2話 牢屋
姫様に腕を引かれ強制的に連行される。
通路には様々な調度品が立ち並び、長い廊下を歩き上へ上へと進んでいく。
目的の階についたのか五階の通路をまた歩いていく。
無言で歩かれると怖いな……
自業自得とはいえ圧力が半端ねぇ
これだけで胃に穴があくんじゃねぇかな
そんな事を思っているとどうやら目的の場所に着いたようだ。
「あなたのような人専用のお部屋になってます」
「へぇ、それはそれは」
「部屋の前には護衛が常につきますので警備は万全ですわ」
「それは至れり尽くせりだな」
「えぇ、だから戦争が終わるまでこちらの部屋でゆっくりおくつろぎください」
「……」
「どうかしましたか?」
姫様はあっけらかんと言った感じに言っているが
「あの、姫様」
「はい?」
「ここ牢屋じゃねぇか!」
「そうですが?」
どうして俺が強制転移させられ異世界生活初日に牢屋に入れられなきゃならんのだ!
「俺は何の罪でここに入れられるんだろう?」
「不敬罪」
ですよねぇ……まぁ姫様をビッチ呼ばわりした時点で普通なら処刑だ
王様と姫様の温情と受け取っておこう
それにしても感情なく淡々とこっちの質問に答える姫様。怖いな……
姫は他に質問がなさそうだと判断すると、牢番の男に話しかける。
牢番の男も姫様が直接こんな場所に来て驚いているようだ。
姫様は二言三言話をすると、こちらに来るようにと催促する
逃げたところで土地勘があるわけじゃなしすぐに捕まるだろう
どうせ、元の世界だろうが異世界だろうが俺の生活ライフが変わらなければ良い
あとは成り行き任せに生きていこう
「一応異世界転移した勇者様ですが罪人です。」
「今日、異世界転移が行われるお話は聞いていたのですが、初日から犯罪ですか?!」
驚く牢番の男
そりゃあ初日から勇者として召喚された人間が犯罪犯して牢屋にぶち込まれたらそりゃあ驚くわな
俺も自業自得だが、牢屋にぶち込まれるなんて驚きだ
「不敬罪です」
「はぁ……」
「不敬罪……」
さっきの発言を思い出したようだ。怒っていたのが急に泣きそうな感じになった
このお姫様情緒不安定か?まぁ俺のせいだけど……
他人なんかどうでもいいと思っていたが、若干悪い気がしてきた
「わ、わかりました!ではこの者をこちらで預からせていただきます!!」
姫様の泣き出しそうな様子に慌てだす牢番は姫様に敬礼してから俺を中に促す。
それを見て姫様も気を取り戻し、いつもの姫様としての佇まいに戻る。
「すいませんがよろしくお願いします。一応勇者様の一人なので不遇な扱いはしないであげてください」
「わかりました」
「あと戦争が終わって彼等の帰る目処が経つまでここから出さないように。こちらの方で一人食事係を用意しますのでその方が来たら通してあげて下さい」
そう言うと姫様はこの場を去っていく
俺はというと部屋の中に入り牢番を待つ。姫様が去ったのを確認した牢番は中に入ってきて俺を牢屋へ案内してくれる。部屋の中は八つの牢屋があるが収容されてるのは一人だけだった。
俺を入れたら二人か。出来れば一人が良かったんだが、まぁ良いか
「一応姫様から丁重に扱うようには承ってるんでな」
牢屋に入れられるのに丁重もクソもないと思うのは俺だけだろうか?
