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6話 始まり

 俺はアル、レイラ、リアネの四人と食事を取っている。

 先ほどの事でリアネはまだ顔を真っ赤にしているが、俺はそれを気に努めた。


 さすがにあんなにお腹の音を鳴らしてた女の子をからかうほどデリカシーがないわけじゃないしな

 まぁ可愛い音だったとは思うが


「むぅー!」


 リアネは頬を膨らませて怒っている。

 どうやら気にしないようにしていても顔に出ていたようだ。


「悪かった。もう考えないようにする」


「もぅ。ひどいですよぉ」


「わ、悪かったって……ぷっ……ほんと……ごめんっ」


「イチヤ様!!!」


 今度は別の意味で顔を真っ赤にしたリアネが少し怒気をはらませ抗議してくる。


 そんなやりとりをして俺達の朝食は終わった。

 アルとレイラは終始口を開かなかったが、アルは俺を指差し声を殺して笑い、レイラは俺達二人を見て若干呆れていた。


 アルに関しては何か仕返しを考えておこう

 俺は心の中でそう決意した。



 食事を終えた俺は拗ねているリアネに話しかける。


「リアネ」


「何でしょう?イチヤ様……?」


 彼女は半眼で睨むような感じで俺を見ている。

 

 笑った俺が全面的に悪いのでこの行動は甘んじて受けよう

 それよりも大事な事を済ませなくちゃな

 

 俺はそう思い真剣な顔付きになり、リアネを見つめる。

 リアネもそれを感じ取ったのか拗ねていた顔をひっこめて俺を見つめてくる。


「一応アルからリアネについて……というか、この世界の歴史や人族の獣人族に行われた事なんかについて聞いた」


「……そうですか」


 リアネは表情を暗くする。

 おそらく自分の種族や生い立ち、自分の役職についてなどを知られた事について今後自分がどういう風な反応をされるのかが怖いのだろう。

 

 今まで親しくした人間がいきなり冷たくなる

 そうなるかも知れないと思うだけで、俺だって怖くなる

 そんな事当たり前だ


 だから俺は自分の正直な気持ちをリアネに伝えることにした。


「アルからそれをこの世界の種族間の問題を告げられて、俺が思った事を正直に伝える」


「はい……」


「正直くだらないし、どうでもいい」


「はい」


 リアネは俺の答えがわかっていたかのように以外にもはっきり答える。

 そのはっきりとした返事に俺の方が軽く驚いたが、話を続ける事にした。


「リアネは不快に感じるかもしれないが、どうでもいい。それは俺にとっての大切な人やモノに含まれないからな」


 俺からしてみれば、遠くで起こった事件のようなものだ。

 テレビやネットでそういう風なニュースを見て、驚いたり同情したりするが、数日で忘れる。

 今回アルに聞かされた話はそれと同じようなものだ。


「それを不快だなどとは思いません。もし私がイチヤ様のように異世界から転移してきた人の立場だったら同じように感じるかもしれませんから」


「ありがとう。ただ種族間の問題はどうでも良いが、リアネをひどい目に合わせた奴らには憤りを感じてる。俺の大切な人や大切なモノってのはこの世界ではここにいる人間だけだからな。その大切な人を傷つけられたんだ。平然としている方がおかしいだろ」


