32話 帰路
クルエという少女に薬を飲ませて重症だった体を治療した俺達はシスコン兄ちゃんとクルエが住んでいた家を出た。
家を出た際に外を見ると入る前は夕方だった空は夜の帳が下りてきて結構暗くなっていた。クルエラの治療に結構時間をくってしまったのはわかっていたんだけどどのくらい時間が経っているんだろうか?
「今大体何時くらいなんだ?」
「今は夕飯中か夕飯後くらいの時間だろう」
「わかるのか?」
「わかるもなにもあそこに大時計塔があるからな」
そう言ってシスコン兄ちゃんは背中で寝ているクルエを起こさないように慎重に一番の建物を指さす。
シスコン兄ちゃんが指さす方を見るとそこには中世ヨーロッパにでも出てきそうな時計塔がそびえ建っており時計の周りを白い光で覆っている短針のみで出来た時計があった。
ずっと街中などを見ていて時計塔の存在に気付かなかった……
「でもあれじゃ大体の時間しかわからないだろう?」
「ん?何言ってるのかよくわからんが時計なんてそんなもんだろ?」
どうやらこの世界の時間の概念というものは大体がわかれば良いらしい。日本だと長針と短針で正確な時間がわかる俺の感覚だとちょっと違和感を感じる。せかせかした日本人らしい間隔がそうさせるのか。もしくはネトゲをやってた時のレアモンスターの沸き時間を正確に把握してきた弊害だな。
「それにしても王都で生活していて時計塔の事がわからないなんてもしかして最近王都にやってきたのか?」
「ん?まぁそれは帰宅したら説明するから待ってくれ。あんたも妹さんを背負いながら長々と説明するのは疲れるだろ?」
「んなわけあるか!俺の妹は羽のように軽い!」
何言ってんだこいつ?妹のところにつくまではまともだと思っていたのにまさかここまでシスコンをこじらせているとは……というかクルエ寝てるんだからシスコンらしく気を使えよ
とりあえずシスコン兄ちゃんの言葉は聞き流すとして早くかえ――いや、その前に行かなきゃいけないところがあったな。
「なぁ、夕飯時って事はもう店はしまってるか……?」
「どうだろう?店にもよるぞ、露店なんかは早々に店じまいしているところもあるけど、酒場なんかは今から営業し出すしな」
「わかった。ちょっとやってるか確かめたい店があるから悪いんだが、ちょっとだけ寄りたい店があるから着いて来てくれるか?」
「了解しましたよ、ご主人様」
「男に言われると気持ち悪ぃな……」
「なんでだよっ!」
この世界だと普通の事なのかもしれないけど日本から来た俺の感覚だと女の子に言われるのはかまわないが、男から言われるとどうも違和感を感じる。俺が読んだラノベやネット小説なんかでも男からご主人様呼びされたものはなかったからな。もしかしたらそういうのもあるのかもしれないがどうも俺の中だとBLという認識が強いので絶対にご主人様呼びはやめさせよう。
「とりあえず呼び方など今後については戻って落ち着いてから話し合おう」
「わかった。ってかまだ俺ご主人様の名前とか知らないし、俺も確か名乗ってなかったよな?」
「そういやそうか。まぁそれも今はどうでも良いからまとめて後で話すぞ」
「ひでぇなおいっ!そこは今から自己紹介する流れだろうが!」
「今の優先事項にあんたの名前を聞くなんて入ってねぇよ、いいからきりきり歩け!」
ばっさりと自己紹介の流れをぶった切ると男は恨めしそうな顔をするが、正直今はどうでも良いので、若干歩く速度を早めて目的地へと足を運ぶ。もちろん妹を背負っている男が遅れない程度の速度で気を使って歩いた。
ってかこの男、俺が気持ち悪いっていったのにご主人様呼びをするって事は自己紹介が済むまではご主人様呼びで定着させるのか。なんか嫌だなぁ……さっきまであんた呼びだったんだからそれで良いだろうに
「良かった。どうやらまだ開いているみたいだ」
貧民街から大通りへ向かう途中の目的地の場所に到着して店が開いている事に安堵した俺はシスコン兄ちゃんに少し待っているように言ってから中に入った。
「さっきの小僧か、買いに来るにはちと早いんじゃないか?」
「こんばんは、まだ開いてて良かったよ」
ぶっきらぼうな感じで言葉を発する爺さんに軽く挨拶して爺さんの前に大金貨十二枚を置いていく。
「金が貯まったから買いに来た」
「?!」
俺の一言と目の前に置かれた大金貨を見て爺さんが驚いた顔をしている。まぁ確かに一般人が大金貨十二枚を半日くらいで稼いできたら驚くんだろうな。よくわからんが。
そして爺さんが大金貨と俺の顔を交互に見て真剣な顔の中に訝しそうな気配を漂わせた後に口を開く。
「お前さん、どんな悪行に手を染めたんじゃ……悪い事は言わんからすぐに騎士団に出頭するんじゃ……」
真剣な顔してると思ったらどうやら犯罪者を見る目で見ていたようだ!?
