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165話 面倒事が解決した朝(昼)

 不審者、もとい元侯爵の騎士だった奴等と話して後、ウェルスへと戻った俺は、すぐに不審者達の正体や、あいつらが山に居座っていたかをユリに報告しに行った。


 アル? あいつは俺に報告を丸投げしてすぐにシャティナさんの下へと帰っていったよ。


 ……面倒事を俺に押し付けて。


 まぁ、あいつがシャティナさんの尻にしかれてるのは知ってるし、彼女のお仕置きを間近で見たことある身からすれば恐ろしい事この上ないので、アルの事を責めるつもりはない。

 この件(シャティナさん案件)に関して責めるのはさすがに可哀相だしな。


 という訳で、ユリにあいつらに退去宣告した事まで伝えた俺は自分の屋敷へと帰り、みんなとわいわい食事をとって早めに眠った。


 いや~……魔物討伐の時も思ったけど、山登りはマジでしんどい……


 なんでユリに頼まれた二つとも山に登らなければならなかったのか。

 魔物を倒すよりも山を散策する方が辛かったぞ……


 でもこれでユリから頼まれた案件は終了!


 これでしばらくは自堕落な生活が送れるぞ!


 いぃやっほぉぉぉおおおおおおお!!!!!!



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 だけど、そう簡単にいかないのが世の中というもので……すぐに新たな面倒事がやってきた……


 問題解決した次の日、昼頃まで惰眠を貪ろうとしていた俺の下に、慌ただしい足音と少しばかり乱暴なノックの音が鳴り響く。



「イチヤ様! 大変ですイチヤ様っ!」



 ん~……何かリアネに呼ばれてるような気がするけど、まだ眠い。もうユリの頼まれ事も終わった事だし、今日は何の予定もなかったはずだ。というかしばらくは何もない。あってもその予定はキャンセルだ。



「と、いう訳で昼食になったら起こして」



 目を閉じたまま扉の方に向かってそう告げる。


 よし、これでもう大丈夫だろう。リアネの事だ、こう言っておけば昼食が出来た頃には優しく俺を起こしてくれるだろう。


 それじゃあ鏑木一哉、夢の世界に旅立ちます。



「何が、と、いう訳なんですか~!? お願いですから寝直さないでください~! 今、大変なんですから起きてください!! イチヤ様~!」


「……」


「返事がない!? 本当に寝ちゃったんですか!??」


「……」


「うぅ……どうしよう……私達じゃどうしようも出来ないし……仕方ないですよね」


「……」


「申し訳ありませんイチヤ様、え~い!」



 もう少しで意識が現実と切り離され、霞へとかけようとしていた時、かわいいかけ声と共に、毛布が勢い良く引き剥がされた。

 毛布に包まって寝ていた俺はコロンコロンと擬音がしそうな感じで転がる。

 一応加減をして引き剥がしてくれたので、ベットから落ちる事はなかったけど、いきなり毛布をはがされた事により、霞に消えかけていた意識が段々と覚醒してくる。



「ふわぁ……ぁ……せっかく後少しで寝直す事ができたのに」



 意識は覚醒したけど、眠気がなくなる訳ではなく、欠伸をしながら恨めし気な視線をリアネへと向ける。



「申し訳ありません……」



 心底申し訳なさそうに頭を下げるリアネにこちらの方が申し訳なくなる。


 軽い冗談(スキンシップ)のつもりだったんだけど、間に受けるとは思わなかった。


 立場的には俺とリアネは主人と従者なので、この反応は当然なのだが、少し寂しいものを感じる。恋仲になればもっと砕けた感じになるとは思う。

 告白すればきっとリアネは断らないだろう。

 リアネの反応からたぶん彼女も俺を好きなはずだ……たぶん。

 けど万が一という事もある。身分がどうとかで振られる可能性だってゼロじゃない。

 だから告白するなら万全の状態、いい雰囲気の中でしたい。

 自分でも夢見がちでヘタレだという事は重々承知しているけど、告白なんて初めてなんだから仕方ないだろ。


 レーシャの場合は、外堀が埋まっていた状態で相手から告白されたので、俺は今までの人生で一度も告白をした事がない。

 たぶんリアネから俺が告白されるという事は彼女の性格から考えてないだろう。

 彼女に関してはそれで良い。むしろそれが良い。


 女の子に告白されるのは嬉しいけど、男としては好きな子がいるのに自分から告白しないのは少々情けないので、俺から切り出す事になるのは俺としてはむしろ望むところなのだ。


