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68話 殺意

 アルとクラスメイト達の特訓という名のイチャラブ時間もようやく終わり、何名かのクラスメイトをめろめろにし、その自覚もないままアルがこちらへと視線を送ると終わった事を伝えてくる。

 俺と特訓した後にも関わらず、俺と戦っていた時の汗は既に乾き、こちらにやって来たアルは汗一つかいていない様子で悠然と歩み寄ってきた。


「わりぃわりぃ。イチヤがリーディと話している間に俺とお前が戦ってるのを見て自分達にも教えて欲しいって頼まれてな。ちょっとばかし模擬戦形式で動きをみてやっ――」

「「ちっ!」」



 クソっ!外したか!



 久しぶりにしびれ針を精製し、それを隠し持ちアルに投擲したのだが、あっさりかわされた事に思わず舌打ちすると、なぜか俺とハモるようにしてリーディも同じように舌打ちしていた。


「いきなり何すんだイチヤ!しかも舌打ちまで!しかもリーディ、てめぇもか!」

「そんな……師匠に対して舌打ちなんて……」

「してたじゃねぇか!イチヤの舌打ちにかぶせるようにして!気付いてないとでも思ってんのか!」

「ちっ」

「ほらまた!」


 どうやらリーディもあの砂糖を吐く様なあまあま空間と過去の自分の特訓との差にイラッと来たのだろう。アルに対してかなり辛辣だ。



 女の子がするには褒められた様子ではないが、気持ちはわかる。俺も同じ気持ちだ。


 なぜかこんな事でリーディとの仲を深める事になるとは思わなかったが……


 

 そうして俺とリーディは無言で握手を交わして親睦を深める。



 この時の俺はまだ……あんな事態になってるなんて想像もせずに呑気に過ごしていた……









 クラスメイト達と別れを告げたアルと共に訓練場を後にする。



 思わぬ時間をとられて、いつもよりも遅い帰宅時間になってしまった。リアネ達は心配しているだろうか……?



 この訓練場は王城内にあるとは言え、そこそこ離れているので、気持ち急ぎ足で牢屋に向かう。王城の中に入り、四階までやってくる。


「それにしても今日もアルに一撃入れられなかった……お前少しは手加減しろよ」

「アホかイチヤ、そんなんじゃ特訓にならねぇだろ。それにお前さんに合わせて戦ってやってんのに俺にあれ以上どうしろってんだ」



 あれでまだ手加減している事に驚きだ……まぁまだ獣人族の襲撃の際に使った技を見せていないのだからアルにはまだ十二分に余力があるのだろう。それが悔しいと思うと同時に、やはりステータスだけではどうにも出来ない戦いがあるという事を確信した。


 そんな風に雑談しながら歩いていると、次の角を曲がれば五階へと繋がる階段の前へとやってきて曲がる。


「きゃっ!」

「うわっ?!」



 曲がった途端小さな悲鳴と共に一つの影とぶつかり俺は尻餅をついた。


「いてて……」

「申し訳ありません!後でいくらでも謝罪致しますので、今は急いでイチヤ様を……イチヤ様を捜しに行かせて下さい!!」



 リアネ……?



 声の主に目を向けると、俺にぶつかった主、リアネが深く頭を下げて俺に謝罪してくる。リアネの方は動揺しているのか頭を思いっきり下げているせいか、ぶつかった相手が俺だとは気付いていない。


 そんなリアネの様子を見るとメイド服の左肩の方が切られ、血の色に染まっていた……その姿とリアネの声から緊張の色が垣間見え何か良くない事があったのだと悟る。


「俺だリアネ!頭を上げろ!何があった!!」


 動揺の色を滲ませリアネの肩を掴んで顔を上げさせるとリアネの瞳に大量の涙が浮かんでおり、顔が青ざめていたが、声の主が俺だと気付くと顔をぐちゃぐちゃにして瞳からその涙を流す。


「イチヤ様ぁ……!ディアが……エヴィさんやクルエさんがぁぁああ!!」


 そう言って俺の服を掴み泣き出すリアネに五階――俺達の住んでいる場所で何があったのか問いただそうとリアネを見つめるが、彼女の様子を見てまともに答えられないくらい動揺しているのがわかり、一つだけ質問する。


「リアネ、みんなは何処にいるっ!!」

「ひくっ……いつも朝礼をしている部屋に……ぐすっ……みんなが……みんながぁ……!」

「わかった!アル、リアネを頼む!」

「何があったかわからねぇ!気をつけろよ!」


 リアネをアルに預け、五階の階段を一気に駆け上がり、普段朝礼をしている場所……使用人室へと向かい一気に走った。


 物凄い勢いで走り、すぐの目的の場所まで到着して一気に扉を開け放つと……


「なんだよ……なんなんだよ!これ……!」


 俺はこの凄惨な光景に呆然とする。


 赤い絨毯は更に赤黒く染められ、その中心にエヴィが倒れ、ディアッタとクルエが小さい子を守るようにして抱きしめながら、この混沌の元凶であるであろう人物を睨みつけている。


