58話 目覚め
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イチヤの体が意思を失ったように床へと倒れ伏し、そのまま意識を失い、それと同時にイチヤの魔法で拘束されていたユージットの従者の魔法もフッと消え去った。
「定着していなかったにしてはもった方だな。素材が良かったのか……その意思が良かったのかは知らんが思わぬところで面白うモノに出会えたな……クク」
不敵な笑みを浮かべながらイチヤを見るユージットの目は面白い玩具を見つけた子供のように楽しげだ。その濁った目とおぞましい雰囲気さえなければ、その楽しげな雰囲気も伝わったであろう。
「殺すなら今しかない!」
「絶対にコロス!コロス!コロス!コロス!」
そんな言葉を漏らしながら彼とは対照的に屈辱的な表情を浮かべたユージットの従者であるダアラとエスイットが皇帝の前までやってきて、気絶しているイチヤに殺意の眼差しを向け、意識のないイチヤの首に剣を突きつける。
「やめろ」
ダアラがイチヤの首に剣を当て、エスイットが逆手に持ち直し心臓部分に突き刺そうとする寸前、底冷えするような声が二人へと発せられる。
その声の主に驚きの表情で振り返ると、声の主であるユージットが、二人の行いを侮蔑の表情で見つめていた。
「なぜ止めるのですか陛下!こいつはクレイグを……!」
「今なら簡単にコロセます!こいつにシを与える許可を!」
仲間が殺され、殺した犯人であるイチヤを殺したい一心で皇帝に嘆願する二人を冷めた目で見ると、先程の楽しげだった様子が一瞬にして苛立った様子に転じた。
「もう一度言う、やめろ……これ以上言う事を聞かないのであれば……我がお前等を殺すぞ」
ユージットが発した言葉に、二人はイチヤに向けていた剣をしまうと彼の前に膝を曲げ深く頭をさげ、それを興味なさげに確認したユージットは身を翻すと扉の方に向かい歩き出す。そんな彼の行動に二人は慌てたように立ち上がるとユージットの後を追いダアラが静止の声をかける。
「お待ち下さい、家臣の一人であるクレイグが殺されたのに報復しなくてよろしいのですか?」
「報復?なぜそのような事をしなければならない?」
「え?」
足を止め、何故そのような事をしなければならないというような不思議そうな顔をするユージットにダアラの思考が一瞬止まる。
「あやつは自分の力を見誤ったが故に無様な死を迎えたのだ。唯一の成果と言えば面白い物を発掘してくれた事か……それ以外にあやつの死には何の価値もない」
ユージットの無情とも言える言葉にダアラが息を飲み、再び疑問の声を上げる。
「クレイグに関しては自業自得……ですがあのガキをを生かす理由がわかりません。今ならあの化物を簡単に切り殺す事だって……!」
「あれは今ここで壊すには惜しい物だ。いずれ我の玩具になるかもしれん物を貴様等に壊させると思っているのか?」
「……申し訳ありません。差し出がましい事を申しました」
「今日の我はいつになく機嫌が良い。貴様の言葉を許そうではないか」
「ありがとうございます。陛下。ですが、お気に召したのなら連れて行かなくてよろしいのですか?」
「いずれ会った時にどう成長してるのか、見る方が楽しいではないか……」
心底楽しそうに語るユージットに、どう答えて良いのかわからないダアラ。そしてユージットは楽しそうな顔をした後に倒れ伏しているイチヤへと見る。
「尤も次に会うまでに死んでしまったのならそれだけの価値と割り切るまでだ」
そうして再び歩き出すユージットは扉の前までやってくると従者に開けさせ外に出る一歩前で足を止め、首だけをゼーブル6世に向ける。
「隷属する気になったらいつでも使いを寄越せ、滅びる前であれば勇者共々受け入れてやろう。それと無様に死んだそこのゴミはラズブリッタの方で片付けておけ。」
