24話 城下町
「よっと……」
城門の天辺から跳躍した俺は近くにあった建物の屋根から屋根に飛び移って委員長が追って来てない事を確認するとようやく地面へと着地した。
結構距離も稼いだしもう追っては来れないだろう
降りた先に人がいない事は確認済みだ。騒がれても面倒ごとに巻き込まれるだけだしね。ただアルには「知らない場所に行くんだからなるべく人気のある場所からはずれないようにしとけ」とか忠告されたが最初から破ってしまった。
「まぁいいか」
理由はわからないが、特に問題はないだろう。そんな風に思いながら歩き始めたのだが、アルの忠告の意味を十分もしないうちに理解する事になる。
「おい、兄ちゃん、金目の物を持ってるなら置いていけ。なぁに命まで盗ろうってんじゃねぇ」
そんな風に建物の隙間から下卑た笑みを浮かべた男女五人が俺を取り囲むように姿を現した。
男三人に女二人か……それにしても……
うわぁ……なんだろう……ありきたりな台詞にテンプレなキャラ設定の典型的な三下共は……
なるほどな。アルが言いたかったのは繁華街から外れるとこういう奴に絡まれるという事だったのか
「ひひっ。兄貴、こいつ怖くて話す事さえできないみたいですぜ」
この五人のリーダーらしき男に舎弟らしき男が話しかけているのを見て俺は笑いそうになるのを必死にこらえる。
たぶん俺が笑いを堪えて肩を震わせているのを更に勘違いしたのだろう。五人は無警戒にこちらに歩み寄るとリーダーらしき男が俺の方に手を伸ばそうとする。
「大人しくしてろよ、兄ちゃんも死にたくないだろう?」
その一言が決め手になった。
「ぷっ、あはははははは!」
「何がおかしい!」
急に俺が笑い出した事で、五人は一歩後ずさるとリーダーの男は怒りと不審を交えた表情で俺を見る。俺はそんな五人の顔を一人一人見た後に笑いながらなぜ笑ったのかにこやかに理由を教えてやった。
「悪い悪い。いや、もう台詞がありきたりというかラノベなんかで出てくる小者臭丸出しの三下キャラ過ぎて思わず吹いちゃったんだよ、はははっ、まじごめん!」
全然謝っている感じではない俺の謝罪とところどころわからない単語はあるようだが馬鹿にされてる事はわかったようで彼等は激昂する。腰に提げたナイフを手にして今にも襲い掛かりそうだ。合図があればいつでも俺へとそのナイフを突き立ててくるだろう。
「兄貴!さっさとやっちまいましょうぜ!」
「もちろんそのつもりだ!やれ!」
リーダーの男の合図と同時に五人が俺に切りかかってくる。周りを囲まれているため逃げ場のない俺は足に力を込め跳躍してリーダーの背後へと着地する。
「なにっ?!」
「やれってさ、合図しちゃ意味ないんじゃ……ねっと!」
俺はそう言うと驚いているリーダーのケツの穴目掛けて足の先で蹴り上げてかかとが浮いた状態のリーダーに今度は横っ腹に二撃目の蹴りを叩き込む。
「あがっ!」
「ぶはっ!」
ガン!ガン!ガン!という音と共にリーダーとリーダーの斜め前にいて巻き添えを食らった舎弟が丸まるかのように吹っ飛んでいく。一応手加減した”つもり”なので”たぶん”生きてるだろう。
その光景を見ていた残り三人がその光景を口が外れそうなくらい開いて呆然と見ているが、次の瞬間には顔を青ざめさせる。俺はそんな三人を微笑みを浮かべてみた後に問う。
「で?次はどいつがああなりたい?」
「ひぃっ……」
「それ以上近づくな!」
「来るな来るな!」
三人はさっきの光景がよほど怖かったのか腰が抜けたようで地面に尻餅をついて倒れてナイフも手から滑り落ちるように離していた。俺を見ている目からは怯えの色がうかんでいる。
それにしても近づくなとか来るなとか、一歩も近づいてないのに失礼な奴等だ
また襲われても面倒だしもう少し脅しておこう
ついでに道がわからないので繁華街へ行く道を教えてもらおうか
