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171話 処遇3

 ほんの少し……いや……結構傷ついた俺の心情など知るよしもなく、一度は顔を頭を上げた連中が、再び勢い良く頭を下げる。



「「「申し訳ございませんでしたあああああ!!」」」


「あ~……別にいいよ、もう」



 辺り一体に響き渡る謝罪の言葉と、額を床に打ちつけての土下座に俺はそれだけを返す。さっきまでと百八十度違う彼等の態度に、ようやく俺が領主だと理解してくれたようだ。これも全部ユリが来てくれたおかげである。

 彼女がもし来てくれていなかったらもう少し長引いていた可能性もあるからな。


 俺が名乗っても信じてもらえなかった事についてはちょっと思う所がない訳じゃないが、もしも逆の立場だったら俺も同じような反応だったと思うので、この件については仕方ないと思う事にしよう。俺の心情よりも目の前の連中の件が早急に片付くことの方が重要だ。


 後はこいつらにここから立ち去るよう言えばこの集団土下座の件は解決だろう。本当に良かった。



「本当によろしいのですか?」


「ん?」



 内心ホッとしていたところにユリがそう質問してくる。


 よろしいって何がだろう?



「領主であるイチヤさんへの態度です。知らなかったとはいえ、彼らは領主に対して不敬な態度を取っていたのですから罰せられても文句の言えない立場ですよ。なんなら私が今から挽き肉(ミンチ)にしてもよろしいのですが」


「おい馬鹿やめろ」


「そうですか……非常に残念です」



 非常に残念とか言うなよ。


 なぜか臨戦体勢だった彼女が力なく鉄球をおとし心底残念そうに呟き、物騒な言葉を呟かれた連中はというとあからさまにホッとしていた。


 彼女の言葉に思わず、素で返してしまったが、普通なら公爵令嬢に対して放って良い言葉(暴言)ではないだろう。けど、彼女のあまりの物言いにそう返してしまった俺は悪くないと思う。

 『よろしいのですか』なんて聞いてくるからなんだろうと思ったら、いきなりこいつらを挽き肉にする宣言とか怖すぎるだろ。

 まったく……一体何を考えているのか……家の前で集団土下座事件があったというのに集団挽き肉事件なんて起こされたらたまったもんじゃない。

 もしもここで肯定なんかしてそんな事件を起こしてみろ? 間違いなく変な噂が立つ。新しい領主様は機嫌を損ねたら領民を挽き肉にするなんて噂でも流れたらこの街の人間と友好的に接する事が出来なくなるじゃないか。


 そうなった場合、困るのはリアネ達だ。

 ほとんど家から出ない俺はともかくとして、買出し等で街に出るリアネ達が『ほら、あのメイド、領主の館で働いてるあの……』とか言われて街に行き辛くなるかもしれない。

 ただでさえ、この獣人蔑視の風潮が残っているのだ。友好条約が締結したとはいえ、すぐに人の心が変わる訳じゃない。

 彼女達が領主の館で働いているという事はおそらく街の人間もわかってると思うので直接的な危害は加えられないとは思うが、陰口を叩かれないとは限らないのだ。

 街を散策した訳じゃないから、街の人間がどういう人間かはわからない。わからないが、出来るだけ問題を起こさずに、リアネ達に生きやすい場所にしたいと思っているので、絶対そんな事件を起こさせてはならない。



「とりあえずだ。あんたらもいい加減その体勢はやめて立ってくれ。いつまでもその状態でいられるのはかなり迷惑だ」


「「「ハッ!」」」



 号令と共に一斉に立ち上がり直立する。その姿はどこかの軍隊かのようだ。


 そういやこいつら元がつくけど騎士だったな。


 どうにもこういう姿を見ないと忘れてしまう。

 昨日会った時も確かにそこそこ戦えてたけど、装備は汚れてるし、山賊かと思ったくらいだ。

 今もだが、何日も髭を剃ってない人間もいたしな。


 でもほんと土下座状態を解除出来たのは良かった。

 ずっとあのままというのは世間体が気になって仕方がなかった。

 俺の世間体はともかく、みんなに迷惑がかかるのはよろしくない。



「それで、イチヤさんは”領主”として彼等をどうなさるおつもりですか? さすがに不敬を働いた人間をこのままにするというのは領主としての沽券に関わりますよ」



 ユリはこのままこいつらを見逃すと、領主として舐められると言いたいのだろう。


 俺一人だけ関わる事ならいくら舐めてくれても構わない。

 それで敵対してきたならぶっ飛ばせば良いだけだ。


 けれど、俺個人はともかく領主という立場が舐められてはいけない。


 この立場は獣人族が浸透していないリアネ達を守るには最適なのだ。


 領主のメイドだから危害を加えてはならないというのはリアネ達にとって大きな加護になる。

 それも領主の立場が大きければ大きいほど良いのだ。

 その立場が舐められた場合、少しくらい少しくらいと際限なくリアネ達が嫌がらせを受ける可能性が出てくる。


 人間の悪意というのは底がないという事を、俺は高校生活の半年の間でよく学んだ。(むしろそれしか学んでない)


 なのでこの立場が舐められるのは非常によろしくない。


 ではどうしたら良いのだろう? という事になるのだが……特に考えがあるわけじゃないんだよな。


 そういう訳で、何か良い案がないかと思いユリに聞いてみる。



「どうすれば良いと思う?」


「今この場で首をはねるか、先程も言ったようにミンチにするのがよろしいかと」



 ゾッとするような笑顔と共に、そんな返事が即答で返ってきた。聞く相手が他にいなかったとはいえ、聞く相手を間違えたのは否めない。返答がどうにも物騒すぎる。


 いつもはもう少しまともな返事が返ってくるんだが、こいつらに関しては容赦がない。ここに現れた時からずっと感じていたんだけど、思い切って聞いてみる事にする。



「なんかこいつらに対してあたりきつくないか?」


「……そうでしょうか?」


「少なくともいつものユリっぽくはないな」



 普段のユリはもっと余裕の笑みを浮かべている感じだ。それがこいつらに関しては侮蔑の混じった視線を向けている。

 言動にしたってここまで過激な発言を彼女の口から聞いた事がない。犯罪奴隷であるトマ達にすらこんな態度を取った事はないのになぜこいつらにはこんなにまで冷たい態度を取っているのか気になった。



「そうでしょうか……いえ、そうですね。確かに私は彼らに対して良い感情を持っていません。むしろ嫌悪していると言っても良いでしょう」



 俺の言葉を咀嚼するかのように考え込み、少ししてから肯定したユリ。



「何でそこまで嫌ってるんだ?」


 どうにも問わずにはいられない。


 トマ達のように襲われた訳ではないから、彼女に直接的な実害があった訳じゃない。


 こいつらのした事と言えば元領主の命令に従って帝国に逃げようとしただけだ。いや、逃げただけなのも問題なんだが……


 それでも俺からしたらこいつらは獣人との争いから逃げただけという認識だ。仮に逃げなかったとしても、こいつらが何かの役に立てたとも思えないから別にそこまで毛嫌いする必要はないと思うんだけどな。



「イチヤさんは貴族について、どのような印象を持っていますか?」

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