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53話 来訪

「行って来ます」

「行ってらっしゃいませ。くれぐれもお気をつけて下さい」

「わかってるよ、無理はしないから安心してくれ」


 説教をされたから日課となっている魔法の練習に行く為に俺はリアネやディアッタ、クルエと言ったメイド達に挨拶してするとそんな心配するような声が返ってくる。


 前に心配されてから自分でも怪我をしないように、無茶しないように注意しているんだが、やっぱり自分達の目の届かないところに行くのが不安なのだろう。それが表情にも表れている。


 やはり一度失った信頼というのは取り返すのが難しい……


 特にリアネが一番不安そうにしているので、出かける際には彼女の頭を優しく撫でるといった事が恒例となっていて、他の人間が俺とリアネの行為をみると微笑ましい表情で見ているのだが、見られている身としては恥ずかしいものだ。


 リアネの頭をひとしきり撫で終え彼女の表情にいつもの笑みが浮かぶのを確認して手を放す。正直この手を放した瞬間はいつも物悲しく感じる。


「それじゃあいつもの時間には必ず帰ってくるから」

「はい……おいしいものを作って待ってますので……早く帰ってきてくださいね」



 うん……これだけ聞いたらなんか新婚気分になるな



 そんな事を考えたら急に頬が熱くなってしまったので、ごまかすように、ぽんっとリアネの顔を見ずに頭に手を置き、すぐに放すと踵を返して階下へと向かい歩を進め、ゆっくりと階段を下り一階までやってくる。 



 さて、今日も威力の調整を練習しますかね



 あれから何度も練習しているのだが、一向に火力を制御出来ない。たぶん吸われる時にそれに抵抗すれば良いと想うのだが、その方法がわからないのだ。


 レイラにも威力を抑える方法を聞いてみたのだが、彼女曰く詠唱された魔法によってその吸われる度合いが変わってくるらしいが、俺にはどうやら当てはまっていないのだそうだ。



 普通とは違うのだからとりあえず練習あるのみだと思い、今日も色々と試行錯誤しよう



 改めて気合を入れなおし王城の門までやってきたのだが、背後から俺を呼び止める声が聞こえてくる。


「イチヤさぁん!」

「ん?」

「お待ち下さぁい!」


 声の方に振り返るとレーシャが慌てた様子で王城の階段を駆け下りて、必死に声を張り上げていた。

 そんなレーシャの姿を確認すると、足を止め必死に走ってくる彼女が来るのを待つ。


 一体どうしたんだろう?


「はぁ……はぁ……良かった。まだ王城にいてくださって……」

「レーシャ?そんなに慌ててどうしたんだ?それにその格好……」


 最近はよく俺の牢屋にやってきて世間話をしたり、彼女が持ってきたお菓子をみんなで食べたりとレーシャとの仲は良好と言える関係を気付けていると思う。


 そんな彼女なんだが、普段からドレスは着ているんだが、今日はいつにもまして豪華なドレスに身を包んで普段つけていないようなアクセサリーも身につけ、普段よりもしっかりと化粧が施されている。


 個人的には化粧をしていないレーシャの方が可愛いと思うんだが、今日は一体どうしたのだろう?パーティでも開くのか?


 不思議な顔で、レーシャの方を見ると、彼女は急いで走って来た為荒い呼吸になっていた息を整えると少し申し訳なさそうな顔をする。


「申し訳ありませんが、少しお時間を頂けませんか……?」

「それは良いけど、何か用事?」

「あの……はい……」


 レーシャは用事があると言ったにも関わらず、なぜか言葉を濁して、暗い表情を浮かべるだけで次の言葉を発しようとはしない。

 そんな彼女の頭に手を乗せ先程リアネにしたようにぽんぽんとした後に優しい笑みを作るよう努力し、彼女に向ける。


「言うだけ言ってみてくれるか……?無理な頼みでもなければ聞くからさ、な?」


 俺は優しく語りかけながら、彼女の頭を優しく撫で付ける。本来であれば不敬極まりない行為なのだが、この場にいる兵士は誰もその事を咎める者はいない。たぶん俺が獣人族の襲撃を退けた事をわかっている連中なのだろう。


 そうしてしばらく撫でているとレーシャが心地良さそうな表情をしていたのだが、急に我に返ったように首を左右にぶんぶん振ると真剣な表情を作り俺を見つめる。ようやく話す決心がついたようだ。


「イチヤ様、お願いがあります。私と一緒に玉座の間まで来ていただけませんか?」

「へ?」



 頼みってそんな事か?言い難そうにしていたからどんな事を言われるのかちょっとヒヤヒヤしてしまったけど、そのくらいだったら全然問題ない



「別にそのくらいだったら全然構わないよ」

「ホントですか!?」

「あぁ、そこまで手間って訳でもないからな。でも何でそんな言い難そうにしてたんだ?何かあるのか?」

「はい……」


 俺の質問に再び暗い表情を浮かべる彼女。だが、さっきまでとは違い今度はすぐに言い淀んだ理由を教えてくれた。


「実は今日同盟国であるヴェルスタン帝国の皇帝ユージット・ゼン・ヴェルスタン様がお越しになるんですよ」


 確かアルがこの世界の歴史を語ってくれた時に聞いた国だったな。人族の国として二つしか残らなかったもう片方の国か。


「帝国の皇帝が来るのはわかったんだけど、それでどうして俺が玉座の間に行く事に?」

「それは……帝国から今日来訪するという書状と共に勇者召喚された勇者も同席させろと……」

「勇者を同席ねぇ……俺は勇者ではないんだが」


 普段から勇者ではないと公言していて、レーシャもそれをわかっているからか、俺を勇者とは呼ばない。


「イチヤ様の言いたい事もわかるのですが、勇者召喚された人数……死者なども向こうは知っていますので、ごまかす事も出来ないのです。申し訳ないとは思うのですが、どうか……」