 ただ告白となるとタイミングが大事なので今はそのタイミングを見計らっている最中だ。

 ……すぐに告白出来ない時点で自分が情けない事には変わりないけどさ、こういうのってタイミングが大事だろ。


 まぁ俺の告白については置いておこう。今はそれよりも重要な事がある。



「別に怒ってた訳じゃないからそんな顔しないで。俺が起きなかったのが悪かったんだ。ごめんな」



 ベットから起き上がり、リアネの前に立った俺は彼女の頭を撫でる。

 艶々した髪は凄く撫で心地が良く、さっきまで萎れるかのようにペタッとした耳がピコピコと動いていてなんとも愛らしい。

 少しの間撫でているとリアネの表情も少しずつ和らいでいった。


 やはり好きな女の子にはいつでも笑顔でいて欲しいな。

 まぁ曇らせたのは俺なので次から注意しよう。


 起きられるかどうかはわからないけど、出来るだけ起きられるよう努力する事を心に誓う。


 なんか怠惰な生活とは無縁で、元の世界よりも健康的な生活にされそうな気もするがそれはそれで良いだろう。

 堕落した生活というのはそれだけで魅力的だけど、リアネを悲しませてまでする事ではないからな。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


しばらくリアネの頭を撫で、機嫌が治った所で、本題へと移る。



「ところでリアネ、さっき慌てた様子でここに来たけど何があった?」


「は!? そうでした!」



 撫でられ、どこかぽ~っとしていたリアネだったが、俺の質問に対して耳をピン! と擬音がするくらいに立て、再び慌てだす。


 リアネ的には慌ててるんだろうけど、なんか背後にはわはわ~みたいな効果音が付きそうな慌て方で正直和む。


 どうせ大変っていっても、起きそうな出来事なんてアルがシャティナさんの不興を買ったとか、ユリがまた部下の男にSっ気発揮したとかだろう。


 それくらいならこれから日常的に行われそうなので特に問題はない。



「とりあえず落ち着きな」



 そう言って再び撫で始めると、彼女は目を細め気持ち良さそうになすがままになる。

 俺もリアネの髪を撫でるのは気持ちが良いのでお互いにとって良い事尽くめだ。



「落ち着いたか?」


「……はい」



 一頻り撫で終わった後にそう聞くと、リアネは頬を蒸気させ、恥ずかしそうに返事をした。


 少し顔が赤いけど、これなら問題なく話を聞けるだろう。



「で、何があったんだ? アルがまた何かやらかした?」


「いえ」


「じゃあユリか?」


「違います」



 ほぼ問題はこいつら以外いないみたいに断定して二人の名前を出したのだが、リアネは首を振って否定する。


 ん?じゃあ誰が問題を起こしたんだ?



「この二人以外に何かしそうな人間が思い浮かばないんだが……」


「イチヤ様はお二人にどんな印象を持ってるんですか……とにかく来てください! ちょっと言葉には表せられないくらいおかしな状況なんです!」



 ちょっと、言葉に表せられないってどんな状況よ!? なんだか非常に面倒くさい事に巻き込まれそうなんですけど!

 まだユリからの面倒事が解決して一日も休んでないんだよ! もう少し俺を労って!


 内心そんな叫びを上げながらもリアネに腕を引っ張られるまま俺はそのまま引きずられて行く。


 なんかウェルスに来てから休む暇もない生活を送る羽目になってるんだけど……この都市に来て俺は何かの呪いにでもかかったんだろうか?

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