「よろしく頼む!拷問とか痛いことは勘弁してくれ」
「お前……俺の話し聞いてたのか…………?ホントお前変わってるわ」
「まぁ冗談抜きでよろしく頼む」
「あいよ」
牢番と軽く話をする。話してみた感じいい人そうで助かる
俺はひきこもっていたが別にコミュ障ってわけではない
むしろ自分の環境を整える為に人と接する事を大事にはして”いた”
高校入学していじめてた奴らと接して話し合いの無意味さ知ったのだ
だがひきこもりニートをやっていると、大なり小なり世間体を気にする両親への罪悪感はやってくるもので、コンビニに行く際に近所の人と出会ったら軽く会話を、よく行くコンビニでも軽く話したりレジでお釣りを貰う際には「ありがとうございます」と一言添えてから帰る。今では店員さんも快く話しかけてきてくれる。
会話というのは大事だ。それだけで第一印象も変わってきて次に会う時の接し方も変わってくる。まぁいじめてた奴らには会話なんて意味なかったけどな。
「ところでお前、初日から一体何やらかしてこんなところに来てんだよ?」
「戦争に参加しないっていう意思表示して王様と姫様が食い下がってきたからきっぱり断った。まぁここに連れて来られたのは話し合いの末姫様をビッチ呼ばわりしたのが原因だろう」
「おまっ?!なんて事してんだよ!??」
牢番は驚く、そりゃあ普通一国のお姫様をビッチ呼ばわりなんて処刑されてもおかしくないもんな
この程度の罰で済んで驚いてるんだろう
「一応姫様からあんたら勇者が帰る目処がたつまではここから出すなと言われてるから無意味な忠告だが、姫様はこの国で多大な人気を誇っている。だからお前がビッチ扱いした事は絶対に知られるなよ。何されるかわかったもんじゃないからな」
この男、俺の事を心配してくれるらしい
面倒見の良い男のようだ
「とりあえずここがお前が入る牢屋だ。毎日この部屋は掃除してあるし、しばらく使ってなかったからそこそこ綺麗だが、もし汚いと感じたら言ってくれ。掃除なんかはしてやる」
「至れり尽くせりだな」
「まぁここに収監される奴は特別だからな。普通の罪人なんてのは騎士団が管理している牢屋に行くしここを使われる事はほぼない」
「じゃあもう一人のあの女性も特別なのか?」
そう言って俺は女性の方の牢屋を見る。
すると牢番は困った顔をしてから俺と同じように女性が収容されている牢屋の方に目を向ける。
「ありゃわからん、俺が牢番になる前からいて前任者から任された時も詳しい話は聞かなかったからな」
「それでいいのか……牢番の兄ちゃん」
もし危険人物だった場合、万が一があったらどうするつもりなんだ?
まぁ話した感じこの牢番の兄ちゃん、いい人そうだからなぁ……
「ここに配属になって一年くらいたってっけど特に何もなかったし大丈夫だろ。お前さんと違って何も話さないのは不気味っちゃ不気味だが牢屋に収容されてんだから気分も暗くなろうってもんだ。そんな事いちいち気にしてらんねぇだろ」
そういってがははっ!っと豪快に笑う牢番の兄ちゃん。
特に問題がある訳じゃないなら俺の方で何かいう必要はないよな
「んじゃそろそろ入ってくれ。入った後鍵かけるから。万が一にも脱走なんて真似しないでくれよ。そんな事になったら俺はお前を全力で止めなきゃならなくなるから」
「わかってるって、というか脱走したところで土地勘があるわけじゃない。逃げたところで野たれ死ぬのが落ちなんだ。それだったらここでのんびりと戦争が終わって帰るまで食っちゃねして待ってるわ」
「言ってる事は理に適ってるが、ホントお前変わってるわ。」
そういって牢番の兄ちゃんに呆れられる。
俺の世界で好きな諺の一つ”果報は寝て待て”だ
「それじゃ何かあったら呼んでくれ。」
「了解。ありがとな」
牢番は部屋の外へと出ようとする。
そこで俺は大事な事を忘れていた事に気付いた。
「あっ!一つ言い忘れた!!」
「いきなりかよっ?!」
立ち去ろうとした門番がこけそうになる。だが俺は気にしない
「いや、そういや名乗ってなかったなって思ってこのままお前呼ばわりなのもあれなんでね。俺はカブラギ・イチヤ。イチヤって呼んでくれ」
「ホントお前……イチヤは変わってんなぁ。俺はアルドル・フォスタンス。アルって呼んでくれ」
そういって今度こそ牢番……アルは部屋から出て行く。
自己紹介出来て良かった
人として大事な事だからな
俺は悪意ある奴はどうでも良いけど、アルは良い奴だ
戦争が終わってもいつ帰れるかわからない以上ああいう身近な奴とは仲良くしていきたい
もし牢番がアルのような奴じゃなかったらどうでもよくなるんだろうがな
とりあえず牢屋を見渡してみる。高いところに牢屋があるおかげか、じめっとした感じではなく結構明るい。それにアルが言っていたように定期的に掃除されているのか汚いと感じもしない。
牢屋一つが六畳くらい大きさでベットとトイレ、が設置されていて小さいが水をためて置く石造りの浴槽を半分にしたくらいの物が設置されている。
そしてもう一人の収監者は俺の牢を一つ挟んだ向こう側にいる。お隣さんではないがご近所さんだ。牢屋生活でその表現があっているかはわからないが一応先輩にあたるわけだし挨拶はしておこうと思う。
「初めまして、カブラギ・イチヤです。今日収監されたんでよろしくお願いします」
「……あぁ…………よろしく……」
聞こえるか聞こえないかのような声で挨拶される。自己紹介はしてくれなかったが、そうゆうのが苦手な人間だっている。妹のようにいない者として扱うわけじゃなく寡黙なお姉さんみたいだと俺は判断した。
とりあえず名前がわからないので俺の心の中でおねぇと呼ぶことに決めた
挨拶も終えたのでベットに横になる。ちょっと硬い感じだが悪くはないな
基本的に俺はどこでも寝られる。よくネトゲで廃人プレイしてた時なんかは一週間に六回は机の上で寝ていた。残りの一回は椅子から落ちて床の上で変な体勢で寝てた。ネトゲ仲間にそれを話したらベットで寝ろよという指摘も頂いた。もちろん、特に廃人プレイしてない時はベットで寝ている。
そんな俺だからこそこの硬いベットでも特に問題なく寝られる。問題なのは娯楽的な物が一切ないことだ。
ここ牢屋ですし、そもそもこの異世界に娯楽道具があるのだろうか?
