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59話 説明

「まったく覚えていないんだが……」


 リアネの話を聞き終えての俺の第一声がその一言だった。



 気絶した俺が、急に起き上がると何か得体の知れない黒いもので切られた腕を固定して、ヒール丸薬を飲んで切られた腕を繋ぎ……治した……だと……ヒール丸薬ならそのくらいの効果があるはずだが、得体の知れない黒いものというのがまったく想像できない。



「俺が本当にそんな事したのか……?」


 驚きと困惑が混じったような気持ちになり、その気持ちを吐露するかのようにレーシャと委員長を見ると、彼女達は事実だと肯定して真剣な表情で一つ頷く。


「えぇ……私が見たイチヤさんは痛みなどないかのように平然と立つと、床に転がっていた自分の腕をもちあげて禍々しい何かによって支えて……自分の腕を治していました」

「リアネさんが説明してくれた事に間違いないわ。私達が伝えた事を忠実に語ってくれている。リアネさんの言った事は間違いなくあの時に起こった出来事よ」

「信じられない……」


 更に驚くべき出来事はその後の事だ。俺がクレイグ――俺の腕をぶった切った騎士を再び相手取り、それを圧倒して殺したそうだ。その後に残った騎士の一人に魔法で拘束されたがその魔法を解除し逆に魔法で拘束、皇帝と相対したところで意識を失った……


「俺の隠された力が目覚めたのか……?」

「鏑木君にそんな力が!?」

「いや……知らん……ただ言ってみただけだ」

「……ふざけないで」

「ごめんなさい……」



 真剣な表情で厨二発言をしたら委員長に叱られた。



 だってそんな話聞いて信じられますか!?当事者の俺が何も覚えてない出来事を語られ、ありえない出来事のオンパレードだ!俺の脳内キャパが息してませんよ!?少しくらいふざけないとやってられるか!



「じゃあ鏑木君のおふざけも納まったところで、話を戻すわね」

「すまん……それで、何で皇帝に敵対?した俺は生きてるんだ?意識を失ったんなら俺なんて簡単に殺せるじゃないか」


 俺の事はひとまず置いておいて、皇帝が俺を見逃した事についても疑問が残る。俺がヒール丸薬を創れる事が露見したのだろうか?話を聞くにそんな素振りは一切みられない。そもそも知られたのなら連れ帰って強制的に創らせるはずだ。


「それも不可解な件の一つなのよ、鏑木君が気絶した後に皇帝の従者二人を拘束してた魔法が解けて鏑木君を殺そうとしたんだけど……それを止めたのも皇帝で……」

「意味がわからん……」

「ユージは……いえ、ユージットはこう言ってました。”今ここで壊すには惜しい物だ。いずれ我の玩具になるかもしれん物”と」

「ますますわからん……」


 説明を聞けば聞くほどわからなくなる現状に首をかしげる。



 リアネやアルやレイラはその場にいなかったから仕方ないとして、当事者である俺達三人もわからないこの現状……どうすれば良いんだ?



