23話 初外出
ステータスカードの説明を受けてから一日が経過したが、昨日の悪寒がまだ頭にこびり付いているように離れてくれない。夢にまであの時の光景を見てしまって夜中に一度起きたら凄い汗をかいていた。
俺以外誰も見えないってどんなホラーだよ……
一応あの後にレイラにも確認してもらったのだが、レイラもアルやリアネと同じ反応で首を傾げて見えないといっていたので、アルの悪質な冗談ではなかった。
とりあえず今は保留しておこう。クソ女神に会ってぶっ飛ばした後で聞けばいい
頭を振った後に深呼吸して悪寒を振り払う。
「何か気分転換になるような事したいな」
俺は独り言を呟きながら何かないかと考える。いつものように武器や薬を精製したりアルをいじったりでは気分転換にならない。新しい能力がどんな効果を発揮するのか調べとくのは今後何があるかわからないので早めに済ませとくべきなのだが――――今はそういう気分じゃないので却下だ。
俺は立ち上がって柵に手をかけ外を見る。五階から見る外からは城下町が良く見える。
「気分転換に異世界の町でも見に行ってみるか」
ネトゲをやっていた頃は不調な時や時間限定のクエスト、ボスが沸くまでの時間に気分を変える為に散歩や買い物に行っていた。引きこもってばかりだと気が滅入る時もあるんだよね。ニートの俺が言うのもナンなんだが。やはり気分転換には外出が一番だろう。
今日の昼食後にでも行っていよう
「――――イチヤ……お前が外出だと?!」
昼食中に俺が外出すると言った時のアルの第一声がこれだった。
「別におかしい事なんて言ってないだろ。もう罪人じゃないんだし」
「だってお前そういうの面倒くさいとか言いそうじゃねぇか。罪人じゃなくなってもここ二週間近くほぼ牢屋から出なかったし、出たとしても獣人ちゃん達の仕事を見学してたくらいで王城から出る気配なかったじゃねぇか。何でまた?」
「単なる気分転換」
まぁ俺の性格をよくわかってるアル達は驚くのも無理ないか。普段から目的もなくだらだらした生活を送っていたからな。むしろ一生だらだらして過ごしたいと思っている。
「では、私も専属としてイチヤ様について行きましょうか?」
俺とアルの会話を聞いていたリアネがそんな風に言ってくれる。
「いや、今リアネを外につき合わせるのは色々とまずいだろ。今日はアルに町案内させるよ」
獣人族と戦いがあってまだそんなに日も経っていないので、外出したリアネがどんな目にあうかわからないので連れて行くわけにはいかない。
リアネは少しがっかりしていたが、俺の断った理由もわかっているので苦笑いをしているだけでそれ以上は一緒に行こうとはしなかった。
いつかリアネ達が気兼ねなく町を歩ける日が来ると良いな
楽しく食事をしている彼女達を見てそんな風に思う。
「何言ってんだ?俺は行かないぞ」
「は?」
俺とリアネの話を聞き終えたアルが完全に行く気になっていた俺に水をさしてきた。
「なんでそんな不思議そうな顔されるのかが俺にはまったくわからないんだが……」
「じゃあ誰が俺を案内してくれるんだよ?!」
「誰がって言われても、わかってると思うが俺は仕事中なんだぞ」
「アルの仕事なんてあってもなくても同じだろ!」
「ひどくねっ!?」
アルがそう言って非難の目を向けてくるが、そんなものは関係ない。今重要なのは町案内してくれる人間なのだ。
「やっぱり私が……」
俺達の会話を聞いていておずおずとそう声をかけてくれるリアネだが彼女に案内させて嫌な思いだけは目にあうのだけは避けたい
「リアネはここにいてくれ。機会があったらいろんなところの案内頼むから。今日は、な?」
「はい!」
そのいつかがいつになるのかはわからないが、頭を撫でて優しく言ってやると先程とは違い今度は笑顔で返事をしてくれる。
やっぱリアネは可愛いなぁ
案内できそうなのがアルだけだったのでだめもとでもう一度頼んでみたのだが、やっぱり断られた。今度の非番なら付き合ってやると言われたのだが、俺は今行きたい気分なのだ。
「仕方ない。一人で行くか」
さすがに町案内できそうな人間の選択肢がアルしかいないのは痛い。リアネやメイド達は獣人なので町に連れていったらどんな目にあわせられるかわからないし、その後の俺の報復で問題起こすと面倒な事になりそうだ。レイラに関してもさすがに牢屋から出すわけにはいかない。
