56話 敗北
本日二度目の投稿となります。
注意:胸糞悪い描写を多分に含んでおりますので、そういう描写が苦手な方はお気をつけ下さい。
「いい加減にしろよ!てめぇ!」
静かな玉座の間に俺の怒声が響き渡り周りの人間が皆、驚愕の表情を俺へと視線を向けて来ていたがそんなものを気にする余裕が今の俺にはなかった。
不快だとは思ってもここで事を荒立てては面倒な事になるとわかっていたからなんとか耐えてきたのだが――レーシャが頬を叩かれた事で、俺の我慢が限界を迎えた。
「なんだ貴様は?」
心底不思議そうな顔をして怒声をあげた俺の方に視線を送る皇帝を睨みつける。
「俺はカブラギ・イチヤ。異世界召喚されてこの世界にやってきた一人だ」
「ほぅ……そのイチヤが何を怒ってるのか知らんが、仮にも一国の皇帝に向かってその口の聞き方……覚悟は出来てるのであろうな?」
年相応とは思えないほど底冷えする雰囲気を纏わせる皇帝に動じる事もなく、一歩前に進み出る。
「皇帝だかなんだか知らないが、それが女の子に対して暴力を振るう理由にはならねぇだろうが!」
「女の子?アハハハ、これは傑作だ!仮にも姫という立場のこの女の事を女の子などと称するとはな!お前の言う女の子とは……これの事だろう?」
皇帝はそう言うと倒れ伏しているレーシャの背を足で踏み、俺に向かって挑発的な笑みをうかべると、かかとに力を入れてぐりぐりと踏みつける。まるで俺に見せ付けるかのようなその姿に血管が切れそうなほど怒りが沸きあがる。
「てめぇ……」
ギリギリと音がしそうなくらい奥歯に力を入れ皇帝に対して憎悪が湧き上がると俺の周囲に黒いオーラが吹き荒れた。
「……」
俺から黒いオーラが吹き荒れるのを見て、真剣味を帯びた表情の皇帝の前に皇帝の従者の三人がいつの間にか抜いていた剣を構え俺へと対峙する。
「おい、いい加減その汚い足をレーシャからどけろ……!」
「つくづく礼儀の知らん奴だな。そんなに言うなら力ずくでどけてみろ」
その言葉と同時に二つの剣を精製し突進し、三人のうちの一人――クレイグと呼ばれていた男だけが前に出てきたので、そいつに向かって刃を振り下ろす。
ギンッ――!
俺とクレイグが剣を打ち鳴らし、その音がこの玉座の間に響き渡る。
クレイグの持つ大剣と俺の片手剣が交差しギリリッという音がさせながら、その剣をずらすようにして押し流し、体をひねりもう片方の剣で喉元目掛けて振り上げるとクレイグは顔を逸らし大きく飛び退き距離をとられた。
「……思いの他良い動きをするな」
「……」
まさか今のをかわされるとは思わなかった……しかもコイツ……全然力を出してるようには見えない。
真剣な表情で俺を見据えるクレイグを睨み返すように見ながら、若干焦りを覚えたのだが、その気持ちを振り払い、足に力を込め、一気にクレイグとの距離を縮めて連撃を放つ。
ステータスの恩恵とでも言えば良いのか片手でもクレイグの大剣を受け止める事が可能な為、隙を作る為にがむしゃらに剣を振るう。
だが、幾度も剣戟の音が鳴り響き、攻撃を繰り返しているのに一向に相手に致命打を与える事ができない。
おかしい……そう思いはするのだが、今隙を見せれば確実にやられる。それがわかっているので攻撃の手を休めることなく剣を振るい続ける。
そんな俺の剣をクレイグは焦ることなくかわし、受け止め時には距離を取って俺の攻撃が当たらない位置へと移動して再び俺に向け剣を構えるといった事を繰り返している。
「なぜ攻撃してこない……?」
「答える必要があるのか?」
そう……さっきからクレイグは防御ばかりで一向に攻撃してくる気配がないのだ。
その余裕がなくなるくらいの剣戟をお見舞いしてやれば良い……
再びクレイグとの距離をつめ、剣の速度を上げる。この黒いオーラが吹き出ている時は思考が鈍くなるような感覚があるが、それとは逆に体が凄く軽く感じる。
だから俺ならもっと早く、もっと強い一撃を放つ事ができると確信している。
ガギンッ!ギンッ!ギギィィィン!
