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192話 朝を迎えて

 翌朝。

 いつもはリアネに起こしてもらうのだが、今日は自分から目が覚めた。

 ベットから降りてぐ~っと伸びをする。


 自分の気持ちをリアネに告げられたからか、目覚めはすこぶる好調だ。

 リアネとの初めてのキスを思い出し、思わず頬がにやける。

 (はた)から見ると気持ち悪い事この上ないのだが、どうにも止められない。


 だって仕方ないじゃないか。

 この世界に来て、初めて心を寄せた女の子と気持ちが通じたんだから。


 誰に言い訳しているのかと内心思いつつ、気を引き締める為、顔を洗いに部屋を出る。



「イチヤさん、おはようございます」


「!?」



 部屋を出た直後に声をかけてきたレーシャに、心臓が一瞬止まるかと思った。

 さっきまでの浮かれた気持ちが一気に萎む。


 レーシャは俺にとって婚約者にあたる。

 その婚約者に内緒でリアネと心を通わせた。

 

 こうなった以上、婚約者であるレーシャにはきちんとリアネとの事を話さなきゃいけない。



「……レーシャに言わなきゃいけない事がある」

 

「なんでしょうか?」


「……リアネの事なんだが……彼女と付き合う事になった」


 

 どうにも気まずくて、彼女から顔を背けている俺には、どんな表情をしているのかはわからない。


 気分は浮気がバレた彼氏のような気分だ。


 『もし誰かと想いを通わせたときはおっしゃって下さい』とレーシャに言われているが、いざそういう場面になると、どうにも気まずい。

 この世界が一夫多妻制だという事を、頭の中では理解しているんだけど、どうにもまだ日本での常識が抜けきれていないようだ。

 


「ようやくですか。おめでとうございます。いつになったら想いを通わせるのかと思ってましたが……リアネさんを焚き付けた甲斐がありましたね」


「え……焚き付けた?」


「はい。どう見ても好きあっているのに、いつまで経っても進展しないので、余計なお世話かと思いましたが手が出てしまいました」


「どうして手を出したんだ? 好きな奴って独占したいもんじゃないのか?」



 俺としてはレーシャのおかげでリアネと恋仲になれたので文句を言うつもりはない。

 一夫多妻制とは言え、レーシャに黙ってリアネと付き合ったので文句を言える資格もないのだが……。

 ただ、レーシャがどうしてリアネを後押ししたのかがわからない。


 レーシャはもう俺の事を好きじゃない?


 その可能性は十分にありえる。

 第三者的に見て、国を救った英雄の一人とはいえ、今はニートみたいなものだからな。

 何もしない俺を見て幻滅した可能性は十分にある。



「イチヤさん、何か変な事を考えてませんか?」


「別に変な事は考えてないぞ。いやな、客観的に自分の事を考えたら、俺ってとんでもないロクデナシなんじゃないかと思っただけだ。あはは、これじゃあレーシャに幻滅されても仕方ないかな、と」


「私が幻滅? イチヤさんを? そんな事、天地がひっくり返ってもありえません!」



 おおうっ!? まさかレーシャがこんなに勢いよく反論してくるとは思わなかった。

 レーシャの気持ちに思わず謝ろうとしたところ、彼女が両手で俺の頬に触れる。



「先程の質問の答えですが、私個人としては、好きな人を独占したいという気持ちはあります。私の事を一番に考えて欲しいし、いつでも側にいて欲しい。そういう気持ちは確かにあります。けれど、それ以上にイチヤさんには幸せになって欲しいと思っています。イチヤさん、あなたはこの国を救ってくれた英雄であると共に、私にとって命を救って頂いた恩人です。決してロクデナシなんかじゃありません。自分を卑下しないで下さい」


「そんなつもりはないんだけど……わかった」


「わかっていただけて嬉しいです。イチヤさん、私はあなたを愛しています……この気持ちを疑われるのは悲しいです」


「……ごめん」


「いえ……私もイチヤさんに、しっかりと好意を伝えてきませんでしたから。ですから――――」


「んっ!?」



 レーシャからの突然のキスに目を見開く。

 

 まさか彼女がこんな行動に出るとは思わなかった。


 今までの彼女からは想像出来ない行為に、俺は体を動かす事も忘れ硬直していた。

 


「これで少しは信じて頂けましたか?」


「あ……ああ」



 数秒なのか、数分なのかわからないキスを終え、レーシャが悪戯が成功した子供のように微笑む。

 だが、その顔は真っ赤に染まっていた。

 勇気を振り絞って俺に行為を示してくれたんだろう。

 俺にはもったいないくらいの婚約者だ。

 その婚約者を少しでも疑ってしまった自分が恥ずかしい。


 改めてリアネだけじゃなく、レーシャの事も大切にしようと思った。 

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