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191話 真夜中の逢瀬2

 ――――イチヤ様、ダンジョンの調査に私も連れて行ってくださいませんか!


 まさかリアネにそんな頼まれ事をされるとは思わなかった。


 思わずリアネをまじまじと見つめる。


 彼女が何で急に同行を申し出てきたのか、その真意がわからない。

 昨日までは、普通だったんだがな。

 何が彼女の心境に変化をもたらしたのだろうか?


 ……いや、今はリアネの心変わりについて考えるよりも、彼女の言葉に答えを返す方が先か。


 もちろん答えは決まっている。



「悪いけどそれは出来ない。ごめん……」



 そう言って丁寧に頭を下げる。


 リアネは今まで頼み事なんかした事なかった。

 これが初めての頼みという事もあって聞いてあげたいとは思うんだが……さすがにこの願いばかりは聞く訳にはいかない。


 ダンジョンは危険な場所だ。

 下手をすれば命を落とす可能性もある。

 しかも今回行くダンジョンは調査が行われていない未開のダンジョン。

 どんな魔物が生息しているかわからない。


 そんな場所に戦闘経験のない女の子を連れていく事は出来ない。


 リアネもそれはわかっているはずだと思ったんだが……。



「私に出来る事なら何でも致します! ですからどうか……お願いします!」


「駄目だ」


「どうしても……ですか?」


「ああ」



 俺の答えに、リアネは唇を噛み締め、スカートの裾をきゅっと掴む。


 心が痛い……だけどここで安易に承諾して、後で取り返しのつかない事態になるよりはずっと良い。



「わかりました。イチヤ様、無理を言って真に申し訳ありませんでした」



 少し落ち着いたのか、リアネはそう言って頭を下げる。



「なぁ、何で急にダンジョンに同行しようと思ったんだ?」



 リアネがダンジョンに行こうと思った動機が知りたい。

 昨日までの様子から、全くそんな素振りを見せてなかったリアネが、急に同行しようと思った理由を聞いておきたい。


 しばらくの沈黙ののちリアネが口を開く。



「……アルさんから聞きました。未開のダンジョンがいかに危険であるかを」



 アルの奴、リアネに余計な事を吹き込みやがって。



「ダンジョンなのだから危険な事は重々承知していました! でも未開のダンジョンがより危険だと聞いて、更に不安になってしまって!!!! もしイチヤ様が怪我をしたら死んでしまったらどうしよう! そう思ったらいてもたってもいられなくなって! もちろん、私がいても足手纏いにしかならないのはわかっていますが! ですが! あの……! その……!!」


「落ち着け!」


「あっ……」



 ぽろぽろと涙をこぼしながらまくし立てる様に話すリアネ。

 その姿を見て、これ以上彼女の涙を見たくないと思った俺は、彼女きつく抱きしめる。



「大丈夫。大丈夫だからさ」


「……イチヤ様」


「俺は絶対に死なない。怪我だってヒール丸薬があるからすぐに治せる。絶対にこの屋敷に戻ってくるから泣かないでくれ。出来ればリアネには笑っていて欲しいんだ」


 彼女にはいつでも笑っていて欲しい。泣き顔なんて似合わない。

 臭い台詞を言っている自覚はあるが、これが俺の本心だ。


 なるべく優しく意識して、リアネの顔に触れた俺は、彼女の涙を拭ってやる。


 そうして、涙を拭い終わると見詰め合う形となった。


 

「イチヤ様……」



 俺の腕に触れ、静かにリアネが俺の名を呼ぶ。


 まだ瞳には涙の残痕が残っていて、きらきらと光るその瞳に惹きつけられる。



「イチヤ様……私は、リアネは、イチヤ様の事が……好きです」



 しばしの沈黙の後、リアネの突然の告白。


 正直に言えばあまり驚いていない。

 なんとなくだが、そんな素振りをリアネは見せてくれていた。


 そしてその告白を聞いて――――。



「俺もリアネの事が好きだ。もちろん一人の女の子として」



 答えなんて初めから決まっていた。



 ――――リアネの事が好きだ。


 

 この世界に来て初めて知りあった少女。

 初めは単に世話をしてくれるメイドとしか思ってなかった。


 俺はいつからリアネの事が好きだったのだろうか?

 

 獣人族が襲撃してきた時?

 獣人差別主義のメイドがリアネ達を傷つけた時?



 ――――いや、違う。



 たぶん彼女が料理を作ってきた時、俺の感想にリアネが素の表情で笑ってくれた時だろう。


 リアネの笑っている姿が好きだ。

 彼女の笑顔を曇らせたくない。


 そう思った時から俺はリアネに惚れていたのだ。



「嬉しいです……私なんかを好きになってくれて……本当に嬉しいです」


「なんかじゃない。俺にとってリアネは大切な女の子だ」



 リアネの目を見てはっきり告げる。


 誰がなんと言おうとリアネは素敵な女の子だ。


 

「イチヤ様……」



 俺を見つめるリアネ。

 その顔は熱に浮かされたように赤味を帯びている。

 たぶん俺の方も似たようなものだろう。

 鏡を見なくてもわかる。

 頬が凄く熱いのがその証拠だ。


 リアネとの距離が凄く近く感じる。

 そういえば、抱きしめたままだったな。


 今更になってその事を思い出したが、なんとなく離れがたい。


 だけど、いつまでもこのままでいる訳にもいかない。


 名残惜しい気持ちを残しつつ、彼女から離れようとしたところ――――彼女に袖を捕まれた。



「リアネ?」


「……お願いがあります。私はここでイチヤ様のお帰りをお待ちしてますので……信じて待てる勇気を私に下さい。この不安な気持ちを、拭って欲しいです」



 そうして彼女が目を瞑り、唇を俺の方へと向けてくる。


 リアネが何を望んでいるのか見ればわかる。

 だから俺はその覚悟に応えるべく、彼女の華奢な肩に触れ、告げる。   

 


「俺は絶対に帰ってくる。だからリアネはここで俺の帰りを待っていて欲しい」



 やがてリアネとの距離はゼロとなり――――俺達は口付けを交わした。

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