俺は興味本位で知りたくなったのだがいかんせん聞ける人間がいない
おねぇはあまり人と話したがらない感じのタイプだしアルは牢番の仕事中。さすがにこんなくだらない事で呼び出したらキレられかねない
ベットに座りどうしたものかとポケットに手をつっこむと硬い感触。
そういえばステータスカードなんてあったな
あの時は王様が興奮しててちゃんと確認とかしてなかったから暇つぶしに確認してみるか
どれどれ
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カブラギ・イチヤ 16歳
職業:ニート、罪人
Lv1
HP:8020
MP:2065
攻撃力:1652
防御力:1355
能力:女神の祝福、創生魔法、物質変換、状態異常回避
ステータス限界突破
ログ
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ん?項目が二つ追加されてる。
……罪人て……確かに不敬罪でここに捕まってる訳だが、カードまで俺の事罪人認定とか正直へこむ
これって行い次第で消えるのだろうか?それともどんどん職業が追加されていくんだろうか?
それにこのログってなんだ?
よくわからん
というかこのクソカードいい加減職業欄にニートって表示するのやめろ!事実だけど!地味に精神的なダメージがでかいんだよ!事実だけど!!
とりあえず職業欄は放置で!それよりも能力欄が気になる。ゲームとかでも聞いたことない能力だな
これどうやって発動するんだ?説明書とかないのか?
俺が戦争拒否したから教えてもらえなかったとかかね。後で説明があったかもだけど後の祭りだ。
他にカードにおかしい場所がないか確認してみる。材質は……プラスチックのような触り心地だけど、簡単に曲がらない。
さっきのように裏返したり振ってみたりしてみても特に反応らしい反応がない。
「あぁ~!もうわっかんねぇ!!」
一人ごちてカードのベットの脇に放り投げベットに体を預ける。
そのまま不貞寝でもしようかと思っていると
「……ステータス…………カードか……何が……わからない……?」
掠れた小さな声で隣の方から声がかかる。
最初は空耳かと思って隣の方を見てみるとおねぇがこちらをじっと見ている。
人とあんまりかかわりたくないのかと思ったんだけど違ったのかな?
そんな風に思ったがとりあえずじっと見ているので俺は答える
「能力欄によくわからない能力が書かれてたんですが、その能力がどういった力を発揮するのか知りたくてカードを調べてたんですが全然わかんなくて」
「……その……わからない能力欄…………を指で触れて……」
おねぇにそう言われて俺は指で能力欄に書かれている能力の一つを指で触れてみる。すると触れた先から文字が光だし説明文が浮かび上がってくる。
創生魔法
自分の想像できるあらゆる現象、物質を世界に具現化する。ただし自分が想像出来ないものに関してはその限りではない。
「おぉ!!!!!!」
説明文が浮かび上がってそれが俺の目の前に表示される。
俺は興奮して他の能力欄も次々と触れてみる。
物質変換
触れた物質を違うものに変質させ、その物質を違う物質に変化させる事も出来る。特殊な物質に限ってはこの能力は適用されない
状態異常回避
常時発動型。毒、麻痺、混乱などの状態異常の効果を回避する。即死効果のある呪いなどはこの能力の範囲外。
ステータス限界突破
レベルやステータスの上限といった制限を受けない。この能力の持ち主は何処までも強くなれる。
「おぉ!!おぉぉおお?!?」
あまりに興奮しすぎて奇声を発しているが気にならなかった
ここにいるのは俺とおねぇの二人しかいないからだ
もちろんおねぇに迷惑がかかってるかもという配慮も今の俺の興奮度合いからいって失念している
そして一番想像出来ない能力、女神の祝福に触れてみる。
女神の祝福
自動回復、HP、MPを通常の10倍の速さで回復してくれる。この能力は極まれに異世界から呼び出された勇者に女神の”気分次第”で発現する能力と言われている。能力に目覚めた者は運がいいとされている。この能力を無駄にしないように努力を怠らず、女神への信仰心を大切にすると良いだろう。
