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169話 処遇1

 目の前の連中に、俺が領主だと証明する方法を考えあぐねていた所に現れたのは、この街の領主代行であるユリ。


 ご自慢のモーニングスターでこいつらの代表である男を吹っ飛ばして登場した彼女は何事もなかったように俺の隣に立つ。登場の仕方がインパクトありすぎである。



「それで、謝罪に向かったあなた達は一体何をしているのですか?」



 男が吹っ飛ばされた事に呆然とする一同。


 そんな彼らにモーニングスターの持ち手をポンポンとしながらユリが冷たく言い放つ。その目はどこか据わっていた。


 短い付き合いだがかなり怒っている事はわかる。


 だってこの顔、元領主の話をしてた時と同じ顔してるもん……マジで怖いです。はい。


 とりあえずユリが出張ってきたので俺の役目は終了で良いだろう。

 後は事の成り行きを見守る事にする。


 ここに来るまでにユリに会ったって言ってたし、彼女が領主代行を務めてる事は知ってるだろう。

 彼女の言葉だったら信じるだろうし、任せるのが適任だ。

 出来れば集団土下座される前に問題を解決してくれてれば、俺の惰眠の時間が削られる事はなかったのだが、これは言っても仕方ないだろう。


 まぁ見守る事にした一番の理由は、怒ってる人間に話しかけるのは良くないから、じっとしてるのが一番だと思ったからだ。

 何が原因でこっちに飛び火してくるかわかったもんじゃない。



「これだけの人数がいるというのに、何故誰も私の質問に答えないのでしょう?」


「「「……」」」



 ユリの質問に対し、目の前の連中は何も答えない。そりゃあ、そんな威圧感たっぷりに質問されたら答えられるものも答えられないだろうよ。


 これが元騎士ではなくただの一般市民だったら気絶するんじゃなかろうか?

 それくらいにはユリの威圧感は凄い。


 俺もこの世界に召喚されて、アル達に鍛えられてなかったら気絶してたかもしれない。

 彼女はホントに公爵令嬢なのか疑わしいくらいに武に秀でている。

 

 というか秀で過ぎじゃないか?

 これじゃあ婿の貰い手もいないだろうに……



「何か?」


「……いや、別になんでもない」



 急にユリから視線を受け、内心驚く。何でこう俺の周りには勘が鋭い女性が多いんだろう?

 これが女の勘というやつか?(絶対に違う)



「……まぁ良いでしょう。それよりも今はこの者達の行いの方が重要ですから」



 ユリの視線が俺から目の前の土下座集団に向く。

 良かった……どうやら俺の内心の呟きは追求されないようだ。



「私は同じ質問を何度もするのは好きではありません。だから同じ質問をするのはこれで最後にしますので、黙秘せず正直に答えなさい。謝罪に向かったあなた達は一体何をしているのですか?」



 そうユリが呟くも、一向に答えようとしない一同。誰も彼もが仲間の顔を見回してユリの質問に答える(貧乏くじを引く)者を探している。


 あ~……こりゃあ絶対に答える人間が出ないパターンだ。俺も当事者なら絶対に口を開かない。

 自分らのリーダーである男をぶっ飛ばして威圧感を放っているユリ対し、みんなが萎縮する中、平気で彼女の質問に答えられるとしたら勇者くらいだろう。


 沈黙が場を包み、表情には出さないが、ユリがいらだっているのがわかる。


 なぜわかるかって?


 だって彼女の周りだけ温度が2,3度下がったように感じるんだよ……これ俺だけじゃないよな? 土下座中の連中も青ざめた顔してるし。


一向に事情を説明しない一同→その事に苛立ち機嫌が悪くなるユリ→更に話せなくなる。

 ……これは完璧に不のスパイラルに入ってるなぁ。



「はぁ、仕方ありませんね。こうなったら一人一人尋も……いえ、話を聞いていくしかありませんか」



 今尋問って言いかけたよな!? 絶対に尋問って言おうとしたぞこの公爵令嬢! ほんと怖いなこの令嬢! しかも何が怖いかって、尋問って言おうとした時にモーニングスターがじゃりっと音を立てたのが恐怖に拍車をかけている。