「……」
その言葉に口を固く閉じるゼーブル6世を見て、もう用事は済んだとばかりにユージットが従者であるダアラとエスイットを伴い玉座の間を後にした。
玉座の間に残された面々は皆悲痛な様子で頭を垂れる。この惨劇を見て口を開く者は誰一人としていなかった……
▼
意識だけが冷たい水の中にあるように全身の感覚を感じない。
目がないので見れない。耳がないので聞けない。口がないので話せない。手がないので掴めない。足がないので歩けない。
体の全てを失ったように感じる俺だが、自然と恐怖が湧いてこない。まるで元々この状態が普通だとばかりに一切の疑問を抱かない。
意識だけでゆらゆらゆらゆら揺れる感覚を感じそれに委ね。このまま永遠を迎えても構わないという気持ちを抱く。
自分にやってくる永遠、この世界でならやすらぎを得る事が出来るだろう。
そう思った瞬間俺の意識を照らすように一筋の光が俺の意識に当てられる。
不快という事はなく、とても暖かで優しい光に俺の意識は引き上げられるようにして光の中心へと向かう。
目がないはずなのに感じられる光は中心に行くにつれ強くなり俺がその中心にたどり着くと一気に弾け、俺の意識がまばゆい光に包まれた――。
「ん……んぅ……」
光を感じ、ゆっくりと目を開けて周りを見回すといつもの牢屋の中だった。俺はさっきのシーンを思い出し、自分が切られたであろう左腕を右手で触って感触を確かめた後に今度は左腕を回してみる。
うん、何処にも違和感はないな
「なんだ……さっきのは夢か……」
その一言を呟き掛け布団をひっぱり二度寝を決め込もうとすると小さな違和感を感じ、その違和感を探すとそれはすぐに見つかる。
「リアネ?」
リアネが俺のベットに上半身を預けて寝入っていて、涙で布団を濡らしていた。
「気付いたか?」
その声に視線を向けると、無表情であるが真剣な雰囲気を漂わせたレイラがこちらをじっと見ている。
「気付いたかって……俺は寝ていただけだぞ?」
「……」
彼女の真剣な様子に俺は努めて明るく振舞うが、それでも彼女が纏わせている険しい雰囲気が消える事はない。
本当に一体どうしたというんだ?
頭の中で疑問符がいくつも浮かび上がり、この状況の不自然さに首を傾げると、俺が身じろぎしたためか、涙で濡らしたリアネの瞳がゆっくりと開かれる。
「!?イチヤ様っ!いちやさまぁぁぁああああ!」
「うわっ!?」
いきなり目を開けたリアネと目が合うと、リアネは俺へと飛びついてくる。その勢いはかなりのもので俺は再びベットへと仰向けになった。
「良かった……よかったよぉ……」
俺の胸に顔を押し付けるリアネの頭を優しく撫でる。この状況に頭がまったくおいつかないが、泣きじゃくるリアネを放置する事も出来ないので、そのまま彼女が落ち着くのを待つ事にした――。
しばらくすると落ち着いたリアネに一体何があったのか尋ねると驚くべき事実を聞かされた。
「俺が三日間意識を取り戻さなかった……?」
「はい……」
どうやら俺はこの三日間意識を取り戻さないで、ずっと寝たままだったらしい。一体何があったのか……リアネもレーシャが兵を連れてここに運んできてくれた際に事情を聞くと、どうやら俺が夢だと思っていた出来事は全て実際に起こっていたようで、俺の腕は本当にぶった切られたようだ。
「でも、ちゃんと腕はついてるし、体の何処にも異常を感じないんだが」
ベットから起き上がり自分の体を動かして何処かに異常がないか確認するが何処にも痛みを感じないし傷跡と呼べるようなところもない。
念の為服とズボンを脱いで体の隅々まで確認する。うん。異常は――あ……
「ここ蚊に刺されてるじゃん!……ってどうした二人とも」
「何でいきなり服を脱ぎ出してるんですか!?しかも蚊にさされてるじゃん!って……ふざけてるんですか!?」
「イチヤ……君って奴は……」
