5話 仲直り
すいません。11時更新しようと思ったら予想以上に長くなってしまいました。
リアネ・イスフィルの朝は早い。
いつもは日が昇る前に準備をして食事の準備にとりかかる。
この習慣は一週間ほど前、メイド長に問題のある勇者様の食事係に任命されてからである。
☆
なぜ私なんかにそのお役目が回ってきたのかというとその勇者様と係わり合いになりたいという方がいなかったのだ。
朝礼の時にメイド長の話が始まった
話を聞く限り、その勇者様は王女様に暴言を吐いて牢屋に捕まったという。
そんな話を聞けば誰だってやりたがらないだろう。
だけど誰もやらないとなると、私達奴隷メイドの中から選ばれる。
私よりも幼い女の子だっている。
その子が任命されてどんな目に合わされるかわかったものじゃない。
私はそんな子にやらせるくらいならとメイド長に立候補した。
「私がやります」
「良いのですか?食事係以外にも通常の職務に励んでもらわないといけないんですよ?」
「はい……」
「わかりました。ではそのようにお願いします」
そう言ってメイド長は出て行く。彼女はとても厳しい性格をしている。自分にも他人にも、人族にも獣人族に関係なく厳しい性格をしているのだ。ただ職務をきちんとこなせれば褒められる。その彼女の誰にでも平等な姿勢は私達獣人族のメイドにとってありがたい存在なのだ。
「リア。あんな仕事引き受けちゃって良かったの?」
同じ奴隷メイドのディアッタが来て心配してくれる。
「だって誰もやりたがらなかったじゃなぃ。たぶん選ばれるのは私達の中でしょ?もし私達より小さい子が選ばれてひどい事されちゃったらって思ったらね。それに仕事も通常通りだしあの子達もまだ仕事を始めてそんなに日が経っていないのに負担が大きいと思うの」
「それはあんただって同じでしょ?」
「私なら大丈夫だから、ディアは気にしないで。きつくなったらちゃんと言うからその時は少し食事の準備手伝ってもらえるかな?」
私が冗談めかしてそんな事を言うとディアは困ったように笑う。
「わかったわ。くれぐれも無理はしないように」
「うん」
そんなやりとりの後リアネはディアッタと仕事に向かおうとすると、人族のメイド達がリアネ本人に聞こえるように陰口を叩く。
「獣人族のくせに立候補なんて生意気」
「罪人の勇者なんかに取り入って何をしようというのかしら?」
「大体取り入るっていったって何をするの?体で誘惑でもする気?」
「どうせ取り入ったところで牢屋に入ってる勇者なんかに何が出来ると思ってるのかしら」
「ホント知能が獣並。あの子達の品位を疑うわ。ふふ」
「リア……行こ……」
「うん……」
たぶんこうなるんじゃないかとは思っていた。目立てば私達獣人は標的にされる。それは仕方ない事だ。ここは人族の王国で私達は奴隷に過ぎないのだから。だけどディアをこんな嫌な気持ちに巻き込んだことは心苦しかった。
ディアと別れた私は件の勇者様の朝食を作りに調理場に向かう。
調理場に着くと最初に嫌な顔をされたけど話が通っていたのか、すんなりと調理場を借りる事ができました。
食材も自由に使って良いという事です。
いつもはなるべく使われてる時間帯を避けて、自分達で買い足した物を使うんですが、この役目が急遽決まり買出しに行く時間がなかったので、この提案には本当に助かりました。
私は料理が大好きです
亡くなった母が私に残してくれた経験で唯一の趣味と呼べるモノ
でも奴隷メイドがそうそう料理をさせてもらえる機会はありません。
良くて自分達奴隷メイドの賄いを当番制で作らせてもらえる事くらいでしょうか。
私は勇者様に出す食事を何にするか考える。
一番最初に勇者様に食べてもらう食事。
はじめは凝ったものを出そうと思いましたが、これは朝食です。どの程度食べられるかもわからないのにいきなり凝ったものを持っていってたくさん残されても勿体無いですし、機嫌を損なったら問題になります。
話しを聞いた限りだと、王女様に対しての暴言で捕まったとか……
怖い人だったら嫌ですねぇ
ひどい事されないと良いのですが……
そんな事を考えながら軽食を用意して5階にある牢屋の前までやってくる。その前までやってくると牢番のアルドルさんという方が待機していました。
「はじめまして、今回食事係になりましたリアネです。」
「お譲ちゃんが担当になったのか、俺はアルドル、アルって呼んでくれ。早速なんだがあいつ昨日から何も食ってなくて腹すかせて凶暴になってる。早く持ってってやってくれ」
凶暴!?さっそく私はひどい事をされてしまうんでしょうか!?
