28話 効果
自分の予想してた展開と異なる事って結構ありますよね。――――ありませんか?
うわっ……ひどい怪我だな……
一体何があったらあんな大怪我するんだよ
俺が薬屋を出ようとして入ってきた男は全身を血で染めて荒い息を吐いている。よく見ると所々に殴られたような痣もあり半死半生の状態に見える。
入ってきた男を見て呆然としていたのは俺だけではなく薬屋の爺さんとゴーザも同じだったようで黙ったまま男を見ている。
男はよろめきながらもよろよろとカウンターに来ると握り締めていた草をカウンターへと置く、その様は幽鬼のようでどこか鬼気迫ったように感じる。
「頼む……この薬草で薬を作って欲しい……はぁはぁ……頼む」
「そう申されましても……薬草だけでは薬を作る事は出来ません……他にも素材があるので。恐縮ですが今のお客様の状態ですと今調合するよりも買われた方がよろしいかと……」
「……はぁ……はぁ…………金は……さっき盗られちまったんだ……」
「それは災難でしたね……ですが、こちらも商売ですのですみませんがお引取りを……」
いやいやいや、商魂逞しいのはわかるんだがその状態の男に商売とかバカじゃねぇのか?!
異世界の命ってかなり軽いってラノベとかでよく書いてあるけどホントなんだな……
それにしてもこの男の顔どこかで見たことあるんだよな
どうにも男の顔に見覚えがあるように思い、俺は思い出すようによく観察するとようやく思い出した。
あ、こいつ……あの時の男か
あの時三人の男に袋叩きにされてた男だ。本屋から戻る時にはもういなくなっていたからどうなったんだろうとは思ったんだが、結局盗られちゃったのか。
獣人族とは違い自力でどうにか出来るだろうと思ったのと面倒事に巻き込まれたくなかったので見ない振りしてあの場を去ったんだが、こうして男と再会すると同情の念を禁じえない。
男はゴーザの手を握り締め、必死に懇願している。
「お願いだ……ここ以外の薬屋には全部断られたんだ……はぁ……はぁ……」
「そう言われましても……」
ゴーザは困惑顔で男を見ている。確かに俺がゴーザの立場だったら困ってしまうだろう。でも俺だったら面倒だから薬を渡してしまうんだがな。
そんな事を思っていると男はゴーザの手を離して崩れ落ちた。いや、崩れ落ちたと思ったんだがどうやら違うようだ。
「お願いします……はぁ……俺に出来ることならなんでもしますっ……だから」
男は額を床にこすりつけるようにしてゴーザに頼み込んでいる。いわゆる日本でいうところの土下座だ。
「そんな事されたって困りますよお客さん、どうかお引取りブフォッ!」
その時断ろうとしていたゴーザの頬に今まで静観していた爺さんの拳が突き刺さり、ゴーザはそのまま奥の扉の方へと激突した。
うわぁ……めちゃくちゃ痛そう……
「おほうはん、いひなりなにふるんでふか?!(お義父さん、いきなり何するんですか)」
「何言ってんのかわかんねぇよ!それよりてめぇは何やってんだ!」
爺さんがゴーザを怒鳴りつける。何で怒られてるのかわからないゴーザは頬を擦りながら困惑した表情のまま黙って爺さんを見つめている。正直俺も何で急に爺さんが怒り出したのかよくわからない。というかこの爺さんの思考を理解するのなんて不可能だろう。傲岸不遜、傍若無人を絵に描いたような爺さんだぞ。
「こんな怪我人に商売なんかしてんじゃねぇ!さっさと奥からポーション取って来い!」
「は……はひっ!」
爺さんがゴーザに叱咤をとばすと奥の扉を開けてすぐにポーションを持ってくる。ゴーザの手にあるポーションは見ると透き通った瓶に緑色の液体が入れられている。おそらくあれがポーションなのだろう。
やっぱ異世界だからポーションくらいあるのか、初めて見るがどんあ味なのかちょっと興味あるな
爺さんはゴーザからポーションを引ったくるように奪うと男の下に行きポーションを持たせる。
「おいボウズ!こんな薬草程度じゃ効果のほどはしれねぇ。代金はいらねぇからこのポーションさっさと飲みやがれ!見てて気分がわりぃ!」
爺さんはそう言ってポーションを飲むように男へと促す
だが男は感謝しているようだがそのポーションを飲もうとはしなかった。そしておもむろに立ち上がり今にも死にそうな体を引きずって出口へと向かおうとする。
「お……おい!そんな体で何処行こうってんだ!早く飲みやがれ」
男の行動にさすがの爺さんも若干だがどうようしているような素振りを見せる。そんな爺さんに男は告げる。
「ありがとうございます。はぁ……はぁ……でも俺なんかよりもこれを飲ませたい奴がいるんです。このお礼は必ずするんで……ぐっ」
