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27話 ヒール丸薬

ある程度の接客態度って大事だと思います。そういえば夜中にコンビニに○ャ○プ買いに行ったら睨まれた経験があります。そしてそのコンビニには二度と行かなくなりました。

 シャティナさんと別れた俺はその足で町の人から教えてもらった薬屋へと辿りついた。結構な寄り道をしていた為に武器屋からここまでで結構時間を食ってしまったな。


 薬屋は住宅街の中にあったのだが、獣人族と激しい戦いがあったにも関わらず奇跡的に建物はどこも損傷したようには見えない。多少年季が入っていてくたびれたような建物はまさにファンタジー世界の薬屋さん!という感じがして少しだけ気分が高揚する。


 ドアを開くときにカランカランッという音とともに中に入ると薬品のにおいと草のにおいが鼻をつく、元の世界の薬局とは微妙に異なる匂いに薬屋との違和感を感じるが些細な事だろう。


 中には様々な薬が棚に並べられていてどれも瓶に蓋をされて名札と値段が書かれた札が立てかけられているがどれがどういう薬なのか全然わからない。


 カウンターには太ったドワーフの爺さんがこちらを睨みつけるように座っている。


「ドワーフ?」


「なんだい、おめぇさんドワーフを見たことがないのか」


 ぶっきらぼうな感じで目つきが悪く、とても接客向きの姿ではないがそれよりも気になるのは人間至上主義みたいなこの王都で他種族が普通に店を構えてるところだ。


「どうしてドワーフが王都で店を構えてるんだ?」


「アァ?!文句あんのかっ!」


 疑問に思った事を口にしただけなんだけど、どうも聞き方が悪かったようで爺さんの額に青筋が浮かんでいる。正直めちゃくちゃ怖い。まるでヤクザに因縁をつけられているようだ。


「すいません。ちょっと聞き方が悪かったですね。俺、ちょっとこの世界に来たばかりなのですが他種族と戦争してるのに人族の国で他の種族が商売できるのかなぁって」


「なるほどな。噂には聞いてたけどおめぇさんが勇者として召喚された小僧か」


「召喚されたのは確かなんですが勇者ではないです」


「じゃあ何だってんだ!めんどくせぇから勇者で良いだろうが!文句あんのか?」


「はい!勇者で良いです!文句なんてありません!」


「それで良いんだよ!最初からそう言え」


 たぶんこの爺さんが店主なんだが少しでも反論しようものなら怒鳴りつけられてこっちの意見なんて聞きやしない。よくこれで店が潰れないものだ。


 まぁこういう店のお約束として店主の調合した薬がかなり優秀なんだろ思うんだが、出来れば武器屋みたいに自分の子供にでも定員やらせて奥に引きこもって薬を作り続けて欲しいわ


 というかこの世界の店の店主はどの人も問題ありすぎるんじゃないのか?元の世界じゃ考えられないぞ!少しでも問題ある接客すればすぐにクレームが入るような世界にこんな店がわんさかあったらと考えると混沌カオス過ぎる……


俺がこの世界の店について考えていたその時店の置くの扉ががらがらと音をたてながら開かれていき今度は奥から小太りのドワーフのおっちゃんが姿を見せた。


「お義父さん、さっきから奥まで声が届いてますがお客さんですか?」


「おぅ、ゴーザ!今俺と話してる小僧が客だ」


「すいません、お義父さんが何か失礼な事を言いませんでしたか?初めまして店主のゴーザと申します。以後この店をご贔屓にしていただけたら助かります」


 どうやらあの爺さんの態度はいつもの事のようでゴーザと呼ばれたおっちゃんがぺこぺこと俺に謝ってくる。


 この爺さんが店主かと思ったんだがどうやら違ったようだ


「初めまして、イチヤ・カブラギと申します。こちらこそどうぞよろしくお願いします」


 一応創生魔法で薬は創る事ができるので贔屓にするかは微妙だが、もしかしたら薬学の知識が必要になったり薬の売却するのにお世話になるかもしれないので丁寧な挨拶を心がけてゴーザに挨拶を返す。一応挨拶しなかったらまたキレそうな爺さんにも一緒にお辞儀しておいた。


「そういや俺様も名前を名乗ってなかったなダザンだ。覚えておけ」


 なんでこの爺さんは傲岸不遜な態度なのだろう。店主さん、この爺さんに店番させちゃ駄目でしょう!