呆れ顔のレイラに、恥ずかしそうに顔を真っ赤にして怒り出すリアネ。結構真面目に自分の体を心配したんだが、二人にはわかってもらえなかったようだ。
そんなやりとりをしていると扉がガチャリと開かれ外からはアル、レーシャ、委員長がやってきた。
「鏑木君!」
「イチヤさん!」
俺が起きてる事を確認した二人は急ぎ足で俺の下までやってきて俺の姿を見ると足を止め顔を真っ赤にする。
「「どうして裸なんですか!ふざけてるんですか!??」」
奇しくもさっきリアネに言われた言葉を二人にも言われ、いたたまれない気持ちになった。
ふざけてるつもりはないんですがね……
とりあえず三人が後ろを振り向いている間に服を着直すと、アルが声をかけて来る。
「目覚めたみたいでなによりだ。しかも起きて早々女の子にセクハラとはやるじゃねぇかイチヤ」
「そんなつもりないからな!不可抗力だからな!」
「みなまでいうな。そういう年頃だもんな」
どういう年頃だよ……
みんなとの騒がしいやりとりを終えると、事情を飲み込めていない俺はみんなに俺の牢屋に入ってもらった。リアネにお茶を出してもらい、俺とアルが床に、リアネとレーシャと委員長にはベットに座ってもらった。レイラは牢屋から出れないのでいつも通りだ。
「さて、まず始めに……みんなには心配をかけた。本当にごめん……」
そう言って一人一人に視線を向けてから謝罪する。まだ事情を完全には飲み込めていないが、心配させたのは確かだ。そのけじめをつけるため頭を下げる。
「イチヤさんが無事で本当に良かったです」
レーシャのそんな一言に周りのみんなも頷き笑顔を向けてくれ、みんなの笑顔に暖かい気持ちなる。
そして俺の謝罪にみんなが許してくれた事で改めて何があったのか……皇帝がやってきたあの日の事にを尋ねる為にレーシャと委員長に視線を送った。
正直リアネの説明だけじゃわからない部分も多くあり、あの日あの場にいたレーシャと委員長ここに来てくれた事は僥倖と言えるだろう。
俺が覚えてるのは腕を切られて意識を失う前まで。その事を伝えて今度はレーシャと委員長に頭を下げる。
「レーシャ、あの時何もしてやれなくてごめん……委員長……今までの事と、あの時かばってもらったのに……俺のせいで怪我をさせてごめん……それと庇ってくれてありがとう」
その言葉にレーシャと委員長が微笑みを浮かべて意外な言葉を口にする。
「気になさらないで下さい。あの場を治める事が出来たのは偏にイチヤさんのおかげです」
「気にしないで、あれ以上の怪我をしなかったのは鏑木君のおかげなんだから……」
「二人とも何言ってるんだ?俺は腕を切られて無様に気絶していたんだ。あの場を治めたり委員長を守る事なんて出来る訳ないじゃないか」
「「……え?」」
二人にそう言われた俺は何を言われているのかよくわからなかった。俺のおかげ?俺はただ無様に腕をぶった切られて気絶していただけのはずだ。リアネも確かにそう言っていた。
「あの……イチヤ様」
頭に疑問符を浮かべていると、少し申し訳なさそうにリアネが声をかけてくる。
「どうした?」
「申し訳ありません……実はさっき私がレイシア様や結花さんから聞き及んだ話には続きがあったのですが、あまりにも不可解な点が多く、目覚めたばかりのイチヤ様に心労を与えたくなかったので黙っておりました」
深々と謝るリアネにますます訳がわからない。続きがある?どういう事だ?
「とりあえず話してもらっていいか?レーシャや委員長も気になる点や補足がある場合教えて欲しい」
そうしてリアネが話し、レーシャや委員長が補足を加えながら俺が気絶した後の出来事を聞かされた俺は信じられないと言わんばかりの内容に驚く事しか出来なかった。
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