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25話 通貨

「たぶんここが本屋だろう」


 紆余曲折あったのものの果物屋の店主に言われたとおりの道を進むと何かの看板が掲げてある古びた店を発見した。たぶんここが本屋なのだろうが先程の二軒でひどい目にあったので細心の注意を払ってドアを開けた。


 扉を開けてそっと中に入ると室内からは古い紙の匂いとほんの少しのほこりの匂いが鼻腔をくすぐる。少しこじんまりとしている本屋だが自分の身長よりも高い本棚にいくつもの本が窮屈そうに入れられていて種類の方は結構ありそうで雰囲気としては古書店といった感じだ。


 俺は試しに一冊の本を手に取り中を確認してみるがやはり異世界文字で書かれている為に読むことが出来ない。やはりこちらの文字を覚えるしかないだろう。


 幸い時間はたっぷりあるしね


 そんな風に考えていると、奥の方の扉ががらがらっと音をたてて開かれた。


「物音がして来てみりゃ、お客さんかい。立ち読みは厳禁だよ」


「お邪魔してます」


 扉の方から現れたのは真っ白な髪を小奇麗にまとめた気難しそうな年配の爺さんだった。


 爺さんは杖をつきながらカウンターの方の椅子へと腰掛けて俺の方へと鋭い視線を送ってくる。たぶん立ち読みや万引きを警戒しての事だから仕方ないのだが、どうにも居心地が悪い。


 とりあえず適当に本を選んで帰りますか


 そう結論付けて適当な本を二、三冊ほど手に取るとカウンターにいる爺さんの方へと持っていく。


「カードを見せな」


「カード?」


 短い爺さんの一言が良く理解できなかった俺はオウム返しのように聞き返す。俺が何を言われているのかわからなかったのを理解した爺さんが若干呆れたように短い溜息を吐く。


 客に対してその反応はどうかと思うがそれで喧嘩して本が買えなかったらここまでの苦労が水の泡なので表情に出ないように努める。


「カードっていやステータスカードしかないだろう」


 そう言って爺さんが俺に手を差し出したので俺はポケットからステータスカードを取り出して爺さんに渡すと爺さんは俺のカードの色を確認した後、俺に返してくる。


「水色か、この二冊は買えるが、こっちのは緑以上でないと買えん」


 爺さんはそう言って本の隅にある一点を指さす。そこには色のついた四角いシールが張られていてその色が緑色をしていた。どうやらこの隅に張ってあるシールと自分のカードを照らし合わせて買える本を決めれば良いようだ。


「お前さん、本を買うのは初めてじゃろう?」


「あぁ。というか買い物するのも初めてだ」


 異世界ではな。と内心で付け加えておく。


「どこぞの貴族のお坊ちゃんなら小間使いに任せればよかろうに」


 どうやらステータスカードを見て俺をどこかの準男爵の子供と勘違いしたようだ。ちゃんと平民の格好をしているのだがお忍びで買い物に来ているとでも思われているのかな。


「俺は貴族じゃないから小間使いも雇ってないんだ」


「まぁわしにとっては貴族だろうと平民だろうと客は客だ。それで買えるのはこの二冊になるがそれでええのか?」


 貴族じゃないのを訂正したのだが軽くスルーされてしまった。しばらく牢屋でだらだら過ごしたいので三冊くらい欲しい。


「後一冊くらい欲しいんで持ってくる」


 それだけを爺さんに言ってさっき無理だと言われた本を元の場所に戻した後にシールを確認してから三冊目を手に持ちカウンターの上に置いた。


「これなら大丈夫だね。これと……これと……これで……大金貨十二枚だよ」


「これが今所持している全財産なんだけど、足りるか?」


 一つ一つの値段を確認した爺さんは合計の値段を告げてきたが、よくわからなかったので自分の所持している袋も一緒にカウンターの上に置く。爺さんは袋の中身を開けて金額を確認すると渋い顔をして俺の方に視線を向けてくる。


「悪いがこれじゃあ一冊も買えんよ」


「え!?一冊も?」


「当たり前じゃないか。本はそんなに安くないんだよ。常識さね」


 どうやら元の世界と違って紙代やらその他の手間暇で一冊がかなりの相場のようだ。こういった本を買うのは貴族や名の知れた商人などの裕福な人間しか買わないらしい。どうりで繁華街の方に店を構えてないわけだ。


 印刷技術が普及してないとか……こういうところはラノベで良くある異世界のようだ。複写の魔法とかないんだろうか?


