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66話 特訓

「では、まだ決めていない者もなるべく早く結論を出してくれ」


 この王様の一言により長かった話し合いもようやく終わる。あれから俺の言葉に奮起したクラスメイト達と王様との話し合いは何事もなく終わり、今後についてもしっかりと話し合っていたようだ。これからこいつらがどうなるかはわからない。


 奮起させた罪悪感というのも感じないではないが、俺にとって守る対象ではないこいつ等に意識を割く事はできない。正直に言えばそんな余裕がないのだ。


 レーシャもそうだが、王様も俺の力を過大評価しているように見える。たぶん獣人族の襲撃の際に俺が圧倒していたのが原因だとは思うのだが、王様達は帝国兵と俺の戦い……四日前の出来事を忘れてしまったんだろうか?


 俺はあの時の事を思い出す。それまでは獣人族の襲撃の際、チンピラの撃退、この国の第二騎士団の下っ端への対処で遅れをとる事はなかった。その事に自分は誰にも負けないんじゃないかという自信があった……自惚れていたのだ。


 それが帝国の兵士と戦い理解した……自分の力を過信していた事に。


 獣人族にも俺が戦った兵士と同等の――もしかしたらそれ以上の強者つわものがいるかもしれないと思うと楽観視する訳にはいかない。



 もっと力を付けなければいけない……大切な者を守れるだけの力を……



 まず最初にやる事は決まっている。それを実行する為にある者の下へ俺は向かった。










「というわけだ。俺に戦い方を教えてくれアル」

「いや、どういうわけだよ!?」

「王様から許可は取った」

「ホント何してんの!?お前!!!!」


 話し合いを終え俺が真っ先に向かった先、それはアルの下だった。俺に必要なモノは技量とかステータスもそうだが根本的に戦いというものについてを理解していない事だと思った。


帝国の兵士との戦いを思い出した時、あいつは俺の攻撃を全部余裕で防ぎきっていた。つまり俺がわかりやすい攻撃をしていたという事だ、戦闘経験の差というものもあり、それで勝敗を決する事もある。だから少しでもそれを埋められる為に実力者に教えを請うのが強さへの第一歩だと思う。


「頼む!俺が知ってる中で戦闘経験が豊富そうなのはアルしかいないんだよ」

「……他にも騎士団長のジェルドがいるだろう。あいつは他の騎士の指導もしてるし教えるのは上手いと思うぞ」

「あいつじゃ駄目なんだよ!弱すぎる!」

「おまっ!?言って良い事と悪い事があるだろ!??!」


 間違いなく今の発言をジェルドが聞けば激昂するだろうが、俺の心からの言葉だ。


 ゴルドとの戦闘を見ただけだが、確実にアルより弱いのは明白だ。おそらくゴルドよりも弱いだろう。それじゃあ教わっても意味がない。


「それに俺が教えるのは苦手だって前にも言っただろ?」

「言ったけど、要するに体育会系の教え方するって事だろ?今はそれでも良い!少しでも力を付けられるんだったらどんな事でもする!」


 鬼気迫る勢いの俺にアルが気圧されるように一歩下がるが、アルが下がった分だけ俺が前に出て真剣に頼みこむと、息を一つ吐いてアルも真剣な表情になる。


「リーディも言ってたようにかなり厳しいぞ?」

「わかってる」

「途中で根を上げたら後は知らねぇからな。一度諦めた時点で終わりだ」

「わかった」

「はぁぁぁ~……」


 俺の決意に諦めたアルが盛大に溜息をつくのをじっと見つめると、アルはがしがしと頭を掻いて教える事に了承してくれた。





 アルがレイラに、少し牢屋を離れるから何かあればリアネか他のメイドに頼んでくれと伝えて、アルに連れられそのまま騎士団が使っている訓練場へと連れて来られた。


「訓練する前に聞きたいんだが、お前さん、自分の能力は全部きちんと把握してるのか?」

「いや、獣人族の襲撃後に概要だけは読んだけど、詳しくは調べたりはしてない」

「なら時間があったらちゃんと把握しとけ、それはお前にとっての武器にもなるし切り札にもなる。知ってるか知ってないかで戦略の幅がかなり変わってくるからな」

「わかった」

「それじゃあ始めるぞ」


 そう言ってアルが立てかけてあった木剣の一つを俺に投げ渡してきて、自らも木剣を構えた。


「まずはちゃんと実力を見てやっからいつでもかかって来い」


 アルの言葉を聞いた瞬間、俺は走り出し、木剣をアルへ向けて叩き込む。若干俺の方がステータスが高いはずなのだが、アルは軽くバックステップを踏んで俺の木剣をいとも容易く交わす。


