22話 機能
待ち人来たる。ようやくアルが巡回にやってきて、レイラも牢部屋が開かれた時に起きだした。
「遅せぇよ!」
「巡回に来ていきなりかよっ?!」
「す……すみません!」
入ってきたアルに開口一番そう口にしたら、アルの背中から怯えたような感じでリアネが顔を覗かせる。アルの後ろにいてまったく見えなかった。
「リアネに言ったんじゃないからな。ごめんな」
「はい」
俺の言葉に安心したのかリアネはアルの背中から出てきて胸を撫で下ろす。それを確認して俺も安心する事が出来た。
「まったく……これだからアルは……」
「俺まったく悪くねぇよな……?な?」
呆れた視線をアルに向けるとアルからも不満の視線とともに俺のまったく悪びれない態度からもしかしたら自分に非があったんじゃないかという錯覚をして、自信のない疑問の声が返ってくる。
それを見ていたレイラが呆れたような溜息を一つついて「アル、君に非はないぞ」と一言告げていた。
「それで、俺を待っていた理由はなんだよ」
いつものやり取りを終えた後にアルが不承不承と言った感じで、自分を待っていた理由を俺に聞いてきた。そんなアルに若干疲れが見える。どうやら仕事で疲れているんだろうと俺は解釈してカード機能についてアルに質問することにした。
「ステータスカードに新たな機能を向上させるって王様が言ってたからカードを預けて昨日帰ってきたんだが、調べてもステータス欄に種族、性別と細かいステータス表記と能力の一部にレベル表示がついた以外に変わったところがないんだ。これじゃカード機能の向上じゃなくてカード表示の追加だよな?」
「どれ、ちょっとカード見せてみな」
アルがカードを確認してくれるというのでポケットからステータスカードを取り出しアルに預けたら驚愕の表情を浮かべられた。一体どうしたのだろうか?
「何かおかしな機能でも追加されてたのか?」
「いや、イチヤ、お前さん、初日に牢屋に入れられたときはLv1だったんだよな?」
「あぁ、アルには見せなかったか?ステータスがバグみたいになってたが正真正銘Lv1だったぞ?」
「確かにステータスもおかしかったんだが、なんでLv1の奴が一ヶ月ちょいでLv56まで上がってんだよ……」
「そんな事俺に聞かれてもな……」
驚愕の表情から困惑の表情に変わったアルの呟きに俺も困ったような顔をしてしまう。
正直獣人族と戦っただけでこんなに上がっていることに最初びっくりしたんだ。俺の方がこんなにレベルが上がった理由が知りたい。
「とりあえずログ見せてくれるか?」
にそう言われて俺はログを指で触れてレベルが上がりましたのログのところからゆっくりスライドさせてアルに見せる。アルに操作してもらえば良いのだが、このステータスカードは所持者以外、操作する事が出来ないらしい。
アルにステータスカードの事を聞くとこのカードは殺人などの思い犯罪を犯した者以外の人族はみんな持っていて、所持者以外の操作が可能になってしまうとよからぬ事に使われてしまう為に犯罪防止の為の機能なのだそうだ。
「それにしてもいきなり水色に上がったのか、王様も期待しているようだな」
「カードの色か?期待されても正直困るんだが」
カードの色は白、黄緑、水色、青、緑、橙、赤、銀、金と左から順に良くなっていくらしい。金が王族、銀が公爵、赤が侯爵、橙が伯爵、子爵が緑に男爵が青、準男爵が水色、騎士が黄緑、それ以下が白という風に分けられていて色によってその爵位の持つカードと同じステータス表示と機能を有しているらしい。
普通ならそれ相応の功績をあげると一つずつカードの階位を上げてくれるようなのだが、今回の俺の功績を考えて黄緑を飛ばして水色にしてくれたようだ。
「ちなみに水色は準男爵と同じ機能を行使する事が出来る。ここで勘違いしちゃいけないのは、あくまでカード機能を使えるだけで準男爵の権限を与えられたわけじゃないからな」
爵位などは王様がきちんとした場で叙勲してもらわなければならないという事だ。
ようするに機能と買い物のみ準男爵と同じ品が買えるという事だけ覚えておけば平気だろう
「ちなみにアルのステータスカードは何色なんだ?」
「俺か?俺は赤だ」
「何でアルの癖に赤のステータスカードなんだよ」
「癖にってなんだ。癖にって。昔色々あっていつの間にか赤になってたんだよ……」
アルが少し遠い目をして昔を思い出している。何故か目から一筋の涙が零れ落ちた。過去に色々あったようだが、一体ステータスカードで思い出す辛い事ってなんなんだろう?まったく想像が出来ない。
まぁ今昔の事をほじくり返すこともないだろう。今度暇な時にほじくり返してやればいい。今はアルの過去よりもカード機能を説明してもらいたい。
「じゃあ俺よりも良いカードを持っているアルなら俺のカード機能がどんなもんかわかるか?」
「ん?あぁ、わかるぞ」
俺の言葉で遠い目をしていたアルが現実に帰還してきたので説明を求めた。