まったく知らない場所に一人で行くのは心細いが、今日行かなかったら後は面倒くさがって絶対に外に出ない。自分の性格くらいはきちんと把握している。
出来れば異世界ならではのものが見られればいいなぁ
俺はリアネの作った食事を味わいながらそんな風に城下町に思いを馳せた。
食事が終わりリアネやメイド達は自分の仕事に行き、レイラは食事が終わると仮眠をとっている。
なぜかアルだけはまだ部屋に残っていた。
「アル、仕事に戻んなくていいのか?」
「戻るけどよ、お前にこれを渡しておこうと思ってな」
そう言って腰の辺りにさげていた袋を取り出して俺へ手渡してくれる。
「これは?」
「金だよ。町に行くのに何も買わずに帰ってくるのもなんだろ」
袋を持ってみたが結構重い。
「これ、結構な額じゃないのか?」
「気にすんな。お前が作った武器を売った金だからな」
アルは俺が精製した武器を売った金を手間賃として食い物を買った以外は残してくれていたようだ。
「売った金はやるって言ったのに……」
「ばかいえ、こっちは仕事で給料もらってんだ。無職の人間から金をとろうなんて思うわけねぇだろうが」
事実とはいえ無職呼ばわりされると心が痛い
「あんがと」
「おう」
鼻をかきながら照れくさそうにしているアルへと礼を言って俺は素直にその金を受け取った。
アルとそんなやり取りをした俺はこの世界の人が着ているような服に着替えて外出の準備をしている。この服はアルが異世界召喚された俺が服を一着しか持っていなかった為に自前で用意してくれたものだ。
着替え終わった俺は牢屋の扉を開けて外出する為、アルと一緒に牢部屋から出ようとすると向こうから扉が開かれた。
食事を終えたばかりなのにリアネが戻ってきたのか?
そんな風に思ってそっと中に入ってきた人物を見て俺は内心で溜息をついた。
「牢番さんがいないので、勝手にお邪魔させてもらいます」
「げっ……」
嫌な奴とエンカウントしてしまった俺は思わずそんな声を発してしまう。
入ってきた人物は同級生の委員長だった。今日はこないだの女はいないようだ。
「げっ……ってなんですか、げっ……て」
「俺の素直な感想だが?」
「女の子に向けるにはひどい感想ですね」
少し眉尻を吊り上げた委員長がそんな風に返してくる。
「それは申し訳ない事を致しました。ではワタクシは用事がありますのでこの辺で失礼させて頂きます」
俺は執事のように真摯な態度を演出して委員長の脇を通り抜けようとする。女性に対する態度としては完璧だろう!これで委員長も文句はないはずだ。
「ちょっと待ってよ」
おかしい、面倒だから委員長が望む態度を取ってやったのに引き止められた
「はぁ……なんだよ?」
先程の態度を引っ込めて委員長にけだるそう応える。
「少し話を聞いてもらえないかしら」
「用事があるんで無理」
「どんな?」
「別に委員長に関係ないだろ。んじゃそういう事で」
それだけ告げて俺は歩いて行こうとすると委員長に軽く手を捕まれる。
「お願い。少しで良いから話を聞いてちょうだい」
「こっちの都合を無視して自分の都合を押し付けるような奴の話を聞くと思うか?」
「あ……ごめんなさい」
俺がそう言うと委員長はぱっと手を離してくれた。
何だろう?この前と違っていやにしおらしいな。
「それで、鏑木君の用事ってなんなのかな?」
「ちょっと町に行ってみようと思ってる」
この間の委員長と態度が違っていたので思わず素直に応えてしまったのだが、次の委員長の一言でこれが失敗だったという事を悟る。
「じゃあ私が案内してあげるわ!」
委員長が先程のしおらしさを引っ込めて元気よくそう提案してくる。
「いや、いらない」
「なんでよ!私、何回か町の方に行ってるから案内くらいは出来るわよ」
相手がクラスメイトでなければ俺も喜んで提案に乗るんだがな
委員長の目的なんてわかってるんだ。ここはその返事をして大人しく帰ってもらおう
「どうせ委員長の用事ってパーティへの勧誘だろ?」
「えぇ……そうだけど」
「前にも言った通り断らせてもらう」
はっきりとそう言ったのだが、委員長の顔は諦めたような感じではない。
「鏑木君の返事はわかってたわ」
「だったらさっさとお引取りを――――」
「でも私って諦めが悪いから」
はい?
