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61話 後悔

本日二話目

「ごめん……」



 俺の言った台詞は決して許されるものではなく、謝ったところで許してもらえるものでもないだろう……それでも言わずにはいられない。この謝るという行為は俺のただの自己満足だ……



 額を床にこすり付けるくらいに土下座した俺を見ても何の反応もない。当然だ。もし逆の立場なら俺だって許す事なんて出来ないだろう。


「イチヤさん、どうか頭を上げてください……私は気にしていませんから」


 そう言ってくれるレーシャだが、彼女が気落ちしている事はは顔を見なくてもその声から明らかだ。だから俺は頭を上げない。上げられない……


「レイシア様の言うとおりです。お願いですから頭を上げてください……私の事は気にしないで下さい。イチヤ様が私達を奴隷として扱っていないからあんな発言が出たという事を私は知っています……だから……どうか頭を上げて下さい」


 レーシャに続きリアネは俺に近づくと肩を優しく掴み弱々しい笑みを浮かべてそう言ってくれるが、その笑みを見るのが辛くて……二人を見るのが怖くて……そのまま頭を下げ続けた――。



 自分の愚かさに死にたくなる……いっそこのまま死んでしまいたい……元の世界であんなに傷つけられて傷つく痛みを知っていたはずの俺が、こうして人を傷つけるって……本当に俺はどうしようもないな……



 後悔と罪悪感に押し潰されそうになりながらも目をぎゅっと瞑る。


 リアネとレーシャが許すというように頭をあげさせようとしているが、俺の言った言葉は許せるモノではない。


 いくら心優しい二人でも、きっと心の何処かに許せないという気持ちは残り続けるだろう。それくらい酷い言葉を無意識に俺はいってしまったのだから……





 しばらくそんなやりとりを続けていると隣から立ち上がる音が聞こえる。


「リアネ、ちょっとどいてくれるか?」

「え?」

「いいからいいから。ほらベットに戻って。な?」

「……はい」


 頭をがしがし掻きながら面倒臭そうな表情をするアルにどけるように言われ、不思議そうな顔をするリアネの背を押してベットに戻して俺の横に立つと――その足で俺の頭を踏みつけた。


「ぐげっ」


 床しか見えていない俺がアルに頭を踏まれ、踏み潰された蛙のような声を上げたのだが、その声を聞いてもアルが俺の頭から足を離す事はしない。むしろ更に足に力を込められた。


「「アル(さん ドルさん)!?」」


 アルのいきなりの行動に驚きの声を上げているのが聞こえているが、頭を踏みつけにされている俺からはみんながどんな表情をしているのかはわからない。


 ぐりぐり、ぐりぐりと床にキスしながら息苦しさをなんとかしようと体をバタつかせるが、アルの足を振りほどくことが出来ない。



 どんだけ力を入れているんだ……!



 次第にリアネとレーシャへの失言に対しての後悔の念からアルへの怒りが沸いてくる。


「いい加減にしろよイチヤ……いつまでそうしているつもりだ?」

「もごもがっ!」


 

 お前がどけないからいつまでもこの状態なんだろうが!!!!



 必死にアルの足から逃げ出そうと、もがく――すると急に頭にかかっていた重力がなくなり俺は一気に頭をあげた。


「ぷはっ!」


 顔を上げて大きく息を吸い込むと、さっきまで息苦しかった肺に一気に酸素が入ってくる。


 しばらく荒い呼吸を繰り返し、俺は怒りの表情で、アルを睨む。


「何するんだ!」

「何するも何もお前さんがいつまで経っても顔を上げる気がないようだったから望みどおりにしてやったんだが」


 まるで自分の行いが正しいというように……迷いなく言うアルに呆然とすると、逆にアルの方が苛立った様子で視線を合わせ睨みつけ、胸倉を掴んできた。


「さっきの台詞は姫様にとってもリアネにとっても許せるもんじゃねぇ。それを理解したてめぇが後悔するのも仕方ねぇよ。だけどな、今するのは後悔でも謝る事でもねぇ……今後どうするか話合うことだ!それが出来ねぇならどっか行っていつまでもうじうじしてろ!邪魔臭くてしょうがねぇ!」

「すまん……」


 その怒声にただ謝る事しか出来ない俺に冷めた目を向け、手を放す。確かに俺が謝り続けたところで、事態がよくなるわけではないというのもわかる。アルが言いたいのは謝るんだったらせめて今後の事を話し合った後にでも許されない謝罪を延々としてろという事だろう。きつい言い方だが正論だ……


 俺はみんなに頭を下げて一旦謝罪を終える。それを見た皆が許してくれるとは思っていないが、これ以上謝罪していても意味はない。


「という訳だ。みんな、イチヤの事を許せないとは思うだろうが、一先ず話を進めようぜ。どうしても許せないなら後で殴るなり蹴るなり踏みつけるなりすれば良い。俺が許可する」


 わざと明るく振舞うようにしてそう言ったアルに俺以外の皆が苦笑する。暗くなった場にアルの態度は丁度いいのだろう。少しだけ重苦しかったみんなの表情が明るくなり、俺は心の中でアルに深く感謝した。