「イチヤはステータスカードの説明って……受けてなかったな」
「まぁ初日というか二時間くらいで牢屋送りだったからな」
これに関しては自業自得なのでしょうがないだろう。この場にいる全員、俺が牢屋送りになった経緯を知っているので、苦笑いを浮かべるだけでスルーしてくれた。
友達って素晴らしいね
「じゃあ基本から教えるか。ステータスカードの基本的な見方はわかるんだよな?」
「あぁ、レイラに教えてもらった」
「それならこの機能は教えてもらったか?装着!」
赤いステータスカードを取り出したアルが単語を口にするとアルの持っていたステータスカードが手に吸い込まれるように消えた。
「カードが消えた!?」
「驚いてもらえたようで何よりだ」
得意げな顔をして腕を組んでうんうん満足そうにしているアル。
なんだろう?あの得意げな顔を見てると一発殴りたくなってくる
機能の説明が終わったら一発殴ってやろう
それよりも今は消失したステータスカードだ。何処に消えたんだ?
「アル、ステータスカードが消えたように見えたんだが、何処に消えたんだ?」
「イチヤも俺と同じ事が出来るから同じように一回試しに唱えてみろ」
そう言われカードを手に持ちアルと同じように先程の単語を口にすると同じようにカードが吸い込まれるように消える。
自分の手からカードをいくら見つめてもカードが出てくるなんて事はなく、仕方ないのでアルの方を見たら驚くべき事が起こっていた。
「どうだ?」
「……これがステータスカードの機能なのか?」
アルの方をじっと見ると名前、職業、レベル、性別などといったステータスカードに書かれているような内容を視認する事が出来る。まるでゲームの中のステータス画面を見ているような気分だ。
どうやらさっきのステータスカードが手に吸い込まれるように見えたと思ったのは間違いじゃなかったらしい。正確にはカードは特殊な素材を魔力で加工して作られているらしく、吸い込まれたように消えたんじゃなく、所有者の体に魔力の膜のようになって張り付いているような状態なのだそうで、魔力を見れるような人間じゃないと消えたように見えるらしい。
さすが異世界!どんなところにも不思議が転がっている!
そんな風に思い、カードの機能に感心してたが、アルのステータスを見て疑問に思ったことが出来た。
俺のステータスも異常だと思ったんだが、アルのステータスも十分に異常じゃないのか?
他の奴のステータスを見たことないけど、これは十分おかしいんじゃないのか?
その内容とは――――
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アルドル・フォスタンス 21歳 人族 男性
職業:牢番
Lv142
HP:12111
MP:5822
攻撃力:4523
防御力:4631
STR: 1288
VIT: 1416
DEX: 988
AGI: 1517
INT: 899
能力:身体強化、瞬光、剣技、状態異常無効、ステータス限界突破
不意打ち、索敵、金剛壁、剛力、空間跳躍、残影、暗視、魔光
魔法耐性、物理耐性、視覚鋭敏、武装強化
ログ
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俺のバグステータスには及ばないが、それでも高いと思う。それに能力欄の数がかなりある。少なくともアルくらいのステータスや能力数が他の者にもあるなら勇者なんか召喚しなくても良いんじゃないのだろうか。
「どうした?」
アルのステータスを見て考え事をしていて黙っていた俺が気になったのかアルが不思議そうに聞いてきたので思った事を口にしてみた。
「なぁ、アルのこのステータスってこの世界では普通なのか?」
「……いや、普通の平均はLv5から良くてLv15くらいで騎士団で一番の実力のジェルドでもLv51くらいだな」
「なるほど、じゃあやっぱり俺が思ったとおりアルは変人だって事だな」
「ステータスが高いからって変人扱いしてんじゃねぇよ!ただ冒険者時代に色々経験してこうなっただけだ……もう良いだろう?次はステータスカードを元に戻す方法だ。解除」
アルが単語を呟くと再び手にステータスカードが出現する。
「解除」
同じように単語を呟き手にカードを出現させる。呟くだけで扱えるなんて結構簡単だな。
「あとこのカード機能を使用している人間同士じゃないとステータスを見る事は出来ないからステータスが表示されてないからって壊れてるとか思うなよ」
他にも自分のカードに書かれているステータス以上のものは見れないとかカードの階位が上がれば他にも様々なステータスを確認することが出来るらしい。
「大まかな機能の説明はこのくらいか?」
「いや、まだステータス表示の切り替えを教えていないんじゃないか」
説明を終えようとしたアルをレイラの声が止めた。切り替えってなんだろうか?