「いや、そんな事言われても俺の気持ちは変わらんぞ」
「それはわかってるわ。でも人の気持ちなんてどう変わるかわからないわよ。そこの牢番さん。アルさんでしたっけ、彼が言ってたじゃない。あなたに”信じてもらえるように少しずつ距離を縮めな”って。こうも言ってたわ”少しでも罪悪感があるなら多少なりとも苦労して信用を得ていくのが筋”って――――」
アル……余計な事を……
「あれから色々考えたけど私が鏑木君にしてあげられる事なんてほとんどないんだけど、信用される為にはなんでも良いからまずは行動しなくちゃ始まらないかなって思ったの。考えがまとまったから今日来てみたんだけど丁度良かったわね。町案内くらいなら私でも出来るわ」
最悪なタイミングで来やがったな……
「とりあえず今日はパーティ勧誘断られちゃったし、鏑木君に町の案内するわね」
決定事項ですか……
委員長が早く行きましょうと言わん目で見てくるので、困った俺はアルに助け舟を出してもらう為に振り返る。だがアルからの回答が俺の期待を裏切った。
「良いんじゃね?丁度町案内してくれる人材欲しかっただろ」
そりゃあ、確かに心細い気持ちで町に行くよりは良いんだが、それは相手がクラスメイト以外ならだ。異世界まで来て元の世界の柵に縛られたくはない。
「クラスメイトとだけは一緒に行きたくない」
俺は委員長に聞こえない声でアルに自分の気持ちを素直に話した。
「つってもありゃ善意で言ってくれてるぞ?」
「見りゃわかる」
そう、委員長に悪意を感じないせいか、どうにもやりづらい。善意だとわかってると攻撃するのも躊躇われるのだ。
「どうすんだよ?」
「すまんがアル。俺は逃げるから委員長を足止めしてくれ」
俺はアルにそう頼むと逃げ出す準備をする。
「話は終わったかしら?それじゃあ行きましょう!」
委員長はそう言って一つしかない階段の方を振り向いた瞬間に俺は彼女を追い越して走り出した。
「あ、ちょっと待ちなさい!!」
後ろの方から彼女の静止の声が聞こえ顔だけをそちらに向けると、彼女が俺を追って走り出していた。委員長の後ろからは笑顔のアルが軽く手を振っていた。
アルぅぅうぅぅううう!!!
どうやらアルは委員長の足止めをする気はないようでそのまま見送っている。確かに足止めを頼んだが、アルは承諾してなかった。
でもあの状況なら普通OKだと思うだろ!
心の中でアルに悪態を吐きながらも俺はそのまま全力で走る。もう後ろは振り向かず一心不乱に走る!階段を一気に駆け下り何度か人にぶつかりそうになったがそれでも速度を落とさずに走った。
俺のAGI!今こそお前の力を発揮する時だぞ!
