつかのようにパンパンに膨れ上がり、ようやくおさまったところでアルは正座させられ、シャティナさんがアルを見下ろしたかと思うと、急に俺の方へと顔を向ける。


「イチヤさん」

「はい!!なんでしょう!?」


 唐突に名前を呼ばれ、背を逸らしながら軍人のように返事をする。


 あの光景を見せられた今では、絶対にこの人には逆らってはいけないと、心に刻み付けられた。


「そんな風にしなくてもイチヤさんに何かしたりはしませんよ、ただ……私の愛しい旦那様が普段私の事をどう話しているのか……後で”正直に”聞かせて頂けますか?」

「わかりました!包み隠さず話させていただきます」


 俺の即答により、たった今アルの死が確定した……正直シャティナさんがここまで過激な人だと思ってなかったので本当に驚きだ。



 確かにアルの言ったとおり少々……いや、かなり過激な人だった……見た目はかなり温和で優しそうな人だというのに……まったく、人は見かけによらないな。



 アルに同情の目を向けると、死んだ魚の目をしてる……凄く不憫だ……おそらくさっきのシャティナさんの言葉に俺が即答したせいだろう。



 でも俺も自分の命は惜しいので、アルには尊い犠牲になってもらおう……生きてたら今後、強く生きろよ……

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