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60話 布告

イチヤ最低回です……

 ――いつかは来るんじゃないかと予想はしていた。

 だけどそれは一、二年後くらいじゃないかと楽観視していたのだが……まさかこんな短い期間に来た事に衝撃を受けた。


「今朝方……獣人連合の使者と名乗る者が来て……獣人連合が我がラズブリッタ王国に宣戦布告を行いました……一ヵ月後に開戦すると……」

「「「……!」」」」



 皇帝が来訪してラズブリッタ王国が一方的に同盟破棄されてからまだ三日しか経っていない状況での獣人連合の戦線布告。ここまで悪い事が重なると、もはや悪夢というしかない。



「でも何で獣人連合は今回宣戦布告してきたんだ?前回は布告なんてされなかったんだろ?」


 この場の誰も落ち込んだ様子で口を開かないので、ふと疑問に思った事を口にする。そんな俺の声に全員がこちらへ視線を向け、レーシャがその事について重々しく口を開いた。


「わかりません……おそらく今回は本気だという事ではないでしょうか……」

「本気?」


 

 前回戦ったが獣人連合にはかなりの数の獣人族がいたし、総指揮官でドルガ、玉座の間を襲撃したゴルド率いる獣人族は、騎士であるジェルド達を圧倒していた。

 俺のステータスがチートだっただけで、相当強かったんじゃないのか?

 あれも十分本気のように感じたのだが……今回の戦争にはあれ以上の戦力が投入される?いやいや……ありえないだろ……



 否定の気持ちがよぎると、俺の考えが間違っているというかのように、レーシャの言葉を肯定する声が挙がる。


「姫様の仰った事はたぶん正しい」

「アル?」


 苦々しい表情を浮かべたアルがそんな言葉を口にするので、視線が俺からアルに集まる。


「イチヤやそこの嬢ちゃんは知らんだろうが、前回戦った時、本来いるはずの種族や十の種族からなる獣人連合で各種族でトップの実力を誇っている獣人将達が誰一人いなかったんだよ、尤も数人いたらこのラズブリッタじゃ抗う術もなく、瞬く間に滅ぼされてけどな」

「……」

「アル、レイシア姫もいるんだ。言い方に気をつけたまえ」


 アルの物言いに今まで黙って聞いていたレイラが諌める。その言葉を聞いて気まずそうに全員に視線を向けると最後にレーシャに頭を下げる。


「姫様申し訳ありません。今の現状に少し気持ちが焦ってしまい配慮に欠けた物言いでした。レイラも指摘してくれてありがとな」

「アルドルさんの焦りは仕方ない事だと思います。私もどうすれば良いのかわからなくて……姫という立場でありながら、何も出来ない無力な自分が……今は物凄く憎いです……」


 目に涙を滲ませ悔しい気持ちを吐露するレーシャに俺は何も言えない。

 愛国心というモノを持ち合わせていない俺は彼女を慰める言葉を持ち合わせていなかったから……


 重苦しい空気が場を包む中、委員長が優しくレーシャを抱きしめ慰め励ますようにして声をかける。


「そう思うんだったらこれから頑張れば良いわ。私も出来る限りの事はするから……だからレーシャ、一緒に頑張りましょう!」

「はい……結花、私に力を貸してください……」

「もちろん!」


 委員長の言葉にレーシャが落ち着き、活力を取り戻す。だけどそれでこの問題が解決する訳ではないというのはこの場にいる全員の共通認識だ。



 委員長には悪いけど、委員長が力を貸したくらいでこの問題が解決するとは到底思えない。むしろこの国と一緒に共倒れだ。


 

 そう思い俺はレーシャと委員長が励ましあっている中、二人に聞こえない声音でアルへと話しかける。


「その獣人将ってのが出てくるのは確実なのか?というか総指揮官のドルガがその獣人将じゃない事に驚きなんだが、そもそもそんなのがいるのに何で弱小国って呼ばれるこの国が滅ぼされていないんだ……?」

「俺だってそんなに詳しい訳じゃないぞ。ただ獣人族最強の武力を誇る獣人将の名前は有名だ。その中にドルガの名前はなかった……ただ勇者を退けたっていう話は聞いた事があるし、もしかしたら元獣人将だったのかもしれん。完璧に推測だけどな」

「なるほど」

 


 仮定の話だとアルは言っているが、ドルガの見た目年齢を考えればありえそうだとも思う。年のせいで力が衰え牛人族に新たな獣人将に代替わりしたというところか。



「次にこの国が滅ぼされていなかったのは偏に帝国の武力支援のおかげだ。それだけ帝国の武力は強大で、隣国である獣人連合がラズブリッタを滅ぼされない為の抑止力になっていたんだけどな……」

「それがなくなったからこんな短時間に堂々と宣戦布告してきたという訳か」

 

 アルが言い辛そうに濁した言葉を引き継ぐように言うと、真顔のアルが頷く。


「だけどどうやってだ?しかもこの短時間に……」

「んなの隠密でもこの国に潜ませていたんだろ?確か獣人族の中にそうゆうのに長けた種族がいたはずだ」

「いくら長けてたとしても種族が違うだろう。見つかったら一発でばれるじゃねぇか」



 いくら隠密に優れている種族だといっても他種族の国、しかもその中心で隠密活動なんてやってたら一発でばれるんじゃないのか?