「おいおい、また怖い表情になってんぞ。リアネが怯えるだろ。なぁ?」


「いえ、私は大丈夫です。お気遣いありがとうございます」


 おどけた感じでアルが会話に入ってきて俺を諌める。


 反省したばかりなのにこれじゃダメだな

 ちゃんと冷静でいなくては


 俺は1度2度深呼吸すると再び話し出す。


「俺の世界には獣人なんて種族は存在しない。どんな種族かなんて詳しいことはわからない。けどな、種族なんてものは俺には関係ない。リアネはリアネだ」


「ありがとう……ございます」


 リアナが涙ぐみまた泣きそうになっている。それを見て少し心苦しい気持ちになりたがらも告げなくてはいけない言葉を伝える


「ただな……今の俺に出来ることは少ない。リアナの状況を改善させる術を今の俺は持ってない」


「……その気持ちだけで十分ですから」


「最初は頭に血が昇って王様をぶっとばすか、ひどい目に合わせてる奴をぶっ殺すかしようとしたんだがな」


 苦笑気味に俺が言うとリアナが目を見開き驚く。


「そんな事をしてはダメです!!!!!」


 いつにないリアナの気迫に俺はたじろぐ。


「あぁ、その方法はアルとレイラに諭されたよ、最悪の手段だってな」


「私なんかの為にイチヤ様やアルさん、レイラさんに危害が及ぶような方法はやめてください」


「ごめんな。ただ私”なんか”ってのは違う。リアナの”為”だからその方法も考えたんだ。そこは自分を卑下しないでくれ」


 今ではその方法が間違っているっていうのを理解しその考えが短慮過ぎた事を反省している。

 自分が間違っていた事を理解した上で彼女が自分の評価を下げてる事だけは注意する。

 それも間違っていた事だと思ったからだ。


「わかりました。今すぐには無理ですけど、少しずつ自分自身を認めていけるように頑張っていきたいと思います」


 俺の言いたかった事をきちんと理解してくれたリアネはわずかに微笑んでくれる。

 さっきまで泣きそうになっていた顔がぎこちないながらも笑顔になってくれた事に内心ほっとする。


「それでなんだが、一晩俺に何ができるかを考えてみた」


 そう言って小さな皮袋をリアネへと差し出す。


「これは?」


「ヒール丸薬、俺は創生魔法?ってのが使えてな。その魔法で作った治療薬だ。とりあえず食後の薬だと思って飲んでみてくれ」


 リアネは何も疑わずに皮袋から黒く丸い薬を一つつまみ、口の中にいれて飲み込んだ


「苦いですぅ……」


「俺の世界の言葉に良薬口に苦しって言葉がある。そこは我慢して欲しい」


 昨日作った時に俺も一つ口にしたがかなり苦かった。


「たぶん効くと思うんだが……」


 俺は特に怪我などしていなくて効果がなかったが、果たして効果があるだろうか?

 この目で見るまで正直不安だ


 俺はリアネの様子をじっと見る。

 リアネは俺に見られているのが恥ずかしいのかちょっと頬を赤らめたりしているが、次の瞬間には驚いていた


「あれ……右足の痛みがなくなってます。それに左ひじのあたりも……」


 無意識なのだろうが、リアネは言った後ではっとして気まずそうな顔になる。

 俺の方も若干苦虫を噛み潰したような顔になったが気をひきしめるとリアネの顔を真っ直ぐみつめる。


「俺は牢屋暮らしだ。この部屋から外の出来事に干渉する事はできない。でも、俺に出来る範囲で協力する。愚痴だって聞くから。話したいと思ったら何でも話してくれ。一人で抱え込まないでくれ」


「本当に……イチヤ様はお優しいですね」


 彼女は一筋の涙をこぼしながらも微笑んでくれる。

 それを彼女の返事と受け取り俺も満足げに微笑むのだった。



 とりあえず自分の言いたい事も言えて、薬の効果を確認出来た俺は、周りを見渡す。

 すると最初に目に入ったのはにやにや笑いをしたアルだった。


「……なんだよ?」


「いやぁ、イチヤがあんな真面目な感じで話すの初めて見たんでちょっとな」


「うっせ……」


 俺はぶっきらぼうにしながらも自分を行いを振り返る。


 うわぁ!!思い出したら俺かなり恥ずかしいこと言ってるぞ!大切な人とか!大体なんだよ!

 『俺の大切な人や大切なモノってのはこの世界ではここにいる人間だけだからな』俺この世界に来てあの広間と牢屋くらいしか知らねぇじゃん!!

 『そこは自分を卑下しないでくれ』何自分の事棚に上げてそんな事口走ってんですか自分!俺だって自分の事卑下する時くらいあるわ!!!


 自分の顔がだんだん赤くなるのが自分でもわかる。

 俺は苦し紛れに手のひらで顔を隠して天井を向いた。


「あの……イチヤ様?大丈夫ですか?」


「あぁ、良いから良いから。今は少しほっといてあげな」


 アル、ナイスアシスト!


「どうせさっきの自分を発言振り返って恥ずかしくなっただけだろ」


 アルぅぅぅぅぅぅううう!!


