43話 どうしてこうなった……? 5
若さ故の過ち、レイラはばっさりとそう切り捨ててあっけらかんとしていた。俺の方はと言えばさっきまでレイラへ抱いていた敵意もすっかり霧散して過去の自分の行いを振り返っている。
「再三レイラが俺にしてた質問はそういう事だったんだな……」
「まぁそういう事だね。イチヤが少しでも疑問を持って考えたことは喜ばしい事だね。その結果私の疑問も解消されたし」
「だったら最初からそう言えば良かったじゃないか」
少し不貞腐れた感じでレイラを見据えて口を窄めながら抗議する。
「私が言ったところでそれでは意味がないだろう?それにこういう事は自分で考えて答えを出すものだ。私はその答えに満足しているよ」
本当に満足だという表情をしてレイラは俺へと笑みを向ける。
まだ委員長……というかクラスメイト達に対して思うところはあるが、レイラによってもう俺には委員長に対してそこまでの悪感情はなくなった。それよりも彼女を死に至らしめそうなった罪悪感が若干……本当に少しだけだが芽生えた。
「さて、私の疑問も晴れたところで真面目な話はこのくらいでいいだろう。それよりも――」
レイラはこの話はおしまいだと言って話を打ち切り空になった空き瓶を転がし、新たな酒を取り出した。
「長々と話したら喉が渇いた」
ちょっと待て……あんたさっきから飲みまくってたよな!?どんだけ飲むんだよ!?!?
そう言ってグラスに酒を注ぎまた一息に呷るレイラ。こいつ……どんだけ酒に強いんだよ……そんな事を思っているとレイラがじぃ~っと俺を見ながら口を開く。
「イチヤも長々と話していたんだ。かなり喉が渇いているだろう?」
空になったグラスに並々と注がれた酒……花酒を鉄格子の間から俺の前へと突き出すように差し出すレイラ。
「……飲め」
何の脈絡もなくそれだけを告げられた俺の背中に冷や汗が流れる。なんか無言の圧力を感じるんだが、これって気のせいだよな……?そうだよな?
「いや……俺、未成年なんで……」
「確かイチヤは十六歳だったよな?もう十分お酒を嗜める年齢じゃないか」
「いやいや!俺の元いた世界では未成年という扱いだからね!?」
「それは君の世界の話だろう?ここは異世界、そしてこの国の法律では十五歳で立派な成人とみなされる。だから何も問題はない!」
確かにここは異世界で郷に入っては郷に従えという言葉が元の世界にはあるけどさ!酒なんて飲んだことないのにいきなり飲めるか!
「そうか……イチヤは私の酒が飲めないか……仲間だと思ってたのにな……」
俺が断ると途端にしゅんとなり落ち込んだ様子のレイラはちらちらと俺の事を見てくる。しかも最後の台詞ってさっき激昂して俺が言った台詞まんまじゃないか!絶対狙ってやってるだろ!
「結花君は快く飲んでくれたんだがなぁ……」
「委員長が快く?」
あのお堅そう委員長が快く飲んだってどう考えてもおかしい。だって酒だぜ?学校に一ヶ月くらいしか通ってなかったし親しくもなかったんだが、そんな躊躇なく酒を飲むようなタイプには見えないんだがな……
「あぁ、落ち込んだ様子でなぜかここにやってきたのでな。私とアルで事情を聞いたらイチヤに逃げられて落ち込んでいたらしい。それで彼女を宥めつつもアルが美味いジュースだからと言って渡したら一息に飲んでくれたぞ」
「騙してんじゃねぇか!」
「その後ぐてっと倒れてしまったがな……ははは……そこまで強い酒を飲ませた訳じゃないのに……不思議な事もあるものだ」
悪びれた様子のないレイラに頭がいたくなってきた……アルもそうだがこいつ等酒癖悪すぎだろ!