そう言った男は何処かに向かおうとするのだが、気力だけでどうにか出来るような怪我ではないのは見ればわかる。膝を折り曲げその場にうずくまってしまう。
「無理してんじゃねぇ!そんな体じゃ歩くのだって辛いんだろうが!」
爺さんは男が持っているポーションを再び奪うと瓶の蓋を開けて強引に飲まそうとする。
「気持ちは……嬉しいんだ……です……だけど……はぁはぁ……このままじゃ妹が……妹に飲ませないと!」
「そんなの自分の命あっての物種だ!てめぇの怪我がどれほどひどいか自覚しやがれっ!わりぃが今この店にある中級ポーションはこれだけだ!素材はあるが調合中だ。わりぃが俺はそれをてめぇに使う!俺の店でしなれちゃたまんねぇ!」
悲痛な表情で妹の心配をしている男に尚も爺さんは強引に飲ませようとする。何処にそんな力があるのかと思うくらいの力で爺さんの手を押しのけているがやはり怪我をしている男じゃ徐々に押されてきてしまうのは仕方がない。
爺さんと男のやりとりを何気なく見ていて思い出した。
もう用件は済んだんだしこの店を出るところだったんだ
急に傷だらけの男が入ってきて忘れてた
俺は二人のやりとりの脇を通り過ぎて出口へと向かった。――――のだが、ふと思いついた事が出来て足を止める。
この男、使えるんじゃないか?
考えてみたらこの男は王都に住んでいるので地理にも詳しいはずだ。それに果物屋で買った果物もいい加減重い。というか手がだるいので荷物運びが欲しいところだ。リアネ達じゃ獣人族だから町を歩かせられないしな。
「おい」
二人に呼びかけると爺さんと男は同時にこちらに振り向く。男の方はもう意識が朦朧としているような感じで目の焦点が定まっていないような感じだ。
妹さんの事だけで意識を保たせている感じで、これは妹さんに中級ポーションを飲ませたらすぐに力尽きて死んでしまうだろうな
まったく後先考えない奴だな。妹さんだけ助かっても喜ばないだろうに
後先考えないという点で自分を棚に上げてそんな感想を男に抱く。
「おい詐欺師!今取り込み中だ!用が済んだならさっさと出て行きやがれ!」
詐欺師とは…・・・まだ言うか
「俺が用があるのは爺さん、あんたじゃねぇ。そっちの男だ」
若干声を低くして爺さんに言うと興奮状態の爺さんが更に興奮した。無下に扱われたらそら怒るわな。
「んだとっ!クソガキが!」
爺さんは一度ポーションの蓋を閉めると俺の方にどかどかという足音がしそうな勢いでやってきて俺の胸倉を掴みあげる。
「詐欺師風情が俺に偉そうな口を叩くんじゃねぇ!ここは俺の店だ。さっさと出て行きやがれ!」
おいおいゴーザに店を譲ったんじゃないのか。まぁそんな事はどうでも良いか。
「あぁ、用が済んだらな。だから邪魔すんじゃねぇよ。クソ爺」
俺は創生魔法で剣を創るとその剣を爺さんの首筋に触れるか触れないかを意識して剣を固定した。その光景は爺さんだけでなく他の二人にも効果があったらしく場が緊張に包まれる。もう下手に出て薬を買取してもらうのは無理そうだし遠慮しなくて良いよな。
「おい、いい加減手を離せよ、じゃねぇと首を飛ばすぞ」
もちろん単なる脅しなのだが、俺に剣を向けられている爺さんは「ぐぬぬ」と小さな呻きをあげながらもそっと俺の胸元から手を離した。ゴーザの方はあわあわしながらもその場から動けないようだ。
そんな二人を無視して俺は男の方へと歩み寄り、男の視線の高さに屈むと皮袋からヒール丸薬を一粒取り出して男に渡そうとする。
「飲め」
しかし男は俺が出したヒール丸薬を見つめたままごくっと唾を飲み込むだけで一向にヒール丸薬を受け取る素振りを見せない。しかも徐々に息が荒くなっていてこれはいつ死んでもおかしくないんじゃないかと思わせるほどだ。
たぶん俺が脅しをかけすぎたせいなんだろうなぁ。爺さんだけにしたつもりだったんだけど……脅しが悪い方に働いてしまったようだ。
仕方ない獣人族にやった方法で飲ませるか
なるだけ手加減する事を意識して男の腹を殴る。
「がはっ!」
「「なっ!?」」
――――少し威力が強かったかもしれない
男が口から血を吐き出すと俺の服に返り血が付着してしまう。
返り血と驚いている爺さんとゴーザを無視して血を吐き出し終えてまだ口を開けている男にヒール丸薬を放り投げてごくっと飲み込むのを確認し俺は心の中で安堵の溜息をついた。
そんな俺の内心をよそに爺さんが烈火の如く怒りだす。もちろん矛先は俺だ。
「てめぇ!怪我人に何しとるんじゃ!!!」
薬を飲ませただけですが?