私はおどおどとアルさんの後ろに隠れながらさっき作ったサンドイッチを持って中に入った。一応どの程度食べられるのかわからないのでサンドイッチにした。これならどの程度食べられるかわからなくても大丈夫と思ったのだ。
もし残されても私や他の同僚と一緒に食べれば食材を無駄にする事もないなどとちょっと打算的な考えでした。
中は牢屋にしてはかなり清潔に保たれてて薄暗さなどは全然なかった。
その中に黒髪の男の子と金髪の髪を後ろに結わえた綺麗なお姉さんがいてお姉さんの方は私が何の役割でここにいるのかわかっているようで一度こちらを見ただけでそのまま視線を元の位置に戻してしまいました。
男の子……といっても私より二つ三つ年上っぽい感じなのですが、彼は私と目が合い、私が持っている食事に気付くと目を輝かせる。
勇者召喚された勇者様は性別など関係なく転移させられると聞く、だから最初はどちらが勇者様かわからなかったけど、こうまで目を輝かせられるとこちらなのだなと思ってしまう
「たぶん言わなくても気付いたと思うが、こっちの腹を空かせてそうな少年の方が勇者であるイチヤ。んで向こうがレイラだ」
「出来れば自己紹介は飯を食いながらしてくれるとありがたいんだが……」
相当お腹が空いているのか彼のお腹が食事をみてぐぅっと鳴った。相当お腹が空いているようだ。私は持っていた食事をおどおどとした様子で牢屋の食事を通す穴に食器を入れサンドイッチを渡すよ少年は一つつまみ勢いよく食べ始める。
「おぉ!ただのサンドイッチなのに凄くうめぇ!!」
少年は目を見開いて驚いたような仕草をしたあと本当に美味しそうに食べてくれている。勇者様とは聞いていたけど歳相応な少年って感じのイメージだ。
それにしてもこうやって人に料理して喜んでもらえるとやっぱり嬉しいな
私は心の中でそういった感想が出てくる。
彼は一つ目を食べ終えて二つ目に取りかかる。
「ホントうめぇ!昨日から何も食べてなかったから腹に……うっ……げふっおふっ!」
「あわわ?!!?大丈夫ですか」
「そんな慌てて食うからそうなる。水飲み場の水飲め」
勢いそのままに食べていたらむせだした。どうやらサンドイッチをつまらせたらしい。私は慌てたが、アルさんは平然としていて勇者様に指示を出し彼もそれに従って今度は水をごきゅごきゅと飲みこんだ。
「ふぅ……多少は落ち着いたわ。アル、さんきゅ」
「大した事してねぇよ、それより誰も取ったりしないから落ち着いて食べろ」
「あぃよ」
そんなやり取りをして今度はゆっくり味わって食べている。私も場が落ち着いたのを確認すると勇者様に話しかけた。
「自己紹介が遅れましたが、この度勇者様のお世話係をする事になったリアネ・イスフィルと申します。いたらない点もあるかと思われますが何卒よろしくお願いします」
「イチヤ」
「は……はい?」
最初何を言われたのかわからなかったが、勇者様はそんな感じで話出したのをそれが自己紹介なんだと思い、素っ気無い人だなぁって思った。だけど違った。
「俺は自分を勇者だなんて思ってないよ、だから俺の事はイチヤって呼んで欲しい。そのかわり俺も君のことリアネって呼ばせてもらっていいかな?」
彼は頬をぽりぽり書きながら明後日の方向を見ている。
「は……はい!じゃあ私はイチヤ様って呼ばせてもらいますね!」
少し声が上擦っていると自分でもわかってしまう
「あと慣れてないんで敬語とか出来ればやめてくれると助かる。アルくらい、傍若無人に振舞ってくれると助かる」
「おい。誰が傍若無人だコラっ!」
「す…すいません!!それは無理ですぅ!!」
そんな二人の感想を見て満足そうに食事を再開させるイチヤ様。
「ごちそうさま」
イチヤ様の食事が一通り終えて満足そうに食事を通す為の穴から食器を返される。最初作ってあったサンドイッチ8個あったのが、残り2個となっていた。朝食としては結構多めに食べたのではないだろうか。
だいたいの量がわかったので次の朝食は少し量を減らして作りましょう
「では私は次の仕事に行きますね。」
