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64話 話し合い

 次の日の正午、十分くらい前に玉座の間に到着した俺は何度か顔を見たことのある兵士に挨拶をして中に入れてもらうと、そこには王様にレーシャ、大臣に騎士団長、委員長を含めたクラスメイト二十六名にクズ教師の全員が揃っていた。



 余裕を持って来たつもりだったが、またしても俺が一番最後だったようだ。



 王様達はいつも通りの定位置でこちらを見て、クラスメイト達はたぶん仲の良いグループで固まっていたのだが、クズ教師である米田、俺をいじめていた谷口秀樹、新道武の二人は隅の方に三人で固まっている。



 あいつらそんなに仲が良かったか?



 そんな疑問を抱き一瞥するが、すぐに興味をなくして、周りの様子を眺める。次に目に入ったのは委員長、他にこないだやって来た女の子――確か恵って呼ばれてた女の子、苗字は知らん――とあと一人は知らない女の子、ショートカットでスラっとした長身の女の子でつり上がった目が特徴的な子だ。その三人で固まっていた。


「それでは皆揃ったところで、時間になった。そろそろ始めるとするか」


 その言葉にみんなの視線が一斉に王様へと向けられる。


「皆も聞いていると思うが……今この国は今だかつてない危機に瀕しておる」


 王様の言葉を聞き、クラスメイト達の表情が陰る。帝国の意向も聞いている現状で獣人族からの宣戦布告の報せ。知らない世界でこの王国以外に頼ることの出来ない現状で、その言葉は何よりも重かった。


「召喚された来た皆には本当に申し訳なく思っておる……本当にすまん……」

「……そんな風に謝ってもらったって、俺達がここに来た事がなかった事にはならねぇんだよ……どう責任とってくれるんだよ……なぁ……」

「――貴様!陛下に向かって!」

「ジェルド、よい。全てこちらの落ち度だ、彼等の怒りは甘んじて受けるのが国王であるわしの務めだ」


 搾り出すように言葉を発するクラスメイトの一人、名前は知らないが、少しちゃらそうな見た目に悲壮感を漂わせる姿で王様を睨みながら悪態を吐き、その言葉に怒りを顕にしたジェルドが男に向かって剣を向けようとするが、それを王様が制する。


 男の言葉を皮切りに、王様に対しての罵詈雑言が飛び交うと思ったのだが、予想に反し悪態を吐いた男以外に言葉を発するクラスメイトはいなかった。


 ただその言葉を聞いて泣き出す女子、項垂れる男子といったようにクラスメイト達は様々な反応を見せ、俺以外に平静を保つ者は委員長だけだった。



 普通に絶体絶命の状況だから仕方ないっちゃ仕方ないけど、こんな状況じゃ話し合いもままならないじゃねぇか。こっちは早くこんな重苦しい雰囲気から解放されて、読書やら魔法の練習やらしたいって言うのに……


 思わず溜息をこぼすと、委員長に見られ、なぜか睨まれた。



 あれ?俺何かしたか?



 そう思ったのだが、どうやら違うようで、委員長が目で訴えるように俺から王様に視線を移動させ、口をパクパクさせて何かを伝えようとしている。その口の動きを見て俺は彼女が何を言いたいのかを悟る。



 もしかして俺に話を進めろと?いやいやいや、いくら何でも無茶振りが過ぎるだろ!何でこんな悲壮感漂う中口を開かなきゃならないんだよ!無理だって!無理!



 手でバッテンを作り委員長と同じように口をパクパクさせながらジェスチャーを送ると更に委員長がレーシャを見てみなさいというようなニュアンスのジェスチャーを返してきた。


 委員長のジェスチャーを理解し、レーシャに視線を向けると彼女は申し訳なさそうな表情で頭を下げる。


 この行動にいっぱいいっぱいのクラスメイト達やレーシャが王様の斜め後ろにいる為気付くものはいない。レーシャの行動に気付いているのは俺達だけのようだ。


 とりあえず、無理だというジェスチャーを二人に送ると俺達三人でのジェスチャーでのやりとりが始まった。


(無理だから、絶対無理)

(お願いしますイチヤさん)

(私は友達を慰めるので手いっぱいなの、鏑木君しかいないのよ)

(だからってどうして俺なんだよ?こんな状況で話して注目されるなんて耐えられないぞ、俺)

(そこを何とか……)

(鏑木君しかいないの、つべこべ言わずやりなさいよ)

(だから無理だって)

(イチヤさん……)

(大丈夫、恥ずかしいのは最初だけ、次第に見られる事が気持ちよくなるわよ)

「何言ってくれちゃってんのお前!?」


 しばらくそんなやりとりを続けていた俺達だったが――。委員長から伝わったジェスチャーに思わず言葉で反応してしまった俺は、委員長の目論見どおりに急に大きな声を出した事で、一斉にみんなに見られた。


「イチヤ殿、急に大きな声を出してどうかされたか?」

「いや、何でもない。それよりも俺達はどうなるんだ?」


急に大声を出した事をなかった事にしたかったので、真面目な表情を作り王様へと問う。こうなった以上俺が話を進めなければならない。


 ――俺を見て人知れず、笑みを浮かべている委員長にはいつか仕返ししようと心の中で誓った。



「その事なんじゃが……戦いたくない。この国から逃げ出したいと思う者には、しばらく食べていけるだけの食材と金銭を渡して、帝国の辺境まで送り届けよう」

「そんな事になったら逃げた奴は奴隷扱いされるんじゃないのか?」

「少なくとも帝国に行けば死ぬ事はないし、帝国領は広大だ。素性を隠し、ラズブリッタからの難民だと言えば受け入れてくれる村もきっとあるはずじゃ。辺境であれば同じ帝国領であっても奴隷のように管理されてる訳ではないから見つかる可能性は低い。後はすまんが……自力でなんとかしてもらいたい」