「そんな見え見えの攻撃じゃ受ける価値もねぇぞ、もっと考えて攻撃して来い!」

「わかった!」


 今度はフェイントを入れ、自分の身体能力を生かして、アルのかわし難いと思われる場所を見定め突きを放つが、それを払われ足払いをされ転ばされてしまう。


「フェイントも使えば良いってもんじゃねぇよ!突きもそうだ!身体能力に頼っての攻撃が死線を潜り抜けてきた奴等に利くわけねぇだろ!考えろって言ったが、そんなもん考えたうちに入んねぇよ!考えろって言ったのは一瞬一瞬の判断についてだ馬鹿やろう!オラ!いつまで地面にキスしてやがんだ!さっさと立ち上がれ!」



 アルさん!?別人過ぎやしませんか?!!?



 普段の様子とは違うスパルタっぷりに動揺するが、言われた通りに立ち上がる。それを見たアルが木剣で構えを取る。


「攻撃ってのはこうすんだよ!」


 そういった瞬間俺の方に突っ込んで来るアルに向け構えを取り、攻撃を防ぐために一挙手一投足を見逃さないように目をこらしたのだが……



 消えた?!



 接近したアルが攻撃のモーションをしたので、彼の木剣を受け止める為に振った木剣が空振りに終わり、同時に俺の目にはアルが消えたように見え、次の瞬間鋭い痛みがわき腹を襲う。


「がっ!!」


 その言葉と共に俺の胃がかき混ぜられたような錯覚に襲われ口から胃液を吐き出す。


「これがフェイントだ!後、相手の動き見すぎだ!良く見るくらいなら小さなガキだって教えりゃ出来んだよ!相手の行動予測くらいしやがれ!さっきから頭を使えって言ってんだろうが!それともそんな事も考えられねぇくらいてめぇは馬鹿なのか!脳みそミジンコ並みか!?いつまで吐いてんだ!次行くぞ次!」

「ちょっ!?まっ!??!!」


 一瞬でさっきの位置まで戻り、再び罵声を飛ばしてきたかと思うと、すぐに俺の下まで走ってきてその足で俺を蹴り上げ、盛大に転がりながら吹っ飛ぶ。


「がはっ!!」


 転がった時に切ったのだろうか、唇から血がにじみ出る。だが今の俺にそれを拭う余裕はなかった。


「おい!さっき待てとか言おうとしたよな!?お前は戦場に出た時、敵にも同じような事いうつもりか、もしそうならお前は救いようのねぇ大馬鹿やろうだ!敵が待ってくれるなんて思うな!オラ!さっさと立て!次行くぞ!」


 その言葉によろよろと立ち上がったが、次の瞬間にはアルの攻撃によって地面に顔をこすりつける展開になっていた。



 これもう訓練じゃないよね……ただのしごきだよね……?



 俺は荒い息を吐きながらも何度も立ち上がりその度にアルの攻撃によって地面に平伏すという事を繰り返す。これでまだ三十分も経っていないのだからアルのしごきにやめて言った者達の気持ちがよくわかる……


 それから何度も同じようにしてアルの木剣や体術をくらったりしながらも木剣を杖代わりに何度も立ち上がったのだが、結果は同じ。


 二時間経つ頃には体中ボロボロにしてボロ雑巾のように地面に突っ伏していた。俺の体力ももう限界を迎えていて立ち上がる気力も湧かない状態で死んだ魚のような目をしてアルを見る。


「ふぅ~……まぁ今日はこのくらいで、良いだろう。どうだイチヤ、少しは戦いについて勉強になったか?」

「……」


 そう言って何処かやり遂げたようにさわやかに汗を拭うアルの姿を見て殺意が湧く。



 何が勉強になったか?だ……ただ単に俺をフルボッコにしただけじゃねぇか。くそぅ……絶対強くなって目に物見せてやる……体中痛てぇ……これ肋骨何本か逝ってるんじゃないか……


 

 心配になり痛む体を確かめようにも、もう指一本動かせないくらい疲労している……そんな風にして過酷な訓練という名のしごきを終えた初日。


 牢屋に帰った俺は人知れずヒール丸薬を創生してアルへの復讐心と共にそれを飲み込んだ――――。


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