「あっ、ちょっと待ってくれ」
そんな感想を抱いて食器を持ち、部屋から出ようとした私はイチヤ様に止められました。
「残った二つなんだけど、レイラに食わせてやってくれないか……?」
「え?」
「どうしてだ?」
私とアルさんは二人して疑問符が浮かぶ。
それとは逆にイチヤ様の顔は真剣そのものだ。
「正直に言うぞ、昨日のレイラの食事を昨日みたんだが、ありゃなんだ?」
「?」
「あぁ……」
私には良くわからなかったけれど、アルさんはどうやら思い当たる節があったようだ。それについてイチヤ様が説明してくれる
「俺と作ってる料理人があきらかに違うのはわかる、いくらなんでもこの料理と昨日の焦げた残飯みたいなのだと差がありすぎるだろ。あんなの食わせられる身にもなってみろ。俺だったらキレるレベルだぞ」
その発言に私はようやくイチヤ様が何を言いたかったのかを察する。どうやらレイラさんの担当の子は料理が苦手なようだ。
「私は食事に対してそれほど執着していない。気にすることはないぞ?」
ふいにレイラさんから声が上がる。だがそれを聞いてイチヤ様が反応した。
「レイラが気にしてなくても俺が気にする。あんな物近くで食ってるの見てたらこっちまで気分悪くなるぞ」
「そういうものなのか?」
「そういうものだ。それにいくら魔法で風邪薬出したとはいえ、あんたの体はまだ弱ってる。そういうのは美味い物を食べてゆっくり休んで徐々に回復させるもんだ」
イチヤ様が力説している。確かに美味しい物を食べればそれだけ心も体も満たされる。それをイチヤ様は言いたいのだろう。
「というわけでリアネ。悪いが頼めるか?」
「はい!それは問題ないです!」
私は元気よく返事をすると持っていた残りのサンドイッチをレイラさんの牢屋の前まで持っていく。レイラさんは最初躊躇していたけどそのサンドイッチを受け取り口に運ぶ。
「おいしい……」
レイラさんは、そのサンドイッチはゆっくり咀嚼して小さく感想を述べる。目を細めて食べる姿は本当に美味しそうで、けれど優雅さを感じさせる。
イチヤ様もレイラさんの食事風景を満足そうに見つめながら自信満々の表情。私は自分が作った料理がこれほど喜んでもらえた事に喜びを感じて二人を見ていた。
「それにしてもここは良いな!何もしなくても美味い料理が出てきて寝床もある。門番もいて警備体制も万全」
「おい罪人勇者、俺は牢番であって門番じゃない。それに警備も外じゃなくて内を警備してんだ。脱獄しないように」
「脱獄なんて誰がするかよ、めんどくせぇ」
「初日から脱獄した奴がどの口でそんな事いうかねっ?!」
「ただ牢屋から通路に出ただけで大袈裟なんだよ、そんな気にしてると禿げるぞ。いや、禿げろ!」
「禿げねぇ!ってか願うな!」
とりあえず危ない発言があったけど、私は無視しよう
そんなやりとりを完全に無視する形レイラさんは味わうようにゆっくりと食事し、食べ終わると私に一言ありがとうと小さく告げた。どうやら私が作った事を察していたようだ。たぶん獣人族である事も彼女はわかっているのだろう。それでもお礼をいってくれた。
私は笑顔だけで『どういたしまして』と返し、食器を受け取り立ち上がる。
「リアネ。悪いんだけど、俺の食事作った奴にあと二人分追加してくれるように言ってくれるか?」
イチヤ様の突然の提案に私は驚く
「伝えるのは構いませんけど、どうして三人分ですか?」
「いや、レイラにあの残飯もどきを食わせる訳にはいかないと思うし、ハゲも見た感じ勤務中は素っ気無い食事を取ってるから、それに食事は大勢で食ったほうが美味いしな」
「ハゲじゃねぇっ!まだ会って二日目の人間によくそこまで態度崩せるなっ?!」
「人を見る目はある方だ」
「そんな目腐ってしまえ!」
イチヤ様はアルさんとの会話を打ち切って私に向き直る
「で、お願いできるか。厳しいようなら俺の食事を少しだけ増やしてくれるように頼んでくれると助かる」
「どうしてそこまでするんですか?」
「まぁしいていうならこの料理が美味い……いや、作った奴の気持ちが伝わったからかな」
