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33話 一悶着

 フルプレートに身を包んだ騎士達を訝しげに見つめた後にシスコン兄ちゃんに目で知り合いかどうかを確認すると首を横に振られる。どうやらシスコン兄ちゃんの方の知り合いではないようだ。


「ふむ……言われていた特徴と一致するな」


 じろじろと不躾な視線で見つめられ若干不快だと感じる。



 特徴と一致する?一体何のことだ?

 なんなんだ?こいつら



「――あの、何か用でしょうか?」


 歩き通しで疲れていたしここで騒ぐともっと面倒くさい事になるのは明白なので不快に思いながらも顔には出さずに騎士達に無難な質問をする。


「実は夕方頃にひどい怪我をした奴等が騎士団の詰め所に駆け込んできてな。誰にやられたかと聞いたら――君とそっちの男性の特徴と一致したんだよ。すまないがちょっと詰め所の方まで来てもらえないだろうか」



 ひどい怪我をした奴等?

 たぶん俺がぼこぼこにしたあいつ等の事か



 騎士達の言った人物達に心当たりがあったが、どうして俺があいつ等の為に時間を割かなくちゃいけないのかという不満が沸いてくる。こっちは加害者ではなく被害者の立場だが騎士達はそんな事情を知らないのだから詰め所の方で詳しい事情を聞きたいのかもしれない。


 正直ついていって更に帰りが遅くなるのは嫌だと感じた俺は騎士達に一つ質問してみる。


「それは任意同行でしょうか?」


「任意同行?」


 どうやらこの世界には任意同行という言葉は存在しないようだ。二人の騎士は怪訝な顔で俺の事を見てくるが、話を続ける事にする。


「要するに詰め所について行くのは強制かそれともこっちが拒否したら行かなくても良いのかって事を聞いたんですよ」


「貴様っ!」


 騎士が疑問に思ってたので素直に答えたら短髪赤毛の騎士が怒りながら剣へと手を伸ばす。だがまだ少し冷静な部分も残っているのか鞘から剣を抜いていない。つまり臨戦態勢といった状態だ。


 俺はその騎士に冷めた目を向けていつ抜かれても良いように創生魔法をいつでも発動できるように意識しておく。もちろんさっきのチンピラ達のように問答無用でフルボッコにするつもりではなく、あくまで身を守る事を意識してだ。


 そんな俺を見て後ろのシスコン兄ちゃんは顔を青ざめさせ焦るような表情を浮かべている。心配そうなシスコン兄ちゃんに顔だけを向け大丈夫だと告げるが伝わっただろうか?



 そんなに心配しなくても大丈夫なんだけどなぁ……ほら



「おい、少しは冷静になれ!こんな大通りで剣を抜くつもりか?」


「しかしだな!」


「いいから剣から手を放せ、また始末書を書かされたいのか?俺はもうこりごりだぞ」


 もう片方の金髪の騎士が頭に血が昇っている短髪赤毛の騎士の片腕を掴んで冗談交じりの口調で諌める。どうやら場の空気を読んで止めに入ったようだった。


 周りには遠巻きながらも俺と騎士達を見ている野次馬が出来ており確かにこの場で抜剣して俺に切りかかっていたら騎士達としても面子が悪かったであろう。


「すまんね。ちょっと血の気の多い奴なんで許してもらえるかな?」


「いえ、こちらこそ気に障った言い方をしていたようですいません」


「それで君のさっきの質問なんだけど、出来れば来てくれるとありがたいんだけど、後日出頭してくれるのであれば二人のステータスカードを確認させてもらえれば大丈夫だよ」


「そうですか、じゃあこれで」


 金髪騎士に軽く頭を下げられたので俺も同じ様に頭を下げた後に金髪騎士がステータスカードを提示すれば後日来てくれれば良いと告げるので素直にステータスカードを取り出し騎士に渡すとポケットから羊皮紙とペンを取り出しなにやら書き込んだ後にカードを返され、今度はシスコン兄ちゃんにステータスカードの提示を求める。


「すみません、持ってないんです」



 ん?持ってない奴なんているのか?



 申し訳なさそうに告げるシスコン兄ちゃんに騎士はやはりというような顔をして先程まで俺に接していたような態度ではなく見下すような態度でシスコン兄ちゃんを見る。


「やはり貧民街の人間ですか、ステータスカードを持っていないのでしたら問答無用でついて来てもらいますよ」


「――わかりました」


 シスコン兄ちゃんはうなだれた様子で俺を見た後に妹を預けようとして俺に近づいてくる。そんなシスコン兄ちゃんの行動を無視して俺は金髪騎士に顔を向けて質問する。


「こいつは俺の奴隷なんで一応聞いておきたいんですけど、詰め所に行って質問に答えたらすぐに解放されるんですか?」


「はい。”あなた”でしたらすぐに解放されるでしょう」


 

 なるほど、”俺なら”か



「では彼だったら?」


「そうですね。若干取り調べが長くなるかもしれませんね。こちらとしてもきちんと聞きたいので”多少””強引”な取り調べになるかもしれません」


 そう言った男の表情はどこか楽しげにしていて不気味な雰囲気が漂っていた。もうこれ騎士の顔じゃないな。


「わかりました。ではそのコイツ共々その出頭要請を断らせて頂きますね」


 笑顔で騎士達に告げた後にシスコン兄ちゃんを庇うような立ち位置へと移動する。


「そうですか、さすがにそれでは強制的についてきてもらうしかないですね!」


「待ってました!」


 金髪が剣を抜くと短髪赤毛も剣を抜いて喜々とした顔をしている。なるほどね。結局はこの二人は同類の戦闘狂だったようだ。いや金髪の方は嗜虐趣味のドSか。どちらにしても性質が悪い。


 周りの野次馬達はお酒片手に盛り上がりながら俺達の様子を見ている為に何かを期待する事は出来ないだろう。ならここは殺さない程度に応戦するしかないだろう。


 創生魔法を使って一瞬で両手に片手剣二つを創り出して構えると、向こうも俺が臨戦態勢にはいった事を確認して突っ込んでくる。


先に突っ込んできた短髪赤毛の剣を左手に持った剣で受け止め、次に金髪が俺の腹に突きを入れてきたので右手で持った剣で切り払う。



 この世界の騎士道ってどうなってんだ?!二対一とか卑怯だろ!



