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40話 どうしてこうなった……? 2

 アルに土下座させてすっきりした俺は、酔いが醒めてうなだれた様子のアルを放置して今度は黙々と飲んでいるレイラの元へと向かう。


 なぜそうしたのかと聞かれれば彼女の方は結構飲んでいるように見えるが、頬が赤いだけでいつも様子が変わらないように見えたからだ。アルよりは話してて疲れないだろうしどうしてこんなったのか事情を聞くには最適だろう。そう思った俺はレイラの牢の前で話しかける。


「レイラ、ちょっと聞きたい事があるんだけど大丈夫か?」


「……ん?」


「レイラ?」



 あれ?俺が思っていたのと反応が違う



 話しかけてみるとレイラは少し間をおいてから首を傾げて反応を返してきた。まぁレイラも結構飲んでいるみたいだし仕方ないか。


「ごめん。なんでもない、結構飲んでるみたいだし、あまり無理しないようにな」


 これは話を聞ける状態ではないと思い、それだけを告げてレイラの牢の前を後にしようとするがそこでレイラによって呼び止められる。


「イチヤ、ちょっと待つんだ」


「ん?」


 何か話があるんだろうと思い足を止めてレイラの顔を見る。しかし俺のこの選択が全ての間違いだった。


「君には前から言いたい事が山ほどあったんだ。こっちに来て座りなさい。いえ……正座なさい……」


 いつの間にか据わった目をしているレイラが床を指差し正座を強要してくる。こいつも面倒くさい酔い方をするな……


「悪い。言っている意味が理解出来――」


「正座なさい」


 レイラが据わった目に力をこめて俺を正座させる位置を指をぶんぶんさせながら指し示す。座らなければいつまでも続けそうな様子に俺は折れてレイラの指し示す場所へとどかっと胡坐をかいて座る。


「これで良いか?」


「正座」


「これで良いだろ?」


「正座」


「俺、特に何か悪い事した覚えはないんだが……」


「正座」


「なぁレイラ――」


「正座」


正座しなければいつまでも言い続けそうなレイラの態度に溜息を吐きながらそっと床に正座する。正直ほとんど声音を変えず、据わった目からは妙な気迫を感じさせながら話す姿は普段のレイラからは想像できなく、しかも異様な雰囲気を纏っていて背筋に悪寒が走る。


「……これで良いか?」


「ん」


 俺が問いかけると、素直にいう事を聞いたことで彼女は満足そうに短く答え頷く。そしてワインとは違う花の香りがする酒とグラスを手に持ち俺の前へと座った。


 後に聞いた話なのだが、レイラが手に持っている花の香りのする酒は花酒:フラワーシュリというこの世界にしか存在しない花で作られる特別なお酒だという事だ。まぁそんな話は今はどうでも良い。


 目の前に座ったレイラはグラスに花酒をグラスに注ぎ、こくこくと喉を鳴らしてそれを飲み干すと熱い吐息を吐き出して、俺の目を真っ直ぐに見つめながら言葉を発する。


「イチヤ。君は……なんてダメな男なんだろうか……」



 口を開いたと思ったらしみじみとダメ男認定されたよ!自分がダメな奴なんて事は俺自身一番よくわかってるよ!だからそんなしみじみとしたように言わないでくれ!余計に傷つく!



「まぁ……なんだ……そうだな」


 何て返事を返したら良いのか苦笑いを浮かべてとりあえずレイラに曖昧な返事を返したんだが、彼女はそんな俺の反応を見てなぜかジト目を向け不満そうな表情で口を開く。


「どうしてそこで納得するんだ!そこはどこがだ?と返すところだろう。もしくは否定してくれても構わない。それを君は……そういうところがダメなんだ」


 

 えぇ~……素直に納得したのに更にダメ出しされるってどういう事だよ!俺にどうしろというんだ……



 酔っ払いの戯言だと切り捨てても良いのだが、普段寡黙であまり腹を割って話してくれないレイラだからこそもしかしたら本音が聞けるかもしれないと思い、少し付き合おうと思ったわけだが早くも逃げ出したい気持ちを抱える。


