168話 原因は俺
あけましておめでとうございます。今年は更新頻度あげられるように頑張りたいと思います。
まさかこいつらが俺への謝罪が目的でこの異様な光景を作り上げてるとは思わなかった。
でもよくよく考えて見れば、領主の館の前で土下座してるんだから当然か。
ここで土下座を慣行してる時点で気付くべきだった。
確かにその領地に領主がいるなら謝罪は必要だよな。
むしろなんでその事に気付かなかったのか、自分のことながらマヌケすぎる。
「それで、領主様には会わせてもらえるのか? ぜひとも謝罪をさせて欲しい!」
おっと、そういえばまだこいつらとの話が途中だった。
それにしてもこの男――――というよりも、この場にいる全員の表情が固いというか怖い。
なんて言ったら良いんだろう? どことなく必死? まるで死を覚悟してこの場にいるような感じだ。
一度は国を裏切って、領主に謝罪するつもりで来たんだから当たり前なのかもしれないが、そんな顔で謝られても困惑するか恐怖を感じる事だろう。
それに、俺が言った事とはいえ、こんな場所で土下座されても正直困る! 少しは周りの目も気にしろってんだ!
体面を気にする貴族とかだったら間違いなく速攻打ち首にしてるんじゃないか、これ?
まぁその事については置いておこう……
さて、本来こいつらの件だが、処罰については国に委ねられる案件だ。
そして国に委ねた場合、たぶんこいつらは死刑になる。
元領主の命令に逆らえなかったとはいえ、一番大変な時期に一丸となって頑張らなければいけない時に、未遂とはいえ国を守るべき騎士が他国に亡命しようとしたら、そりゃ殺したくもなるだろう。
少なくとも俺が王様なら国を裏切ったこいつらを絶対に許しはしない。仮に俺が王様だったらの話だけどね。
俺がこいつらをどう思っているかと聞かれれば……憎しみや恨みの感情はない。はっきり言えばどうでも良い。
あ、嘘! こいつらが逃げなければ魔物討伐に行かなくて良かっただろうし、そもそも不審者騒動も起こらなかった。つまり俺の面倒事が起こらなかったという事だ。だからその件については恨んでいるし、よくも人の怠惰な生活の邪魔しやがってと思ってはいる。
だけど、こいつらに抱く感情はそれだけだ。
大事な時期に国を裏切って云々という点については俺としては特に思うところはないのだ。
ぶっちゃけ、こいつらがいようがいまいが、獣神決闘でラズブリッダ王国に有利に事が運んだとは思えないしな。
そういう訳で、俺としては面倒臭い事をされた恨みはあるが、それだけで殺すのもどうかと思うので許そうと思う。さっさとこの場を治めたい。後の事は領主代行をしてくれてるユリと話し合って決めれば良いだろう。
こいつらの処遇について、ユリがどんな処罰を下すかはわからない。
けど、許すと決めた手前、処刑されてしまうと後味最悪なので、それ以外の頼むつもりだ。
そこまでしてやる義理はないんだけど、俺の言葉を聞いてここに謝罪に来てくれたのだからそれくらいはしてやっても良いと思ってる。
さすがにやった事がやった事だけに無罪放免にする事は出来ないけど、死罪ではなく強制労働くらいには落ち着かせたい。
そういう訳で俺は目の前の男へと返事をする。
「あんたらの謝罪の気持ちはしっかりと受け取った。俺としては実害があった訳でもないし、許しても良いと思っている。国を裏切った手前、無罪放免という訳にはいかないのから、処罰については領主代行と話し合った後になるが、死罪や家族に被害が出るような事はないと約束しよう。あんたらもあの山からここまでまっすぐ来て、まだ家族に会ってないんだろ? 沙汰は追って伝えるからまずは家族に顔を見せて謝罪してくると良い。処罰の内容については……そうだな……次の日にでも、代表っぽいあんたが来てくれ。その時までには話し合って決めておく。そういう訳で……はい! 解散!」
そう言って両手を打ち鳴らす。
パンッ! という音が小気味良く周囲に響き渡った。
どうよ? なかなか領主っぽく出来たんじゃないか? と内心で自画自賛しておく。
これでこいつらもすぐに解散してくれる事だろう。
だが、俺の予想に反して、一向に動こうとしない一同。
その目に写る感情は”困惑”。
誰も口を開いていないがその目は雄弁に物語っている。『え? こいつ何言ってんの?』と。
「どうしたよ?」
「どうしたも何もどうしてお前に言われなければならない? この屋敷から出てきたという事は領主様の護衛だと思うが、護衛がそんな権限を与えられている訳がないだろう。謝罪の言葉を伝えてくれるのはありがたい。だけど、我々は直接領主様に謝罪の言葉を伝えたいんだ! 頼む! 領主様を呼んできてくれ」
目の前の男が必死に頼み込んくる。それに同調するように、後ろの奴等も『どうかお願いします』と声を大にして俺へと意思を伝えてくる。
あ~……そういえばこいつらに俺が領主だって事を伝えてなかったか。昨日は特に必要性を感じなかったからな。謝罪にくるように薦めたけど、もし来たとしてもユリに丸投げにしようと思ってたし。
「いや――――」
「そこをなんとか頼む! 確かに我々は一度は国を裏切った立場だ。信用がないのも仕方がない。そんな我々の前に領主様を連れて来るのは護衛として心配なのはわかる。主の安全を第一に考えるのは護衛の勤めだ。お前にも護衛としての教示があるのだろう」
「いやさ――――」
「しかし、それを曲げて頼む! いや! お願いしたい! 領主様を呼んできて欲しい」
「いや、だからさ――――」
「どうしても駄目だと言うのか!? 我々には会わせられないと! 確かに我々の悪評については領主様も知っているのだろう……自分の領地の事だから聞いていない訳がない。領主様が我々に会いたくないのも仕方がない。だがせめて一言だけ……一言だけ謝罪の言葉と家族へ罪が及ばないよう嘆願したいだけなのだ!だか――――」
「いい加減、人の話を聞けやぁぁああああ!!!!」
さっきから人の話を遮る男にイラっとしたので、男の話を遮り一喝する。
全くなんなんだよ! なんでこいつ、人の言葉遮ってこんなに饒舌に話してるんだ?