 行き詰ったこの現状にみんなで頭を悩ませたのだが、何か新しい発見があるわけでもない。


「とりあえず行き詰ったものはしょうがない。少し休憩にするか」


 そう言って手をパンッと叩き、一時中断を促す。


「では、お茶を入れなおしてきますね。」

「頼む」


 意図が通じたであろうリアネが空になったコップを盆に乗せると席を立った。



 今の話には不明な点が多すぎる……考えるにしても少し時間を置いた方が良いだろう――。



 話を中断した事で深刻な場の空気が若干和らぎ強張った体をほぐしたり緊張をほぐすかのようにして息を吐き出す者など様々な反応が見られる。


 そんな中一人だけ話が終わっていないかの状態で真剣な表情を続ける者がいた。


「アル、どうした?」

「……」

「アル!アルってば!」


 反応がないアルを不思議に思った俺が強く呼びかけ、軽く肩を揺するとようやく我に返ったアルが俺と目の焦点を合わせる。


「ん?お、おぉ……!?どうしたイチヤ?」

「どうしたじゃねぇよ、何かわかった事でもあるのか?」

「いや、すまん、ぼ~っとしてただけだ」


 その後もアルは何かを考えている様子だったが、その考えを語る事はなかった。










「一先ず話を整理すると……俺は腕をぶった切られて気絶して、しばらくすると意識を取り戻してクレイグを圧倒して殺した」


 しばらく休んだ後にリアネの持ってきてくれたお茶に口をつけて喉を潤した俺が話を再会する。


「次に従者の一人が俺を魔法で拘束されたがそれを苦もなく解除し、逆に従者二人を同じ魔法で拘束。そのまま倒さず皇帝と対峙したところで俺の意識がなくなった……と」

「えぇ」

「まったくもってわからんな……意味不明すぎる。これがラノベだったらもう少しわかりやすい展開を期待したい」

「鏑木君、これはアニメでもゲームでも……ましてやラノベでもなく現実に起こっている事よ、現実逃避してないでしっかりと考えて頂戴」

「……といってもなぁ」



 考えろと言われてもこれ以上考える事があるんだろうか?あるとしたら俺の事より皇帝の思惑か?



「レーシャが聞いたって言う皇帝の言葉、たぶんそれは俺の事を言ってるんだよな?」

「そのはずだと思います。イチヤさんを見て嬉しそうに話していましたから」

「嬉しそうに……男にそんな目をされてもちっとも嬉しくないな……」


 その一言に真面目な委員長の眉が釣りあがり、無言で俺を睨みつける。さっきふざけるなと言ったのにもうふざけた台詞を口にした俺を咎めているのだろう。


「まぁとにかく……その台詞から考えて皇帝は俺を使って何かをしようとしている……のか?」

「おそらくは……」


 それ以上の事はわからないようで、申し訳なさそうな顔をするレーシャに気にするなと一言言っておく。


 今現在皇帝についてわかっている事など、レーシャが聞いた皇帝の台詞くらいで、それで分かれというのが無理な話なのだ。


「俺の変貌ぶりについてもそうだが、皇帝についてもあれこれ話し合っても解決するとは思えないので、とりあえず今の話を覚えておいて後日気付いた点があれば相談するって形で良いか?」


 俺の言葉にそれぞれがわかったという風に答えて、この話は一旦終了という事になった。


 正直俺の事についての話が大半だったのだが、自分が覚えていない行動、皇帝が俺に興味を持ったような様子で見ていたといわれてもまるで実感がわかない。ただ前者についてはどうしようもないが、後者については気をつけておかねばならない。



 性格が捻じ曲がっているというか……腐ってるような奴に気に入られたと言われるとゾッとする。



 正直いつ寝首をかいてくるのかわからないような相手に不安を覚えるが、それを顔に出してしまえば皆を不安にさせてしまうだろうと思い、平静を取り繕った。



 後気になるのは……アルの事だ。



 あれから話が続いても真剣な表情をしてリアネとレーシャと委員長が話すのを終始無言を聞き続けていた。さっきみたいに呼びかければ返事をするのだが、どうも心ここにあらずという感じに見えた。


 アルが考えてる事はわからないがたぶん聞いてもごまかすか答えてはくれない。そんな雰囲気が漂っていたので、言及する事は控えた。



 話す気になった時にでも話してくれれば良いだろうと思うし、今すぐに話さなければいけない話なら話してくれている。アルにはそれだけの信頼を置いている。


「とりあえず話すべき内容はこれくらいか……」

「待って下さい……」


 解散の言葉を告げる俺にレーシャが深刻な表情で待ったをかける。


「どうした?気になる事でも思い浮かんだか?」

「いえ……そちらの件ではなく……実はここに来た目的はイチヤさんの容態を確かめる事と……もう一つ……ある件の報告をしに来たのです」

「ある事?」


 レーシャに聞き返すと彼女はうつむき口を引き結んで、今にも泣きそうな表情をしている。それを見て嫌な予感がすると、はやる様にレーシャに言葉の続きを促す。


「実は――――」

「「「……」」」


 どうやら悪い事というのは続くようで、レーシャのもたらした更なる悲報に、この場のいる全員が沈鬱な表情を浮かべた。


 それくらい彼女の放った言葉は、俺達の心を奈落に突き落とすには十分な言葉だったのだ。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


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