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167話 集団土下座

 なんだろうこの状況……


 目の前の状況がよく理解出来てない俺は不審者達が行っている行為に呆然とする。


 何をしているのかは……ああ……その行為を見れば理解出来る。

 理解は出来るよ……出来るけどさ……何でその行為をこんな場所で行っているのかが理解出来ない。


 彼らがやっていたのは――――日本人なら知らないものはいない行為である『土下座』である。


 まごうことなき土下座だ……間違いようもない土下座だ。


 しかも屋敷の扉から覗いた時にはよくわかんなかったんだけど、結構な人数が屋敷の方を向き、一糸乱れぬ土下座を行っている。


 ってか本当に人数多いな!? 十……二十……三十……五十人は軽く超えてるだろこれ!?


 数えるのが馬鹿らしくなるくらいの人数がこの場で土下座をしている。

 はっきりと言わせてもらえば、その光景は不気味だ。


 こんな光景、テレビでも見た事ないぞ。


 みんなが不安になっていた理由も頷ける。

 こんな事をしだしたら不安にもなるってものだ。


 これに突撃しようとしたレーシャは凄いな……俺なら絶対に関わり合いになりたくない。


 まぁそうも言ってられないのだが……どうしてこういう時に限ってアル達はいないのか……せっかく面倒事が終わったばかりだというのに、また面倒事の種が舞い降りる。

 何だって俺がこんな目に……もしかして俺は呪われているんじゃなかろうか?


 思わず自分の境遇を嘆いてしまうくらいには、面倒臭そうなこの状況。

 

 代わってくれる人がいるならぜひ代わってもらいたいところだ。

 そうは思っても代わってくれる人間が現れるなんてご都合主義は起こらないのだが……



「あんたら、ここで何してるんだ?」



 出来ることならこのまま回れ右して屋敷に戻った後、そのままベットに直行したい! この連中の事を頭の片隅に放り投げたい! ……その気持ちを押し殺してとりあえず話しかける。

 さすがにみんなをずっと不安な気持ちにさせて置く訳にはいかないし、こいつらをこのまま放置も出来ないので泣く泣くだ!  



「私達は――――」



 門の一番近くにいた男が顔をがばっとあげたかと思うと、勢いよく話し出すが、俺と目が合うと男の言葉が止まる。


 あれ? この男……



「お前は! 昨日の冒険者!」


「あ、はい、昨日の冒険者です」



 見覚えあるな~と思ったところに、顔を上げた男も俺に気付いたようで、驚きの表情を浮かべ叫ぶ。

 さすがに向こうも気付くよな~、昨日会ったばっかりだし。


 顔を上げた男、昨日山で出会った不審者のリーダーとまさか昨日の今日で再会するとは……

 向こうも驚いているけど、俺も十分に驚いている。


 一応、昨日あの山から去るように忠告し、謝罪を勧めたからいつかは来ると思ってはいた。

 が、まさかこんなに早く来るとは。


 騎士のプライドがどうのこうのとか言ってから、もうしばらく悩んで、結局行く宛がない事に気付いて領主代行(ユリ)に泣きつくとばかり思ってたんだが。


  俺の予想としては、騎士に対して執着があったから、一週間くらいぐだぐだ悩んで行動を起こすと思ってた。

 だけど、すぐにこの街にやってきたって事はプライドよりも家族を優先したのだろう。

 口先だけではなく、ちゃんとそれを行動に移せた部分に関しては十分に評価に値する。


 もしぐだぐだ悩んでいつまでもあの山で不審者生活していたら、警告通り本当に殲滅していたところだ。


 そうならずにならなかったのはお互いにありがたい事だろう。

 こいつらも死ぬことなんて望んでないだろうし、俺もまたあの山に行かなきゃいけなくなるのは面倒この上なかった。

 双方にとって良い結果になったわけだ。


 ――――それはそれとして



「それで、もう一度聞くけど、何でここで土下座なんかしてるんだよ?」


「土下座?」



 俺の言葉に男が首を傾げる。



「今、あんたらがやってるだろ。手と額を地面につけるその行為だよ。その行為が土下座、俺の国では最大級の謝意を示す姿勢だよ、知らなかったのか?」


「知らなかった。こうすれば謝罪の意思が伝わると。昨日のお前のアドバイス通りにしたのだ」


 ん? そんな事いったっけか?