 その元凶である人物なのだが、勢いつけてドアを開けたにも関わらず、俺の存在を無視するよう濁った目をディアッタやクルエに殺意を向ける。


「ったく!あんたとそこの男は同じ人族の癖になんだってそんなクソ共をかばってんのよ!そいつらのせいで今私達がこんな目に合ってるっていうのに!ふざけんじゃないわよ!そんなにそいつらが大事ならあんたも死ね――」


 俺が呆然とする中、メイド服を着た人族の女が喚き散らした事で我に返り、女が言い終わる前にディアッタ達と女を遮るように入ると、女の懐に飛び込み顔面を殴り飛ばした。


 殴り飛ばされた女だが、ゴキャッという音と共に机や椅子を巻き込み盛大に吹き飛んだ。



 たぶん死んではいないとは思う。意識も刈り取ってないはずだ。鼻を砕いた感触があったからさっきの音はそれだろう……まだ(・・)殺さない……絶対にだ!



「みんな大丈夫か?」


 殴った後で、ディアッタ達の方に振り向くとディアッタとクルエの服に破れといくつかの赤い染みが出来ており、それが余計痛々しさを感じる。


 幼い子達は彼女達が守ってくれていたようで、怯えるようにディアッタやクルエにしがみついて声を殺して泣いているが、どこかに怪我を負っている様子は見られない。二人が必死で庇ってくれた証だ……


「イチヤ様!兄さんがぁ……!」


 俺が脅威を排除した事で、緊張の糸が切れたようにクルエが子供達を抱えながらも兄であるエヴィの事を訴えてくる。俺はそれに頷き一つ返し、エヴィの下まで駆け寄り状態を確認すると意識はないが、瀕死の重傷ながらも……わずかに息をしていた。


 すぐさまヒール丸薬を精製し、口に入れるが、吐血と共に薬を吐き出してしまって飲み込んでくれない。容態は一刻を争う為、俺は多少荒い方法を即断した。


「ぁがっ……!」


 気絶していながらもそんな声を上げるエヴィの声を無視して彼の口に強引に薬を持った手を突っ込み、喉彦が触れる位置までねじ込み手で吐き出さないように塞ぐ。


 エヴィは苦しげなうめき声を何度も上げるが、それでも飲み込むまでは絶対にエヴィの口から絶対に手を放す気はない。


 うめき声と共に吐き出す血は、いくら手で塞いでようと隙間から滲み出て、俺の袖を真紅に染め上げていく。だが決してヒール丸薬だけは吐き出させないようにする。それだけは絶対に……



 頼むエヴィ!飲み込んでくれ……絶対に死なないでくれ!



 その願いと共に血を吐き出す為か、ビクビク動くエヴィの上半身を押さえつけ、しばらくヒール丸薬を飲ませる為に手を突っ込んでいると、ゴクンッという音がして、吐き出し留まっている血と一緒にヒール丸薬を嚥下する音が聞こえる。


 意識はない……けれど、薬を飲んでくれた事でエヴィの刺された箇所が徐々に塞がっていくのが確認出来て俺は安堵した。



 大量の血を流しているが、これでエヴィは助かるだろう……一先ず安心だ。



 エヴィの容態を確認し、安堵の表情を浮かべた俺は彼の体を両手で労わるように持ち上げ、クルエのところまで運んでやる。


「クルエ……もう大丈夫だ。エヴィは助かるよ、後、お前達も怪我してるだろ。これを飲め」


 そう言ってディアッタの手にエヴィを助けた時に余分に創ったヒール丸薬を数粒渡しておく。


「……ありがとうございます……イチヤ様……本当にありがとうございます……」


 意識のない兄を抱き占めながら涙を流し礼を言ってくるクルエの頭に手をやり、優しく微笑み立ち上がる。


 ――そして振り返った俺は、さっきぶっ飛ばした方向、みんなを恐怖と悲しみに追いやった元凶を睨みつけ……その元凶の顔を確認して見覚えがある事に気付く。



 こいつ、あの時のメイドか……



 そう……この元凶――この女は獣人族の襲撃の際、猪人族に暴行され……王様に呼ばれた褒賞の際に俺のメイドになろうとし……リアネ達獣人族を迫害していたあのメイドだった。



 だが今はそんな事どうでも良い。理由すらも聞きたくない。どんな理由があろうともリアネ達を傷つけたことには変わりないんだ。生きている事を後悔させるだけの苦しみを与えてから――殺してやる……



