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173話 処遇の結果

 ユリと元騎士の連中が去った後、俺も自分の屋敷へと戻り、その後は何もする気が起きなかったので、食事以外の時間は部屋のベットで嫌な事を忘れるように惰眠の限りを貪る事にした。


 いつも通りと言われればいつも通りの行動なのだが、何も考えずに自堕落な生活を送るのと、後悔の念を抱いて自堕落な生活を送るのでは、次の日感じる体の調子が全然違う。


 何か心配事があると、休んでも休んだ気が一切しないのだ。


 考える事は今朝の土下座事件を引き起こした元騎士の連中の事ばかり。

 彼等の自業自得なのだから俺がそこまで心を砕く必要はないのだが、自分がこの街に来て謝罪をするようアドバイスした手前、処刑される可能性を考えると彼等に罪悪感を覚えてしまうのだ。


 こんな事になるんならあの山から追い出すだけにしておけば良かった。


 あれから数時間、もう転移陣で王都に向かったユリが王様に報告している頃だろう。


 自分の短慮な行動を後悔しつつ、考える事を放棄するように何度目かわからない眠りについた。

 




 次の日。


 昨日とは違いリアネに優しく起こされる。


 揺り篭のように優しく揺さぶられるのはなんとも心地良かったが、昨日の事もあってか、どうにも気分は優れない。


 おそらく今日、彼等の処遇が決まる……いや、それは正確ではないか。


 たぶんもう処遇については決まっている。


 俺が目覚めたのを確認したリアネが部屋を出る際に『食事を終えたら執務室に来て欲しい』と、ユリから伝言を預かったと言っていたので間違いないだろう。



「……気が重い」



 色々な出来事があって、自分に敵対した人間を殺す事には抵抗がなくなった。

 けど、自分と敵対している訳でもない人間が自分の行動の結果、死ぬかもしれないというのは何とも気が重いものだ……


 それでもこれは俺が起こした行動の結果なので行かない訳には行かない。


 はぁ……どうにも気が重い。


 不貞寝したい衝動にかられながらも、食事をしてからユリの待つ執務室へと向かった。





「どうぞ」



 ユリの執務室前。二回ほどノックすると中からそんな返事が返ってくる。


 その声に応じて中に入ると、ユリの他にアルやシャティナさん、レイラとレーシャ、それと国外逃亡しかけた、元騎士達を纏めていたリーダー格の男が、手枷をされた状態で待っていた。



「これで全員揃いましたね」



 書類仕事をしていたユリがそう言って書類から目を離し、顔を上げた。

 食事を終えて来てみれば、ユリが召集していたメンバーが全員揃っていたようだ。

 特に時間は指定されていた訳じゃないので、最後に来ても特に問題はないだろう。



「それで、王様は何て言ってたんだ?」



 この際だから単刀直入に聞いて見る事にした。


 ユリが戻っているという事は間違いなく、元騎士達の処罰が決定しているはずだ。

 王様が彼等についてどのような判断をしたのか気になる。



「いやいやいや、ちょっと待て! 全く事情がわからないんだが。これから始まる話って何なんだよ?」



 これから元騎士達の処遇を聞こうとした所、アルから待ったがかかる。



「俺が来る間にユリから何も聞いてなかったのか?」


「イチヤさんが来てから話しますので、少し待っていて下さいって言われてな」


「昨日の事も?」


「昨日? あぁ、なんかこの屋敷の前で何十人もの人間がひれ伏してたってのは知ってっけど、それ以外は知らねぇな。イチヤ……お前一体何やらかしたんだよ?」



 まるでいつも俺が何かしているみたいな言い方だな……今回の件については否定は出来ないが……



「それでは皆さん揃いましたし、始めましょうか。まずはアルさん達に事情を説明します。イチヤさんの質問の内容はその後で」


「……わかった」



 出来ればすぐにでも王様がどういう処罰をしたのか、その内容を知りたかったが、ユリにそう言われてしまってはごねる訳にもいかない。

 事情を知らないアル達からしたらいきなり呼ばれて何の話してるんだってなるしな。


 それからユリがアル達に昨日の件の詳細から、王様に報告しに行った所までを話す。



「なるほど。だからこいつは手枷なんかを嵌められてる訳か」


「刑を伝えるまではこの状態でいてもらおうかと」


「まぁ、やった事がやった事だからそれは仕方ねぇか。その事については自業自得だからな」


「そうですね」


「とりあえず、何があったのかは理解した。それじゃあイチヤも気になってるみたいだし本題といこうぜ。陛下は何て?」



 事情を聞き終わったアルが切り出す。


 ようやくか……


 別に俺が罰を受ける訳じゃないのに、自分が間接的にでもこの件に関わってるせいか緊張してくる。

 一体王様は彼等にどんな罰を与えるのか?


 俺達の視線を受けたユリは口をうご……かす事無く、なぜかごそごそと机をあさりだした。


 おい! ここに来てもったいぶるなよ!


 思わずそんな声を上げそうになったところで、ユリは机からある物を取り出し、コトリと机に置く。


 ユリが机に置いた物。


 それはこの世界に来て初期の頃に見かけた物だった。



「元騎士バックス」


「……はい」



 昨日の内に部下にでも尋問させたのだろうか、ユリが目の前の男の名前を口にした。

 机の上に置かれた物を呆然と見つめた元騎士――――バックスと呼ばれた男が小さく返事をする。



「あなた方には二つの選択肢があります。一つは戦時中にも関わらず亡命しようとした罪による処刑という選択。もう一つはこの首輪をつけ、己が守るはずだった民に蔑まれながら罪を償うという選択です」



 そう言って机にある物――――リアネ達が付けていた奴隷の首輪に触れながら彼女は無慈悲な選択を告げた。

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