「いやいやいや!別に悪い事して手に入れたわけじゃないからな!普通に薬を売って手に入れた金だからな!」
「薬じゃと?」
「そうそう。まぁ薬ってもちょっと特殊な薬だけどな」
確かにチート能力で創った薬だからしっかり働くといったような正攻法な手段で手に入れたのか?って聞かれれば素直に頷く事は出来ないけどな。それでも悪事を働いて手に入れたわけじゃないというのは自信を持って言える。
「ふむ……まぁどういう薬かは興味はないので詳しくは聞かん。疑って悪かったの」
「さすがに結構な大金を半日で手に入れてきたんだ。疑うのも無理はないと思うから気にしてないよ」
俺だってもしも知り合いが一日百万くらいを半日で稼いだとか聞いたらどんな犯罪を犯したんだと疑いそうだしな。
大金貨十二枚じゃなく大金貨二百二十枚稼いできたって言ったらもっと酷い嫌疑をかけられそうだから黙っていよう
「それじゃこれがお前さんに取り置いておいた本じゃ。しっかりと覚えるんじゃぞ」
そう言って爺さんは大金貨をカウンターの引き出しへとしまって取り置いてくれてた三冊の分厚い本を俺に手渡してくれる。
ん?覚えるってどういう事だ?
まぁいいか。これで暇つぶしの本も手に入ったしな
「それじゃあ俺はこれで失礼するよ。読み終わったらまた新しい本買いに来るからその時はよろしく」
それだけを告げて俺は本屋を後にした。
よし。これで今日の目的の暇つぶしの本が入手出来た
後はアルにでも文字を教えてもらえばしばらくは退屈せずに済みそうだ
ホクホク顔で男の下に戻った俺は再び歩き出した。
「それでご主人様は何処に向かってるんだ?」
本屋から出て少し歩くとシスコン兄ちゃんから当然の質問が出てくる。
確かに向かっている場所がわからないと不安にもなると思い時計塔に次二番目に高い建物、王城を指差して告げる。
「王城の方に向かってる」
「なるほど、王城方面に住んでるんだな」
「あぁ」
こんなに歩いたのは人生でも数えるくらいしかなく、少し疲れていた事もあり若干おざなりに答える。これで場所もわかったと思うし少しは安心するだろう。
大通りを通りながらおざなりに質問を返した後、色々な店を通りすぎながらも一つ一つ店舗を流し見していく、どうやら昼と夜で店が交代するかのように昼とは別の店が立ち並んでいて面白い。ただ夜の店のメイン商品は酒やつまみがほとんどであとはテーブルと椅子を簡易的に設置して酒場のようにしている店が七割くらいを占めている。
昼と夜でなによりも違うのは年齢層だろうか。昼は主婦や子供といった年齢層が多かったのに夜はおっさんや若い男の姿が目立つ。元の世界では夜でも女性が結構歩いていたんだが、この世界で酒場にいる女性は少数だ。やはり貧民層で思ったことなのだが王都にも関わらず治安が悪いからなのだろうか?
俺は未成年なので酒が飲めないから見るだけだが、酒を飲みながらわきあいあいといった感じに楽しそうにしている姿を見るとついこないだ獣人族と戦争したとは思えない。危機感がないとも思うがお通夜状態よりは良いとも思う。
帰路に進むために男の速度に合わせながらゆっくりと歩きながら店を眺めていると背後から声をかけられる。
「君達、ちょっと良いかな?」
まさか自分達が声をかけられるなんて思っていなくて半信半疑に振り向く。
そしてそこに立っていたのは巡回中と思しきフルプレートに身を包んだ二人の騎士達だった。




