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37話 帰宅

☆★☆祝!10万PV達成!!☆★☆

みなさんのおかげで細々とやっていた異世界チート(ニート)の牢屋生活も36話で10万PVを突破する事が出来ました。これも読んでくれたみなさん、ブックマークしてくれたみなさん、評価点をつけてくださったみなさんのおかげです。今後とも頑張っていきますので応援のほどよろしくお願いします!

 リーディと別れ俺達は王城の前までやってきた。正直今日一日、城下町で色々ないざこざに巻き込まれたのでもう一回くらいあるんじゃないかと若干疑心暗鬼に陥りかけていたのだが王城までの道で目立ったトラブルもなくすんなり帰る事が出来てほっとしている。


 さすがに四回目の戦闘なんか起こった日には怖くてもう二度と異世界の町なんか歩きたくない。



 王城の城門の前にいる警備の人間にステータスカードを見せると仰々しい感じで俺は中入る。これでのんびりと過ごすことが出来るだろう。


 ところが俺の期待は次の瞬間に裏切られる事となる。


「止まれ!」


 険しい声が背後から聞こえる。嫌な予感がして背後を振り返ってみると案の定止められていたのはシスコン兄ちゃんだった。

 城門にいる二人の警備の人間に槍を突きつけられ青白い顔をしているシスコン兄ちゃんは縋るような目で俺の事を見てくる。



 そんな目しなくてもすぐに助けてやるってば



「すいません。そいつ俺の連れ……というか俺が城下町で拾った俺の奴隷なんで通してもらっても良いですか?」


「申し訳ありませんが身分の証明出来る物を持っていないのでここをお通しする事は出来ません。見たところステータスカードを所持していなく奴隷の首輪も付けていないのでいくらイチヤ様の言う事でもこればかりは規則ですので……」


 お役所仕事のように融通の利かない兵士は頑なに通行を拒否してくる。確かに城内に不審者を入れたとあっては彼等の立場が悪くなるか。



 しかしそうなるとどうしたものか……正直何も考えてなかった……



 疲れているからといって強硬手段に出る訳にもいかない。

 表向きは奴隷として扱って、裏では召使いとして色々やってもらおうと思っていたので奴隷の首輪を付けるとかは一切考えてなかったのだがここに来て裏目に出てしまった形だ。


 さすがに今からあそこに帰れとも言えないし、妹を抱えたシスコン兄ちゃんも体力的にきついだろう。お互いに今日は色々あったからな。



 何かないか……考えろ俺

 こんな時は神頼み――いや、ダメだ!この世界の神って俺をこの世界に召喚したあのふざけた女神じゃねぇか!

 そんなのに頼んだって碌な結果にならないのは明白だ

 それに頼んだところで力を貸してくれるかもわからないからな



 自分ではどうにもできない事と理解し、何かないかと考えて困った時の神頼みが一番に頭に思いついたのだが、首を振ってその考えを却下した。

 次に思い浮かんだのがアルだったのだが一兵士の権限で奴隷を王城に入れることなんて無理だろう。

 ただアルなら何か良い方法を知っているかもしれない。


「すいません。少しこいつらを見ていてもらっても良いですか?暴れたりしないよう言っておきますんで」


「え、あ、はい」


「俺は猛獣か何かか!?」


「ははは、俺になら良いが、兵士さん達に噛み付くような事はするなよ」


「するか!」


「まだ元気はありそうだな。ちょっと友人を呼んでくるから少し待っててくれるか?」


「ふんっ」


 鼻息を荒げながらそっぽを向くがそこから動こうとはしていないので指示に従ってくれるようだ。なんだよツンデレかよ、男のツンデレキモイ。

 内心でツンデレ兄ちゃんに毒づきながらも大人しくいう事を聞いてくれるシスコン兄ちゃんに安心した俺は踵を返して急ぎ足で王城の中へと入ろうとした――その時、ふいに俺を呼ぶ声に足を止めた。


「イチヤ様?」


「え?」


 声のした方に振り返ると散歩でもしていたのか、庭らしき方向からレイシア・ラズブリッダ第一王女が姿を現した。


「まさかイチヤ様にこのような場所であ、会うとは思いませんでした」


「普段出歩きませんからね。姫様は散歩ですか?」


「え、えぇ……少し夜風に当たりたいと思いまして」


「なるほど、俺の方は城下町に観光に行ってたら帰るのが遅れてしまって……」


 苦笑しながら姫様と話す、姫様はなぜか少しどもりながらも会話してくれている。前に比べたら姫様の態度が軟化しているように感じる。ビッチ呼ばわりした件があったから俺も少し気まずかったんだけど俺の方も普通に話せてるみたいで内心で安堵している。


 ただ一つ気になるんだけど……姫様の頬が少し赤い気がする?風邪か?