「私との会話の事でしょうか?イチヤ様が言ってくれた言葉は優しかったしかっこよかったと思いましたょ?」


 最後にリアネが止めをさしてくれる。本当にありがとうございました。


 リアネは意図せずにさっきのお腹の借りをイチヤに返すのだった。




「提案なんだが……リアネも一緒にここで食事取らないか?」


 しばらく顔を真っ赤にし心の中で悶えまくった俺の心が回復した頃そんな提案をしてみる。


「いぇ!自分用に食材を使う事は許可されてませんので」


「でもさっき俺とはんぶんこして食べてたよな?」


 それを言われると辛いのかもじもじしだす。


「人族の俺達と一緒には食事したくない?」


「その言い方は卑怯ですよぉ……嫌なわけないじゃないですか。わかりました。じゃあ私は賄いを持ってここに食べにきますので、それで許していただけませんか?」


 それ以上の妥協点はないだろう

 さすがに俺が一緒に食事したいというわがままがばれて彼女が罰せられるのは嫌だしな


「わかった。じゃあそれで頼むわ。よろしくな」


「こちらこそ改めてよろしくお願いします」


「あとそのスカーフもここにいる間は取っていいぞ」


 リアネの頭に付いているスカーフはこの世界のメイドとしての嗜みであるのと同時に獣人の奴隷メイドが耳を隠させる為につけさせられているものだろう。

 見た感じ結構しっかり付けているので、あれではきついはずだ。

 人が半日以上耳を餃子のような形にしているようなものといえばわかるだろうか。


 俺がそう言うと、恐る恐るといった感じでリアネがヘッドスカーフを外す。

 そのとたんピコっと可愛らしい獣耳が姿を現した。


「あの……見苦しくはないでしょうか?」


「どこがだよ、どう見ても可愛いいだろ」


 俺の一言にリアネの耳がふるふる動いている。

 どうやらそう言われてうれしかったようだ。


「アルさん達は平気ですか?」


「俺は獣人と酒を飲み交わした事もあるから耳くらい気にしないさ」

「私も特に気にならない」


 二人の返事にリアネは安堵のため息をこぼす。

 よっぽど緊張していたようだ。


「ではお言葉に甘えまして、みなさん、本当にありがとうございます」


 そう言ってリアネは一礼するのであった。


★★

 

「ラズブリッダ王国が勇者召喚で勇者を呼んだというのは本当か?」


 とある会議場の一室で声を低くしながら怒気をはらんでいる50代くらいの男性が部下であろう男に問う。


「それは密偵の話では間違いないとの情報が届いています」


「やはり愚かなのは人族か、過去の過ちを忘れ、またそのような手に出るとは」


「あの種族は数が多いだけの種族ですので」


 憎々しげそう語る男に対して、部下は冷静に答える。

 だが考えている事は人族はやはり愚かで根絶するか、こちらで管理するかという事だった。


「あの二つの用意は万全であるか?」


「えぇ、問題なく揃えてあります」


 男はそう言うと二つの指輪を取り出す。

 その二つは片方が白い指輪で、白いもやのような物を発している。

 もう一つは禍々しい紫色をした指輪だった。


「量産もばっちりということじゃな」


「苦労しましたが、問題なく3、4師団分くらいは量産できております」


「では勇者に関しての情報は今日の議会で正式に発表する。お主は第4師団と第7師団に戦争の準備をしておくように告げよ」


「かしこまりました」


 部下は一礼して下がると、今度は男一人になる。


「どうして人族は過去の諍いを忘れ、このような事を起こすのであろうな……しかし起こってしまったものは仕方あるまい。今度こそ滅ぼしてくれる……まずはラズブリッダからじゃ……」


 哀れみと怒りの感情を混ぜた独り言を呟き男は天を仰いだ。


★★



 あの出来事からリアネも交えての食事をするようになって三週間がたった。

 最初は一日中していたスカーフをここで外すことに若干気後れしていたリアネも今では当たり前に外して俺達と談笑している。

 前まではどこかぎこちなかった笑顔も今では陰りのない笑顔になったことに俺もよろこんだ。


 相変わらず陰湿な嫌がらせなども受けている事実に変わりはないが、ヒール丸薬を一週間に一度渡して前までのように無理に我慢して仕事をしているという事もないという。

 何も出来ないことが歯痒くて仕方ない気持ちになるが、今の俺に出来ることは何もない。

 早まった行動はとらないようにしている。

 