俺は棒手裏剣を精製すると彼等に見えるようにちらつかせると彼等の顔が青から白へと変わっていく。それを確認した後先程蹴り飛ばして昏倒しているリーダーと舎弟に向けて棒手裏剣を投擲する。
棒手裏剣は勢いよく飛んでいき昏倒している彼等の顔のすぐ横の壁へと突き刺さり壁からはぱらぱらっと石の破片が落ちる。三人はその光景を口を半開きにしたまま呆然と見ていた。
「もし次に同じような真似をしたらお前等の脳天にあれが突き刺さると思え。いいか”二度目”はないからな」
二度目というところを強調して言った後に一人一人の顔を見回すと全員がこくこくと頷いていたのでもう俺におかしな真似をしようとは思わないだろう。まぁ報復しようとしたら返り討ちにするだけなのだが、その労力自体が無駄なので出来れば御免蒙りたい。
「ところで」
「もう勘弁してよぉ……」
「頼むから許してくれぇ」
「ごめんなさいぃ!ごめんなさいぃい!」
俺が話そうとしたら三人は緊張に耐えられなくなったのか泣き出してしまった。
おいおい、女はわからんでもないが男まで泣き出したぞ……大の大人が情けない
見た感じ俺より年上な感じの三人なのだが、俺の行動がよほど怖かったようで年など関係なく泣きじゃくっている。面倒なので用件だけ済ませてさっさとこの場から立ち去ろう。
「用件済ませたら立ち去ってやるからお前等は俺の質問に素直に答えろ」
「なんだよぉ……」
泣きながらも俺の言葉に反応してくれたのは明るい金髪の女性だった。他の二人、特に男の方は天に顔を向けて盛大に泣いていた。正直凄くうるさい。
「繁華街はどっちだ?」
「ひくっ……え……?」
俺の質問が意外だったのか女が間抜けな声を上げる。ここまでの状況があまりにも尋常じゃなかった為か、あまりに普通の質問だった為に女は理解出来ていないようだったのでもう一度同じ言葉を繰り返す。
「あっちだよ……」
今度は俺の質問を理解してくれた女は繁華街へと続く道を指差してくれる。
「あっちか、さんきゅ」
「さ、さんきゅ……?」
ありがとうと言う意味なのだが、この世界では通じないようだ。俺はそれだけを告げて昏倒しているリーダーや舎弟と泣きじゃくる三人を一見すると教えられた道へと歩みを進めた。
出来れば現れ方がテンプレだったんだからリーダー達がぶっとばされた後は「お。覚えてろよぉ!」って言ってリーダーを担いで逃げて行く様を見てみたかったのがそこまでテンプレ行動は起さなかったか。まぁそのおかげで道もわかったので良しとするか。
盗賊まがいの連中から道を教えてもらってしばらく歩くとたくさんの人が行き交う大通りに出る事が出来た。さすがは王都の繁華街だけあって色々な店や露店などがひしめきあっていて、店員の呼び込みやらたくさんの人々の声で活気があふれている。
そんな大通りを見回して気付いたことがある。
「文字が読めない……」
そう。建物の看板や露店に並んでる商品名などの文字が異世界語で書かれていて読むことが出来なかった。辛うじて値段などの数字はなんとなくだが把握する事が出来るのだが、これではどんな商品か買うことも出来ないし、下手な事をすればぼったくられるかもしれない。
「ステータスカードは読めたんだが……あれには翻訳機能でもついていたのか?」
そんな独り言を呟いてステータスカードをポケットから取り出すと内容を確認する。やはりこのカードの文字は読める。
俺は今までのオタク知識を駆使して頭をフル回転させる。この状況を打破する方法を!
そこで一つ思い浮かんだ事を試す事にした。
「装着」
ステータスカードを装着してもう一度よく見てみる。こういう時は自分の所持している物でどうにか出来るのがセオリーなのだ!輝け俺のオタク知識!来てくれ俺へのご都合主義展開!
……
…………
………………
「読めない……」
どうやらご都合主義の神様に見放されたようだ。普通なら翻訳機能のついた道具などもらったり能力として異世界語を習得出来るはずなのに、なんて不親切なんだ!ハードモードは勘弁してくれ!