人の話は聞くようにと、親から教わらなかったのだろうか?
急に叫びだした事で、目の前の男を含めた全員の視線が集まっており、土下座の姿勢で目を丸くしている。
その顔はなんといえば良いのか……ぶっちゃけると全員がアホ面を晒している。
全く……ただでさえこの集団土下座のせいで朝っぱらから(もう昼近いが)疲れてるのに、大声をあげさせないで欲しい。
だけど、一括したおかげか、目の前にいる男の口上も止まったのは助かる。
これでようやく遮られずに話すことが出来そうだ。
全員の視線が集まっている中、俺は奥にいる人間にも聞こえるくらいの声量で話し出す。
「まずはじめに。お前等の会いたがっている領主についてだが……新しくこの領地の領主になったのは――――俺だ」
「「「え?」」」
目の前にいる全員が、俺の言葉で目が点になっている。
さっきのアホ面の時といい、ここまで反応が一緒だと面白いな。
全員がこの領地で騎士をやっていたみたいだし、これも団結力のなせる業なのだろうか(違う)
「いやいや、さすがにそれはありえないだろう! いくら我等を領主様に会わせたくないからと言ってそんな嘘が通る訳なかろう!」
男の言葉に他の土下座集団もそのままの体勢で首を縦に振ったり『そうだそうだ』と相槌をうったりしている。
まぁ普通はこいつらの反応が正しい。
俺だってこいつらの立場だったらいきなり『領主です! キリッ!』なんて言われたって信じられない。
ラノベで読んだ限りの領主のイメージだが、ダンディなおっさんか肥え太った豚がやってるイメージだし。
……そう考えると領主という肩書きに魅力がなくなってくるな。
自堕落な生活が出来るからと二つ返事で了承したけど、今すぐ辞めたくなってくるから不思議だ。
とりあえず、領主のイメージについては置いておこう。なんか考えてると思考がマイナスに振り切れそうだ。
それよりも、領主を名乗ったは良いが、俺が領主だと証明する方が建設的だろう。
さて、こいつらに俺が領主だと理解させるにはどうすれば良いだろう?
王様から領主を頼まれたは良いが、特にこれといった証とかをもらった訳ではない。
領主として特に何かする必要はないと言われていたので着の身着のまま来てしまったが、それが仇になった。
必要な物は創生魔法でどうとでもなると思っていたけど、さすがに証明するものなんて創れない。知らない物は創れないのだから。
こんな事になるなら王様から証明書みたいな物をもらってくるんだった……でもこんな事態誰も想定できないだろ!
あれ? 証明しようと思ったんだが、証明する方法が思いつかないぞ。
レーシャを連れてきて証人になってもううのが一番なんだが、不用意にこいつらの前に連れて来るのはよくない。
ここに連れてきて、自分のせいで危険な目にでもあったら悔やんでも悔やみきれない。
こいつらの態度を見てる限り、そんな可能性は低いと思う……ないとは思うがゼロではないのだ。
レーシャが無理だとしたらあと証明出来るのはユリくらいなんだが、彼女がどこにいるのかわからない。
だめだ……すぐに領主である事を証明する方法が思いつかない。これは詰んだわ。
すぐでなければ、ユリが戻ってきた時に証言してもらえば解決できるんだけど、どこにいるのかわからない。出来れば今すぐ解決したいんだけどなぁ……こんな事態になってるんだから早く来て欲しい。
こいつらが集団土下座さえしていなければこのまま放置してるんだがさすがにこの状況を放置するのは胃が痛くなりそうなので出来ない。
はぁ……何か良い方法はないものか。
「お前には悪いが、我々は領主様が出てこられるまでここ待た――――へぶらっ!」
良い方策が思い浮かばず、しばらくはこの状況が続くのかと憂鬱になりかけた時、男が言葉を言い終える事なく、いきなりぶっとんでいく。
一体何が……そう思うよりも早く、俺は状況を理解した。
だって、先ほどまで男がいた位置には、黒い球体が自分の居場所だとばかりに鎮座しているのだから理解するしかない。
|男がぶっ飛ばされたの原因が誰の仕業なのかを。
「全く。あなた達が領主様に謝罪をしたいというから、武器等を没収して行かせたというのに、一体何をしているんですか」
俺の願いが通じたのか、声のした方向、そこには冷めた目で男達に視線を向けながら歩いてくるユリの姿があった。