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187話 秘匿6

 そう言って中に入ってきたのはうちに居候中のヴァンパイアだった。



「話は全て聞かせてもらった。我なら少しは力になれると思うのだが、どうじゃ?」


「いや……どうじゃと言われてもなぁ」



 いきなりそんな事を言われても困惑しかない。


 というかこいつ盗み聞きしてたのかよ。



「盗み聞きとは感心しませんね。この屋敷で、イチヤ殿が自由にして良いという許可を出しているといっても限度というものがあります」


「う……」


「今回は重要とはいえダンジョンについては、国中に公表するような話ですから罰するつもりはありません。ですが万が一、同盟でもない魔族のあなたに機密事項等を聞かれた場合、魔族側の間者であろうとなかろうと――――最悪、私はあなたを消さねばなりません」


「……」



 冷たい眼差しを向けながら、抑揚のない声で淡々と注意するユリ。


 そんなユリの様子にディーネがたじろぐ。

 顔なんかもう青を通り越して白くなっている。


 怒鳴り散らされるでもなく、こういう怒り方をされる方が怖いんだよな~。

 しかも最後の方軽く脅しが入ってるし。


 まぁ今回に関しては、ディーネに釘を指すためのものだろう。


 そもそもこんな場所で機密事項なんて話さないからな。

 するなら王城で王様達と厳重な態勢の中でするだろう。


 とりあえず成り行きを見守ろう。

 どう考えても、大事な話の最中にドヤ顔で突撃してきたディーネが悪い。

 しっかりと怒られてくれ。


 別に罰を与えるつもりもなさそうなので、安心して見ていられる。

 バックス達の時はヒヤヒヤものだったからな。


 

「すまなかったのじゃ……次からは気をつけるのじゃ……」


「わかっていただければ結構です」



 ディーネが床に座らされ、説教を受けてたが、それほど時間がかからずに終わった。

 顔を見る限り、十分に反省しているようだ。



「それで、ダンジョンの事なんだが」


「ダンジョン……我も連れて行って欲しいのじゃ……」

 


 話が脱線したので戻そうとすると、ディーネが反応する。


 徐々に声が弱々しくなっていく辺り反省の色がみえる。

 さっきのドヤ顔で同行してやるぞ! みたいな感じとは違い、今度は懇願に近い形で頼みこんでくる。



「遊びに行くわけじゃないんだぞ。ダンジョンが危険な場所だって事くらいわかるだろ?」


「わかっておる。だからこそ我なら力になれると思ったのじゃ!」


「何で?」  



 理由がいまいちわからない。

 ディーネは俺が住む事になった屋敷の地下牢に閉じ込められていたヴァンパイアだ。


 ヴァンパイアという事はつまり魔族。

 獣人族とは違い、魔族とは同盟を結んでいないので、俺達を助ける理由がない。


 というような事を考えていたら、ディーネが顔を真っ赤にしながら詰め寄ってきた。



「何でじゃと!? 困っている人間がいたら助けるのは当たり前じゃ! ましてやイチヤは我の命を救ってくれた恩人! メイド達も我にとても良くしてくれておる! その者達に恩返し出来る機会があるというに、黙っている事など出来る訳なかろう!」


「お、おぉ……」



 凄い剣幕だなぁ……正直そこまで感謝されているとは思わなかったので思わずたじろいだ。


 だって俺のやった事ってヒール丸薬与えて、血をあげたくらいだ。

 ヒール丸薬で足を治した事に恩を感じるのは、わからなくもない。

 でもヒール丸薬って、俺がこの世界に来た時にもらった能力の一つで、簡単に創れる物だから大した事をした自覚がないんだよなぁ。

 創ろうと思ったら即座に創れるしさ。


 まぁ悪感情を持たれている訳でもなし、感謝してくれているならそれはそれで良いと、好意的に解釈しておこう。

 

 それにしても恩返しか。

 まさかヴァンパイアから恩返しされるとは元の世界にいた頃は考えもしなかった。


 ディーネの連れて行って欲しいという熱意は十分に伝わった。

 人手は多い方が良いので、協力してくれるなら望む所だけど……一つだけ、これだけは絶対に聞いておかなければいけない。

 