響く剣戟の音は次第に早く、大きな音となって部屋中を覆い音楽のようになり響く。
いくつもの切り傷を作り、血飛沫が噴出そうとも剣を振るい続ける。
既にクレイグと何十と打ち合い、徐々に俺の速度が速くなってきている事でクレイグが少しずつ押され始めた。
いける!その確信と共に大きく剣を振り下ろす。
クレイグの大剣を片手剣で斜め下に逸らし、体勢を立て直す為に再び大きく跳躍して後ろに下がろうとするクレイグを逃がさないように俺も前へと跳躍して振るっていない方の片手剣をクレイグの首元目掛けて振るう。
確実に倒した。その確信と共に振るった剣は――――クレイグの隠し持っていたナイフによって受け止められる。
「……ちっ」
思わず舌打ちしながら俺自ら距離をとりクレイグを睨みつける。
「クレイグ……いつまでその男を遊んでいるつもりだ?」
いつの間にかレーシャの体から足をどけた皇帝がつまらない見世物を見るようにして俺とクレイグの戦いを見ていた。
「申し訳ありません。この中ではそこそこ出来るだろうと思いまして実力を計っておりました」
「して、お前から見てそやつは使えそうか?」
「はっきり申し上げて、話になりません。少しばかり虚をつかれる事はありましたが、剣の技術や体捌きなど素人そのものです」
「そうか……つまらん」
興醒めしたと言わんばかりの皇帝。
「そんな風に言うんだったらお前の強さってものを見せてみろ!」
皇帝とクレイグが俺の事を酷評する事に更なる怒りが沸き、クレイグに切りかかった――。
ガキンッ!ガキンっ……
「なっ……!?」
「そんな素人丸出しの剣が――――俺に通用すると思うなよ!ガキィィィイイイイイイ!」
俺がクレイグに迫ると同時に放った渾身の一撃が容易くクレイグが片手で振るった大剣によって弾かれると先程まで冷静に俺と剣を交わしていたクレイグが急に豹変し、守勢だった彼の剣が攻勢へと転じる。
「くっ……」
「人が手加減してれば付け上がりやがってよぉクソガキが!本当の剣技ってもんを教えてやらぁぁあああ!!」
攻勢へと変わったクレイグの剣はさっきとはまるで速度も重さも違うものになり俺は防戦一方で攻撃の隙を窺う事さえ困難なものとなる。
「オラオラオラ!さっきまでの威勢はどうしたよ!ウラァァアアアアア!」
怒声と共に攻撃の速度が更に上がり、持っていた片方の剣が弾かれ宙を舞い、驚いた隙をつかれて腹に思いっきり蹴りが叩き込まれた。
「ガハッ!!!!」
その蹴りによって大きく吹き飛び、壁に激突した俺の口から空気と共に血を吐き出した。
「ったく……実力差もわからねぇ雑魚の分際で粋がってっからこういう目にあうんだよ」
そう言いながらゆっくりと俺の下に歩み寄るクレイグに体に力が入らなくなった俺は睨みつける事しか出来ない。
「まぁ……殺しゃあしねぇよ、だけどな。世の中の厳しさってものを体に刻んでおかないとてめぇみてぇなガキはまた忘れちまうだろうからな」
クレイグが大剣を振り上げるのをただ見つめる事しかできない……
あぁ……こりゃ死んだな……殺さないとか言っときながら殺す気満々じゃねぇか……
心の中で悪態を吐き、死を覚悟したその瞬間……一人の女性が俺の上に覆いかぶさってきた――。
「何の真似だ。こりゃあ?」
「……委員長」
俺の上に覆いかぶさってきた委員長は必死に俺にしがみつき懇願するような目をクレイグに向ける。
「もう鏑木君に戦う力はないです!お願いですから彼をこれ以上傷つけるのはやめてください!」
「……」
ぎゅっと俺を掴む力を強め気丈に振舞う委員長だったが俺には……俺だけにはわかる。俺に触れる委員長の手の震えを感じる。
あんなに素気無い態度をとった俺に、どうして委員長がそこまでするのかわからない。俺がいじめられていたのを助けられなかった贖罪か……だとしてもそれは委員長が気にする事じゃない。今の俺はそう思っている。
「俺の事は良いからどけろ……じゃないと委員長が――」
「嫌です!今ここでどけたら私は一生後悔します!」
そう言って更に密着してくる委員長に、俺は何も言えなくなってしまう。そんな俺達二人の様子を見ていたクレイグが――剣を下ろして口を開く。
「おいおい、男を庇って女が気丈に振舞う……泣かせるじゃねぇか……」
目元を拭う仕草をしながら俺達二人に笑顔を向けるクレイグを見た委員長が安心するように息を吐き出す。
「じゃあ――」
ドガッ!
「ガッ!」
無情にも委員長が口を開いた瞬間――クレイグが委員長のわき腹を思いっきり蹴り上げ、俺の上から委員長を吹き飛ばした。
吹き飛ばされた委員長はわき腹を押さえて咽るように咳をしながらうずくまる。
「てめぇ……」
その様子を見て憎しみの視線をクレイグに送ると、クレイグも俺を冷めた目で見返す。
「馬鹿か……?戦闘中に陳腐な三文芝居をやったところで誰が見逃すと思ってんだ?見ていて吐き気がすんだよ!てめぇら舐めてんのか?」
心底くだらないものを見せられたというようにはき捨てると、再び剣を持ち上げる。
「それじゃあ今度こそ終いだ。これに懲りたら自分の分を超えた行いは控えるんだな!」
ザシュッ――!
「ア゛アアァァァァァァァァア゛ア゛ア゛」
クレイグの言葉と同時に振り下ろされた大剣は、俺の左腕を切り落とし、俺の切り離された箇所からは血飛沫が舞い、俺の悲痛な叫びが玉座の間に木霊した……
読んでいただきありがとうございます。
本当は十四時に書き上げる予定が戦闘シーンが苦手な為時間がかかってしまいました。楽しんでいただけたら幸いです。
ブクマ、評価をくださると次の執筆の励みになりますので、よろしくお願いします。あとどんな感想でもお待ちしていますのでご意見ご感想あれば自由にお書き下さい。
それではまた!
次回の投稿を楽しみにしていただけたらと思います。