 え~と……『恥も外聞も忘れて地面に額を擦り合わせて』とか『誠心誠意謝罪すれば、罪は免れないかもしれないけど、家族までとか理不尽な罰は与えないと思うぞ』とかは言ったからたぶんそれを部分的に解釈したのだろう。


 それでこんなところで土下座していた訳か……って、この惨状って俺が原因かよ!

 いや、確かに原因の種を蒔いたのは俺だけど、何もこんなところで、しかもこんな大人数でやるなよ!

 少人数ならこいつらが変な目で見られるだけだが、この人数だと領主の俺が変な事をさせてるみたいに思われるだろ!


 明らかに異様な光景だし、住民の目にもとまったはずだ。

 ……もう昼近いからおそらくかなりの住人がこの絶対に見ていた事だろう。


 うわぁ……まだやってきて数日しか経ってないのに変人だと思われてるかもしれないのかよ……


 起きたばっかりなのにどっと疲れが押し寄せてきた。



「どうした? なんだか疲れているように見えるが」


「はぁ……何でもない。それよりもこのままじゃ話し難いから立ってくれないか。他の連中もだ」



 首を傾げる男にお前等のせいで疲れてるんだよ! という言葉を飲み込み、立つように告げる。


 いつまでもこの連中を放置して更に被害を拡大したくはない。

 もう手遅れ感が半端ないが、やらないよりはましだろう。


 ――――だが



「すまんがそれは出来ない」



 いやいや……ここ、俺の家の前なんだから指示に従ってくれよ。

 何で拒まれにゃならんのだ? 意味がわからん。



「どうしてだよ?」



 強制的に排除する事は昨日の戦闘で実力は把握してるから出来なくはないが、さすがに街中で刃傷沙汰はまずい。

 とりあえず理由を聞いてどうにかなりそうなら対処しよう。



「まだ我々は謝罪をしていない。許しを得るまで我々はここを離れるつもりはないし、この姿勢を崩すつもりはない」



 至極まじめな顔で、決意を秘めた瞳で見返す男。


 その決意は立派だし、素直に賞賛出来るんだけどさ、俺にとっては迷惑この上ないんだよね……


 なによりこいつらは重要な事に気付いていない。



「あんたらの決意はわかった。だけどな――――ここにお前等が謝りたい人間はいないぞ」


「……は?」



 そんな意外そうな顔されても、今この屋敷には来ていないんだよ。



「だからユ……領主代行は今日はまだ来てないんだよ。いつもだったらもうとっくに来ているんだけどな。後、領主代行が今日来るかもわからない。だから今日はお開きにして、領主代行がいるのがわかってからまた来てくれ」



 今現在、こいつらが謝ろうとしている領主代行(ユリ)がいない事を伝えておく。

 こいつらの目的はユリに謝る事だから、目的の人物がこの場にいない以上いる意味がない。


 そういう訳で、これでこいつらの謝罪という名の迷惑行為も終わるだろう。


 後はユリがいる時にでもこいつらに来てもらえば、ユリなら上手い事どうにかしてくれるはずだ。

 こんな場所で集団土下座している姿を見た時はどうしようかと思ったけど、これで万事解決である。


 はぁ……なんか凄く疲れた……こいつらももう用はないだろうしすぐに帰るだろうから、帰ったら飯食ってもう一眠りしよう……そうしよう。



「いや、私達が謝りたい相手は代行殿ではない。代行殿にはさっき会って謝罪したからな」


「え?」



 だというのに、返って来たのは俺の予想とは違った返事。

 思わず目の前の男が俺の言葉に驚いていた時のような顔になってしまう。


 ユリにはもう会って謝罪した? え、一体どういう事だ?

 謝罪したんだったらここで土下座する意味がわからない。


 ユリだったら謝罪すれば、すぐにでもこいつらの処遇を決めるはずだ。

 なのにこいつらはここで土下座している。

 彼女に謝罪が済んでいるのなら一体これは誰に向けての謝罪なんだろうか?



