178話 創生魔法の真価 前編
バックス達の処遇が決まってから一週間、ユリから依頼された問題も全て解決し、ユリから新たな頼まれ事もない。実に平和だ。
今の所、俺に関わりがあるのはゴブリン族の件なんだが今のところは保留中である。
四日前。
ある朝……というか、俺が昼まで寝てたので、現在昼なんだが、なんかすまなそうな様子でゴブリン達が訪ねてきた。
どうしたのかと思い、話を聞いてみると、彼らの体格的に屋敷での生活で色々と不便があったらしい。
当たり前の事だが、この屋敷にあるもの全て、人族の体格に合わせて作られている。
リアネ達の獣人は俺達と体格的に大差ない為、失念してた。
そしてその話を聞いて思い出すのはピアとフィニの事。
ゴブリン族と同じくらいの身長のピアとフィニも、食事の時、椅子に座るのに一苦労してた。
あの時は見かねた俺が子供用の椅子を作ってあげたっけな。
ピアとフィニがそうなのだから、ゴブリン族達が苦労するのも当然だ。
これは完全に俺の落ち度である。
すぐにでも解決して上げなくては申し訳ない。
という事でさっそく彼等を屋敷の庭へと案内する。
王様が用意してくれた屋敷という事で、この庭が結構広い。
たぶん日本の一軒家四つ分の広さはあるんじゃないだろうかというくらいの広さはあるんじゃなかろうか。
そこに彼等に住みやすい家を建てる事にし、創生魔法でまずは外から見えないように、ある程度の壁を創造。
次に家を建てるのに必要な資材を創り出す。
本当はパッと家を創る事も出来ると思うんだけど、なぜか創生魔法で創った武器とか防具とかの完成品は強度が低かったので、おそらく家も創生魔法で創ってしまうと同じ結果になったと思う。
何で素材は創るときは問題ないのに、完成品を創ると脆くなるのかはわからない。
創生魔法に熟練度なんかはなかったはずだが……表示されないだけで存在するのか……? それとも俺の想像力が足りないのだろうか?
疑問に思ったが、確認する術がないので、一先ず保留にした。
そういう感じで資材を一通り創り終え、ゴブリン族で唯一、人語を話せるガザンにどんな家が住み易いかリクエストを聞き、彼らの家の建設を始める。
当然の事ながら俺に家を建てる知識や技術はない。
建築の専門高校に通っていたなら少しは知識があったかもしれないが、生憎と俺が通っていた高校には存在しない。
それに通っていたとしてもすぐに行かなくなったから知識のつけようがなかった。
じゃあそんな俺がどうやって家を建てるのか?
まずは物質変化を使い、レンガの繋ぎ合わせる箇所のみ、ブロックを接続可能な状態へと変える。
後は接続部分を繋ぎ合わせて完成だ。
この間わずか10分足らず。
本当に創生魔法と物質変化を与えてくれた神には感謝している。
が、それでもネトゲ中の俺をこの世界に無理矢理拉致ったのには変わりないので、感謝の気持ちを考慮して殴るのは一発だけに留めておこう。
ただし一発は絶対に殴る。
ネトゲを中断させられた恨みは恐ろしいのだよ……
俺の私怨はともかくとして、同じようにしてどんどんレ○ハウスを完成させていく。
ハウスと言っているが、大きさ的には小屋という感じだ。
どうにもゴブリン達の体格的にこのくらいの大きさがベストなんだそうだ。
後は床板を全ての小屋に取り付けて完成した。
人間が二、三十人住むには窮屈過ぎるけど、小柄なゴブリン達なら問題ないみたいだ。
まだ人語を話せないが、ゴブリン達の様子から喜んでくれているのが伝わってくるので、こちらも嬉しくなる。
後は机や椅子、ベット等の家具類も作って終わりだ。
そう思って資材を創生して作ろうとしたのだけど、全部やってもらうのは申し訳ないと、ガザンが断ってきた。
家具がなくては不便ではないだろうか? という心配があったので聞いて見ると、ゴブリン族は手先が器用らしいので、自分達でも出来るとの事。
こちらも無理矢理押し付けるつもりはないので、資材だけ置いてきた。
さすがに材料なしでは何も作れないからな。
もし材料がなくなったら、その都度言ってもらえれば補充するつもりだ。
後はゴブリン族が人語を覚えるまでは特にする事はない。
人語についてはディアッタ他、ゴブリン語がわかる者達で教育している。
なので彼等を見守りつつ、彼等の頑張りに期待したいところだ。
そういう訳で、今現在、俺にやるべき事はない。
昼まで惰眠を貪り、起きたら食事をして、後はだらだらして過ごすのが今の生活サイクルである。
この領に来て初日に面倒事を押し付けられた時はどうなる事かと思っていたけど、あの後ユリから何かを頼まれたりはしていない。