 そんな俺の内心に気付かない。もとい酔っていて周りが見えてないレイラは再び酒を注ぐとそれをまた呷った後に話を続ける。


「君はレディーファーストという言葉を知っているかい?」


「まぁ……一応。女性を尊重する事だろ?」



 今まで生きてきた人生で一度も実行した事はないけどな



「そう……私が君に一番足りないと思っている事は女性への思いやりだ……」


 アルのように馬鹿でかい声ではないが静かに、けれど何処か非難するように声に乗せレイラは続ける。


「私がどうしてこんな事を言っているかわかるかい?」


「いや……わからない」


 酔っ払っているからだろとは口が裂けても言えない。いったら百倍になって返ってきそうだからな。わからないと言った俺にどうしてわからないんだという表情をするレイラ。


「私だって君を非難したいわけじゃないんだ。だけど、このままでは君は”更に”ダメな男になってしまう。私はそれが悲しい……だからこそ今日この場で君に少しでも変わってもらおうと心を鬼にして私は言わせてもらう」


「あ、はい」


俺とレイラのテンションの差が激しいように感じる。まぁ片や素面、片や酔っ払いだから仕方ないのだが、アルに続いてレイラまでこんな状態なので正直疲れる。


「どうして彼女、確か結花君だったか……彼女から逃げ出したりしたんだい。可哀想だろう……彼女、沈んだ様子でここにやってきたぞ」


「そう言われてもな……そもそもそんな仲良くない。ぶっちゃけまったく親しくない相手にいきなり町案内してあげるなんて言われたって迷惑なだけだろ」


 俺の悪いところを注意すると言われたので、何を言われるのかと思って少し身構えてたのだが、いきなり委員長に対する態度から注意を受けたので少し不貞腐れた表情を浮かべて酔っ払っているレイラへと返すとレイラはまたグラスに酒を注ぎそれをまた呷る。



 少し……というかかなり飲みすぎじゃないのか?



「だったら彼女を傷つけない程度の断り方をしてあげても良かったんじゃないのかい?小さな気遣いが出来る事でいらないトラブルを回避する事だってあるんだ。私としては出来れば君にそういう気遣いが出来る人間になって欲しいと思っている。だから少し考えてみてくれるかい?」


「そう……だな」


「フフ、わかってくれて嬉しいよ。ちょっと曖昧な返事が減点対象だけどね」


 酔っ払っているとは言えレイラの言っている事には一理あるとも思ったので若干言い淀んだ返事になってしまったが肯定した。


 それを聞いた彼女は普段は見せない笑顔を俺へと向ける。

 目は潤み、頬を上気させて俺を見る姿は何処か妖艶さを纏っていてドキッとさせる魅力的な表情だ。


 レイラの表情を見たせいかはわからないけど、さっきは曖昧な返事をしてしまったがレイラに今もう一度同じように言われれば今度はしっかりと頷く事が出来るような気がする。


 もしかしたら今日の出来事のいくつかは俺がもう少し周りに気を遣えていれば回避できるような案件があったかもしれない。

 だからレイラが酔った勢いで言っている言葉も俺には彼女の言葉に重みを感じてしまったのだ。

 女性に対しての気遣いだけじゃなく俺はもう少し周りに気を遣った方がいいのかもしれないと――。


「というか、前々から思ってたんだけど、なぜそこまで結花君達を毛嫌いしているのか私にはわからないんだが……」


「は?いや、それは前に話さなかったか?前の世界で色々あったって」


「それは聞いたけど、毛嫌いする理由は聞いてないよ、生理的に受け付けないというなら仕方ないとおもうんだけど、私にはそうは見えないんだよね。理由を教えてくれるかい?」


「――レイラの言っている意味がわからないんだが……」


 

 俺は確かにアルとリアネとレイラには元の世界で俺がどんな目にあっていたか。

 葉山達にどんな事をされたのか。委員長達がどんな態度を取ったのかなどは語ったはずなのだ。

 それなのにレイラはわからないと言っている。


 俺にはレイラの言っている意味の方がまったくわからなかった――。

お読みいただきありがとうございます。

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