16話 新たな関係
「さて、褒賞の授与も終わったところでイチヤ殿」
「ナンでしょう?」
褒賞の話が終わると王様が改まった感じで話しかけてきた。これでようやく帰れるなんて気が緩んでいたところだったので声のトーンが少し高くなった。少しずつ俺の頬が熱を帯びていくのを感じて周りにも気付かれるかなと思っていたが、王様は特に気にした様子もなく続ける。
「一度、ステータスカードを預けてはもらえぬか?新たなカードに更新しようと思う」
「更新?」
意味がわからないと言う顔で王様を見る。
「ステータスカードは今回のように国の為に何かを為した者に更新を行いカードの性能を上げるといった事をしておる。カードにはその者の個人情報の表示以外にも、カードの色によってランク分けされておるんじゃが更新する事によってカード機能の向上、店でも買える品物などがランクによって増えるんじゃ」
「なるほど、わかりました」
特にデメリットもなかったので、返事をしてカードを王様へ預けた。
「後日、使いの者にカードを届けさせるので、待っておってくれ」
「はい」
特になくても困らないのでゆっくり待とう。どんな機能がついたかは届いてから色々調べてみるか。
「後はそうじゃな……おぉ、そうじゃったそうじゃった。レイシア」
何かを思い出したように王様が姫様の名を呼ぶと姫様は一歩前に進み出て、周りに聞こえるように声を発した。
「私、レイシア・ラズブリッダが今ここでイチヤ・カブラギの罪を赦す事を皆の前で宣言いたします」
いきなりの姫様の宣言に俺は驚いたが、周りの近衛騎士、特に獣人メイド達は素直に喜んでくれている。 メイド達はわかるんだが、どうして近衛騎士まで喜んでくれているんだ?
そう思い彼等の顔をよく見てみると、この部屋で獣人と戦っていた騎士達だった。あの場には騎士団長もいたはずだが彼等とは違い正反対の反応だな。騎士団長だし王様にあんな態度取ってたら良い様にはみられないか。
まぁ万人に好かれようなんて思ってないし、どうでもいいや
そんな瑣末な事よりも今の事態に集中しなければ
「ありがとうございます。でも罪人になっても別に不自由な事はなかったですし、何が変わるんでしょうか?」
「……本気で言っておるのか?」
「もちろん本気ですが、俺、何かおかしいことでも言いました?」
俺がそう言うと王様は熟考してしまう。ホントに何か変な事いっただろうか……?
衣食住もアルのおかげもあって不便に感じた事はないし、親しい友人達も出来た。俺としては特に今の生活に不満はないので、今更罪が赦されたと言われても何が変わるのかよくわからない。
もちろん姫様ビッチ事件を姫様本人が許してくれたんならそれは嬉しい。だが公式の場で許されても姫様が許してないんだったらそれは無意味だ。今思い返すとあの場では雰囲気に流してしまった感があるから冷静になった今ではやはりまだ怒ってるんじゃないだろうか?
そんな事を思い姫様の方を見ると目が合った。次第に姫様の頬が紅潮してそっぽを向かれる。
ほら、やっぱまだ本心では怒ってるじゃないか
心の中でため息を吐くと姫様から視線を外し王様を見る。王様はようやく考えがまとまったのか咳払いを一つした。
「本当にイチヤ殿は変わっておられるな。罪人でなくなったという事で普通に暮らす事ができるではないか。牢屋という閉鎖した空間ではなく、自由に外を歩くことが出来る。イチヤ殿は我が国を救った英雄、これからは我が国が用意した客室で不自由なく生活出来るよう取り計らおうではないか」
変わっておられる。か
これは熟考したけどやはりというか当然なんだがまともな人間が俺の思考を理解できないだろう
王様は満面の笑みでそう言っているが、俺の思考を王様は何一つわかっていない。こっちからしたらまた生活が変わる事になるのでいい迷惑だ。王様の提案への俺の答えは当然決まっている。
「お断りします」
「なぜじゃ?!」
俺の即断に本気で意外そうな顔をしている。というか王様のこの驚きの表情を見るのは転移初日以来だな。あの時も同じ表情をしていた。
「確かにステータスカードの職業欄の罪人って書かれた項目はなんかなぁって思ってたので消えるのであればまぁ……ありがたいですけど、あの部屋から出るくらいなら罪人として牢屋にいた方が良いかなって思います」
「なぜそこまで拘るんじゃ?牢屋よりも快適な部屋を用意し、必要な物も出来る限りだが揃えようではないか」