 ほら、みんな怖くてぶるぶる震えてるじゃん。公爵令嬢が元騎士を震え上がらせるってどんな光景だよ。 



「さて、それじゃあ、あなたから事情を覗っていきましょうか。嘘偽りなく今までの経緯を話なさい」


「ひっ!?」


「お、お待ちください!」



 ユリが一番近くにいた男へと歩を進めると、小さな悲鳴が上がった。ユリよりも一回り以上大きいはずの男が怯える姿はもの凄く哀れに思える。


 なんとなく状況が悪化しそうなので、ユリを止めようと思ったところ別の所、先程ユリが男をぶっ飛ばした方向から声がかかった。

 そちらに視線を向けると、ユリに吹っ飛ばされた男が頭から血を流しながらこちらへと歩み寄ってくる。



「はぁ……はぁ……私……私がこの状況について説明しますので、どうか部下に危害を加えるような真似だけは……」



「た……隊長……」



 なんか慢心相違の状態なんだけど大丈夫か? 無関係とはいえさすがに心配になるぞ。

 ユリに詰め寄られたユリに詰め寄られてた男の部下? もなんか尊敬の眼差しを向けるだけで何もしていない。頭から血を流してるんだからせめて心配くらいしてやれよ。



「別に危害を加えるつもりはありませんが、私は状況の説明をして頂けるなら誰でも構いません」


 不服だというように若干不機嫌な顔で言うユリだが、もう危害を加えた後でそんな台詞を呟いても全く信用がない。

 というか男の状態を心配しているのは俺だけなのか? |男をこんな状態にした張本人ユリは気にした様子もなく、どうやらこのまま話を続けるつもりらしい。


 それにしても、この場にいる全員がそれで構わないならそれで良いんだけど……男が軽くホラー状態になってるよ? 

 ほら、歩きながら地面に斑点ができてるぞ? 駆け寄って手当てしなくてホントに良いの? あんたらにとって大事な人間じゃないの?


 俺の頭の中で疑問が駆け巡ってるが、誰もその事を口にしない。どうやら気にしているのは俺だけのようだ。自分の日本人としての価値観が崩れそうだ。


 でもまぁこの状況も動き出しそうだし、本来血だらけの男を心配する立場の部下もその周りの人間も、そういう素振りを見せてないので、俺が心配する必要もないだろう。

 きっとあの男が血を流すのは日常茶飯事なのだ。誰も気にしない所をみてそう結論付け、とりあえずは大人しく事の成り行きを見守る事にしよう。



「ではこの状況を説明していただきましょうか」


「はい……ぐっ……門前で許可を頂いたので、代行様もご存知かと思いますが、我々は領主様に誠心誠意謝罪するつもりで、処罰を覚悟でこの場へと参りました」


「えぇ、大勢の人間がこの街へとやってくるという報告を受け、あなたたちの話を聞き、この街へ入れたのは私です。ですが、なぜこんな珍妙な状況になっているのですか?」


「それは……ぐぁ……彼がこうすれば一番……はぁはぁ……領主様に謝罪の気持ちが伝わると教わったので、領主様が現れるまでこのように待ち続けた次第です」


「そうなのですか?」


「言ったなぁ」



 確かにこいつらに”土下座して誠心誠意謝れば厳しい処分はされない”的な事を口にした記憶はある。俺にとってこいつらは、領主の命令で強制的にこの国から逃げただけ。俺と大切な人達を傷つけた訳ではないのでぶっとばす対象にはならない。

 それに自分達の意思で最後には国に留まったのだから、国はともかくとしても。俺個人としては処罰する必要性を感じなかった。土下座という手段も一応けじめは必要だと感じたので提示しただけだ。それがまさかこんな異常な光景に発展するとは思ってなかったが。



「それじゃあこの状況はイチヤさんの自業自得ですね」


「まぁ……そうっすね」



 呆れの視線とユリの言葉に、否定のしようがなく、歯切れの悪い返事を返す事しか出来ない。


 いやでもさぁ……こいつらと山で出会った時、こんなにたくさんの人数はいなかったし、この人数での土下座なんて想定外にも程があるだろ! 口に出すとこじれそうだから言わないけどさ!!



「では、この件については不問と致しましょう。この件についてはこちらに非があるので」


「あぐ……あ……ありがとうございます」


「では次に移りましょうか」


「次……といいますと?」


「もちろんあなたたちの犯した事への処遇についてですよ。当たり前でしょう」



 え? これまだ続くのか?


 男の方も血を流しすぎたのか、顔色が見るからに悪そうなんだが。


 そっとユリの横顔を覗きこむも、顔は至ってまじめで、冗談を言っているようには見えない。


 つまりは続けるという事ですね……大丈夫かこれ? 死人が出たりしないだろうか?

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