 俺の殺意に反応したのか、全身から黒いオーラが吹き荒れる……


「てめぇ……!よくもやってくれたなぁ!」

「ひっ……」


 殺意の篭った瞳を向け、意識があるのか俺を見て怯え出すメイド。先程までの獣人族への憎しみはもうなく、俺への恐怖に感情を支配されていた。


 殴った事により顔が若干変形し、前歯の折れたメイドの下へと憎悪という言葉でも生ぬるいほどに怒りのを身に纏いゆっくりと近寄っていく。


 俺が歩く毎に先程エヴィから浴びせられた血が指先からポタッ……ポタッ……と滴り落ちながら絨毯を赤黒い血が染みを作る。このメイドからしてみれば俺という死神が死を伴って近づいて来るように見えるだろう……


 メイドの下まで辿りつき、その姿をよく見る。メイドは俺を見て声も出せないくらいに怯えた表情をして、股の辺りに染みを作っていた。どうやら恐怖のあまり失禁したようだ。


「……」


 無言でレイピアを創り、メイドのわき腹に突き刺す。


「い゛だい゛!」


 先程俺がぶっ飛ばした事により内臓をやられたのだろう吐血しながらも痛みを訴える姿に更に怒りがこみ上げ、レイピアを引き抜き今度は左太ももに突き刺す。


「……てめぇが痛いとか言ってんじゃねぇよ」

「あぎゃっ!」


 女とは思えない下品な声をあげて痛みを訴えるメイドにもう一度レイピアを引き抜き……今度は左肩の辺りを狙い突き刺す。


「ぎゃっ!」


 ――右太もも


「ぎぅっ!」


 ――右肩


「ぁ゛ぁ゛ぁ゛」


 何度も死なないだろうと思う場所にレイピアを突き刺し、メイドが苦悶の声を上げようが、許すつもりのない俺はその行為を繰り返し繰り返し行う。


 その俺の行為に顔をぐしゃぐしゃにしたメイドが絨毯に染みを広げながらも何とか俺に向かって必死の形相で命乞いを始める。


「おでがいじま゛づ。もうごんなごどじまぜんからゆるじでぐだざい」


 泣きながら懇願するメイドだが、俺の表情は変わらない。俺はもうコイツを苦しめて苦しめて、死の恐怖を存分に体に刻み込んでから殺すと決めている。



 お前は絶対に絶望させてから殺してやるよ。許すなんて選択肢はありえない



 俺は無言でレイピアを放り投げる。


 その事にこれ以上自分が痛めつけられる事はないと思ったのか、一瞬安堵の表情を浮かべるが……次の瞬間には青白い顔になり、ガチガチと歯を鳴らしていた。


「……」


 レイピアを放り投げた俺の手には先程よりも太くて長いロングソードが握られている。



 ――今度は切り落としてやる。


 四肢を切り落とし、最後は四肢のない状態で何も出来ないまま死んでしまえ。自分の犯した罪をその身に刻んで絶望のまま死を迎えろ。



 頭の中で殺すという言葉が響き渡り、それしか考えられないくらいに思考を埋め尽くす。



 こいつは俺の大切な者を傷つけたんだ。それが当然の報いだろう……



 剣を天井に向かって振り上げる。



 さて、最初は足から切り落とそう。


 

 左足に狙いを定め、勢い良く振り下ろす。これでこいつの体から左足が切り落とされ血が吹き出るだろう。その事を想像に口元に笑みを浮かべた俺だったが、俺の想像のようにはならなかった。


 ――ガキンッ!


 剣と剣がぶつかり合う音が響き、次の瞬間もう一撃が俺へと放たれたのを後ろに大きく飛び退いてその一撃をさける。


「なんだ。やりゃあ出来んじゃねぇか」


 その声はこの場には似つかわしくないほど平然としていて声を発した相手も普段俺と接している時のような態度でこちらを見ている。


「何をしてるかわかってるのか……?」

「……」


 俺がそう問いかけるが、目の前の人物は無言を貫く。


 この上ないほど怒りがこみ上げ、怒りと殺意の矛先が、目の前の人物……普段馬鹿な事を言い合い、俺がこの世界で尤も信頼する大切な仲間――アルへと向けられた。


「アルゥゥゥウウアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!」

読んでいただきありがとうございます。

次回の更新は仕事の為少し遅くなり、1月13日(金)AM10時になります。遅くなって申し訳ありませんが、楽しみに待っていていただけると助かります。


予告:次回の話では今までのアルの真意が少しだけわかるかもしれません。結城の文章力が乏しい為、もしわからなかった場合は申し訳ありません



2018年2月14日 誤字報告があり修正しました。ご報告ありがとうございました。

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