王様が勿体無いくらいの好条件をつけてくれるんだが、俺が欲しいと思っているモノなんていうのは誰かに与えられるようなものではない。
「それでも、許可していただけるなら、俺はあそこに残りたいです」
「理由を聞いてもよいかの?」
「仲間がいるからです」
「仲間なら同郷の勇者達がおるではないか。客室ならまだたくさん空いておる。なんなら彼等の近くの部屋でも用意――――」
「それだけは絶対に嫌です」
話している言葉を遮って俺が告げると、王様は意外そうな顔をして俺の事を見ている。
「勇者達は仲間じゃろう?何故嫌なのじゃ?」
「あれは仲間ではないです」
「どういう事じゃ?」
俺に不思議そうな顔を向け王様は尋ねてくるが、俺は苦笑しているだけでそれには答えない。あいつらに関してはどうでも良いが、だからといって進んで答えたいとは思わなかった。
「何かイチヤ殿達にしかわからない事情があるようじゃな。わかったその事に関してはこれ以上聞くまい」
どうやら俺達転移者の間に問題があるという事を察してくれたのか、その関係性についてはこれ以上聞かないでいてくれるようだ。こちらとしてもあまり楽しい話じゃないので正直助かる。
「して、イチヤ殿の言う仲間と言うのは?」
「はい。俺にとっての仲間というのは牢屋で共にいる寡黙ではあるけど物知りでいろいろと教えてくれる姉のような存在のレイラ。普段馬鹿話が出来、細かい所に気がつき、俺の事を理解しようとしてくれるアル。最初はおどおどしてたけど、それでも毎食食べる人の事を想って料理を作ってくれるリアネ。この三人が俺にとっての仲間です」
そう
転移前の高校入学以降初めて出来たかけがえのない仲間で俺にとっては何よりも大切にしているものだ
それが失われるくらいだったら罪人という立場も甘んじて受けよう
特に牢屋暮らしで困った事は……獣人が攻めてきたことだが、それ以外で特に困ったという事もなかった。それに客室だろうと攻めてきてた事実は変わらない。
俺の話を聞き終えた王様は顎鬚に手をあて考えるように天を見上げるように上を向く。また熟考するのかに思われたのだが、すぐに視線を戻すと何かに納得したような顔になった。
「なるほどの。イチヤ殿の本心はわかった。何故イチヤ殿が褒賞を自分の為ではなくそこの娘、リアネと言ったか、その娘の為に使ったのかようやく合点が言った。大切だという事は先程の会話でなんとなく察してはいたがまさかそこまで大切にしているとは思わなかった」
「ただの自己満足ですよ。確かにリアネは大切で彼女の為に何かしたいとは思っていましたが、彼女の意思を聞かずに勝手に褒賞を決めてしまったんです。これを自己満足と言わずなんというのでしょう」
そう言った後にリアネの方をちらっとみると、彼女は首をふるふる動かしている。どうやら俺がやった行いは彼女にとって悪い事ではなかったようで安心した。
「はぁ……仕方があるまい。本当は国の英雄であるイチヤ殿を牢屋に入れているとこちらとしての体裁が悪いのだが本人が望んでいるのを無理やり出すと言う訳にもいかんしな。では罪人という立場は取り消す。以後は牢屋への出入りを自由とし、好きに外出するが良かろう。これならば問題あるまい?」
「はい。心遣い、感謝いたします」
「本当にお主は変わっておる。今まで伝え聞いた勇者とは全然違うのぉ」
「勇者ではありませんから」
俺が少しおどけた調子でそう言うと王様は少し表情を緩ませる。外出に関しては特にするつもりはなかったが、必要な物があった場合などは一度異世界観光がてら城下町でも回ってみよう。武器を精製して売ればいくらかの資金は稼げるしな。
「イチヤ殿ならあるいは……」
王様は俺を見ながら意味深に何かを呟いたがその言葉は誰の耳にも届いていなかった。
王様と軽い雑談をしてから俺とメイド達は部屋を出て行った。奴隷メイドであるリアネ達は自分達の使っている部屋の掃除など、引越し準備があるので俺達よりも少し前に玉座の間を退室していた。
今この部屋を出たのは俺と人族のメイド達だけだ。扉が閉まり王様の姿が見えなくなったのを確認すると俺は彼女達に声をかける。
「おい」
「何でしょうか、イチヤ様?」
俺が声をかけると返事をしてくれたのはメイド長だったが、彼女に用はない。
「メイド長。あなたは関係ない。用があるのはそこのメイドだ」