「それで、イチヤは私の酒を飲んではくれない……のか……?」
また落ち込んだ様子で俺へと視線を送るレイラ。絶対わざとだろう?演技だって事がばればれだ。だけど、さっき敵意をむき出しにレイラを睨みつけちゃった手前どうも断りづらいんだよなぁ……
「――飲んだことないし……たぶんそんなに強いわけじゃないと思うから一杯だけだ」
「そうこなくては!さすがイチヤだ!話がわかるな」
途端に元気になるレイラを見てやはり演技だった事を確信したのだが、今更撤回するのも面倒くさいので先程レイラが差し出した酒を手に持ちレイラがやっていたように一気に呷る。すると――
「ブフォァッ!ゲホッゲホッ!なんだこれ!!!」
一気に呷った途端に猛烈に喉を焼くような刺激が迸り思わず咽てしまう!レイラは平然と飲んでいたものだがこれ滅茶苦茶強いじゃねぇか!飲んだ事のない俺でもそれくらいわかるぞ!
「どうだ?美味いだろう?」
「味なんかわかるかボケッ!」
「ひどい言い草だ。こんなに美味いと言うのに……」
侵害だと言わんばかりに俺が置いたグラスを取り上げ残った酒に口をつける。
ここで『あっ……間接キスだ……』とか甘い事は言わない。
そんな童貞チック……いや童貞だけどさ……まぁそれはこの際どうでも良い。それよりもそんな甘い雰囲気などこの酒のにおいで狂いそうな空間で気にするだけ無駄だからな。
「ボケで十分だ!いきなりこんな強い酒を飲ませやがって!あぁ~喉が焼けるかと思った。飲ませんだったらもう少し弱い酒にしやがれ。こっちは初めて飲んだんだぞ」
少々声を荒げてしまったが、そんなのはお構いなしで抗議の声をレイラへと告げる。だがレイラはこれといって気にした様子はなく、あろうことか――
「さて、イチヤのテンションも上がったところで……飲み交わそうか」
「飲み交わさない!飲み交わさないからな!何このまま進めようとしてるの?!俺は絶対に飲まないからな!」
ホント……いつもの落ち着いたレイラは何処に言ったんだ……
「すぅ~……すぅぅ……」
あれから一時間ほどが経ちレイラにつき合わされていた俺だったが、ようやく酒がしっかり回ったのかレイラは静かな寝息をたてて眠ってしまった。
「はぁ……ようやく終わったよ……」
この一時間は特に説教があったわけでもなく普通に雑談だったのだが、とにかくレイラが俺に隙あらば酒を飲ませようとしてくるのが大変だった。あんな強い酒を平気で勧めてくる精神性が信じられない。酔っ払いの思考がまったく理解できないよ……
とにかく疲れた……本当に疲れた……
普段口数の少ないレイラをここまで変えるなんて酒ってホントに恐ろしい……
レイラの言葉を一年分くらい聞いたような感じだ
さて――レイラも寝静まったしもう一つやる事が残ってる。疲れてるからあんま動きたくないんだが、後始末はきっちりつけないとな。
俺はゆっくりと立ち上がりレイラの牢の前をあまり音をたてないようにしてその場から離れ、再びアルの下へと移動した。
「やっと話が終わったみたいだな」
「アルといいレイラといい俺の周りには酒癖が悪い連中しかいないのか……ほんっ……と~にっ……疲れた……」
「お疲れさん」
「お前が酒を持ち込んだせいじゃねぇかっ!」
アルは先程の事で酔いが醒めた状態で普通に返答しているが、まだ残っていた酒でちびちびやっていた。ホント酒癖悪くて酒好きってのは性質が悪すぎだろ!