爺さんの怒りを柳に風という風に受け流し、少し冷めた瞳で爺さん一見するだけに留める。今重要なのは男の方だ。
俺が男の経過を観察していると即効性のあるヒール丸薬がどんどん男の打撲や切り傷、深手を負っている諸々の箇所の傷を治癒していく。この光景はいつ見ても驚きの効果だ。
飲ませてから一分もかからないうちに男の負った傷は癒された。たぶん失った血は元に戻らないけどこれなら大丈夫だろう。
「凄い……もう何処も痛くない……なんなんだこの薬は」
「あの傷を一瞬で治すとは」
そんな言葉が男とゴーザから漏れていて、爺さんは驚愕の表情を浮かべて黙ったままだ。
「傷が痛くなくなったようで何より。じゃあ俺はこの辺でお暇させてもらうよ」
俺はそれだけ言うと出て行くふりをした。
「ま……待ってくれ!」
案の定俺が出て行こうとすると背後から男が声をかけて来る。
「何だ?」
「頼む!俺にその薬を譲ってくれ!妹を助けたいんだ!」
「そんな事言われても俺には何の関係もないじゃないか。今丸薬を渡したのは見てて見苦しいと思ったからだ。それに中級ポーションが使わずに余ったんだからそれをもらえばいいじゃないか」
「それは……中級ポーションは確かに高価で凄い薬だ……だけどこの薬を飲ませたとしてもあいつの体力がもつかわかんないんだよ……」
話を聞くと妹の怪我はこの男の怪我よりもはるかにひどい状態らしい。ポーションは確かに傷を癒す力があるがヒール丸薬のように一本で全快させるまでにはいかない。また徐々に癒す効果があるが妹さんの体がそれに耐えられるかわからないという事だ。
話を聞くにポーションって多少回復する栄養剤のようなものなのだろうか。徐々に回復させるって事はたぶん自己治癒能力を上げるって事だろう。もともと体力が極限まで落ちている相手では回復する前に死んでしまうという事か。それをわかっててでも中級ポーションを持って帰ろうとしてたんだな。藁にも縋る思いとはこういう事か。
というか今にも死にそうな状態だったこの男より酷い状態って死んでるんじゃないのか?
話を聞いてると心配になってくるな
「ならどうする?丸薬をやる代わりにお前は俺に何差し出すんだ?」
内心妹さんを心配していたがそれを面に出さないように男に問いかける。正直ヒール丸薬でお金を稼ぐのは無理だってわかったからただでもいいんだけどね。ただこういうのは何でも善意で片付けてしまうと際限がなくなってよからぬ輩がやってくるからな。
「俺に出来る事なら何でも――――」
「何でもねぇ。見ず知らずのあんたのそんな口約束を俺に信じろと?」
男に被せるようにそういうと苦渋の顔をした頭を下げてしまう。しょうがない、俺の方から提案してやるか。
「何でもと言ったか?」
「あぁ!」
男はガバッと顔を俺に縋るような目を向けてくる。そんな男に俺は次の言葉を告げた。
「なら俺の召使いになれ」
その一言を告げると男は小さく息を飲む。
「それは……奴隷になれという事か?確かにそれだったら約束を反故にする事はできないもんな……」
あれ?俺的には召使いが欲しかっただけなんだが、思わぬ方向に勘違いしちゃったようだな。だけどこのシリアスな雰囲気で訂正すると場がしらけてしまうかもしれない。俺は空気の読める男、鏑木一哉だ!
「その通りだ。何でもするって言ったよな。それならこの薬を譲ってやるよ」
「――――わかった。それで妹が助かるなら俺はどうなったって良い。ただ奴隷契約は後にして欲しい。まず妹を助けたいんだ」
「逃げるなよ、その場合お前を殺す事になるからな」
一応の脅しをかけると男は神妙に頷く。その力強い表情を確認して俺と男は立ち上がる。妹さんを助ける為に。
それにしても――――
どうしてこんな展開になったんだろうか?俺はただ異世界の城下町観光と暇つぶし用の本を買いに来ただけなのに
ここまで読んで頂きありがとうございます。楽しんでいただければ幸いです。
5月23日 誤字報告があり修正しました。ご報告ありがとうございました。