威圧するように声を発し、俺は先程獣人族の幼女メイドに暴力を振るっていたと報告のあったメイドを指さす。俺に指名され、びくっとしているメイドの下へと歩み寄ると彼女は狼狽したようになる。
「な……なんでしょうか?」
「俺はあの時ちゃんと言ったはずだぞ、リアネ”達”にひどい事をしたら”全員”血祭りに上げてやる。と」
達と全員を強調して発するとその場にいるメイド達全員が青い顔をする。メイド長だけが気丈に振舞ってはいるが暑くもないのに汗をかいているので、どうにか同様を顔に出さないようにしているのだろう。
「この場で私達全員を殺しますか!?ここには騎士様もいます。そんな事をしてみなさい。あなたは英雄から一転して一般人を殺した大量殺人者です。いくら転移してきた方でも処罰されますよ」
横に玉座の間の扉を守っている騎士がいるから幾分強気なのだろう。俺の実力は見ているだろうに。まさかそこの騎士よりも弱いと思われているのだろうか?騎士達が自分達を守ってくれるとでも?というかこの女さっきの玉座の間でのやりとりも聞いていたが、まったく反省していないな。
「俺をそんな言葉でどうにか出来ると思っているのか?」
そう言って一瞬で創り出したロングソードを右手で持ち彼女の首筋に触れさせている。左手には極細の毒針を数本見えるようにちらつかせた。扉を守っている騎士やメイド達がいきを飲んだ。
「な……何をするんですか」
「いや、お前は言っても聞かないだろうから実演した方が理解してもらえると思ってな。わかってもらえたか、俺はいつどこで誰が守っていようともお前を殺せるんだよ」
俺が剣をメイドの首筋から放すと、彼女が床にへたり込むと見下すようにして彼女を見た。彼女の瞳を覗き込むと怯えの色が浮かんでいるように見える。
もうそろそろ良いだろう
「さっき王様に言ってしまったからな。今回は折れると。もう彼女達とお前等に接点はないだろうが、次に彼女達と会った時彼女達は俺のメイドだ。彼女達に何かした場合、王様が言っていたが俺はお前達を法的に殺しても構わないそうだ。今回はそれの警告だと思え。二度目の慈悲を与えるつもりはない。覚えておけ」
俺はそれだけを言うと牢屋の方へと向き直り歩き出した。後ろの方ではメイドや騎士達が呆然と俺の後姿を見ている気配を感じるが、気にせずそのまま歩みを進めた。
「待ってください」
牢屋に向かう途中に俺の後ろからそんな声が聞こえてくる。たぶん俺に呼びかけているんだろう事がわかったので立ち止まって振り向くとメイド長が早歩きで俺に近づいてきた。走ってこないあたりさすがだと思う。
「何か用か?」
「はい」
立ち止まっている俺のところまで来るとメイド長は真剣な顔付きで俺を見つめてくる。
さっきの行動が気に入らなかったんだろうな
文句でも言いに来たんだろう
そう思っていたのだが、メイド長は姿勢を正すと深くお辞儀をしてきた。
「何のつもりだ?」
「イチヤ様には感謝しております」
「どういう事だ……?」
俺がお辞儀をしているメイド長に問いかけると彼女は頭をあげ俺の問いに答える。
「私はあなた様に三つほど感謝している事がございます。それだけはどうしても伝えておきたいと思いまして」
「感謝されるような行動をした覚えはないな」
ぶっきらぼうな態度でメイド長に接するが、彼女は微笑を浮かべている。その優しい笑みに思わず目を奪われてしまう。
「一つは先程、あなた様は私達を殺そうと思えばあの場で殺せていたでしょう。まずは一度目の慈悲を与えてくれた事への感謝です。もう一つは獣人に襲われていた私共を救って頂いた事。そして最後に――――あの娘達を解放して頂いた事に深く感謝いたします」
あの娘達というのはリアネ達の事だろう
「解放出来た訳じゃねぇよ。主人が王様から俺に移っただけだ。奴隷と言う立場には変わらない」
「立場は変わらないかもしれません。ですがあなた様はあの娘達にひどい扱いはしないでしょう。それどころか私にはあなた様があの娘達を守ろうという気持ちが伝わってきます。私はしたくても出来なかった事なので……」
そう言った後にメイド長は少し沈むような表情になるがそれも一瞬ですぐに元の表情に戻ると俺を見据える。
「私が言える立場でないのはわかっておりますが、どうかあの娘達をよろしくお願いします」
さっきよりも深く腰を曲げたお辞儀。
