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52話 説教

本日三度目の投稿となります。どうかお付き合い下さい。

 今現在の俺の状況はというと……レイラの牢の前で彼女と共に床に正座させられ、説教を受けている最中です……はい……



 なぜそんな事になっているかというと、説明するまでもないのだが、先程俺が放った火球で牢屋の壁を木っ端微塵にしたせいだ。

 あの後すぐに牢屋からしたでかい音に反応したアルが慌てて中に入ってくるとその惨状に驚愕の表情を浮かべた。


 その時の第一声がこうだ。


「なんじゃこりゃあぁぁぁぁああああああ!?!?!?!」


 その声の大きさは壁が破壊された時の音と同等かそれ以上の大きさだったように感じた。


 次に続々とリアネやクルエ、ディアッタなどのメイド達が入ってくるとアルと似たような表情になり、状況を把握しきれずに呆然としていたのだが、リアネはいち早く我に返ると俺の牢の扉を開き俺の心配をしてくれる。



 ここまでは良かった……そう、ここまでは……



 その後アルに問い詰められるという形で俺とレイラから事情を聞いたリアネ達の表情はまさに鬼の形相といった感じに変化した。


 一応創生魔法で壁を修復したのだが、それでは許しはもらえないようだ……





「イチヤ様!聞いているんですか!」


 軽く現実逃避しているとリアネの怒った声が耳に入ってくる。


「すいません……」


 それ以外に返す言葉を思いつかない俺を見て、リアネは涙目になって怒っている顔から深い溜息をつくと真剣な表情で俺へと目を合わせ、今にもその涙が滴り落ちる目で俺へと静かな声で話しかけるように告げる。


「何で私が怒っているか……わかりますか?」


「それは……俺が壁を盛大に壊したから――」


「違います!!!!」


 リアネから発せられる強い否定の声に俺は目を丸くする。


「イチヤ様は何もわかっていません……確かに壁を壊した事は問題です……でも私が怒っている理由はそうじゃないんです……」


 今まで泣かないように我慢していた涙が一つ、また一つとリアネの目から滴り落ちリアネは嗚咽交じりの声をこぼしながらもそれでも強い意志の宿った瞳で言葉を続けた。


「壁はまた直せば良いんです……直す手段があるんです……でも……イチヤ様は違うんですよ……」


「……」


「イチヤ様は一度死んでしまったら生き返る事は出来ないんですよ……なのに……なんで、そんな無茶して魔法の練習をしたんですか……自分の体を酷使して無茶する必要が何処にあるんですか……」


「……」


 嗚咽交じりの彼女の言葉が胸に突き刺さり、リアネに返す言葉が思いつかない。努力する事が楽しいと感じて無茶をしている自覚はあった……


 だけど、レイラに注意されても何処かで楽観的に考えて、起きてからもオドへの干渉が成功した喜びと属性魔法を使えるという期待が勝り、死というものを軽んじていた……何かあってもアルやレイラがどうにかしてくれると心の中で安心していた……


 その短絡的な思考の代償が今のリアネの涙だと思ったら俺は何も言えなくなってしまった……


「イチヤ様……お願いですから自分を大事にしてください……」


 そう言って俺の肩を優しく掴み目から零れる涙を拭いもせずに真剣な表情を崩し、俺へと優しく微笑みかけてくれた。


「……ごめん」


 リアネの言葉にそれだけを言うのが精一杯だった。


 彼女の言葉でどれだけ自分が心配をかけたのか理解したから、それ以上の言葉を紡ぐ事が出来なかった。


 俺が項垂れるように下を向くといつの間に溜まっていたのかわからない涙が俺の目から零れるようにして床にしみをつくる。


 どうしてもその涙を止める事が出来ない。なぜか拭うこともする気が起きない。だからその涙が尽きることがない。


 そんな時、俺の頭を優しく包み込む感覚を感じた。


 リアネが涙を流しながらも優しく俺の頭を胸にぎゅっと抱きしめてくれているようだ。


 その感覚にまるで心まで優しく包まれているように感じる。


「……もう二度と無茶な事はしないでください。イチヤ様がいなくなっちゃったら悲しいです」


「……ごめん」



 正直な事を言うと、俺は心の何処かでこんなにも心配してもらえるなんて思っていなかった。そんな価値が自分にあるとは思っていなかったのだ。


 リアネが涙を流して怒ってくれた時、申し訳ない気持ちと同時に嬉しかった……こんな俺でも真剣に心配して怒ってくれるんだと……






 しばらく周りの人間も俺達のやりとりを口を開くことなくただ黙って見守っていたのだが、やがて一人の女性が前に出てきた。


「イチヤ様」


「ディアッタ……」


 彼女は俺の名前を呼ぶと牢への扉を開け、静かに中に入ってきて、リアネに目を向けると少しどくようにと目で訴え、リアネもディアッタが何か言いたい事があるだろう事を察して抱きしめていた腕を放して場所を譲る。