 そんな事で三人に迷惑かけたくないしな


 とりあえず今の自分が出来る事、ヒール丸薬作りを行うが、向こうも陰湿ないじめとはいえ、物理的に危害を加えるのは稀なのでそこまで大量に作る事もない。


 まぁそれでも胸糞悪いんだけどな


 ヒール丸薬作りが終わると俺は暇になる。

 なんせ一日の大半を食っちゃ寝してれば余裕で過ぎてしまうので、自分に出来る事をやろうと決めた俺は暇な時間で創生魔法について実験を繰り返していた。


「アル」


「新作の薬を作ってみたから飲んでくれ」


 俺は巡回に来ていたアルにそう言って薬を渡す。


「俺は病気じゃないから薬は利かないと思うぞ?」


「いいから飲んでみろって、絶対効くから」


 若干疑わしげな目を向けるが、アルは素直にそれを口に含む。

 すると


 ぐぎゅるるるるるるるるるううう


「おいっ!!!腹が痛くなったぞ!!何飲ませた!!!!?」


「下剤」


「ちっくしょぉぉぉおおおおおおおお!!!!!」


 アルは腹を押さえながら部屋から出て行った。

 トイレに向かったのだろう。


 朝っぱらから騒がしい奴だ

 まぁ戻ってきたら解毒剤でも渡すか

 

 毒ではないんだが、この表現であっているのだろうかと、どうでもいい事を考える。


 あれから色々試してわかった事だが、創生魔法は自分が想像できる物なら元の世界の物でも作れるようだ。

 ただその物の想像力が弱い場合効果が薄い。

 ヒール丸薬や風邪薬、さっきの薬もそうなのだが、自分で想像できるような物ならば効果が高く即効性もある。

 だが、武器のように見た目だけなら想像できるような物は1、2度壁にぶつければ簡単に折れてしまう。

 これは俺が元の世界で争いとは無縁の生活をしていたのも原因だと思っている。

 

 しかし、この世界では争いが絶えない。

 俺もいつ巻き込まれるかわからないので、何度も魔法を使って武器の精度を高める特訓と、いかに早く武器を出す事ができるかの特訓をしている。

 はじめのうちは大体1つに付き20秒かかってたのが今では3秒くらいで装飾の凝ってない物なら精製出来るようになった。


 ちなみに創った武器は残るので仕事終わりのアルに預けて売ってきてもらっている。

 一応アルには売った武器の金はアルにやると言っている。

 

 正直在庫処分のような物だからな。

 ただアルは律儀に売った金で何かしら食べ物を買ってきてくれる。

 こうゆうところ見ると口にはださないがいい奴だなって思うのと、たぶん苦労抱え込むタイプなんだろうという感情がわく


 まぁ俺が言う資格はないが

 

 飽きた時にはこうやって様々な薬を精製して遊んでいるのだ。

 これが俺の一日のライフスタイル。


 そんな訳でこんな早朝から俺はアルで遊んでいる。

 日常の一コマだからアルも納得するだろう。


「そうゆうわけで朝食までの間に今日のノルマを少しでも消化してしまいましょうかね」


 誰にともなく呟くと俺は創生魔法を行う為精神を集中する。

 今日のノルマは剣、槍を15本ずつにヒール丸薬と風邪薬、痺れ薬を各5個ずつだ。


 そして俺が創生魔法を行おうとしたまさにその時――――


 

 ドゴオォォォォォオオオオオオオオオオオオオンッ!


 王国中に聞こえるような爆発音が響き渡った。 

読んでくれた方ブクマしていただいた方いつもありがとうございます。明日から来週の月曜まで仕事の都合上更新ペース下がる場合があります。なるべく更新していくので応援のほどよろしくお願いします。


誤字脱字意味不明な点など、感想の方に書いていただけるとありがたいです。


1月14日:誤字の報告があり修正しました。ご指摘ありがとうございます。

3月11日 誤字報告があり修正しました。報告ありがとうございました。

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