あの件は、他に頼める人間がいないから俺にまわしてきたようだ。
そうして面倒事も片付け、こうして俺に平和な時間がやってきたのだ。
――――だというのに、俺は新たな問題をかかえている。
「……暇だ」
俺は一人、自室のベットの上で、そんな独り言を呟く。
そう……今の俺はどうしようもなく暇なのだ……
朝食兼昼食を食べ終え、自室に戻って寛いでいたのだが、何もする事がなく、暇を持て余していた。
とにかくこの世界、娯楽が全くない。
娯楽溢れる日本では漫画やゲーム、アニメとで時間を潰す方法がいくらでもあったけど、この世界には時間を潰す方法が寝るくらいしかないのだ。
いや……今が多種族との戦争中なので当然といえば当然なのだが……
二度寝三度寝を繰り返した為、眠るという手段もとれない。
今の俺はかつてないほど目が冴えているといって良いだろう。
「どうしよう……?」
この世界に来て、こんなに暇なのは初めてだ。
今までは、牢屋にぶちこまれたり、王都に獣人族が襲撃してきたり、訓練したり、獣人との決闘なんかがあって、暇だと感じる余裕がなかったし、こちらに来てからも、いきなりユリから頼まれ事をされて休む暇もなかった。
最初はいきなり面倒事を押し付けられたけど、頼まれ事のおかげで暇な時間を過ごさずに済んだ。
結果だけを見れば、ユリに感謝してもいいのかもしれ――――
「いやいや! 面倒だったし、疲れたんだから感謝するのはおかしいだろう!?」
面倒だったのは変わりないんだから感謝されこそすれ、するのはなんか違う!
俺の理想は楽して生きたい! 働かなくて良いならそれが理想だ!
このままじゃニートの称号も泣いてしまうぞ!
自分を取り戻せ! 鏑木一哉!!!!
……………………
………………
…………
「……俺は何を考えていたんだ」
しばしの間、思考が明後日の方向につき進んでいたが、そんなのが長く続くはずもなく、すぐに冷静になった。
いけないいけない。
暇すぎるせいで頭が変な方向にトリップしていた……
「暇だ」
先程と同じ言葉がもう一度漏れるが、呟いた所で状況が変わる訳じゃない。
わかってはいるんだけど、止められない。
だって暇なんだもの。
時刻は現在午後二時くらいの時間帯で、リアネ達はメイドとして屋敷の仕事をこなしている為、リアネやピア、フィニ達に話相手になってもらう訳にもいかない。
俺の話相手になって、仕事に遅れが出た場合、ディアッタに怒られるのは俺じゃなくて彼女達だ。
さすがにそんな迷惑をかける訳にはいかない。
遅れた分を俺が手伝ってもいいんだけど、俺が家事仕事をするのは駄目だと言われてる。
一応、俺の名誉の為に言っておくと、別に家事が出来ない訳じゃない。
ニート生活の時、親がご飯を作ってくれない時に自分で作っていたし、部屋だってこまめに掃除していた。
家事を禁止したユリとディアッタ曰く、上の者が下の者の仕事を手伝うのは良くないらしい。
何でも王族や貴族が屋敷を訪れた際に侮られるそうだ。
別に王族に俺の事を馬鹿にするような人はいないし、貴族がわざわざ俺に会いに来るはずもないので、その心配は必要ないと思うんだが、二人に強く禁止されたので手伝う事が出来ない。
なんとも面倒な事だ。
じゃあ他の人間に暇つぶしの相手になってもらえば良いという考えもあるが、知り合い全員忙しい。
ユリは俺の代わりに領主代行の仕事中だし、レーシャはその補佐だ。
そのユリに、バックス達の訓練を頼まれたアルも、忙しくしている頃だろう。
この前どんな訓練をしてるのか興味本位で見学しに行ったら、みんなこの世の地獄を味わってるような顔をしてた。
中にはぶっ倒れたまま、ピクピク痙攣してる奴もいて、大丈夫かと心配になったくらいである。
まぁ、そういう訳で暇を持て余してるのは俺だけだ。
さすがにもうだらだらするのにも飽きたし、俺らしくないが、アルに教わった剣の練習でもしようか?
このまま暇な時間を過ごすよりは良いと思い、創生魔法で剣を創り出そうとしてからふと思い出す。
そういや、前に創生魔法の検証をしようと思ってたっけか。
あの時は思い立っても行動しなかったけど、丁度良い暇つぶしになる。
剣の練習よりは疲れないだろうし、こっちはまた今度という事で。
そういう訳で始めた創生魔法の熟練度検証。
まずは何も考えずに、いくつか剣を創り出す。
振ってみると、一般に売られている剣と同じ感覚だ。
次に岩を創り出しそこにぶつけてみる。
――――すると
ピキッ……!