 リアネがどいた位置に移動してディアッタが俺の目線に合うように屈むとすぐさま真剣な表情になり片手を振り上げる。


 パンッという音が響き、静かな牢屋に木霊した。


 平手打ちを受けた頬がじんじんと熱を持つ。まさかディアッタにぶたれると思っていなかった俺は、驚きの表情でディアッタを見ると彼女の瞳には怒りの色が見えた。


「失礼致しました。本来ならばお叱りを受けるような行為とわかっておりますが、反省はしておりません」


「……わかってるよ、俺がした事はそれだけみんなを心配させたんだ。殴られて当然だ」


「反省しておられるようですね……でしたら今後このような愚行はこれっきりにしてくださいませ」


「ごめん……」


 目を伏せ、ディアッタに深く頭を下げると、彼女はそれを確認してから平手打ちをして赤くなった頬にそっと触れる。


「イチヤ様、あなたがお亡くなりになった時、私達はどうすれば良いのでしょう……?」


「それは……」


 亡くなった後、みんながどうなるかなど、今まで考えた事もなかったので、どう応えていいのかわからない。


「その顔はわかっておられないようですね」


「……ごめん」


 ディアッタの瞳から怒りの色が消え呆れ交じりの溜息を吐かれる。


「イチヤ様は仕方ありませんね……たぶんイチヤ様がお亡くなりになられたら私達は再び元の生活――つまりイチヤ様と出会う前の生活に戻る事でしょう」


 それはつまりまた他の人族に蔑まれ虐待のような行為に耐え続ける生活に戻るという事だろう。その事を想像し、先程感じた胸の痛みが再び襲ってきた。


「今まで言った事はなかったのですが、私は今のこの生活を幸せだと感じています」


「え……?」


 ディアッタの告げた言葉が意外で思わずそんな言葉が漏れる。正直ディアッタにはメイド長としての仕事をお願いしてしまい前よりも忙しく働かせているんじゃないと心配していた。だから彼女から発せられた言葉に驚いてしまったのだ。


 そんな俺を見て普段無表情の彼女はわずかではあるが、俺に笑みを見せる。それはほんの少しの変化で普段から彼女と接していないとわからないくらいの変化だが、確かに彼女は笑みを浮かべていた。


「ふふ、私がそんな風に感じているのは意外ですか?」


「……正直前より忙しくさせているんじゃないかと心配していたんだ」


「確かに……みんなに指示したり補助したりと忙しくなりましたが……それでも私はこの生活に充実感と幸せを感じていますよ」


 はっきりと幸せだと告げる彼女の言葉に何処か救われる気持ちになる。


「そう思っているのは私だけじゃないと思います。私達はあなたの奴隷になって救われました」


 ディアッタの言葉を受け、他のメイド達も大きく頷く。その様子を見て嬉しくもあり申し訳ない気持ちでいっぱいになった俺にディアッタは真剣な表情に戻るとゆっくりと俺の頬をさする。


「だから私の――いえ……”私達”の幸せを奪わないで下さい。イチヤ様が亡くなるという事は私達の幸せが無くなるのと同じ意味だとご理解ください」


「わかった……今回の件、本当にすまなかった」


 俺の謝罪に満足したような表情になり一つ頷くとディアッタはそのまま牢から出て行く。どうやらディアッタとの話はこれで終わりのようだ。


 それからも様々な人に怒られ、いかに俺が大事な人間かを諭された。


 こんな風に俺を想ってくれる人達がいるんだ……もうくだらない事で泣かせるような事は止めよう。心配かけるのはやめよう。――心の中で誰に聞かせるわけでもない誓い。だけどそれで良い……これは自分自身への誓いなのだから。










 一通りの説教を受けた俺は深く反省しみんなの満足が得られると食事の時間となり、変わらぬ食事風景が展開されみんな一様に笑みを浮かべる。


 もしあの時俺が亡くなっていたらみんなの笑顔も同時に奪っていたのだろう。そう考えると本当に悪い事をしたんだと反省した。


 魔法の練習について、みんなと話し合うと、まずアルからここでは絶対にやるなという注意を受け練習するなら王都の近くにある森まで行けと言われた。


 その森はあまり魔物が出ない比較的安全な森だそうで、後日行ってみたところ時々ゴブリンが出るのだが、俺の姿を見かけると逃げていってしまい、戦闘になる事はなかった。どうやらこの森には気の弱い魔物しか住んでいない様だ。


 次に練習時間なのだが決められた時間を守り、少しでも体調に異変をきたしたらすぐ戻るように言われた。今回の事があったので、俺も無茶するつもりはない。



 俺が死ねば悲しむ人間がいる事をみんなから教えられたからな。 



 そうして決められた時間森へ行き、魔法の練習をして牢屋に戻るという平和な生活をしている俺の元にまたしても異世界事情が舞い込んでくるのだった――。

読んで頂きありがとうございます。

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