「どうしてそこまで」
「それに関しては次の機会があればお話させていただきますね。それよりも引き止めてしまい申し訳ございません」
顔を上げた彼女は話は終わりとばかりに微笑んでいるだけだ。俺も必要がないので特に詮索するような真似はしない。今は彼女がリアネ達を想ってくれている事がわかっただけで十分だ。彼女の態度など見てるとあの獣人の幼女達がメイド長をかばうくらいには信用してるのも頷けるな。
彼女がここまでする理由はわからないが今は話す気はないようだ。万が一にもないとは思うが、次の機会があった時にでも聞かせてもらおう。
何か変なフラグを立てたような気がするが今は気にしないでおこう
「では、私は業務がありますので、申し訳ありませんが、この辺で失礼いたします」
「あぁ」
短い返事をして彼女が去っていくのを見送ってから俺も再び牢屋に向かって歩き出した。
王様との雑談、メイド達への脅迫、メイド長との話などしていたらずいぶん戻ってくるのが遅れてしまった。
牢部屋の近くまで来るとアルとリアネ達獣人のメイドの姿が見えた。もう掃除を終えてきたようだ。アルとリアネは談笑しているようだが、俺に気付いたアルが早く来いとばかりに手を振っている。俺もそれに応えるように……
しびれ針をリアネ達メイドに当たらないように注意しながら思いっきりアルに向かって投擲した!
「うぉっ?!あぶねぇな!!」
「ちっ……」
俺は舌打ちしながらもアルとリアネ達の下まで到着する。
「みんなもう着いていたのか早いな。アルも牢番ごくろうさん」
「お前何平然としてやがる!今のなんなんだよ!」
俺が先程の行動などなかったように振舞うとアルは興奮しているのか突込みの声が荒い。
何を怒っているんだこの男は?
「いつもの挨拶だろ。それに投げられる理由が思いつかないのか?」
いつもならあっはっはと言わんばかりにごまかすのだが、今回は投擲した理由があるので下手にごまかそうとは思わない。アルもそれにきづいたのか、うっ……といううめき声をしたあと頭をぼりぼりと掻いている。リアネ達は不思議そうな顔をしているだけだ。
「いや、伝え忘れたのは悪かったって、悪い話じゃねぇんだから良いじゃねぇか」
「はぁ……すんげー精神的につかれたんだぞ、まったく」
アルは苦笑い、俺はホントに疲れたというジェスチャーで返す。俺達のやりとりを見ていたメイド達はどう対応したら良いのか困惑気味だ。
「リア、この場合あたし達はどうしたらいいのかしら……?」
「見ているだけで大丈夫よ、二人とも楽しそう」
ディアッタが代表してリアネに聞いているがリアネは微笑ましいものでも見るように俺とアルを見ていた。ディアッタの方はリアネを見てこの子の頭はお花畑なの!?と言いたげな驚愕の顔をしている。確かに今のやりとりは初見だったらどうしたらいいかわからないだろう。
アルと一通りのやり取りをしたが、アルは言い忘れてたことを反省していないし、俺もしびれ針を投げた事を反省していないが、まぁいつものやり取りなのでお互い気にせずに話を進めることにした。
「とりあえず罪人じゃなくなった」
「おぅ。リアネから一通りの事は聞いたよ、おめでとう」
「まぁここから出て行く気はないんで。これからもよろしく」
そう言うとアルがすごく迷惑そうな顔を突きつけて俺を見ている。
人を小ばかにするような顔がすんげーむかつくんですが
なんだよ、そのうぇ~みたいな顔は
俺がいらっとしている事がわかって満足したのか顔を元に戻す。
「ホントお前さんは変わってるわ。良い部屋用意してもらえたはずなのにまた牢屋に住みたいなんて」
「良いだろ別に、いちいち生活環境変えるのめんどいんだよ」
本当の理由は恥ずかしくて言いたくないのでそうごまかした。
「そか。でもまぁこれからは好きに外出出来るようになったんだ。町でも見て回ってくると楽しいぞ」
「必要な物があれば行くが基本的に牢屋でのんびりしてるわ。正直だるい」
「怠け者」
「ほっとけ」
俺達がそんなやりとりをしていると、おずおずと一人のメイド、ディアッタが申し訳なさそうに話しかけてきた。
「あの……お話中申し訳ないのですがご主人様、あたし達はこれからどうすればよいでしょうか?」
さっきから話しかけるタイミングを探していたようなのだが、どうも掴めなかったようで困った顔をしている。いや、困った顔というか少し怯えている?