「おぉ、そういや説明してなかったな。レイラ助かったわ。イチヤ、どれでも良いからステータスカードの文字を少し長めに触れてみろ」
試しにステータスカードに表示されている創生魔法の文字を長めに触れてみる。すると創生魔法の文字が薄くなった。
「文字が薄くなった」
「それでステータスカードを体に装着させても相手から見えなくなるんだ。これが切り替えって機能だ」
こんな機能もあったのか
「でも何でこんな機能があるんだ?」
「能力なんかを隠したい人だっているからな。あとは職業なんかも隠せるし、銀以上だと自分の職業欄に職業を追加したりしている。もちろん制限があって自分の階級以下の職業しか追加できないが、平民などを追加してお忍びの旅なんかをする人もいるそうだ」
俺は説明を聞きながら職業欄を隠せるというのを聞いて早速試してみた。さすがにニートやご主人様なんて書いてあると恥ずかしいことこの上ない。
「あれ?」
「どうした?」
なんでか職業欄に書いてあるニートの文字が薄くならない。
「今、ニートを隠そうと思って文字に触れてるんだが薄くならないぞ」
「ん?あぁ、切り替えについて言い忘れてたんで一つ補足」
アルの言葉に嫌な予感を感じる。
どうしてこう嫌な予感っていうのはよく当たるのだろうか。次のアルの言葉は無慈悲なものだった。
「特殊な職業は隠す事が出来ない」
その一言に思わずカードを折り曲げてやろうという衝動にかられたが何とか我慢した。ニートが固有の職業とか……まぁ元の世界でニートやってたんだからしょうがないのかも……しれないわけねぇ!異世界にまで元の世界の事情を持ち込む事になるってどういう事だよ!?
「何か方法はないのか?」
「ない」
きっぱりと断言されてしまったので俺は両手と膝をついてうなだれた。ここまで会話に入ってこなかったリアネが俺の頭を優しく撫でて「元気を出してください」と言ってくれている。
リアネに励まされて元気を取り戻した俺は一応能力欄を全部非表示にする為一つずつ触れていくのだが、一つだけどうしても消えない能力があった。
ま…た…お…前…か!
案の定女神の祝福のみ消すことが出来なかった
本当になんなんだこのスキルは!
「なぁ、職業欄で一つ隠すことができないものがあるんだが、あと音量を消す方法とバイブ機能を消す方法も教えてくれると助かる」
「……おかしいな。職業はともかく消せない能力なんてないはずだぞ?どんな固有スキルでも消せるはずだ」
「現にこの能力を消すことができないんだ」
そう言ってアルにステータスカードを見せながら操作する。
「イチヤ、何言ってるんだ?そんなとこに能力なんて書いてないじゃないか?」
「は?」
「いやいや!ちゃんと女神の祝福って書いてあるじゃないか」
そう言って指をさすが見えていないかのように不思議そうな顔をされる。リアネにも確認してもらったがアルと同じ反応をされてしまった。
アルとリアネが演技しているようにも見えない。アルに言われたのはそれだけではなく次の一言に我が耳を疑った。
「それに音なんてステータスカードの機能にはないし、バイブってのがなんなのかわからないけど、多分そんな機能も聞いた事がないぞ」
「……え?」
じゃあさっきのは何だったんだ……?
やばい何だか体に悪寒が走った!
超怖えぇ!
「よくわからんが、俺のわかる範囲でのカード機能の説明はこれで終わりだ」
こうしてアルからステータスカードの説明を聞き終えたのだが、色々と疑問が残るものだった。
このカード説明の講義を聞いて俺に残った気持ちはここってファンタジー世界じゃなくホラー世界かよ!というなんとも言えない微妙な気持ちだった……
いつも読んでくださりありがとうございます。
ようやくステータスカードの三部目が終わりました。機能とか考えるのは楽しいですが、説明回のようになってしまうのがいただけません。
ちょっと説明下手だったかもしれないのはご容赦ください。一章終わったあたりで読み直してからもしかしたら手直しが入るかもしれません。