「金がないんじゃどうしようもないだろう。取り置いてやるから金が溜まったらまた来たらええ」


 先程の態度とは違い爺さんが気を使うような感じでそんな風に言って袋をこちらに返してくる。どうやら俺が考え事をしている姿を見て困ったように見えたのだろう。偏屈爺だと思ってたのだが、それだけではないようだ。


「ありがとう。じゃあ悪いんだけど取り置いといてもらえるかな。お金準備してまたすぐ来るんで」


「うむ。一ヶ月くらい取り置いといてやるがそれ以上は無理じゃからな」


「わかった。よろしく」


 特にあの三冊が欲しいわけじゃないんだが、また選び直すのも面倒なので爺さんに礼を言ってから俺は本屋を後にした。





本屋を出た俺は繁華街の通りに戻って来る。さっき本屋に向かう途中にいたカツアゲしていた奴等と袋叩きにあっていた青年は繁華街に戻る時と同じ道を通ってきたのだがその時には両方ともいなくなっていた。


 繁華街の通りをどうやって金を稼ごうか考えていると噴水のある広場へと辿りつく。考え事をするには丁度良いので噴水の脇に設置されている公共のベンチへと腰掛けて考え事にふける。


「さて、どうやって稼ごうか……手っ取り早くさっきの連中のようにカツアゲして稼ぐのが一番はやそうだな……」


 そんな風に物騒な独り言を呟くが当然ながら誰からの反応も返ってこない。もちろんそんな事をするつもりはない。ただ言ってみただけだ。――――ホントだぞ……?


 だがやはり反応がないのは少し寂しいな。この場にアル達がいれば良い反応を返してくれるんだが……今度来る時は出来れば知り合いと一緒に来たいと思うが委員長とかは面倒臭いので勘弁だ。


 考え事が脱線してしまった。今はそんな事よりもどうやって金を稼ぐかだ。さすがに日雇いのバイトは字が読めない時点で何処にあるのかもわからないしめんどそうなのでする気もない。


 漫画やゲームの異世界みたいならここでギルドなどに入るのだが、今は日雇いバイトと同じ理由で却下だ。もしギルドが存在して機会があれば冒険者としてギルド登録するのも良いかもしれないが趣味としてやるならともかく仕事としてはやる気はない。


 という訳で日雇いバイトとギルドを却下して俺がやってきたのは――――



「いらっしゃいませ。どんな武器をお探しですか」


 少し赤みがかった髪をした十代後半くらいのスレンダーなお姉さんが俺の方にやってきてお辞儀しながら挨拶をしてくれる。


「いや、今日は武器を買いに来たんじゃなくて売りたい武器があったので持って来たんだけど、買取はやっていますか?」


 俺がやってきたのは王都一番の品揃えと言われている武器屋だった。


 大通りで武器屋の道を尋ねたらこの店を紹介された。結構大きな店だったので一目で場所がわかって苦労せずにここまで来れたのは良かった。

 

 前に創生魔法の練習がてら武器を精製していた時に邪魔だったのでアルが武器を売りに行ってくれた事を思い出し、武器屋に来る前に人通りが少ない武器屋の裏手でこっそり精製して売りに来たのだ。さっき買った果物は武器屋の裏手に隠すように置いてある。


「はい。当店では買取なども行っておりますよ。ではカードの提示をお願い出来ますか?」


 ここでもカードの提示を要求されるのか、本屋でも提示させられたけど食品以外だと求められると思った方が良さそうだな。


「これで良いですか?」


「ありがとうございます。それで本日はどの品を買取致しましょうか?」


 先程の本屋の爺さんの対応とは雲泥の差で良い接客スマイルをこちらに向けてくれている。さすがは大きな武器屋の店員さん。しっかりと教育が行き届いている。


「これ全部買取をお願いします」


「全部……ですか?」


「はい」


 俺が両手いっぱいに持っている武器をカウンターに置くと一瞬目を丸くした店員だけど、すぐにその表情を元に戻した。


「すみません、今店長を呼んできますので少々お待ちください」


 どうやら自分一人ではどうしようもないと判断した店員のお姉さんは奥にいるであろう店主を呼びに行った。


 少しの時間待っていると再び扉が開き店員と一緒に大男が姿を現した。熊のような体躯に赤い短髪をしていて頬には大きな十字の傷跡があり、かなり目つきが鋭い。


 なんだ……この殺人鬼みたいなおっさんは……


 どうやらこの男が店主のようだが、武器屋の店主をやるよりも用心棒や傭兵でもやった方が稼げるんじゃないかと思ってしまうほどの出で立ちだ。


「あんたか?武器を売りに来た小僧ってのは」


 店主の姿に呆然としていた俺にそう尋ねてきた。先程の店員と違い横柄な態度で俺に接してくる。


 なるほど、確かにこんな大男が店に立ってたらみんな逃げ出してしまうよな

 現に俺も今すぐ逃げ出したい

 

 正直王国にいた騎士や兵なんて可愛く見えてしまう。そんな感想を抱いていて店主の質問に答えてなかったので訝しげな視線を向けられる。


「あ、あぁ……そうだ。今日は武器を売りに来た」


「ったく、わけぇんだからもっとはきはきしゃべりやがれ!」


 俺がしどろもどろに返事をするとそんな風に返された。


 いやいや、初見でこんな熊みたいな大男が出てきたらさすがにビビるだろ!