「それで話を戻すんだが……姫様……一部だけなら俺もイチヤの言葉に同意です」

「……どういう事でしょう?アルドルさん、どの事を指して言っているのですか?」

「すみません……主語が抜けていました。情報規制の甘さについてです。同盟破棄についてこんなに早く知られたとなると一ヵ月後までに獣人族との戦争に対策したとしても情報が漏洩していればそれも無になります。まずはそこからどうにかしませんと」

「確かにそうですね……」


 さっきの話し合いに戻し、アルがそう言うと、深刻そうな表情で頷くレーシャ。少し思案すると再びアルに顔を向けると答えを求める。


「アルドルさん……どうすれば良いと思いますか?」

「まず王様に進言していただけますか、俺が進言するよりも姫様が言った方が良いでしょう」

「そんな!アルドルさんの方が父も――――」

「姫様、それは昔の話です。今の俺は王国の一兵士に過ぎません」

「……そうですね。失礼しました」


 一兵士と言言い張っているアルに向かいレーシャが頭を下げるとは妙な光景だと思う。昔色々やっていたのは聞いているので、その事が関係しているのだろう。


 意味深なやりとりをするアルとレーシャにどう声をかけて良いのかわからず、またさっきみたいな失言を恐れ俺は黙って二人の話に耳を傾ける。


「その後はどうすれば良いですか?」

「進言してもらった後は……その内容は確実に信頼をおける者以外には絶対に口外しないようお願いします」

「密偵……ですね」

「それもあるんですが……」


 渋い顔をして言いよどむアルの表情を見て、不安そうにするレーシャが急くようにして話の続きを促す。


「先程密偵の話をしましたが……いるのかいないのかわからない可能性の話をさせて頂きますと、密偵以外にも獣人族と繋がっている人族がいる可能性も考慮した方が良いと思います……」


 アルのその言葉を受けここにいる全員が衝撃を受ける。


「それはありえないだろ……」


 だってこの世界の人族は獣人族を下に見ている者が大半なんじゃないのか?常識的に考えて獣人族に協力しようとする者なんていないだろうと思う。


「あくまで可能性としての話だ……それに情報規制をするのは何も獣人族にだけじゃない。エルフはわかりませんが、少なくとも帝国に対してもこれからは情報漏洩を防ぐ必要があります。だからきちんと情報規制が出来る体制になるまではそういう風にした方が良いでしょう」


 俺とレーシャを交互に見てそう言うアルの表情の真剣さに言葉がつまる。これほどまでに頼りになるアルを俺は何度見た事があるだろうか……


「わかりました。今話した事は全て父――陛下に伝えておきます。アルドルさん、ありがとうございました」

「この国の一兵士として姫様のお役に立てた事、光栄に思います」


 レーシャに向け騎士がするような最敬礼をしてアルがレーシャに向き直った。


 とりあえずは情報規制をする方向に話が終わると、次の話題が奴隷の件についてだった。


「これについては俺はあまり関与したくないとは思ってるんですが……一応姫様に無礼を承知で確認させて頂きます」

「アルドルさん、そんな畏まらなくても平気ですよ」

「一応この国の雇われ兵士ですからね。俺」

「わかりました。それで確認したい事というのは何でしょうか?」

「もし今回の件が片付いたとして……姫様は、いえ、この国は獣人の奴隷達をどうするおつもりですか?」

「……」


 その件については俺も聞きたかったことだ。たぶん今の俺の状況から聞きにくいだろうと思い、アルが代わりに聞いてくれたのだろう。それはレーシャも気付いているようで、一瞬だけ俺と……あとリアネを見てから口を開く。


「たぶんこんな事になっても……私……いえ、陛下は獣人族の奴隷の”方々”に重い労働を強いる事はしないでしょう?」

「え……?」


 思わず声を漏らしてしまうと、レーシャは俺を見てから苦笑し、すぐに表情を戻す。


「それは何故でしょう?普通ならもっと罪を重くするか排除しようと思うのでは?前々から思っていたんですよ、この国というか王族の方々の政策は獣人族に優しいんじゃないかって。普通の国であれば、他種族である獣人族ならもっと過酷な労働を強いられるんじゃないかと……せっかくなのでこの機会に聞かせていただけますか……?王族の方々が獣人族に対してどう思っているのかを――。」


 確かにここに来てまだ一年も経っていない俺も疑問に感じていた。町に行った時に襲撃での不満を爆発させるようにして獣人族の奴隷に当たっている者はいた。



胸糞悪い話だが……

 


それにリアネ達が人族のメイド達の間でいじめのような行為を受けていた事もある。


 だけど、王様やレーシャが獣人族に何かをしたのを見たこともないし、されたというのを聞いた事もない。むしろ俺が褒賞をもらう際にいじめの事実が発覚して激昂していたくらいだ。



この国のトップである王族の考えが俺にはわからない。そう思っているのは、俺だけではないという事か。



 アルの言葉を聞き、レーシャは何かを決意するような表情を浮かべると、意を決したように話し出した。


「そうですね……ここにいる方達なら大丈夫でしょう……この事は他言無用にお願いします」


 口止めという形でレーシャが前置きを一つし、みんなの顔――特にリアネの顔を見てから口を開く。


「私達王族は獣人族……いえ、他種族に対して差別や偏見を無くしたい……変えていきたいと考えていました」 

読んでいただきありがとうございます。


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