「気持ち?」
「料理が好きで、出来れば美味しく食べてくれると嬉しいなって気持ち。まぁなんとなくだけどな」
おどけた調子で言うがイチヤ様の発言に私は心の中で驚く、どうしてそんな事がわかるんだろう。と
でも反対に、自分の気持ちが少しだけど伝わっていて嬉しいという気持ちもあった。
「じゃあ、作ってる人にそうやって伝えておきますね」
「あぁ、よろしく頼むよ」
私は自分が作ってる事を言わずにイチヤ様にそう告げる。
機会があったら明かしてイチヤ様をびっくりさせようと柄にもなくいたずら心がわいてきました
そうしてアルさんと一緒に部屋を後にした。
「いいのか?作ってのってリアネだろ?仕事が増えて大変じゃないか?」
アルさんが部屋から出ると開口一番そう聞いてくる。
「いえ、イチヤ様が言ったように私は料理するのが好きです。今日中のお二人に初めて会いましたけど、美味しそうに食べてもらって嬉しかったですから。アルさんもご迷惑でなければ作らせていただいてよろしいですか?」
「そういってもらえるのは助かるな。晩飯はかみさんが作ってくれるから良いんだけど、朝と昼は自前になっちゃうんで……」
「わかりました。昼食は三人分用意させていただきますね。それでは失礼します。」
これが私とイチヤ様の初めての出会い。
この時私がイチヤ様に抱いた感想はちょっと変わっているけど、周りの事を考えられるとても優しい人だった。
★
私はいつもどおりの時間に起きると自分の体が重いことに気付く、昨日の夢見があまり良くなかったのが理由だろうと察する。
私は昨日の昼食を持っていった際に自分が付けられた青あざをイチヤ様に見られて動揺し痛みを堪えて逃げ出した。
正直イチヤ様には知られたくなかったんですけどねぇ……
このあざはいつも私達奴隷メイドを冷遇している人族のメイド達によるものだ。私がイチヤ様の食事係をするようになってから行為がエスカレートした。表向き奴隷への暴力を禁止しているがそんな事は関係なく、人からばれないようなところに付けられる。
王様に報告しようにもそんな簡単に会える訳じゃないしまともに取り合ってもらえるものでもない。
だから私が我慢していればイチヤ様にも気付かれないと思ったんですが……
そんな風にリアネはイチヤの事を考えている。
私は一週間近く彼を見てわかった事がある。彼は誰にでも優しいというわけじゃなく、親しくなった者には優しく、それ以外はどうでも良い。悪意を持って接してくる者には容赦しないといった感じで、それは親しくなった者を傷つけても同様だ。
うぬぼれかもしれないけど、イチヤ様は私にも好意的に接してくれてると思う。だからイチヤ様は私のあざを見て本気で怒ってくれて……そして悲しんでいた……
イチヤ様とアルさんの会話からイチヤ様ならあの牢屋を苦もなく脱獄してしまえる。その手でもし私を傷つけた犯人を殺害でもしたらと思うと私は震えた。あの優しいイチヤ様にそんな悲しい事をして欲しくない。そう思ったからだ。
あのあと勇気を振り絞って食器の回収がてらイチヤ様の下に行ったらアルさんに止められた。
「悪いんだけどリアネ。今はちょっと会わせられん。今日はこの食器回収して、晩飯も持ってくるだけにしてくれるか?」
「ですが……」
「大丈夫だ。今日はちょっとおかしくなってるけど、明日になったら元に戻ってる。信じてやってくれ」
「でも」
それでも私は引き下がれない
あの人がおかしな行動にでないか心配だったから
私の考えてる事を察したのかアルさんが私の頭に軽く手を置く
「大丈夫だ。妙な真似は絶対にさせないし。誰も悲しい結果になんてさせねぇから」
強い意志を持った目をしたアルさんが私を見つめていた。私にもその意思が伝わりそのまま大人しく仕事に戻った。その後は仕事をきちんとこなし、夕食をアルさんに預け今日の仕事を終え部屋でなかなか眠れない夜を過ごして少しの時間だけ就寝した。
朝日が差す前に料理の下ごしらえをして今日の自分の担当を少しだけ片付ける。
私の気分は逸っていた