そんな風に内心でごちていたのだが、そんな事をしても状況は一向に良くはならないのでカードを解除と唱えて元の状態に戻した後にポケットにしまい、次にどうしようか考える。
「そういえば目的もなくここまで来てしまったがどうしよう?」
本当なら王城を出ながら考えようと思ったのだが、委員長に追われるように王城を飛び出し、委員長を撒いたと思ったら今度は盗賊連中に絡まれてしまったので何をしようとか考えずにここまで来てしまった。丁度いいので今から少し考えるか。
「って言っても本当にどうするか……」
金はアルからもらったものがあるのでたぶん大丈夫だろう。物価がよくわからないが店主にでも聞いて今ある金で買えるだけの物を買えば良いだろう。ぼったくりそうな感じだったら店を出れば良い。
「となると最初に思い浮かぶのは本だな。読めないけど」
アルだったら字くらい読めるだろう。レイラとリアネ達は読めない可能性があるので一応聞いてみるだけ聞いてみれば良い。どのくらいこの世界にいるのかはわからないので文字の読み書きくらいは覚えよう。今日ここに来て文字が読めないとわかったのは収穫だった。――――そんな風にポジティブに考えないとやってられない
「本を買ったら次はリアネ達にお土産でも買って帰ろう」
食べ物か小物あたりなら喜んでくれるだろう。見れば自分でも創生魔法で精製する事が出来るのだがこういうのはプレゼントする事に意味があると思うのでそんな無粋な真似はしない。俺は彼女達の喜ぶ顔を想像して少しほっこりしてから行動する事にした。
「さて、まずは本屋だが……どこにあるんだ?」
露店にはアクセサリー等の小物類や武器や乾物や果物、野菜などの食べ物は売っていたのだが本などは売っていなかった。
王都なんだから大きい本屋の一軒や十軒くらいあるだろう
だが文字が読めない以上どの店がそうなのかわからないので俺は比較的人で込み合ったいる店へと突撃することにした。
「あの店は結構賑わっているな」
そう言って俺はその店の扉を開けて中に入る。
「キャァァァア」
俺が中に入った瞬間に黄色い悲鳴が聞こえてきた。どうやら下着を売っている女性限定の店だったようだ。
「失礼しました!」
俺は扉を開き脱皮の如く逃げ出す。衛兵とか呼ばれちゃたまらない。幸いすぐに出たので中の人たちに顔は覚えられてないだろう。覚えられてないと祈りたい。
次はもっと慎重にいこう。
周りの人が入っていく店の流れを確認する。女性ばかりが入っていく店は危ないのでそこは除外する事にした。
「あの店は男女関係なく入っていくな。よし、次はあの店に入ってみるか」
俺は今度はゆっくりと扉を開けて中へと入る。
「あらぁ~ん、いらっしゃ~いぃ」
そんな声がして挨拶してきたのはガタイの良いお兄さんだった。
「かわいいボウヤねぇ~、お一人?」
「すいません、間違えました……」
俺はそれだけを告げると扉を開けて不思議そうな顔をしているお兄さんに謝罪して店を出る。ちなみにここはオカマバーならぬオカマ喫茶だった。さっき見たのもどうやら全員”男”だったらしい
「なんで異世界にこんな喫茶店が存在してるんだよ……」
なんかもう今ので凄く疲れた……
「ん?本屋かい?何か買ってくれるなら場所を教えるぜ」
「じゃあこれで買えるだけ見繕ってくれ」
「あんちゃん、良いとこの坊ちゃんかい?毎度あり~」
そう言って銀貨を小太りの店主に渡すとそんな風に言われる。どうやら結構な金額だったようだがまだ袋の中には同じ銀貨が結構入っているので良いだろう。それよりも本屋の場所の方が重要だ。
さすがに二度も失敗したので、今度は正攻法で普通に道を聞く事を選択した。最初からこの方法をとれば良かったのだが一応色々な店を見て回りたかったのであの方法をとっていた。三度目の正直という言葉があるが俺ならたぶん二度ある事は三度あるという事になりかねないだろう。
王城を出てまだ二時間くらいしか経っていないのだが、目的を済ませて早く牢屋に帰りたかったのでさっさと済ませようと思った。俺には異世界の城下町はまだハードルが高すぎたようだ……
そんな事を俺が考えてるとも知らずに店主は瓜のような形をした果物と赤い果物を袋いっぱいにつめてくれた。
瓜のような果物を試しに齧ってみるとしゃきしゃきという食感と共に果汁が口いっぱいに広がる。梨のような味の瓜はかなり美味しかった。
「本屋の場所なんだがね。この通りにはなくてあっちの少し寂れた道をまっすぐいって分かれ道があるからそこを右に行くと看板が見えるところに一軒あるよ」
そう言って細い道を指差して細かく道を教えてくれる。俺は店主に一言礼を告げると果物屋を後にした。
袋いっぱいにつめてもらった果物はそこそこの重量があってちょっと重い……こっちの銅貨を渡せばよかったと少しばかり後悔した。
教えてもらった道はさっき俺が繁華街に向かう道だったのだが今度は盗賊に会った道とは反対の方角だった。あいつらには最初から本屋への道を聞けばよかった。
今日何度目かの後悔を内心でしながら歩くと道の先で声が聞こえてくる。
「良いからさっさとその金よこせよ!」
「この金だけはダメなんだ!頼むから許してくれ!!」
「お前の事情なんか知るかよ、こっちには関係ねぇ!弱い奴は素直に言う事聞いてりゃ良いんだよ!」
どうやらここでも盗賊が金品を奪おうとしているようだ。王都の城下町なのにこの治安の悪さは大丈夫なのかと少し心配になるな。
三人の男は一人の男を袋叩きにしながらカツアゲをしようとしている。カツアゲにあっている男は亀のようにうずくまり顔や体を丸めてなんとか金を奪われないようにしている。どうやら凄く大事なお金のようだ。
俺はその光景を見て
「よし、気付かれないように通り過ぎよう」
面倒事にまきこまれないよう俺はその場を後にした。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
5月23日 誤字報告があり修正しました。ご報告ありがとうございました。