 そんな心の叫びとともに騎士達の斬撃をかわし、弾き、受け止める。一手一手を上手く捌いて隙が出来たところではらはらしながらこの戦闘を見ているシスコン兄ちゃんに顔を向けアイコンタクトと首を振って下がってろというジェスチャーを送る。


 俺の指示に納得したのかシスコン兄ちゃんは酒を飲んで盛り上がってる野次馬達のところまで下がってくれてジェスチャーが伝わった事に安堵して一つ息を吐く。


「俺達相手にずいぶん余裕そうだな!」


「その余裕がいつまで持つか楽しみです!」


 そう言って左右から突っ込んでくる二人の攻撃を捌くがこのままではいつまで経っても終わらない。というか金髪騎士、その台詞は負けフラグだ。



 体力切れを待つか?それだといつ終わるのかわかったもんじゃない



「だぁぁあああ!もう面倒くせぇなぁ!」


「だったら早くやられちまえよ!」


 先程よりも剣戟の速度を上げた短髪赤毛を攻撃を受け止め軌道を逸らした後に後ろから切りかかってきた金髪の攻撃を大きく跳躍してかわし金髪の背後へと着地する。俺がかわした事で金髪が短髪赤毛に切りかかるような体勢になるがそこはさすがに騎士。うまく攻撃を逸らしていた。


 その光景を見て回りは「おぉぉ!」とか「すげぇぞ!若ぇの!」とか賞賛の声を上げてくるがうるさいという感想しかわいてこない。


 二人を正面に見据え剣を構えると相手も体制を立て直してこっちに剣を構えている。



 とりあえず怪我させずに向こうを無力化するんだったらあの剣をどうにかするしかないよな

 ぶっ壊すか奪うか……ぶっ壊す方が早そうだな



 そう結論付けて剣をぶっ壊す方向で行動する事にした。チンピラ連中と違いなまじ力とか権威がある分凄く面倒臭い。


「やるじゃねぇか!」


「これは久しぶりにいたぶりがいがありますね」



 お前等本当に騎士かよ?!



 心底楽しそうにしている二人の騎士はまた左右に分かれて俺の隙を窺うように剣を構えているので、さっきまで防戦していた俺は今度は攻勢に出る。短髪赤毛の方に足に力を込め一気に突っ込む。


「なにっ!?」


 そんな俺の行動を見て驚愕の表情を浮かべている短髪赤毛は予想できなかった俺の動きに大きな隙を生じさせてしまう。俺はその隙を上手く利用して持っていた剣の片方から手を放しその手で男の構えている剣に軽く触れると物質変換で銅からガラスへと変えて自分の剣を短髪赤毛の剣に勢いよくぶつけるようにして振り抜く。


「うそだろっ!??!」


「まずは一つ目」


 パリンッというガラスが砕けるような文字通りガラスが砕けて短髪赤毛の剣が真っ二つに折れるのを見送り若干動揺しながらも俺の真横で上段の構えから剣を振り下ろした金髪の剣を持っていた剣で受け止めながら金髪の剣を掴むように触れる。


 若干手に血がにじむがむかつくことに女神の加護があるのですぐに治るだろう。触れた部分に短髪赤毛と同じように物質変換でガラスに変えると軽く後ろに飛んでから再び金髪に接近して刃がガラスと化した剣に金髪がしたように持っていた剣を上段から振り下ろす。


 金髪の剣も短髪赤毛の剣と同じように真っ二つに折れて地面に落ちると粉々に砕け散る。


「こんな事って……」


「この野郎!」


 金髪がその光景を茫然自失といった様子で見ていると周りからの歓声が一層大きくなる。そんな中、再び短髪赤毛が剣を構えて襲い掛かってきたので大きく跳躍して距離をとる。短髪赤毛の剣は叩き折ったはずなんだがと少し驚いたが、納得がいった。



 ありゃ俺の剣だ。そういえば手放したままだったか



 自分でも少し抜けていると反省し再び剣を構える。正直もう面倒臭いのと疲れたって気持ちしかわいてこない。誰か助けてくれないかなぁ……


「これは何の騒ぎですか!」


 そんな俺の願いが通じたのか、声のした方向に顔を向けると遠くに四人の騎士の姿が見えた。


 ――これ俺の願いが通じたんじゃなくてもっと面倒臭い事になる流れじゃないか?


 頬に一筋の汗が滴り落ちるのを感じ俺は近づいてくる騎士達を呆然とした様子で見る。短髪赤毛と金髪も俺と同じようにして見ていた。ただし俺と違い顔を青ざめさせながら……


 近づいてくる騎士達の顔がはっきりと見えてくると先頭を歩いている騎士には見覚えがあった。



 ん?あれ?こいつって確か――

やっと帰れると思ったのに帰れませんでした……

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