少しでも早くイチヤ様に会いたいと
そして朝食を持っていく時間になり、私は調理し終えていた料理を運ぶ。
まだあざは痛いですが、今はそんな事を気にしていられない
牢屋の前に来るとアルさんがいた。
「朝食を持ってきました!!!」
「お……おう…………とりあえず入ろうか」
アルさんはいつにない私の気迫に圧倒され一瞬たじろぐが、そのまま中に通してくれる。私が中に入ると、イチヤ様と目が合った。私は料理を一度机の上に置き、イチヤ様のいる牢屋に向かう。
私は牢屋の前に立ち姿勢を正す。いつもの猫背ではなく真っ直ぐに。
イチヤ様も私が来たことで牢屋の前に真剣な顔で立ってくれる。
イチヤ様のその態度に私はイチヤ様をしっかりと見つめて声を発する。
「イチヤ様、昨日は逃げたりしてすい――――」
「昨日は怖がらせてごめん!!!」
私の声はイチヤ様によって遮られた。そして私よりも先にイチヤ様に謝られた。
私は驚いた。両親が奴隷だった事もあり、生まれて一度も人から謝られた事がなかったから。生まれた時から奴隷である事を宿命付けられており、そんな奴隷という立場で相手が悪くても、謝る人はいなかったからだ。
逃げた私が悪いのに、イチヤ様は私を気にしてくれて謝ってくれた……
私が怪我をさせられたのを隠していたのにそれを察して自分の事のように怒ってくれただけ
この人は自分の事のように悲しんでくれただけなのに……
何も悪くないイチヤ様を傷つけてしまった
優しいこの人を傷つけてしまったんだと思った私の頬をどんどん涙が流れていく。
「ひっく……ごめ…………なさい……あなた……を……傷つけて…………悲しませて……ごめっ……なさいっ!」
「ちょっ?!えっ?!!??」
イチヤ様が動揺しているのがわかるが、私は溢れ出した感情を抑える事ができずに泣きじゃくる。もうどうしようもなかった。
その場の誰もが何も言わないまま。ただ私が泣きじゃくる時間が続く。そんな時ふわりと自分の頭に手が置かれた。私は泣きながらも何が起こったのかを見る。
そこには視線を私に合わせ。無言で牢の隙間から私の頭に手を置くイチヤ様がいた。イチヤ様は何も言わず私の頭を撫でる。さっきもアルさんが私を落ち着かせようと撫でてくれたがそれとは違う。
ややぶっきらぼうで雑ではあった。だけど次第に心がぽかぽかしてくる。そしてまた感情が溢れ出す。
「うぁぁあああん!」
今度は泣きじゃくるというものではなく盛大に泣き出した。それをイチヤ様は何も言わず撫で続けてくれた
私はひとしきり泣き終わると、急激に恥ずかしさがこみ上げてきた。
「なんか……謝りにきたのに、泣き出して……すいません」
「気にしなくて良いから。人間誰だってそういう時がある」
私は赤面しながら謝ると、少し気まずそうに苦笑いしながらもイチヤ様がそういってくれた。
そして私は更に恥ずかしい思いをする。
食事の準備の為に三人分の皿に料理を取り分け持って行こうとすると
きゅぅぅぅぅぅぅううううううううううう
「「……」」
私のお腹が盛大に悲鳴を上げた。昨日の夜はあまり食欲がわかず、いつもなら軽く朝食を済ませてから食事を持ってくるのだが、今日の朝はイチヤ様に謝ることばかり考えていて朝食を食べていない。そんな私のお腹かが抗議の声を上げたのだ。
その場の全員が気まずい感じで沈黙を続けるが最初に声をあげたのはイチヤ様だった。
「あ~……その……なんだ。リアネ…………今日は俺とはんぶんこして食べようか」
イチヤ様のその台詞を聞いて私はこれまでの人生でこれでもかというくらい顔が真っ赤になったのだった。
イチヤ様……その優しさはいらなかったです
重要キャラの一人を出す予定でしたが思いの他長くなってしまったので延期になりました……
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3月11日 誤字報告があり修正しました。報告ありがとうございました。
5月23日 誤字報告があり修正しました。報告ありがとうございました。