 言っている事に希望的観測の要素が多分に含まれている。どうやら王様もこの状況で、俺達に気を回している余裕がないのだろう。


 それは三日前見た健康そうな姿から、目の下に隈を作ってどこか焦燥感を漂わせている姿からも明らかだ。それなのに気丈に振舞っている姿を見ると、本当に立派だと思う。


 しかしそう思うのは俺だけで、同じ事に気付いた奴が声を荒げる。――荒げたのはこの場で王様に悪態をついた男だった。


「あんたの言葉は全部憶測の産物じゃねぇか!俺には金と食料を渡すからどこへなりとも好きなところに行け、ラズブリッタを出た後は野たれ死のうが一切関係ありません。みたいに聞こえるぞ!そこんとこどうなんだよ!なぁ!?」

「それは……」

「それに運良く帝国領についたとしても帰る方法が見つかっていない今、この世界で一生過ごす事になる可能性もある。そんな俺達に帝国領で一生ビクビクしながら生きろってのか!?」

「すまん……」

「謝る位だったら今すぐ俺達を元の世界に……日本に帰してくれよ……!」


 最初に激昂して王様に怒声を浴びせていた男だったが、話しているうちに感極まっていったのか最後には膝を折り、泣き出してしまった。


 それを見たさっき泣いていなかったクラスメイトまでも同じように泣き崩れ、王様はすまなそうに床に視線を向ける。



 一筋の希望というものがまったくない状況で、この場を包む雰囲気が暗く重たいものになり、凄く居心地が悪い……はっきり言って最悪だ。



「とりあえず戦いたくない奴、逃げたくない奴についてはわかった。じゃあ戦うと決めた奴について王様はどう考えているんだ?」


 場が静まり返ったのに耐えられなくなった俺が再び口を開くと俺の言葉に王様が顔を上げる。


「……この国の為に戦ってくれる者については、十分な装備を与え出来るだけのサポートをすることを誓う。そなたらが死なないように全力を尽くす事を約束しよう」

「そうか」

「ただそれでも死ぬ者はきっと出てくるだろう……だからこの事に関しては絶対に無理強いはせん。わしとしては逃げた先で……もし可能であれば幸せに暮らして欲しいというのが本音じゃ……」


 本心で言ってくれているのが伝わる……それは王様としてではなく一人の人間としての言葉だった。


「今の言葉で王様が俺達を思って言ってくれてるのは伝わった……その上で聞きたい。今この国で集められる戦力ってどのくらいなんだ?」

「帝国の兵はもう引き上げておるから……辺境におる兵をかき集め、後はダンジョン探索を生業にしておるランクの高い冒険者を金に糸目をつけなければ相当の戦力になるとは思うが……それでも獣人連合に勝てるかどうかは……」



 ダンジョンという単語に一瞬心を揺さぶられたが今は話を進めることが先決だ。この問題がきちんと解決して良い方向に向かって余裕が出来たら聞いてみよう



「勝つかどうかはわからないか……じゃあ守るだけならどうだ?」

「この王都を守るだけなら戦力としては十分じゃが、守るだけではどうしようもないしのう……」

「じゃあ獣人将と渡り合えるくらいの強さを持ってる奴は?」

「……獣人将を知っておるのか……」


 俺の言葉に一瞬驚いた表情を浮かべる王様。だがすぐに思案顔になり、しばらく考え込む。


「確実に勝てる。というのであれば冒険者に一人いるが依頼として戦争に参加してくれるかはわからん……後は拮抗してくれそうな者は騎士団に一人、冒険者に三人いると聞いておる。実際に見た事がないのでなんとも言えんが……」

「そっか」

「だがどうしてこの国の戦力など気にするんじゃ?」

「?少しでも勝算があるかどうか気にするのは当然だろ?俺だって戦うんだから」


 その一言にレーシャと委員長を除いた全員が驚きの表情で一斉に俺へと視線を向ける。



 あれ?何でこんなにみんな驚いてるんだ?しかも王様達まで……王様達はレーシャから聞いているはずなのに。



 そう思いレーシャに視線を送ると彼女は何かを失敗したような顔で俺から視線を逸らす。



 もしかして……


「なぁ王様、一つ聞きたいんだが……」

「な、なんじゃ!?」

「レーシャから俺が戦うって話は聞いてないのか?」

「そんな話は初耳だぞ!」


 俺が戦うと言った衝撃が抜け切らない様子の王様に質問するとどうやら何も聞かされていなかったらしい王様が俺の質問に答えてくれた。


 その言葉を聞き俺はレーシャにジト目を向ける。


「レーシャ~」

「すみません、今後について話した時にイチヤ様の事だけ抜け落ちていました」


 申し訳ないという感じでぺこぺこ頭を下げるレーシャに俺だけでなく王様まで責めるような視線を向ける。



 おかげで、また全員の視線を集める事になったぞ!まったく……俺は本来人から注目されるのは好きじゃないっていうのに……


 密かに溜息を吐き、どうやら俺が参戦するというのは重要な事だったようで、一時話し合いを中断した王様がレーシャを叱る姿を静かに見守った。

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