あっけなく剣にヒビが入り、刃が欠けてしまう。
他の剣も試してみたけど結果は同じだ。
「まぁこれは予想通りだな。魔物や魔獣を相手にした時もギリギリもっただけだったし」
呟きながら折れた剣を物質変化で元通りにして、もう一度岩にぶつけて見ると、今度は折れたりしなかった。
この違いはなんなのか?
もう一度剣を創造し、物質変化を使った剣と一緒に分析をかける。
すると、その違いがはっきりと出てきた。
「創生魔法で造った剣の方が、物質変化させた剣に比べて使われてる素材の比率があきらかに違う」
他の部位に使われてる量は同じなのに、刃に使われてる鉄の分量が明らかに違う。
もう一度創ってみるが結果は同じ。
これは熟練度の問題か? うーん、わからん……
そもそも熟練度があるのかすらもわからないので熟練度云々にこだわり過ぎるのも良くないか。
とりあえず分析スキルで見た分量を意識してもう一度創ってみる。
「……出来た」
何回か繰り返し、分析で確認してみると、なんと、物質変化を使った剣と同じ物が出来上がった!
試しに振ってみるが、欠けた様子もない。
完璧に出来上がってる!!
思わず嬉しくてガッツポーズをしてしまう。
後はこれを繰り返して即座に創り出す事が出来れば、大きな戦力アップになる。
一応前の状態でも使えない事もなかったが、数合打ち合うだけで新しい武器を作り出すのは危険を伴う。
強度が上がれば幾分マシにだろう。
これは十分な収穫だ。
後は創り出す速度が問題か。
どうしても分量を意識する為か、一本一本創生するのに時間がかかる。
けどそれも反復練習すれば出来そうな気がする。
練習なんて面倒臭いと思っていたけど、やる事がない今、時間を潰せるのは非常にありがたいな。
創生魔法を使っても疲れないというのもポイントが高いし。
「とりあえずの目標は一本にかかる剣の創生時間を、前創っていた剣と同じくらいにしたいな」
創生魔法についてはよくわからなかったが、収穫はあったので良かった。
さて、目標も決まった所でさっそく剣の創生練習に取りかかろう。
そう思った所で――――
ぐううううううぅぅぅぅ……
俺の腹から盛大に鳴る。
「腹減った……」
集中し過ぎていたせいか時間の感覚があまりない。
一体どのくらい時間、作業してたんだろう?
そう思い、窓の方に視線を向けると、空が茜色に染まっていた。
「は!? もうそんなに時間経ってたのか!??」
慌てて部屋の時計に目をやると、後少しで、夕食が出来上がる時間まで後一時間くらいである。
まさかそんなに時間が経っていたとは……でもまぁ退屈凌ぎには十分だったし、創生魔法のみで強度のある武器を作る事もわかったので、個人的には有意義な時間だった。
後の課題は武器を創り出すスピードを上げるだけなので、それはおいおいやっていこう。
本来ならそう考え、リアネが夕食が出来たのを伝えに来るまでのんびり待っていれば良いのだが、今はもう少しやっていたい気分だ。
「空腹もまぎれるし、リアネが来るまでもう少しやってるか」
と、いう訳で、作業を再開する。
ぐうううぅう~
だけど三十分もしないうちに腹の虫が再び鳴った。
一度集中すれば空腹も気にならないのだが、集中が途切れると再び集中するのは難しい。
「今日のご飯はなんだろう?」
創生魔法を使用しながら、そんな事を呟く。
頭の中は今日の晩御飯の事でいっぱいだ。
食材に関しては聞かない方が幸せになれるというのが難点だが、今まで食えなかった物は出てこなかったし、どれも美味しかった。
だから今日のご飯も楽しみにしている。
楽しみにしているんだけど……
「……日本食が食べたい」
天井を仰ぎ見て、そんな言葉を呟く。
異世界にきて早数ヶ月、俺は早くも日本食が恋しくなっていた。
異世界転移もののラノベを読んでいた時は、どうして主人公達はそんなに日本食が食べたくなるんだろう?
美味しい物が食べられれば何でも良いじゃないか、とその時は思っていたが、今ならその気持ちが良くわかる。
米が主食の日本人からすると、ずっとパン食が続くと、どうしても米が食べたくなる。
おにぎり、卵かけご飯、丼物なんかも捨てがたい!
「駄目だ……思い出したら余計に食べたくなってきた……」
ないとわかっていると……いや、ないからこそ欲しくなる。
思い出したせいで唾まで出てきたのでそれを飲み込む。
「考えても虚しくなるだけか……」
諦めの言葉と共に再び創生魔法に集中する為、顔を下に向け――――そこに広がる光景に思わず俺は驚愕する。
俺が驚愕するのも無理はない。
だって創生魔法で剣を創っていたはずなのに、そこにあったのは紛れもない日本食だったのだから。