「あ、ごめん。とりあえず荷物を新しく住む自分達部屋に運んでしまおうか。着いて来てくれ」
なるべく怯えさせないように努めて優しい声を出すように頑張る。アルが似合わねぇとばかりに声を殺して笑っているが無視だ。
「かしこまりました」
彼女達を先導して歩くのだが、正直どの部屋にしようとかは決まっていない、まず牢屋から出て散策とかもしてなかったので何処に何があるのかわからない。完全に無計画だ。一度も戻ってアルに聞いても良いんだが、勝手に進んで来て今更戻るなんて恥ずかしい。
ホントは彼女達が来るまでに部屋を決めておく予定だったんだけどなぁ……
「リアネ。この階で一番大きな部屋ってどこだろうか?」
俺は隣を歩いているリアネに小声で尋ねる。ここまで来る間になるべく私だけじゃなくみんなとも仲良くなってくれると嬉しいので色々話かけてあげてくださいとリアネに言われたんだが、さすがに今更こんな事恥ずかしくてリアネにしか聞けない。
それにしてもいろんな子と話せと言われたが、何故か定位置とばかりに俺の横を陣取っているんだが……しかも近い近い!リアネの胸が!胸が!
「この先を左に曲がった部屋が大部屋になっているので、そこが一番広かったと思います」
俺の心の葛藤などわかっていないリアネは笑顔で質問に答えてくれた。
純真無垢な巨乳美少女に癒される
その部屋の扉を開き中の広さを確認すると、申し分ないくらいに広い。大体六、七十畳か?どのくらい広いかと言うと旅館などの宴会をやる為の部屋くらいといえばわかってもらえるだろうか。何かの催しをする部屋のようだが、テーブルやイスなどは置いていないので片す手間が省けたのは幸いだった。
「今日から君達にはここで生活してもらうからよろしくね」
「わかりました。では荷物を置き次第ご主人様のご命令があるまで掃除をしています」
「待て待て」
彼女達が当たり前のように荷物を置いて早速掃除道具を取りに行こうとする。リアネも同じようにしている為慌てて待ったをかけた。出来ればリアネに止めて貰いたかったんだが仕方がない。
「どうかなさいましたか?まさか何かお気に召さない事でも……どうかお許しください!」
彼女は青い顔をして俺に頭を下げてくる。リアネ以外の者達もみんな怯えた顔をしている。
今までの生活が生活だったので仕方ない事なのかもしれないが、ここまで卑屈だと疲れる!やる事だけやって徐々に改善させよう
「とりあえず荷物を隅において一旦部屋から出て行ってくれ」
いつもの口調に戻し、怯えている彼女達はリアネに任せるという意思を込めて彼女を見つめる。彼女もわかってくれたのか、みんなを部屋から連れ出してくれた。
「さて」
やっと作業に入れる……ラノベやWeb小説などでは主人公はわりと簡単にメイドを雇って順応しているが、そんな事ないだろう
俺が下手なだけかもしれないが、ご主人様って物凄く疲れるぞ……
とりあえず今は作業だ。最初に創生魔法で部屋の中にスペースを不自由しないくらいに空けて壁を作り、物質変換でその壁を地面と天井に固定するように変換する。次に均等に距離を空け、人が入れるくらいの大きさの四角形の穴を物質変換で開けた後に創生魔法でドアを創る。
中に入るとドアと同じように等間隔に今度は自分の身長よりも少し高いくらいの位置に四角形の穴を開け、今度は柵を取り付ける。外と面している部屋なのでこれで日当たりも確保されるだろう。
その作業が終わると今度はまた均等を意識して奥から順に壁を作って固定。これで作業は完成。八畳くらいの部屋を予備を含めて八つ創った。
あとは家具を各部屋に作れば完成だ。まだスペースが十分すぎるほど余っているが家具を作ったらガス欠しそうだ。MPではなく俺のやる気の方なのだが……
何か必要な部屋があればその都度創ればいいだろう。今日は家具を創ったら終わりだ!