「帝国ならな……使い潰す為に徹底的した奴隷管理をしているんだがこのラズブリッタは――」

「我が国では犯罪奴隷でもない限り、きちんと仕事をしている者であれば種族を問わずに休む時間を与える法があり、獣人族の奴隷についても詳しい種族を把握しておらず獣人族とひと括りにし、主人になっている者から奴隷の人数を聞いているだけとなっております……」

「「レーシャ 姫様!?」」


 アルと内密に話していたのだが、いつの間にか委員長と話を終えたレーシャが話しに入ってきてた事に俺とアルは驚く。


「いつから聞いてたんだ?」

「えっと”獣人連合はどうやって同盟破棄の事を知ったんだ?”あたりからです」



 そのくらいから話を聞いてたのね。集中してたのでまったく気付かなかった。



 勝手に話を聞いていて申し訳ないというような顔をするレーシャだが、彼女がいる前で内緒話していたこちらに落ち度がある。それよりも――。



「いくら何でも管理がザル過ぎじゃないか?それじゃあこの国にどの種族の奴隷が何人いるか把握出来てないって事じゃないか……それじゃあこの国に獣人族が奴隷に扮していれば気付かない可能性だって出てくるじゃないか」

「……」


 俺の言葉を聞き、黙り込むレーシャには申し訳ないが言わずにはいられない。


 こんな事、平和な日本で暮らしてきた俺でもわかるのに、長年戦争をしている者達が気付かない訳がない。現にその事がわかっている帝国は奴隷を徹底管理しているという。同盟であるラズブリッタがそうしない理由もない。なのに何故?


「何故そこまで管理が甘いんだ?それじゃあ国の重要な情報なんて漁り放題だ。それこそ獣人族だけじゃなく他の……例えば今回同盟破棄した帝国とかにもな。この国は何もかもが甘すぎる。奴隷だって言うんならきちんと管理するのが国の義務じゃないのか。情報についても奴隷についてもしっかり管理しないから今現在、危機的状況に陥ってるんじゃないか。いい加減甘い考え捨てないと滅ぶぞ。だから弱小国家なんて――」


「イチヤ!」

「鏑木君!!」


 最後まで言葉を発する前にアルと委員長の怒声に止められた俺は我に返る。そして次の瞬間、俺の頬に熱と痛みがやってくる。


 ――涙を浮かべた委員長に頬を叩かれたのだ……


「いくら今が絶望的な状況だからってそんな風にレーシャを責める事ないじゃない!!レーシャがどんな思いしてるのかわかってるの!!?この中で一番不安なのはレーシャなのよ!それをそんな風に……ひぐっうっ……」


 言っているうちに感情が高まってきていた委員長が盛大に泣き出す。それに続きアルも俺に対して険しい顔を向けてくる。


「嬢ちゃんのいうとおりだ。イチヤ、今のお前の発言が最低だったと俺も思うぞ。姫様だけじゃなくてリアネ達に対してもな」


 そう言ってアルの視線がリアネの方を向いたので、俺はハッと気付かされてアルと同じようにリアネの方を向き、自分がいかに最低な事を言っていたのか思い知らされた……


「私は……気にしていませんから」


 手を膝でぎゅっと握り、何かを堪えるように顔をうつむけるリアネに罪悪感が襲ってくる。



 今までリアネ達を奴隷という認識で接していなかったので忘れていた……この国ではリアネは獣人であり俺の奴隷という扱いなのに……それなのに俺はあんな発言を……レーシャに対してもそうだ……知った風にぺらぺらぺらぺら薄っぺらい事を語って、レーシャは何も悪くないのに彼女を責めて……何様だっていうんだ俺は!



 委員長に叩かれた頬よりもリアネとレーシャを見る方が何倍も心が痛い。辛いけど……俺の言葉に傷つけられたリアネとレーシャの方がずっと辛いだろう……自業自得だし言った言葉をなかった事には出来ない。後悔と罪悪感だけが俺の心を締め付けた……

読んでいただきありがとうございます。


書いた結城が言うのもなんですが……これ……挽回出来るのだろうか?(汗)

結城としましても鬱展開というのは気分が滅入るのでさくさく進めていきます!


イチヤ君の好感度が……息していません……

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