「わかった」

「……自分で言っておいてなんなのですが……良いのですか?」

「まぁ面倒臭そうってのが本音なんだけど、行かなきゃレーシャが困るんだろ?だったら少しくらい面倒臭くても行くさ」

「――ありがとうございます!」


 俺がそう言うと、レーシャは本当に嬉しそうな表情をして熱を帯びた表情で俺を見つめる。最近彼女と接していてよく見る表情なのだが、勘違いしそうになるので、出来ればやめてくれると助かる。



 本人に言うと、どんな反応をされるのかわからないので言わないけどな



「それで、今から行けば良いのか?」

「はい。指定されていた時間もうすぐなので出来ればすぐに来て頂けると助かります」

「わかった。あとこの格好で良いのか?」


 魔法の練習に行く予定だった為、汚れても良い様な服装なんだが、顔見知りの王様とか大臣ならともかく、初めて会う皇帝にこの格好で大丈夫なんだろうか?


「もうすぐと言ってもあちらにも来てからの準備があるでしょうから、イチヤ様着替える時間くらいはとれる筈ですので、着替えてもらってもよろしいでしょうか?」

「わかった。じゃあ着替えてそのまま玉座の間に向かうから王様にはそう伝えておいてくれるか?」


 そう言って牢屋に戻ろうとすると、レーシャが俺の腕を掴んで、ひき止めようとする。


「お待ち下さい」

「いや……時間が無いんだろ?だったら早く着替えてこないと」

「着替えは私の方で用意しますから一緒に来てください」


 レーシャの提案に一瞬目を丸くするが、確かにこの世界の姫である彼女に用意してもらった方が失礼がないものと思い、彼女の後に続き、着替えに向かった。



 よくよく考えてみたら自分の持っている服っていくら良い物でも高が知れてるし、あまり身分の高い者の前に出る服装ではないからな



 そうしてレーシャに連れられ着替えをする部屋に連れて行かれ、ある部屋の前に辿りつき扉を開け中に入ると、そこには数人のメイドさんが待機していて、俺達が入ってくると深々とお辞儀してきた。

 その光景に呆然としてしまう。何この状況……


「……」

「では後の事はお願いしますね」

「かしこまりました」

「くれぐれもイチヤさんに失礼のないように、それと彼に”ふさわしい”服をお願いします」

「重々承知しております」

「そうですか。ではイチヤ様、私はこれで失礼します。また後で」

「えっ!?ちょっ!??」


 呆然としている俺に一言告げるとそのまま部屋に部屋を後にするレーシャ。我に返った時には俺と数人のメイドさんだけとなっていた。


「では、イチヤ様にはこれから着替えていただきます」


 たぶんこの中で一番偉いのだろう彼女がそう言うと、他のメイド達が一斉に動き出す。


「ちょっ!まっ!自分で着替える。自分で着替えられるから!」


 いきなり俺の服を脱がせようと二人のメイドさんが服とズボンに手をかけてきたので、慌てて静止の声をかけたのだが……


「着替えさせるのも私達メイドの職務なので、お気になさらず」

「気にするわ!とにかく自分で着替えるから!お願いだから服だけ置いて出てってくれ!」


 少し強めに言ったのだが、メイドさん達は一向に出て行く気配がなく、問答無用で脱がしにかかる。


「時間が無いので大人しくしてください!」

「人の話を聞け~!」

「問答無用」

「アッー!」


 俺の抵抗虚しく、あっという間にパンツ一丁にひん剥かれた俺は乙女のように腕で体を隠したのだが、それもすぐさまどけられ瞬く間に着替えさせられたのだった……





 正装に着替えさせられ、髪もセットされた俺は死んだ魚のような目で玉座の間の前までたどり着き、俺の姿を確認した兵士に扉を開けてもらい中へと入った。


 中には今日来るであろう皇帝以外の全員が揃っているようで、俺が入ってくると全員の視線が俺へと向けられる。


 俺も周りと見渡すと……王様とレーシャがいつもよりも豪華な衣装を着ている以外はクラスメイトやクソ教師は制服などに身を包んで、髪も特にセットされた様子もなかった。


 その姿を見た俺は――。



 あれ?俺だけ浮いてないか?!なんか一人だけ気合入れてきましたみたいな感じで凄く恥ずかしいんだが!?



 そんな感想を抱き、諸悪の根源であるレーシャの横まで歩いていくと彼女に非難の目を向ける。


「俺以外全員普通の格好なんだが……!」

「みなさんの正装は召喚された時の物だそうでそれを着てきてもらいました。それよりイチヤさん……とっても良くお似合いですよ」


 満面の笑みを浮かべ一切の悪気なしにそんな称賛を送られてしまい俺は何も言い返せなくなってしまう……



 もしかして素でこの格好をさせたのか?!この娘天然なの!?ねぇ!??



 レーシャに対する認識に頭を抱え膝を折ろうとしたところ、閉じられた扉がゆっくりと開きそこから複数の人間を引き連れ皇帝と思われる人物が中へと足を踏み入れる。



 どうやら落ち込む時間すら与えてもらえないようだった。

読んでいただきありがとうございます

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