幸いこの前の獣人族との戦いの時に王城の外までの道のりは覚えているのでそこまで全力疾走だ!さっきまで聞こえてた委員長の声が聞こえなくなってたので軽く後ろを振り向いたら委員長の姿はどこにもない。
だがここは王城。いつ委員長に追いつかれるかわからないので油断は禁物だ。
そのまま走っていると大きな扉が見えた。王城から出る為の扉だ。ここを抜けたら城門がありそこをくぐれば城下町へと行ける。
城下町に行ってしまえば人がいるからそうそう見つかることもないだろう。委員長も俺の速度に追いついていない。このまま城門を抜けてしまえば大丈夫だ。
そう思って俺は少し速度を落とした。だがそれが二度目失敗だったとすぐに気付くことになる。
「見つけたわよ!」
それは俺が扉を抜けた頭上から聞こえた。思わず足を止め声のした方へと顔を向けると今にも窓から飛び出そうとしている。いや、飛び出した委員長がいた。
飛び降りた委員長はそのまま俺の前方へと着地する。
おいおい……あの窓からって五、六メートルくらい高さがあるぞ……
委員長を見ても怪我などしている様子はなく仁王立ちで俺に非難の目を向けているだけだ。どうやらこれもステータスのおかげだろう。
元の世界だったら人外レベルじゃないか?これ
「いきなり逃げるなんてひどいんじゃないかしら?案内するって言ってるのに!」
「断る!」
俺がそう言っているにも関わらず断固として案内する事をあきらめる気はないようだ。なんてありがた迷惑な……
しびれ針を使って行動不能にしても良いんだが……さすがに善意の奴にそれを使った事がアル達に知られると非難されそうなので出来れば使いたくはない。
俺達のやりとりの声に兵達が何事かと集まってくる。
「仕方ない……出来るかはわからないがやってみるか」
誰にも聞こえないような小さな声でそう呟き。俺は確かめるように足に力を入れる。
「観念して私に案内させなさい」
少しずつ委員長がこちらに歩み寄ってくるのをぎりぎりまで待ち構える。
一歩……二歩……三歩……委員長が俺に触れるか触れられないかの距離に来た。
今だっ!
「なっ……?!」
委員長の驚きの声と同時くらいに俺は”飛んだ”
普通の人間では不可能な高さまで俺は跳躍して城門の天辺を目指して飛ぶ。しかしいきなりやって成功するはずもなく少しだけ飛距離が足りなくて着地する距離まではかせげなかった。
俺は懸命に手を伸ばして城門の天辺を掴もうとする。
がしっ!
「ぐべっ」
どうにか城門の天辺を掴むことに成功したのだが、その代償で城門に思いっきり顔面をぶつけてしまった。
「痛てぇ……」
そのまま俺は片手の第一関節だけで天辺に掴まり体を支える。よくこれで掴まってられるもんだとどうでも良い感想を抱いたがいつまでもこうしているわけにもいかない。
空いている方の手も天辺を掴んでずりずりと這い上がっていく。
「ちょっと!!!いくらなんでもそれは反則!こら!待ちなさいよぉ!」
ようやく天辺に上ると下の方から委員長の声が聞こえてくる。辛うじて委員長の顔が視認できる高さで彼女を見ると悔しさと怒りが入り混じったような顔で俺の方を見ている。他の兵達を見てみるとなんだか困惑しているようだ。
俺はそんな委員長を無視して城下町の方に振り返る。城門の天辺からは城下町が一望できた。
「凄いな……」
そこから見た景色はさすが王都といった感じで、かなり広い範囲まで建物などが建っていた。だが元の世界のようにビルほどの高さの建物がない為山の方まで一望出来る。景色として見るだけでも目を楽しませてくれる。
「一度夜にでもリアネを連れてこの景色を一緒に見たいな」
そんな事を考えながら俺は足に力を入れて再び跳躍する。
さぁ!異世界観光の始まりだ!
ここまで読んでいただきありがとうございます。
※打ち切りエンドじゃありません




