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73話 朝の一幕 2

 完全に虚をつかれたアルだったが、パラパラという音と共に破片が床に落ちると同時に壁から自力で抜け出すと、何事もなかったかのようにして肩を回す。


「ったく……いきなり何すんだ」

「アルが変な事言うからだろ」


 悪態を吐きながらもどこか呆れた雰囲気で俺へと視線を送り、俺も何もなかったのようにしてアルに返答する。


 アルが俺に負けず劣らず規格外なのは特訓を受けて知っているのでそのその事には驚かない。


「変な事って……俺よりも先に来ていたリアネとあんなに親密そうにしていたらそりゃあ事後だと思うじゃねぇか。昨晩一緒にいたんじゃないかと勘繰るのもおかしな事じゃないだろ?」

「いや、昨晩は一緒に寝たが……」

「一緒に寝たのかよ!やっぱ大人に……」

「なってねぇよ!なれてねぇよ!」


 そんな下世話な会話をして気付く……女性陣の冷たい視線に……


「お二人とも……」

「まったく……」


 リアネもレイラもどうして男ってこうなんでしょうとばかりの視線を向けてきて、それに気付いた俺とアルが気まずそうに目を逸らした。


「まぁ、なんだ……昨日あんな事があったのにそんな事するわけねぇだろ。察しろ」

「そうだな……」


 強引に昨日何があったのか具体的には口に出さなかったが、その話題に触れる。


 正直あまりしたいと思う話題ではないのだが、他にこの気まずい雰囲気を継続したくなかった。


 アルも考えは同じようで俺がその話題に触れたことに一瞬驚きの表情を浮かべるが、次の瞬間には真剣な表情になり、一言だけ返してくれた。


 レイラ以外の人間は昨日何があったのかを具体的に知っている。聡いレイラも具体的に何があったかまでは把握してなくても俺の態度などや昨日ここに帰ってきてからの俺の様子を見ていれば何かがあったという事は予想がついているだろう。


「昨日の事、後悔しているか?」

「人を殺した事か?」

「あぁ……」

「後悔はしてるよ、そりゃ」


 アルの問いにはっきりとそう告げる。


 自分がはっきりと殺すと自覚して殺したが、それを後悔しないという事はない。


 後悔すらしなくなってしまったら、きっと俺は少しでも気に入らないと思った連中を片っ端から殺していくだろう。


 そうならない為にも後悔はするし、殺した事に苦しみもする。


「だけど、また同じような事があればきっと俺は同じ行動を取ると思う」


 真っ直ぐにアルの目を見てしっかりと告げる。


 きっとまた同じような事――リアネ達に危害を加える輩や危険な輩が出てくれば俺は自分の手が血に染まる事を厭わない。


 そうしなければまた同じような事が起きる。


 今回の件は前の褒賞の際にリアネ達が迫害を受けていたのを知ったにも関わらず、何もせずに口だけでの忠告をして、あの時見逃したから起こった出来事だと思う。


 全て俺の落ち度であり、次は二度と同じ過ちを繰り返したりはしない。


「まぁ、ずっと引きずって、考えが変な方向に向かうよりはずっと良い」


 俺の事を見てどこか納得したような顔で告げるアルは何処か満足そうだった。






 そんな話をしていつもの朝食の時間になると、部屋の外から少し騒がしいくらいの声が聞こえ扉が開けられると、ぞろぞろとみんながやって来た。


 その中の一人を見て、俺の顔に笑みが浮かぶ。


「エヴィ!」


 昨日あれだけ重症だったエヴィの顔を見た途端に俺は喜びの声を上げる。


 見た感じ、特に異常がありそうな感じもなく元気そうなエヴィを見て安心した。


「イチヤ様、この度はご心配をおかけして真に申し訳ありません」


 恭しい感じで俺に頭を下げて来るエヴィに、無事で良かったとエヴィに近づきその肩を軽く叩くと頭を上げたエヴィが笑顔を向けてくる。


「どこかおかしな……っていうか体に異常はないか?動かしたらどっか痛むとかさ」

「いえ、特には、起きた直後は貧血気味だった以外はこうして何の不自由なく体を動かす事が出来ています。これもイチヤ様のヒール丸薬のおかげですな!本当に素晴らしいお薬です」


 どうやらヒール丸薬のおかげでエヴィの体調は万全らしい、起きた直後に貧血気味だったのは血を流しすぎたからで、さすがにヒール丸薬では血まではどうする事も出来ない。


 ただあれだけ出血が酷かったにも関わらず、出血多量で死ぬような、最悪の事態にならなくて本当に良かった。


 もしそうなっていたらこうして笑い合う事も出来なかっただろう。


 エヴィの元気そうな姿を見て、俺はようやく安心する事が出来、肩から力が抜けるようにして気が抜けた。


 一応リアネが俺のところにいて何も言わなかったから大丈夫だとは思ってたんだが、実際に見ると本当に安心する。


 それにしても……


「いつ聞いてもエヴィのその口調は慣れないな」

「毎日のように朝言っておられますな」

「そりゃあ、最初の頃のエヴィを知ってるとどうも違和感が半端ない」


 気が抜けるとそんな軽口が出てくる。


「あの頃の私は未熟なあまり主であるイチヤ様にずいぶん失礼な物言いをしていましたな。大変お恥ずかしい限りです。しかしディアッタ侍従長に主人と主従の関係を説かれ今の私になる事ができました。本当に侍従長には感謝の言葉しかありません」