「それで小僧、この間の獣人族の襲撃を収めてくれたのはてめぇか?」


「まぁ一応……」


「はっきりしろや!」


「はい!友人と協力して獣人族には撤退してもらいました!」


「それで良いんだよ。質問してんだからYESかNOだけでも良いくらいなのにんな自信なく答えてんじゃねぇ。悪ぃ事してんじゃねぇんだからもっと堂々としてろってんだ」


 何で俺は責められてるんだろう……もうヤダ……おうち帰りたい……


「お義父さん、お客さんがひいているじゃないですか!それに言いたい事があるんでしょう?」


「わかってらぁ!」


 店主が爺さんを嗜めるとぶっきらぼうな態度ながらもこちらへと向き直る。


「小僧!」


「はい!」


「――――獣人族の件では世話になった!感謝する」


「はい?」


 お礼?急にお礼を言われたのか俺?


「小僧!感謝するって言ってんだよ!耳が遠いわけでもねぇだろが!感謝されてんだからそれらしい態度とれや!」


 どうやら爺さんは俺に感謝の言葉を伝えたかったようで俺の聞き間違いではなかったようだ。それにしても爺さんの態度は全然感謝しているようには見えないのはどうしたものか


「駄目じゃないですかお義父さん。それじゃあ怒鳴りつけてるようにしか見えませんよ」


「っるせぇ」


「すみません。これでもお客さんには凄く感謝してるんですよ、おかげで店をたたまずにすみましたから」


「どういう事ですか?」


 爺さんにどういう事か説明してもらおうにもあの様子じゃちゃんと説明してくれそうにないのでその息子であるゴーザに説明を求める。


「私達ドワーフはエルフよりも数が少ないという事もあって他種族の方とは中立の立場をとっていて、鍛冶や錬金術なども他の種族よりも上手にこなせる為こうして人族の国でも商売をさせてもらえてるんですよ、お義父さんがここに店を構えて数十年経ってるんですが、私に店を任せてすぐにあんな事が起こってしまいもしあのまま滅ぼされていたらこの店もなくなるところでした。もちろん私達の錬金術があれば他の土地でもやっていけますが家族で他の土地に移るというのはとても危険な行為なのでそうならなかった事にお礼を言ってるんですよ」


 最後に「私もお客様に感謝しています。本当にありがとうございました」と深々と頭を下げられ少し照れくさくなった。



「それでお客様今日はどのようなご薬をご所望で?先日の件もありますから良い値段でお売りさせて頂きますよ」


 ひとしきりゴーザからお礼を言われた後に彼は商売人の顔になって俺がここに何を求めて来たのかをたずねてきた。


 その営業スマイルがまぶしすぎる


「今日は商品を買いに来たんじゃなくてとある薬を買い取ってもらいに来たんですが、ここって商品の買取などはやっていますか?」


「えぇ、買取も行っていますよ。ですが薬草や薬の材料などは良く売りに来る方はいらっしゃるんですが薬を売りに来た方は久しぶりですね。それではすいませんがステータスカードの提示をお願いできますか?」


 色々な店でカードの提示を求められたのでゴーザに言われる前にステータスカードを取り出しておいた。それをすぐさまゴーザに見せると「水色ですね」言われてカードを返却される。