「まぁそう怒るな。たまにはレイラにもガス抜きは必要だろ?」
「そりゃそうだが……何も酒じゃなくても良くないか?」
「こんな場所で出来ることなんて酒飲むくらいだろ。他に出来ることなんてねぇよ」
「だったらせめて俺がいない時にやれ……って俺のいない時にやってたのか」
「おう!」
元気よく返事するアル。
俺がいない時を配慮してやってくれた事には感謝する
だけどな……
「半日以上も酒盛りしてんじゃねぇよ!」
「すんません!」
委員長を撒いてから彼女がここに来た時に飲ませたって事は実際それくらいやっているって事だ。よくそんなに酒を持ってこられたもんだ……マジックバックに一体何本入れてきたのか考えるのも恐ろしいわ!というか一体この酒全部でいくらしてるんだ?――聞くのはなんか恐ろしいのでやめておこう……
「とりあえず今日はもうレイラも寝ちゃったしお開きにしてくれ。レイラもアルも十分息抜きにはなっただろ?」
「まぁな。俺もそろそろ家帰らないと……かみさんが怖いからな」
かみさんを思い出したのかアルがぶるるっと震え上がる。
「すまん。ちょっと用足しさせてくれ。少し冷えちまった」
「そっちかよ!?まぁ良いけど……」
そう言ってアルが牢屋のトイレで用を足して戻って来た所で委員長を指さす。
「レイラから話は聞いた。アルの責任なんだからちゃんと責任もって送り届けろよ」
「ん?ここで一晩過ごさせてやっても良いじゃねぇか。どうせまだ牢屋は余ってんだし鍵もあるぞ?」
え……こいつ何言ってくれちゃってんの!?
「いやいや!ここには健全な男子がいるんだぞ。何かあったらどうすんだよ!」
「別にどうもしねぇだろ。実際にレイラと二人っきり何も特に何もおこらねぇし。イチヤの能力なら簡単にレイラのとこまでいけたのに特に何も起こってねぇ。草食系のお前さんと一緒でも何もおこらんだろ」
おい!最後の発言は聞き捨てならないぞ!誰が草食系だ!ってかどこで仕入れたその単語!
「良いから送ってけ」
「う~ん……別に送ってくのは構わんがイチヤが送ってくのでも構わないんじゃないか」
「ほぉ……俺に逆らうと……そうかそうか」
「な……なんだよ」
「王様への報告」
「誠心誠意送らせていただきます!」
俺の不吉な発言に最敬礼で応えるアルを見て安堵の溜息を吐く。たぶんアルはさっきの俺とレイラのやりとりが聞こえていて(まぁそこまで広くない牢屋だから当然だが)俺が送っても大丈夫だろうと思ったのだろうが、こっちとしては今までの態度を改めて接しろと急に言われてもどう接して良いのかわからない。
正直気まずいしな
「んじゃあ。嬢ちゃん送って俺もそのまま帰るわ。また明日なぁ」
「うぅん……鏑木くんのばかぁ……はげぇ」
はげてねぇよ!この年ではげるか!……ホントにはげてないからな!ふさふさだからな!
委員長の寝言に心の中で激しく突っ込みを入れる。今更だとは思うが大声で突っ込んで起きてこられても困る。
「んじゃまたな。送り狼になるなよ」
「ならねぇよ!俺を一体なんだと思ってやがる!」
最後にそう突っ込みを残してアルは牢屋から出て行った。アルなら普通に送り届けるだろう。というか委員長が住んでるのって王城内だしな。夜間で見回りしている連中もいるのに馬鹿な真似はしないだろう。まぁ見回りの人間よりも話聞くに奥さんにばれた時の方が恐ろしそうだがな。
俺の中でのアルの奥さんのイメージはすでに鬼の角を生やした太ったおばちゃんのイメージが沸く。アルがまだ二十代前半なのにおかしな話だが。
アルと委員長が牢屋を後にしてレイラも寝てしまったので、ようやく静かな空間が戻ってきた。俺はそのまま自分の牢屋の扉を開けぼすんっっとベットへと体から突っ込む。
「今日はほんっっっっと~~~に疲れた……」
今朝の俺からは想像出来ないだろう。まさか城下町での濃密な出来事に帰ってきたら酒癖の悪い二人と委員長が酒盛りしている光景なぞ。
今日一日の出来事を思い出し俺は長い溜息を吐きながらゆっくりと目を閉じる。そして今日一日を振り返って俺が誓った事。それは――
「もう絶対に俺の前では酒盛りなんぞさせねぇ……」
その一言を最後に俺は眠りの淵へと体を預けた。
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