 エヴィを牢屋に連れて来た日にディアッタによって一晩かけて魔改造されたエヴィは、翌日にはこんな態度で俺に接してくれている。


 正直一ヶ月経った今でも、ここに来る前のエヴィを知っているので、彼の態度には未だに慣れていない。


 なぜかクルエはエヴィの態度をあまり気にしている様子もなく、普通に接しているのだが、兄がここまで変わって気にならないのか前に尋ねたら。


「前の粗暴な話し方よりも今の方がしっかりした人に見えて良いんじゃないですか?」


 と笑顔で語られた事がある。


 まぁ本人も家族も納得しているのならそれで良いのだろう。


「ところでエヴィ、昨日は何処で寝たんだ?ここに帰って来なかったって事は別の場所で寝たんだろ?」


 エヴィには普段空いている牢の一室を与えて、私物を置いたり寝る場所としても使ってもらっているが、昨日ここには帰って来なかったので聞いてみる。


「昨日は気付いたら妹の部屋のベットの上に寝かされておりました。そのまま看病されて一晩過ごさせて頂きましたよ。やはり妹は良いですな。あんなに手厚く看病してもらい、妹成分(妹のにおい)も十分補充(たんのう)させて頂きましたよ。はっはっは」


 高笑いしながら大声でそんな事を言うエヴィに話が聞こえて来たらしいクルエが両腕を擦りながら凄く冷たい視線を送っている。


 ディアッタに魔改造され、昨日死にかけたエヴィでもシスコンという病は治らなかったようだ……


 エヴィが元気なのをこれ以上ないほど確認出来た俺が次に心配だったのは幼い子達だ。


 昨日あんな目にあったのだから、体に傷はなくとも心に傷を負ったかもしれない。


「ディアッタ、ちょっと良いか?」


 さすがに本人達に聞いて昨日の事を思い出させるのは憚られたので、ディアッタを呼び、一旦牢屋の外へとやってくる。


「どうなさいましたか?イチヤ様」

「実は昨日の事でちょっと聞きたい事があってな……その前にディアッタの方は怪我とかは大丈夫か?」

「はい。おかげさまでどこにも傷跡を残す事無く健康そのものです。これも全てイチヤ様のおかげです」


 はっきりと告げるディアッタに一安心する。


 まぁ、エヴィの方が重症だったのに今朝あったらケロッとしてたからディアッタも大丈夫だと思ってたんだが、やっぱり本人の口から聞くのが一番安心する。


「ディアッタも無事で良かったよ……ところで、子供達は大丈夫か?」


 ディアッタの無事を確認した俺は、もう一つの本題、子供達の話題に切り替える。


「昨日私達が守ったので恐らく怪我はしていないかと」

「怪我の心配はしてないよ、エヴィとディアッタとクルエが身を呈して守ってくれてたのは知ってるからな。体よりも心の方だ……昨日あんな怖い思いして大丈夫かなと……」


 言葉を濁しながらそう言うと、少し暗い顔をしたディアッタが口を開く。


「そうですね。やっぱり昨日の今日ですしこれからどうなるかはわかりませんが……イチヤ様、アルドルさん、レイラさん以外の人間とはしばらく接触は控えさせた方がよろしいかと」

「まだ小さい子達だからな。普段人族との接触はエヴィやクルエに任せてるからその辺は大丈夫だと思うけど、レーシャや委員長、あとリーディあたりもか……には事情を話してしばらく牢屋へ来るのを控えてもらうよ」

「申し訳ありません……」


 言葉通り本当にすまなそうにしているディアッタの頭を撫でる。


 彼女は人前でやられるのは嫌がるが、本当は頭を撫でられるのが好きらしく、その証拠に彼女のしっぽを隠しているスカートがフリフリ揺れている。


「子供達について他に報告したい事ってあるか?」

「そうですね……やっぱり昨日の出来事をふとした瞬間に思い出して怯える事もあるので、もしそうなったら抱きしめてあげて下さい」

「それだけで良いのか?」

「えぇ。とは言っても特にひどいのは夜なので、イチヤ様にご迷惑をかける事はないと思います」

「夜か……確かにみんな自室だしな。昨日はどうしてたんだ?」

「昨日はみんなを私の部屋に布団をしいて寝ました。特に怯えた様子の子達は、私達が抱いてあげる事で落ち着きましたので、寝るまで抱きしめてあげていました」


 本当にディアッタ達には苦労をかけて、申し訳ないという気持ちでいっぱいだ。


 

 俺なんて昨日は自分の事でいっぱいいっぱいで他の人の事を考えられなかったからな……みんなの主人として恥ずかしい限りだ。



「ディアッタ、ありがとう。しばらく苦労をかけると思うが、よろしく頼む」

「いえ、それが私の仕事であり、私がイチヤ様に返せる精一杯の恩返しですので」


 ディアッタの働きはもう十分な恩返しになってるとは言わないでおく。



 さすがにその一言は野暮だからな。



 ディアッタの報告を聞き終え俺達は再び牢に戻り、朝の挨拶が終わり、少し待つとリアネ達は朝食をもってやってくる。


 みんなでいただきますをし、食事を取る。


 昨日の今日で全てが元に戻るとは思っていないが、それでもこうして誰一人欠ける事無く食事が出来た事を嬉しく思った。



 少しずつで良い……幸せだった日常いつもを取り戻していこう。

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