「それで本日はどんな薬の売却をご所望で?」


「これです」


 そう言ってカウンターにヒール丸薬の入った皮袋をおくとゴーザが中身を確認して頭にクエスチョンマークを浮かべた。


「すいません。この薬はなんという物なんでしょう。見た事がありません」


「情けねぇ。ゴーザ、ちとどけな。どれどれ」


 そう言って爺さんがゴーザをどかしモノクルをはめてどのような薬かを鑑定するがゴーザと同じように頭にクエスチョンマークを浮かべたままうんうん唸っている。


「おい」


「なんでしょう?」


「俺は長くやっているがこんな鼻クソみてぇな丸薬見たことねぇぞ」


 おいおい、人が持ってきた薬を鼻クソ呼ばわりとはひどいな


「一応俺はヒール丸薬って呼んでます」


「聞いたことねぇな」


 爺さんが訝しむように俺を見ているのでどういった薬なのか説明する。


「この薬はどんな傷でも治す事が出来ます。まだ部位欠損とかは試した事がないのでそれは保証できませんが、打撲や切り傷などは一瞬で治せますよ」


 確か獣人族と戦った時にあばらを何本か砕いた奴に飲ませた事があったけどそれも一瞬で治してたから死ななければほとんど治せるんじゃないかと思うんだけどそれは言わないでおこう。

 

 今説明した効果だけでも十分だしな


「おいおい、さすがにそんな薬があるわけねぇだろ!ふざけてんのか?アァ!?」


 そんな事言われても実際そういう効果を持ってるんだし、どうすれば信用してもらえるのか……


 俺と爺さんのやり取りを見ているゴーザの方をちらっと確認したが彼も信じられないという様な顔をしてるので援護は望めない。


「こればかりは信じてもらうしか……」


「仮に信じたとしてこの薬には相場がねぇ。おめぇはこれをいくらで買い取って欲しいんだ?」


 そう言われて少し考えてみる。一応袋に入っていたヒール丸薬は全部で十二粒入っているので本を買ったた後も余裕を持たせたい。出来れば――――


「一粒大金貨二枚は欲しいです」


「「なっ?!」」


 俺の提示した金額を聞いた二人は驚きの表情を浮かべる。


 やっぱり薬の金額としては高額なのだろうが、言ってしまったものはしょうがない。そのまま押し通すしかないだろう。


「ふざけんなっ!」


 金額を聞いて呆けていた二人のうち最初に我に返ったのはやっぱり爺さんだった。激昂した爺さんはカウンターを叩くと俺を睨みつける。


「エリクサーみてぇな幻の薬ならわかるがこんなわけのわからねぇ鼻クソみてぇな丸薬にんな金額出せるか!勇者だと思って感謝したがただの詐欺師じゃねぇか!大方獣人を退けたのもてめぇじゃねぇんじゃねぇのか!??アァっ!」


 ついには爺さんに詐欺師呼ばわりされてしまった。まぁこの世界にない俺の創生して創った薬だから疑われても仕方ないが、だからって詐欺師呼ばわりされるいわれはないと思う。


「お義父さん、少し落ち着いて!すいませんお客さん。ですがこちらと致しましては効果がわからないような薬にそのお値段を出す事は出来ません。申し訳ありませんが買取の方はご遠慮させてもらいます」


 ゴーザはそう言って申し訳なさそうに頭を下げるが目は俺への疑念でいっぱいである。


 さすがにこんな風な態度をとられてまで薬を売ろうとは思えない。こっちも詐欺師呼ばわりされてカチンと来ている。


「わかりました」


 それだけ言うとカウンターにあるヒール丸薬を皮袋に戻して店を出ることにした。面倒事になるのも嫌なので一礼したあと扉へと向かう。


「本日は本当に申し訳ありません」


 ゴーザが頭を下げていたので「こちらこそすいません」とだけ告げて店を出ようとする。


 ――――するとバンッと扉が勢いよく開いて入り口から一人の男が中に入ってきた。


 俺はその男の姿を見て驚いた。


 全身血塗れで満身創痍の男が飛び込んできたのだった。

いつも読んで頂きありがとうございます。

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