 恐らく戦えば俺の方が強いだろうが、そういう事じゃない。本能がこの男とは戦いたくないとさえ思っているのだ。

 

 俺が内心でそんな事を考えてると店員さんの方から爆弾発言が飛んでくる。


「もう!お父さん!お客さんが困っているじゃない!いつも言っているでしょ。接客業なんだからお客さんには丁寧な対応をって」


 WHAT?


 今この店員さん今何て言った?お父さん?


「あの、すいません。親子なんですか?」


「えぇ、そうですよ。お客様、うちの”父”が失礼な態度を取ってしまい大変申し訳ありません」


「んだっ?!俺とこいつが親子で何か問題があんのかっ?」


「もう!お父さん!」


 俺の質問に店員さんは申し訳なさそうな顔をして俺に詫びてくるが、店主の方は喧嘩を売られたヤンキーのような態度で俺を睨むように見てきたが店員さんが店主を諌めている。


 いやいや、どうしたらこんな熊男からこんなしっかりした娘さんが生まれるんだ?百パーセント遺伝的に繋がってないだろう!突然変異?


「不躾な質問をしてすいません」


「ふんっ!」


「いえいえ、よく言われますので」


 とりあえず失礼な事を言った自覚はあるので謝っておく。店主は不機嫌そうにそっぽを向き、店員さんは苦笑交じりの愛想笑いを浮かべている。


「それよりも買取でしたね。今父に武器を鑑定してもらいますので少々お待ちください。――――ほら、お父さん!」


 彼女が話を元に戻してくれて武器鑑定をするように店主に促している。店主の方も仕事を放棄するつもりはないようで渋々ながらも武器鑑定を行おうとしてくれた。


 一応武器は剣やナイフなどを十五本ほど精製して持ってきたのだが、店主は一本一本さっと目を通して羊皮紙に何かを書き記しているようだ。


 少し待っていると鑑定が終わったのか店主が先程書き記した羊皮紙を見てからそれを店員さんへと渡すと自分の仕事は終わったとばかりに奥の扉を開けて姿を消した。それを見届けた店員さんは俺の方へと向き直る。


「それでは買取額なんですが中銀貨二枚に小銀貨一枚、大銅貨三枚、中銅貨一枚と小銅貨が四枚になりますがよろしいでしょうか?」


 店員さんがさっきの羊皮紙を見ながら俺に買取金額を告げてくれるが今いちいくらなのかわからない。わかるのは金貨が一枚もないので本を買えないといった事だけなのだがあといくら足りないのかもよくわからない。


 まずは異世界の金銭の価値を覚えなければ話にならないと思った俺は一つ思いついた事を実行に移すことにした。


「はい。その買取価格でお願いします」


「畏まりました。――――それではこちらがそのお金になりますのでお確かめ下さい」


「あの……すいませんが一つお願いしたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」


 さっき言われた金額を袋に詰めてくれた店員さんに俺は少し申し訳なさそうな顔を作って頼み事をする事にした。


「何でしょう?」


「出来れば今手元にあるお金と売ったお金を合わせて両替をお願いできませんか?」


「えぇ、構いませんよ」


 自分の腰から金の入った袋を取り出してカウンターに置いてそう言うと店員さんはにこやかに快諾してくれたのでお願いした。


 店員さんが二つの袋を開けて硬貨をカウンターに広げて価値の違う硬貨をより分けていくのをよく観察する。


 なるほど、てっきりこの国の通貨は金貨、銀貨、銅貨の三種類だと思っていたんだが、硬貨の周りに白、黒、灰色の色がついていてそこで大、中、小の硬貨に分けられるのか。


 硬貨は小五枚で中一枚、中二枚で大一枚、大十枚の銅貨だったら小銀貨一枚の価値があるらしい。店員さんが両替するのを見ていてようやく金銭の価値がわかった。ようは日本での金銭価値と同じようなものだ。例をあげるなら小銅貨が一円、中銅貨が五円というような感じなのだろう。


 そう考えると買取価格が289円ってかなりボッタクリに見えてしまうな

 まぁ異世界の物価だから当てはまらないんだけどね


「ではこちらが両替させて頂いた金額になりますのでお納め下さい」


「ありがとうございます」


 店員さんにお礼を言って両替してもらった金額を袋に詰めた。持っていた通貨と合わせて大銀貨一枚、中銀貨四枚、大銅貨三枚。小銀貨四枚となった。金貨十二枚にはほど遠いが、今回は金銭の価値を知ることが出来たので良しとしよう。


「色々とありがとうございました」


「いえいえ、こちらこそご利用ありがとうございました、またのお越しをお待ちしております」


 店員さんに礼を言って武器屋を後にした。


 店主の熊男には参ったが店員さんは愛想が良くて美人だったのでまた武器を売りに来るのも良いかも知れない


 俺は本屋の時よりも気分よく店を出ることが出来て気分が良かったのだが、本代への道が遠すぎる事も実感してしまい次にどうやって金を稼ごうかと思案する事にしたのだった。

ここまで読んで頂きありがとうございます。

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