PS:せっかく大勢のクラスメイトの中から私が選んだ勇者なんですから、牢屋なんかに入れられてないで世界の為に戦ってください。でないと私の女神としての評価が下がるじゃありませんか。ではよい結果を期待しています
「クソったれぇぇえええええ!!!!」
俺は大声で出して立ち上がるとカードを思いっきり地面に叩きつけてぐりぐりと足で踏み躙った。
そして改めて決意する。もし次にあの女神にあったら顔面に右ストレートを叩きつけてやろうと
最後にこのログっていうのに触れてみる。
職業欄に罪人が追加されました。
うん……どうでも良いな。この情報
「……どうだ?…………ちゃんと……みれたか?けほっけほっ……」
「え……えぇ、見ることが出来ました。ありがとうございました」
一度殺意を引っ込めておねぇにお礼をいう。おねぇは親切に教えてくれただけで、そのおねぇに当たるのは筋違いも甚だしい。それよりも
「お姉さん、風邪ですか」
「……あぁ……けほっ…………一週間ほど……前からな」
なるほど、さっき自己紹介した時、素っ気無いように感じたのは、風邪で声を出したくなかったからか
それでもちゃんと挨拶してくれた事といいカードの事といい、この人滅茶苦茶良い人じゃないか
「薬とか飲んでます?」
「もら……えるのか……?」
もらえると思ってなかったのかどうやら聞いてないらしい
アル個人ならくれるかもしれないけど、この人がどういう経緯でここにいるのかわからないからもしかしたらもらえない可能性もあるか。
「すいません。お姉さん、最後に一つ質問良いですか?」
「なんだ……?」
「魔法とか能力ってどうやって使うんですか?」
「能力……欄に……けほっ書いてある…なら思えば…………発現けほっけほっ……する」
やっぱり話すと辛いみたいだ。それでも答えてくれるおねぇマジ優しい!
俺はおねぇに言われたとおりに手のひらにある物質が出現する事を”想像”する。
すると少しずつ光が集まり収束すると手のひらに一つの液体が入った瓶が出現した。
「たぶんこれで大丈夫だろう」
次に牢屋の手すりを物質変換で鉄のような材質をゴムへと変換する。
「これも上出来」
材質がゴムになったことで簡単に抜け出せるようになった牢屋を俺は通り抜けおねぇの元まで向かう。
俺の一部始終を見ていた彼女は目を見開いているので、俺は手招きでおねぇを呼び寄せる。
おねぇもそれに従い牢屋の入り口まで来ると俺は彼女に小瓶を渡して再び自分の牢屋に戻るのだった。
牢屋の檻をゴムにしたので元に戻すことも忘れない。
おねぇは小瓶を見つめてどうすれば良いか迷っていたので俺は笑顔で彼女に飲むように促す。
「上の蓋を右にひねると開くのでそれを飲んで下さい。あっ!毒とかは入ってないので!ってこんな事言ったほうが怪しいか!!」
少しおちゃらけた感じで言うと彼女は少し笑顔になり瓶に口をつけて飲んでくれる
最初は顔なんて気にしてなかった。この人かなり美人だよな
そんなどうでもいい事を考えているうちに彼女が中の液体を飲み干す。
風邪薬と栄養剤を混ぜたものを作ってみたんだが効いただろうか?
自分が飲んだことある物で想像出来る物だからたぶん大丈夫だと思うんだが
俺はおねぇをみつめていると、彼女の血色が次第に良くなり咳も止まっている
「喉がいたくない……」
おねぇは驚いたように自分の首のあたりを触っている
おかしいな。一応即効性がある薬を想像して作ったんだけど、これって俺の想像する力加減で効果も変わってくるのか?今後色々試して検証してみるか
「ありがとう。ずっと苦しかったんだが楽になった」
「いえいえ、こちらこそ色々教えてもらって感謝してます」
「さっきは苦しくて自己紹介がちゃんと出来なかった。私の名前はレイラ・ハーミット。よろしく頼む」
少し男口調だが彼女の金色の髪に真紅の瞳とあいまって似合っている。
「こちらこそ改めまして、カブラギ・イチヤです。ご近所同士仲良くしてくれるとありがたいです」
こうして牢屋という妙な空間で俺にご近所さんが出来ました。
いくつか前のお話で矛盾点があったので修正しました。
読んでくれた方。ありがとうございます。
一応誤字脱字がないように書いていますが、もし見つけた際は感想に書いていただけると助かります。
3月11日 誤字報告があり修正しました。報告ありがとうございました。