「お前って戦えんの?」

 


 ディーネと出会ってこれまで彼女が戦った姿を見た事がない。

 魔族という事で屋敷から出せなかったから当たり前なんだが。

 意気込みはかうけど、さすがに戦えない人間を連れて行く事は出来ない。

 調査に連れて行って死んじゃいました! とか、笑い話にもならない。

 連れて行くにも最低限の戦闘力は必要だ。


 分析スキルで見れるっちゃ見れるが、ディーネってしゃべり方がお嬢様っぽいし、パワーレベリングで上げた可能性とかもあるので本人から聞いたほうが良いだろう。




「当たり前じゃろ! 戦えなければこんな提案などせんわ。戦えないのにに着いて行こうなど、足手纏い以外の何ものでもないではないか」


「ごもっとも」



 もしディーネが戦闘力もなしに意気揚々と着いて来ようとしてるんだったら、ただのバカとしか言い様がない。

 なんかアホっぽい雰囲気を醸し出してたから聞いてみたんだが、どうやらそこまでバカではなかったらしい。



「……今何か失礼な事を考えてないか?」


「いや、全然」



 ディーネがジト目でこちらの様子を覗って来た。


 この世界の女性ってやけに勘が鋭いんだよな。

 なんか知らないけど、こういった事を考えてるとよく見破られる。

 顔に出してないつもりなんだけど、俺ってそんなにわかりやすいんだろうか?



「まぁ良い。それよりもじゃ、ダンジョンのついては頼りにしてくれてよいぞ」


「やけに自信満々だな」


「これでも魔族領にある高難易度ダンジョンに何度か挑んでおる」



 ん? 話方からしてして魔族のお嬢様か何かかと思ったけど違うのか?


 疑問には思ったが、重要なのはダンジョン経験があるという事。

 それも高難易度ダンジョン、これは期待出来そうだ。



「わかった。戦力としては問題なさそうだな。ディーネも一緒に来てくれ」


「任せるのじゃ。必ず役に立って見せるのじゃ!」



 手を握り締めガッツポーズを取るディーネ。


 俺の血を飲んでからは見た目、妖艶な大人の姿なのに、なんとも子供っぽい仕草をする。

 


「よろしいのですか?」


「何が?」



 ディーネの同行を許可した所で、ユリから横槍が入った。


 聞いているのはおそらくディーネの事だろう。


 ちょっと性格がアレだけど、特に問題はないと思う。

 バックス達も似たようなもんだし。



「彼女は魔族なのですよ。危険な場所に行くのに、彼女を連れて行っても大丈夫なのですか?」



 あ~……性格の問題ではなく種族について心配してたのか。



「別に問題ないだろ。今まで特に問題を起こした訳でもないし、もし何かするんだったら、もっと早くに行動を起こしてるはずだろ? 大丈夫だって」



 ディーネが俺達に危害を加える事がないとはっきりと告げる。


 たぶんユリは彼女が魔族側の刺客の危険性がある事を示唆してるのだろうが、もしディーネが刺客なら出会った初日に俺は殺されていただろう。

 だって彼女の足治した後、警戒心皆無でそのまま爆睡したのだから。

 今にして思えば、あまりに短慮な行動だったと思うが、そのおかげでディーネを信用のおける人間だと思えた訳だから結果オーライだ。

 更にここ二ヶ月の行動を見ても、不審な行動はしていない。

 みんなとも仲良くやっているしな。


 それはユリもわかってると思ってたんだけど、何を心配しているんだか。



「ですが……」


「ユリーシャ殿の意見も尤もじゃな。我がユリーシャ殿の立場だったら、この国の英雄であるイチヤに危険を及ぼすような存在は出来るだけ排除しておきたい……だったらこういうのはどうじゃ? 我はイチヤの奴隷となろう!」



 突然のディーネの奴隷宣言に、俺は目を見開いた。

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