「姫様、少し顔が赤いような気がするんですが風邪ですか?」


「えっ?!い、いえ!大丈夫ですので気にしないで下さい!」


 俺がそう言うと姫様が慌て出し顔の前でぶんぶんと手を振る。さっきよりも更に顔を赤くしながら。


「もし体調悪いんなら無理しないで下さいね」


「あ、ありがとうございます」


 一瞬姫様の額に手をそえて熱を測ろうかと思ったんだが、よく考えたら一国の姫に無造作に触れるのはまずいかと思って行動に移すのはやめておいた。



 っと――こんなところで話し込んでいる場合じゃなかった。早くアルのところに行ってシスコン兄ちゃんをどうにかしないと、クルエも早く休ませて上げないとな。



「すいません。ちょっと急ぎの用事がありますので、俺はこれで……」


「あ……あの!」


 俺は姫様に暇乞いをして立ち去ろうとしたのだが、この時間に急ぎの用事という事が気になったのか姫様に呼び止められる。


「な、なにか私に力になれる事はありませんか!?先ほどから城門の方が少し騒がしかったように感じたのですがその件と何か関係が?」


 なぜか慌てた姫様の様子に今まで接してきたどの姫様のイメージとも合わなくて少し驚いてしまった。すごくぐいぐい来るんですが……

 振り向いた時にシャツの胸元を捕まれた。



 顔!顔近い!!あと胸が当たりそうなんですが!??!



「あ……あのぉ……」


 姫様の突然の行動に若干困惑しつつも彼女に視線を合わせた後にその視線を俺のシャツを掴んでいる彼女の白くて美しい手へと移すと、俺の行動をみた姫様はボンッと音がしそうなくらいに顔を真っ赤に染める。先程の比ではない。


「ああああの!その!失礼しました!!」


「いえ、大丈夫ですよ。気にしないで下さい」


 シャツから手を放した姫様はしどろもどろになってしまったのでフォローを入れつつ彼女に笑顔を向ける。

 俺が気にしていないのを確認した姫様は一つ深呼吸を繰り返した後にいつもの凛とした表情になる。


「それで、何か困り事があるようでしたら言ってみていただけませんか。私で良ければ力になりますよ」


 うん。テイク2は上手くいったようだ。姫様が柔らかい微笑を交えて力になると言ってくれている。その姿は美しくもどこかあどけなさの残るもので老若男女問わず見惚れるような笑顔だった。



 アルに頼もうと思ったんだけど、姫様にお願いしてみようかな?