そして家具を創り終えた俺が彼女達を呼ぶと部屋の変わりように驚いていた。リアネも多少驚いたようだが何回か俺の創生魔法や物質変換を見ていたので彼女達ほどの驚きはないようだ。
「俺の能力で部屋を創ったから大きい子と小さい子で二人組を作ってくれ。二人部屋なんで大きい子は小さい子の面倒を見るように」
たぶん俺が黙っているといつまでたっても話が進まないのでそう言って指示を出す。
こんな事ならネトゲやラノベ小説だけじゃなくご主人様系のギャルゲーでもプレイしとくんだった……
俺の指示に従い彼女達は二人組みを作るが、なぜか一人余っている。おかしいな。確か十二名いたはずなんだが……
その疑問はすぐに解けた。俺の後ろにリアネが控えるように立っている。
「リアネ、俺は二人組になってくれって頼んだはずなんだが」
「私はイチヤ様の専属ではないのですか?」
きょとんと首を傾げているリアネが可愛いが、今はそういう場合じゃない。
「リアネ。リアネも二人組になってくれないと一人余っちゃうだろ?」
「うぅ……イチヤ様と一緒の牢屋ではいけませんか……? 」
涙目で俺の事を見つめてくるが、俺は心を鬼にする決意をする。前に横から声がかかった。そちらを見るとディアッタがリアネの手を引っ張っている。
「ご主人様、申し訳ありません。リア、あなたは一応この中では年長者なんだから他の子の手本になりなさい。一人だけ愚図っていたら示しがつかないでしょ。ご主人様の専属はリアだけど、専属であればこそ誰よりもご主人様を困らせる行動をとってはいけないわよ」
ディアッタの言葉で渋々ながらもリアネが納得してくれた!さっきまで俺を怯えたように見ていた姿などどこにもなく。今はみんなのお姉さんのような振る舞いをしている。正直頼もしさすら感じるぞ。
俺全然ご主人様らしくないな。というか一般庶民にご主人様としての扱いを求められても困るぞ
「話もまとまったところで命令だ。自分達の部屋が選び終わったら荷物を置いて自分達が使う部屋の掃除。それが終わったら少し休憩挟んでリアネの指示に従って昼食を俺と君達、あと牢屋にいるレイラと牢番アル、十五名分頼む。それが終わったら今日の仕事は終わりだ」
「えっ……それだけでしょうか?他に何かご命令があれば――――」
「ない!以上!」
これ以上何か命令しなくていけない雰囲気になる前に言葉を遮り俺は部屋を出ようとする。
「イチヤ様!」
出ようとしたところで背後から声がかかる。こういう風に呼ぶのは一人しかいないので、彼女の声に振り返るとメイド達はきちんと整列している。その中央にはリアネとディアッタだ。リアネが代表して言葉を発する。
「イチヤ様。この度は私達の新しい主人になってくださりありがとうございます。精一杯御奉仕させていただきますので、末永くよろしくお願いいたしますね。ご主人様」
リアネが最後にイチヤ様ではなくご主人様と言ったのは新しい関係が始まりますという意味を込めたものだろう
そう言って彼女達はスカートを摘み、軽く膝を曲げて挨拶をしてくれる。幼い子達も見よう見真似でやっているが転びそうになったりしてちょっと危なっかしいがどうにか転ばずに済んだようだ。その光景を微笑ましく思う。
ご主人様ってがらじゃないけど、彼女達にふさわしくなれるくらいには頑張ってみよう
そう決意して彼女達に一つ頷くと
「みんな、至らない主人だけど、こちらこそ末永くよろしく頼むな」
それだけを告げ最後に彼女達一人一人に笑顔を向けた後、踵を返して部屋を出た。
自業自得とは言え急に十二人のメイドさんの主人になって大変な思いもしているが、俺の行動でリアネが少しでも多く笑顔を向けてくれるなら易いものだ。
俺はそんな事を考えながら軽い足取りで自分の部屋へと戻っていったのだった
いつも読んでくれる方、ブックマークしてくれた方。この小説に評価をしてくれた方。いつも感謝しています。
本当は昨日のうちに投稿したかったのですが、思いのほか長くなってしまったのと分割する場所がなかった為に次の日になってしまいました。本当に申し訳ございません。拙い文章ですが、楽しんでいただけたらと思っております。それでは次回にまたお会いしましょう
最後に、イチヤ君にはご主人様スキルを欲しいところです。