「だから領主代行殿にはもう謝罪済みだ。この街に入る際に、あまりの人数で武装している事もあり、不審に思った兵士が代行殿を連れてきたのでそこで謝罪させてもらった」



 男の言葉に考え込んでいた俺が固まっているように見えたのだろう。

 ユリに会った敬意やそこで謝罪した事を伝えてくる。


 話を聞く限りではそこで話が終わっていてもおかしくないはずなんだが。



「なるほど、領主代行に会って謝罪したのはわかった。でもだったら何でここで土下座なんかしてるんだよ? もう謝罪が必要な相手はいないだろ」


「いるだろう! 一番謝罪しなければいけない相手が! 確かに我々は領主代行殿には謝ったが、まだ大切な方に謝罪が出来ていないのだ」



 街の運営やら国にも深く関わっているだろうユリより大切な相手?

 考えられるとすればレーシャ以外に思い浮かぶ相手はいないな。この国の姫だしな。


 もちろん答えは決まっている。



「会わせる訳ないだろう」


「なぜだ!?」


「いやさ、理由くらいわかるだろ。いくらなんでもお前等の前に連れて来れる訳がないだろう。王様に知られたら怒られるのは俺だぞ」



 さすがに国を裏切った人間の前にレーシャを連れて来る訳にはいかない。

 こっちはここに来る前に王様にレーシャの事をくれぐれも頼むと言われているのだ。


  


「どうしてそこで陛下が出てくる?」


「いや、どうしてと言われても当然だろ……何があるかわからないのに、一国の王女に会わせる訳がない。俺でも知ってる常識だぞ」



 何でそんな不思議そうな顔で聞いてくるのか、俺の方が不思議でしょうがない。


 普通に考えて、どんな手段で危害を加えられるかわからないのに気軽に会わせられる訳がないというのは、お姫様なんて知らない日本で育った俺だって考えられる事だ。



「王女? お前は何を言っているんだ?」



 なぜそこで首を傾げるのか? 騎士をやっていたので精巧な顔つきをしているからそこそこ様になっているのかもしれないが、俺からしたらこの男の仕草は単にイラっとさせられるだけである。

 女の子がやったら可愛いかもしれないけどさ、男がやっても気持ち悪いだけだ。 


 まぁその事はどうでもいいとして。



「お前達が謝罪を示したいのはこの国の王女様であるレイシア姫にじゃないのか? てっきり領主代行に王女様がここにいるのを聞いて国を裏切った事を謝罪しに来たんだと思ってたんだが」


「代行様からそんな話は聞いてない! ここに姫様がいらっしゃるのか!?」



 どうやらユリはレーシャについては何も教えなかったらしい。


 確かに獣人族と同盟を結ぶ事になったとはいえ、それだけで王族に危害が及ばないという保証がないから不特定多数の人間にレーシャの場所を教えるというのはあまり良い事では――――あれ、俺やっちゃったか……?


 うん、これはやっちゃったな……

 とりあえず後でレーシャとユリに謝っておこう。

 ……確実に説教をくらいそうだが、俺の自業自得だ。


 この後の事を想像して、溜息が出てしまいそうになるが、今は話を続けよう。



「いるにはいるけど、さっきも言ったように会わせるつもりはないぞ。不用意に会わせて何かあったら俺が大目玉をくらうからな」


 

 もう言っちゃった手前、男の言葉を肯定し、同時に会わせない件を毅然と告げる。


 なお、王様かユリ、レーシャの二人からの違いはあれ、大目玉をくらうのは確定だ。

 ホント今日は厄日である……



「わかっている。姫様の件については代行様に聞いていたとしても、お目通り願うなんて大それた真似出来るとは思っていない。我々は一度は国を裏切った身だ。それくらいは理解している。我々が会いたいのは別の方だ」


 

 レーシャについて知ったのは今だが、会って謝罪を申し出るつもりはないらしい。

 うんうん、ちゃんと自分達の立場というのを正確に理解しているようだな。

 これで会わせろとか言ってきたら実力行使に出ていたところだ。


 でもそれだったらホントにこいつら誰に会いたいんだ?


 レーシャ以外にこの街にいる国の重鎮なんてユリくらいしかいない。

 そのユリにも会っているようだし、他の人間なんて想像出来ない。

 一体誰に会いたいというのだろうか?



「お前等の言う会いたい相手って誰なんだ?」


「決まっているだろう! この街に新たにやってきた領主様だ」


 俺の質問に、土下座の姿勢のまま声を大にして宣言する男。


 うん? 領主……領主に会いたいっていったのかこいつら?


 ………………


 …………


 ……


 え? それって俺じゃん!


 こいつらがここで土下座して会いたかった相手って俺だったの!?

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