 姫様でダメならアルじゃどうしようもないもんな



 そう考えた俺は姫様に事情を話すと大丈夫ですよと一言告げると城門の方へと歩き出す。俺もその後を追って歩き出した。


「ご苦労様です」


「王女殿下!?」


 いきなりの姫様の登場に驚きの表情を浮かべる兵士。それにシスコン兄ちゃんも顎が外れそうな感じで驚いている。


「いきなり私が来た事で驚かせてしまいましたか?」


「いえ!それよりもどうしてこちらに?」


「それなんですが、イチヤさんが今日連れてきた奴隷を城内に入れてあげてもらえませんか?」


 やわらかい表情でそう告げる姫様。その表情をみて兵士二人とシスコン兄ちゃんはだらしないくらいに表情を緩めている。



 なるほど、この国でかなり人気があるとは聞いてたんだけど確かにこんな可愛い子にあんな表情を向けられたら仕方ないのかもしれないな



 これならシスコン兄ちゃん達も中に入れるだろう。そう思ってたのだが――兵士二人は緩めていた表情を引き締めた後に申し訳なさそうな表情になる。


「申し訳ございません……いくら王女殿下の言う事でもこれに関してはなんとも……」


「そうですか……」


 この国の姫様でもダメな事があるんだと少し驚いたが、兵士からしたら王城の安全が最優先だから仕方ないのかもな。


 姫様でこれではアルを連れて来た所でどうしようもない。面倒臭いが一度シスコン兄ちゃん達が住んでた廃屋に送り届けて明日にでも奴隷の首輪を買って出直すしかないか……


 今日は諦めるという決断を下して俺は今後の予定について考える。もう結構暗くなってるし行動するなら早い方が良いだろう。そう思い姫様に礼を言って無理な頼み事をした事を詫びようと話しかけようとしたのだがそれよりも前に姫様が再び口を開く。


「では仕方ありませんね――ラズブリッダ王国第一王女レイシア・ラズブリッダの名においてこの者達の身を保証する!続いてレイシア・ラズブリッダの名において命ず、この者達の王城への入場を許可する!」


 姫様が兵士に断られたにも関わらず自分の名を宣言して身柄の保証と命令をくだしている。一体何をしてるんだろう?

 いくら仰々しく言ったところでそんな簡単に覆る訳が――


「「はっ!!王女殿下の御心のままに!!」」



 えぇぇ!??!何か兵士二人が片膝をついて頭を垂れているんですけど!?!?意見が覆っちゃったんだけど!?!?!



「あ……あの……一体全体どういう事でしょう?」


 困惑した表情で姫様に声をかけると俺の声に笑顔を向けて説明してくれる。


「先程は頼み事をしたのですが、いくら私の立場でも”お願い”では聞いて頂けないと言われてしまったので”王権”を使って身柄の保証と彼等に王女として”命令”したんですよ」


 王権とはどうやら王族が持つ最大級の命令権であり大抵の事はどうにかなるものらしい。それを行使してシスコン兄ちゃん達の身柄の保証と城内へい入場許可を取り付けたらしい。


「ただ私はイチヤ様の奴隷の事を何も知りません。これはイチヤ様を信頼して行使したと考えてください。……なので、私の立場が悪くならないように彼等に対して責任を持ってくださいね」


「それはもちろん!本当にありがとうございます!」


 頭を下げてお礼を言う。


 最後の方は少しおどけた感じになり俺にしか見えないようにペロっと舌を出してウインクする姫様。今まで姫様と接してきてこんなに気さくな表情を向けられなかったので少し驚いたがおそらくこれが彼女の素なのだろう。俺にとっては普段の姫様よりもこっちの方が接しやすいと思う。


 しばらく片膝をついて頭を下げていた兵士も姫様に頭をあげてくださいと言われて頭をあげた後に道を開けるようにして左右に別れる。


 道が開いた事でシスコン兄ちゃんは城内に入ることが出来るんだが、姫様がいることで少し萎縮しているようだ。まぁ確かにこの国の人間からすれば兵士や騎士、貴族でもない限りこんな近くで姫様を見ることもないだろうからな。


「私がいると彼等も入りづらいと思うので私はこれで失礼しますね」


「今日は本当にありがとうございました。しかも気まで使ってもらって申し訳ないです」


 姫様は俺にしか聞こえないように耳元に顔を近づけ話した後にゆっくりと去っていく。俺は彼女が見えなくなるまで頭を下げ続けた。









 レイシアはさっきまでいた庭園に戻ってきていた。


 イチヤ達の姿が見えなくなる距離まで行くと小走りにここまで戻ってきたのだ。


「さすがにあれ以上イチヤ様の近くにいたら私が耐えられませんでした……一応立ち去るタイミングなどは大丈夫だったと思うのだけど……変に思われなかったかしら……思われてないといいなぁ……」


 最後の方は王女としての口調ではなく普段の口調になって不安を口にする。


「でも今日は本当に良い日ね。まさかイチヤ様に会えるとは思わなかったもの」


 普段牢屋に引きこもっている彼と王女であるレイシアにはほとんど接点がないので会う機会が極端に少ない、むしろ皆無といっても良いだろう。


「またお話出来たら良いんだけど、何か口実――あっ」


 そこで何かを思いつき、嬉しそうな笑みを浮かべる。そんな恋する少女の姿を見ているのは庭園にさく美しい花々だけだった――

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